年末のKEIRINグランプリが終わり、1年で唯一、特別競輪がない1月。競輪場ではないけれど、せっかくだから今まで気になっていたあの場所にフォーカスしてみよう!と、競輪選手の卵たちが学び鍛える「日本競輪選手養成所」への取材を2度にわたり敢行。第3回記録会の様子と競輪選手候補生達の声、施設探訪に神山雄一郎所長のインタビューと盛り沢山でお送りします!

伊豆の日本サイクルスポーツセンターに併設されている日本競輪選手養成所 photo: Yuichiro Hosoda
2025年12月15日(月)、16日(火)の2日間にわたり、第3回記録会が行われた。記録会は年3回あり、これが最後。種目ごとに設けられた最高評価(S評価)の基準タイムを全て上回ると、金のヘルメットキャップ「ゴールデンキャップ(GC)」と報奨金20万円(3連続GC獲得は+100万円)が与えられるため、候補生達も日頃の成果を試すのみならず、その獲得に目の色を変えて挑む。筆者は16日に訪問し、400mの屋外バンク「JKA400」で走る男子129回生、女子130回生の様子を伺うことが出来た。
当記録会は初日、屋内250mバンクの「JKA250」にて女子は200mTTと500mTT、男子は200mTTと1000mTTが行われ、2日目の計測は、男女とも400mTTの1本。まずはウォームアップやバイク整備を終えた女子候補生達がバンクへとやって来た。候補生達は礼儀正しく、顔を合わせると皆「こんにちは!」と爽やかに挨拶をして通り過ぎて行く。しかし集団で来た場合は1対多になるため、こちらは何度も挨拶をすることになり、ちょっぴり大変だ(笑)。

400mバンク「JKA400」のスタンド入口 photo: Yuichiro Hosoda

3〜4コーナー上方の通路に選手候補生達が並んで発走を待つ photo: Yuichiro Hosoda 
4コーナーの傾斜を駆け下りてスタートしていく photo: Yuichiro Hosoda
計測開始時刻が迫り、敢闘門から出た候補生達がバンクを1周した後、3-4コーナーの頂上にある通路へと並ぶ。計測グループは3名1組に分けられており、1人ずつ間隔を空けてバンクの傾斜を利用しながらフライング形式でスタートしていく。3人が走り終えるとインターバルが入り、各自のタイムがスタンド上にある管制室より読み上げられる。全員が走り終えるまでこれが繰り返され、女子が終わると男子が同様の形式で計測を行って記録会は終了する。
3名の候補生達が次々とスタートする上、グループ間のインターバルもタイム読み上げの間だけのため、撮影にもなかなか集中力が必要。うっかり気を抜くと撮り逃しかねない。また、バンクの横断もインターバル中は許可されていたが、時間が短く危険が伴うと判断。女子はバンク内側、男子は外側からと決めて撮影に臨んだ。

スタートしていく川上いちご候補生 24秒14(トップタイム)2回目のGC獲得 photo: Yuichiro Hosoda 
3回連続のゴールデンキャップ獲得となった小原乃亜候補生 24秒50 photo: Yuichiro Hosoda

計測を終え、バンクを後にする女子候補生たち photo: Yuichiro Hosoda 
バンクを1周して、待機場となる3〜4コーナー上へと向かう男子候補生たち photo: Yuichiro Hosoda

バックストレッチ側の控室から仲間の走る姿を見守る候補生たち photo: Yuichiro Hosoda

髙橋奏多候補生 21秒83(トップタイム)2回連続GC獲得 photo: Yuichiro Hosoda

3回連続GC獲得 長川達哉候補生 22秒57 photo: Yuichiro Hosoda 
沢田桂太郎候補生 22秒24 3回連続GC獲得 photo: Yuichiro Hosoda
タイム計測を終えると候補生達は格納庫へと戻り、自転車を片付け、その後表彰式へ。今回の記録会は、2000m、3000mと言った中距離種目がなく、12月とは思えぬ温暖な陽気も手伝ってか、S評価の基準タイムを上回るレコードを叩き出す候補生が続出。最終的に男子25名、女子4名、計29名のゴールデンキャップ獲得者が誕生。昨年の26名も上回り、史上最多に。そのうち長川達哉、伊藤京介、沢田桂太郎、吉川敬介、小原乃亜は3回連続、即ち年間全ての記録会においてゴールデンキャップを獲得した。

格納庫へと帰ってきた男子候補生たち photo: Yuichiro Hosoda

候補生たちが整列して表彰式に臨む photo: Yuichiro Hosoda

男子1位の髙橋奏多候補生と女子1位の伊藤梨里花候補生がゴールデンキャップを受け取る photo: Yuichiro Hosoda 
養成所記録を更新し、賞品のチューブラータイヤを授与された沢田桂太郎候補生と川上いちご候補生 photo: Yuichiro Hosoda
史上最多29名のゴールデンキャップが誕生「第3回記録会」

2025年12月15日(月)、16日(火)の2日間にわたり、第3回記録会が行われた。記録会は年3回あり、これが最後。種目ごとに設けられた最高評価(S評価)の基準タイムを全て上回ると、金のヘルメットキャップ「ゴールデンキャップ(GC)」と報奨金20万円(3連続GC獲得は+100万円)が与えられるため、候補生達も日頃の成果を試すのみならず、その獲得に目の色を変えて挑む。筆者は16日に訪問し、400mの屋外バンク「JKA400」で走る男子129回生、女子130回生の様子を伺うことが出来た。
当記録会は初日、屋内250mバンクの「JKA250」にて女子は200mTTと500mTT、男子は200mTTと1000mTTが行われ、2日目の計測は、男女とも400mTTの1本。まずはウォームアップやバイク整備を終えた女子候補生達がバンクへとやって来た。候補生達は礼儀正しく、顔を合わせると皆「こんにちは!」と爽やかに挨拶をして通り過ぎて行く。しかし集団で来た場合は1対多になるため、こちらは何度も挨拶をすることになり、ちょっぴり大変だ(笑)。



計測開始時刻が迫り、敢闘門から出た候補生達がバンクを1周した後、3-4コーナーの頂上にある通路へと並ぶ。計測グループは3名1組に分けられており、1人ずつ間隔を空けてバンクの傾斜を利用しながらフライング形式でスタートしていく。3人が走り終えるとインターバルが入り、各自のタイムがスタンド上にある管制室より読み上げられる。全員が走り終えるまでこれが繰り返され、女子が終わると男子が同様の形式で計測を行って記録会は終了する。
3名の候補生達が次々とスタートする上、グループ間のインターバルもタイム読み上げの間だけのため、撮影にもなかなか集中力が必要。うっかり気を抜くと撮り逃しかねない。また、バンクの横断もインターバル中は許可されていたが、時間が短く危険が伴うと判断。女子はバンク内側、男子は外側からと決めて撮影に臨んだ。








タイム計測を終えると候補生達は格納庫へと戻り、自転車を片付け、その後表彰式へ。今回の記録会は、2000m、3000mと言った中距離種目がなく、12月とは思えぬ温暖な陽気も手伝ってか、S評価の基準タイムを上回るレコードを叩き出す候補生が続出。最終的に男子25名、女子4名、計29名のゴールデンキャップ獲得者が誕生。昨年の26名も上回り、史上最多に。そのうち長川達哉、伊藤京介、沢田桂太郎、吉川敬介、小原乃亜は3回連続、即ち年間全ての記録会においてゴールデンキャップを獲得した。




第3回記録会[男子]ゴールデンキャップ獲得者
| 氏名 | 回数 | その他記錄 |
|---|---|---|
| 長川達哉 | 3回連続 | |
| 伊藤京介 | 3回連続 | |
| 高木海安 | ||
| 松田祥位 | 2回連続 | |
| 小笠原匠海 | 2回連続 | |
| 冨倉巧 | ||
| 渡邊諒馬 | ||
| 中村嶺央 | ||
| 佐藤凱王 | ||
| 横溝貫太 | 2回連続 | |
| 財満伊織 | ||
| 髙橋奏多 | 2回連続 | |
| 沢田桂太郎 | 3回連続 | 1000m養成所記錄:1分3秒96 |
| 𠮷岡竜太 | 2回連続 | |
| 木曽田晃大 | ||
| 白井輝 | 2回連続 | |
| 吉川敬介 | 3回連続 | |
| 福田悠航 | ||
| 川村琢磨 | ||
| 宮田龍一 | ||
| 鴨下佳朋 | ||
| 榊枝天旺 | ||
| 渡邉拓 | ||
| 中野楚樂 | ||
| 片岡遼真 | 2回連続 |
第3回記録会[女子]ゴールデンキャップ獲得者
| 氏名 | 回数 | その他記錄 |
|---|---|---|
| 伊藤梨里花 | ||
| 川上いちご | 2回目 | 500m養成所記錄:35秒83 |
| 小原乃亜 | 3回連続 | 200m養成所タイ記録:11秒62 |
| 山田南 |


記録会を終えて――候補生達の今と将来像
表彰式と総括の後、7名の候補生に話を聞くことが出来た。いずれも入所前からロードレースやトラックレースの各年代、あるいはエリートの日本トップクラスとして活躍してきた選手達。それぞれの今と将来像などを語ってもらった。小笠原匠海 候補生

順当にゴールデンキャップを取れて良かったです。ただ今回の記録会に向けては他の候補生とは違う動きをしていたため、1週間で気持ちと身体を記録会に向けて作り直さなければいけなかったので、結果、完璧ではなかったかなと言うのが心残りでした。もうちょっと(タイムを)出せれば良かったかなと思います。
――ロードではフランスのクラブチームでも走って成績を残してきましたが、競輪に転向してここまでいかがですか?
ロードでもスプリントが得意だったのと、競輪の競走を見ていても長い距離、2周くらい踏んでいるレースが多く、自分的にも向いているかなと思ってはいたので、そこを活かせれば良いかなと。ロードでも集団の中で自分の位置を探していくと言うことはあったので、そう言ったスキルも活かしていけたらと思っています。将来的には、関東の前を切って走れるような選手になりたいです。
沢田桂太郎 候補生

今日の400mは、気温が前回よりも下がっているところがあって不安だったんですが、思ったよりも良いタイムが出て安心しました。
養成所は集団生活で常に沢山の候補生と生活すると言うことで、大学でも寮生活だったんですが、ここまで規則正しい生活、時間にしっかり合わせて動く事がなかったので、最初は戸惑いました。ただこれだけ長く居ると身体が慣れてきて、今は自然と動けるし、そんなに不便はないなと感じています。
パフォーマンスの変化については競輪の養成所なので、自分としては意識的に短距離を強くしていこうとトレーニングしているわけではないんですが、カリキュラム的に短距離に寄せたものになっているので、自然とそっちのタイムが伸びていって。でも今回1000mでいいタイムが出て、そこの力も上がっていたので、総合的にレベルアップ出来ていると思います。
――話が少し逸れますが、2025年10月のジャパンカップクリテリウムを走った時の感触も教えて頂けますか。
久々に走って、なおかつレベルの高いレースだったので結構不安で。短距離に特化した練習をしているので、練習不足な面もありました。でも実際走ってみると意外にまだ中長距離のロードレース、クリテリウムくらいなら走れるなと、感触は良くて。結果的にはDNFだったんですけど、(養成所を)出てからも頑張れるかなと言うのも感じました。
やはり自分でもずっと考えていましたけれども、先行主体で風を切れるような競輪選手になりたいのと、ロードレースもまだやりたい気持ちがあるので、両方で活躍出来る選手になりたいと思っています。
髙橋奏多 候補生

候補生の中で1位と言う目標は達成出来たんですけど、細かいミスがあったので、そこがなければ今日出した400mの記録よりはもうちょっと出たかなと言う感触はありました。バックでもがいている時にバランスを崩して落ちそうになってしまい、そこからどんどん悪くなっていた感覚があって、そこは良くなかったですね。
ただ前回と比べてもタイムは良くなかったんですけど、しっかり最後まで踏めてる感じはあったので、その面では成長しているのかな、ミスからの立て直しはあったのかなと思います。入所してからは、徐々に慣れてきて順調に生活出来ています。卒業後は先輩方に負けないような競輪選手、自力先行出来る選手になりたいです。
松田祥位 候補生

ゴールデンキャップを獲得出来てホッとしました。これまでを振り返ると、やっぱり筋肉ついたなと、より短距離向けになればいいかなと。胸囲も以前より5cmくらい大きくなっていて。残りの生活も、やっぱり筋トレ(笑)。筋肉をもっと付けたいですね。これも中距離に活きてくると思うので。競輪競走に向けてはポジションの取り方ですとか、そういう所をやっていきたいです。
養成所の生活感はメチャクチャ好きです。規則正しい感じが結構面白いと言うか、好きなんですよね。(余計な事を)何も考えずに過ごせるので。自分は中距離上がりで、それならではの戦い方が出来ると思うので、新しいじゃないですけど、みんなをあっと言わせるような、そんな選手になりたいです。
篠原輝利 候補生

200mと1000mは自己ベストだったのですけれど、目標としていたゴールデンキャップには200mと400mでちょっと届かず白帽(S評価の次の評価)と言う結果に終わってしまいました。これまでずっと長距離専門でやっていて、短距離に苦戦するところがあって、課題が見えた記録会でした。長距離選手(ロードレース)をやめて短距離へ移ると思って丁度1年半くらい経つんですけど、その間に筋トレにハマってしまって(笑)。でもそれも(入所に向けて)良かったかなと思います。
選手になってからは、もし全プロ(全日本プロ選手権自転車競技大会)だったら個人追い抜きなどに出てみたい気持ちもあります。1kmTTも好きなので、競技もやってみたいですね。競輪ではGI制覇したいと言うのもありますが、ここに誘って頂いた119期の木村皆斗さん(茨城)とS級のレースや記念などのグレードレースでラインを組んで、お互いどちらかが勝てるようなレースをしたいです。
養成所は時間に縛られるのはキツイ面もありますけど、同期の仲間たちがみんな個性的で面白いので、そういう面では楽しめています。食事は本当に美味しく、助かっています。今回の記録会で課題がしっかり浮き彫りになったので、しっかり潰していきたいです。自分の課題はダッシュ力なので、 そこに重きを置いてトレーニングすると共に、学業でも上を目指せるように頑張って、誠実に養成所生活を送りたいです。
小原乃亜 候補生

ゴールデンキャップの獲得は出来たんですが、今日の400は自分が納得するタイムではなかったので、もっと頑張らなければと言う気持ちです。
元々あまり外にたくさん出て遊ぶと言うことをしないので、養成所は規則正しく生活出来るし、ご飯もたくさん食べられるところが良いです。食事も外だと自分で作らなきゃいけないのですが、栄養もしっかり考えられていてバランス良く3食出してくれるので、いい生活を送れています。
今後については、まずレースで勝てないといけないので、しっかり脚をつけて、なおかつレースで勝てる脳もつけて、どこからでも勝てる脚と脳を持った最強の選手になれるよう頑張りたいと思います。
古山稀絵 候補生

前回よりもうちょっと記録を更新出来るかなと思っていたんですけれども、思ったように記録が伸びず残念な結果に終わってしまいました。
課題としては、ずっと室内の競技をしていたので(※日本ナショナルチームのトラック中距離で活躍)、寒さであったり外のコンディションに合わせた走りが出来ていないのと、競走訓練が始まってから脚を使う訓練を出来ていない所が、脚力が落ちてしまった要因かなと思っているので、もう少しそこを考えて練習に取り組むべきだったなと。この先も競走が間に入ってくるので、その過ごし方などを見つけて行きたいです。
ここに入ってきてから短距離になったので、ウェイトも集中してやるようになっています。(レースの)前半部分が養成所で伸びた分、後半の中距離らしさみたいなところが失われつつあるのかなと思うので、競走で活かせる脚力を付けたいと思っているところです。
それまでひとり暮らしで、何年かぶりの共同生活。養成所生活は、一番下の子とは10歳くらい離れているので、不安はあったんですけれど、いざ始まってしまうと同じ目標に向かってみんな頑張っているので、思っていたよりも楽しくここまで過ごせています。食事は本当に美味しいです。
自分は今度公営競技の選手になるので「自分に賭けてくれる人が一人はいる」と思い、その車券を買って良かったと思ってもらえる着であったりレースを常にしていける選手を目指したいです。まずは優勝するところから、一歩一歩積み重ねて行きたいです。
実技に学科も――候補生の1日と施設を見る
第3回記録会からひと月ほどの時が流れて新年1月。再び養成所を訪れ、施設の見学とともに候補生達の1日を追った。到着し、はじめに案内頂いたのは教室。この日の午前は、男女ともに学科の授業が行われていた。競輪選手はただレースを走れば良いわけではない。競輪に関する法律や競技上のルール、アンチドーピングに至るまで事細かに学ぶ必要性がある。養成所の学科は、主にスポーツ医学や法規、一般教養等7科目ほどに分けられているそうで、時には現役の競輪選手も講師として招き、レースや選手生活の実態に沿った話も聞けるようだ。



授業の見学を終えると、お待ちかねのランチタイム。宿舎1階にある食堂へ。一旦自室に戻った候補生達が、続々とやってきた。各自の席は予め決められているようで、お盆やカトラリーを手に厨房のカウンターの食事を受け取って着席するまで、滞ることなく候補生達が流れていく。風邪やインフルエンザが流行する時期とあり、黙食も徹底。食事も静かに進んでいった。
記録会のインタビューで何人もの候補生から美味しいと評判だった食事を見て、食べてみたい衝動に駆られつつ、私も外に出てちょっとひと休み。その後に向かったのは、施設内に点在するバンクやトレーニング施設。






バンクは屋内の「JKA250(250m)」、屋外の「333mピスト」、前述の記録会2日目にも使用された「JKA400(400m)」の3種類があり、それぞれにカントの違いや直線とコーナーを繋ぐ曲線などに特徴を持つ。
バンクのうち特に印象に残ったのはJKA250で、直線からコーナーに至る曲面がうねるように繋がっており、独特のクセがある。同じ250mでも伊豆ヴェロドロームとは違った走りの工夫が必要かもしれない。バンクの内側には何台ものワットバイクが配置され、この日は別カリキュラムと思われる2名の男子候補生がそのペダルを漕いでいた。333mピストは、教室棟や格納庫、体育館に隣接しており、最もアクセスが良い。こちらでは1人の候補生が、バイクペーサーによる訓練に取り組んでいた。






教室棟から出て坂を下ると、その途中にローラー場がある。ここには3本ローラーがズラリと並ぶ。その一角にはワットバイクも数台。ただし、短時間高強度のインターバルトレーニング等が主流になりつつある今、候補生が一斉に3本ローラーに乗って漕ぎ続けると言った光景は減っているようで、どちらかと言えば候補生が個人練習で利用する事が多いようだ。

続いて再び坂を上り、教室棟の向かいにある体育館へと入っていく。入口では巨大なレッグプレスマシンが出迎える。中には様々な器材が壁づたいに点在しており、グルリと見渡すと壮観だ。巨大で何10kgと記されたプレート群を目の当たりにすると「競輪選手となるにはこれだけの物を持ち上げるパワーが必要なのか!」と思い知らされる。せいぜい20kg程度のダンベルでユル筋トレをするだけの筆者には、とても持ち上がりそうにない。自分と同じ50代になっても現役を続けている選手達の凄みも同時に理解出来た。



午後は実技の時間とのことで、取材の最後はJKA400へと向かった。ここでは実際の競輪を想定した競走訓練(模擬レース)を実施。候補生達が、いくつもの隊列を作ってウォームアップ走行する姿が目に焼き付く。通常の競輪開催ではまず見られない光景だ。
それが終わると女子、男子とも正式な競走用ユニフォームを着用して女子は7車、男子は8車あるいは9車で発走機に。打鐘や周回表示、発走機の出し入れは、女子競走中には男子候補生が、男子競走中は女子候補生が担当していた。こうしたスタッフ側の動きを実践する事も、学びの一環だ。

ギア倍数上限も決められており、今回は男子3.86以内、女子3.71以内でセッティング。入所時は、これよりも軽いギア倍数から始まる。プロは男子4.0未満、女子3.8未満となるため、やや抑えた数値だ。レースは男女とも4周で、女子全員が走り終えると男子の競走へと移り、数レースを撮影した後に現場を離れた。途切れることなく行われる実戦さながらのレースは、ついずっと見ていたくなってしまった。他のバンクでの走行やジムトレーニングは別日に組まれていたため、またの機会に訪れたい。





長くやる事も成功――神山雄一郎所長に聞く、就任1年目の自分、そして候補生達との関わり
順番が前後するが、養成所内の見学前に神山雄一郎所長にインタビューする機会を設けて頂いた。2024年12月に現役を退き、滝澤正光前所長の後任として2025年4月1日に日本競輪選手養成所の所長として就任した競輪界のレジェンド・神山氏。所長就任からここまでのご自身のこと、新たに設けた神山教場のことや候補生達への想いなどを伺った。
――この度はよろしくお願いいたします。はじめに選手を引退されてから就任するまでの流れやお気持ちの変化と言ったところを教えていただけますか。
まずは「自分に出来るのかな?」と。競輪選手しかやってこなかったですし、(12月に引退してから)4月まであっと言う間じゃないですか。ただ、それはサポートしてくださると言うことで、お引き受けしました。
中でも滝澤正光さんがいたと言うのが一番大きいです。やはり憧れていた選手でもありましたから、 その後をそのまま私が継げると言うのは、大きいなと思って。滝澤さんもその後もアドバイザーと言う形で居てくださるので、それも心強かったです。
――就任されてからのご自身については、いかがですか?初めての事で戸惑ったと言うお話も伝え聞きましたが。
実際、最初は何をしたらいいかわからないじゃないですか(笑)。なので、基本は自分がやってきたことを候補生に伝えると言うことが一番かなと。あとは立場上、色んな方と接したり、色んな会議があったりとか、そこは初めてのことなので、そこはもう一生懸命、真摯に取り組んできたつもりであるんですけど、私の中の基本姿勢として候補生と一番向き合わなきゃいけないと思っていたので、そこを自分なりに頑張ってきました。
――実際の候補生への接し方や指導については、どのように取り組んでいらっしゃいますか?
彼ら彼女たちは、プロに入る手前の1年間なので、私が選手としてやってきたこと――私の時は競輪学校と言う名前だったんですけれども――私もここで1年間学んで選手になったので、その頃の経験から。あとは選手になりデビューしてから時間を重ねて強くなっていく時期を経て、最後は徐々に体力も衰えますし――自分は結構長くやって、始まりから終わりまで全部頑張れたという気持ちがあるので、その全てを教えられればいいなと。
彼らにしてみれば先のことなんてわからないとは思うんですけど、競輪選手って長くやることもすごく有意義だと思うので、そのためにはどうしたらいいかを話しています。
基本的には強くなった人が成功者と思われがちじゃないですか。特別競輪やグランプリで優勝したりと言うところが成功者として陽が当たる部分なんですけど、私としては長くやることもすごく成功者だと思うんですよ。たとえ低空飛行だったとしても、やはりプロの世界である程度の賞金はもらえますから、長くやれたと言うことであれば、しっかり家庭を持っていい生活が出来る、と言う事も(1つの成功として)あるので。その辺も教えられたらなと。

基本路線としては「しっかり練習しろ」と言うわけですよ。だけど、未来を自分の中で想像して「どこまで行けるか、特別競輪で優勝出来るか」と思いながらやっている者もいれば、「自分はそこまで行けないだろう」と思っている者も中にはいると思うんです。そんな彼らに「練習しっかり頑張れ」と言ったところであんまり響かない可能性もあるので。
そういった時に、これから(プロ生活が)始まる候補生たちに対して逃げ道を作ってあげてるような感じには多少なるんですけど、今のうちにしっかりやっておけば、たとえ特別競輪に優勝出来なかったとしても長い期間プロでやれて、それを終えた時に「自分はプロになって良かった、成功者だ」と必ず思える日が来るから、と言ってあげて。誰しもが前向きにやれるように接したり話したりしています。
――滝澤正光さんの滝澤教場を継ぐような形で始められた「神山教場」があるとお聞きしています。そこでの候補生への接し方についても教えて頂けますか。
基本的に教場は担当の先生方が見るんですね。そこでしっかり先生方が教えてらっしゃる中、口出しはしづらいじゃないですか。候補生から聞かれればアドバイスはしますけれども。そんな中で私が何人かピックアップして直接教えることが出来れば、そこはもう自分の教場なわけです。「自分の教えや気持ち、練習に対する態度などをしっかり教えられるので、そういう教場を持った方がいい」と滝澤さんにも言われまして。
最初はそのつもりはなく、全体的に見れればいいなと思ってたんですけど、やはり滝澤さんの言った通りで、全体だけ見ていても教えることは難しい。でも教場を持っていれば「自分が先生だ」と言う気持ちで彼らに接することが出来るので、そこでしかやらないような練習を考えて、実際に私がやっていて強くなったであろうと思われる練習をやらせています。そうなると彼らも食らいついてきます。



神山教場でも(一度に)全員見ると言うのは難しいので、何人か期別で分けていて、これまで半分以上は見られたかなと思います。選別は始めは(候補生の事を知らず)難しいので、とりあえずいいタイムを出した人であるとか、願書の本人の作文や動機を調べて選びました。
その後はだんだんわかるようになってくるので、今3期目を選んだんですけど、これまで選んでない中から選んでいます。やはり練習に対する姿勢であるとか、自主練の様子だとか、目に見えてわかって来ているので、その中で一生懸命やっているにもかかわらず、競走成績に結びついていないであろう候補生などをピックアップしている感じです。
――その辺りは先程仰っていた、純粋な強さだけではない「長くやることも成功だ」と言うところにも結び付いていますね。もうすぐ最初の候補生達が卒業していきますが、ここまでやってみて、ご自身ではどう感じてらっしゃいますか。
私としてはできる限り頑張ってきたつもりなんですよ。でありながら「時間が足りないな」という気持ちの方が強いです。もう2ヶ月頂ければ、彼らをワンランク上に持っていける、と言う気持ちです。
言い方は悪くなりますが、彼らがあと2ヶ月後に卒業してプロとして走るのが、若干不安ですよね。「早く出て走りたい」と思っている候補生もいれば、中には「自分はもうあと2ヶ月で放り出されるのは不安です」と言う候補生もいるんですよね。そういう候補生を神山教場に入れているんですけど(笑)。「ええ、あと2ヶ月!?」と自分の方が彼らより焦っています。

でも裏を返せば、それだけ一生懸命やってきて足りないぐらいの方が、自分のやり甲斐という面でも良かったんじゃないかなと。もうやることがなくなって「お前ら早く出てけよ〜」と思っているよりは、やってきた事が間違っていないと言う気がしています。
神山教場の頻度は、やれる時は結構やれたりするのですが、色々な行事が入ってきたり、競走訓練が入ってくるとそちらがメインになるので、だいたい月に2〜3回ですね。養成所にはA教場、B教場、女子教場と言うのがあるのですが、その間に入れていくので、なかなか(調整が)難しいんですね。その中で先生方が上手く日程を組んでくれて、 私はそれまでに何をやらせるかを練って。授業は(1回で)3時間半くらいやります。
――それは相当の長丁場ですね。
そうなんです。神山教場の時は疲れるんです、私が(笑)。午前も午後も入っている日もあって、そうなると丸々1日中声出して立ちっぱなしでやらなくちゃいけないので、それはキツイです。でも彼らが頑張っている姿を間近で見られるので、やっぱりやり甲斐があります。
競輪選手になる前はロードレースでも勝利を重ね、今でも当時を知る人々の間で語り草となるほどの神山所長。当時競輪を選んだが、それがなければヨーロッパに渡り、ロード選手として走っていたかもしれません、と笑う。所長室には選手引退後に購入したと言うロードバイクのファクターOSTRO VAM 2.0が置かれており、時間がある日はサイクリングを楽しんでいるそうだ。

3月16〜17日、伊東温泉で卒業記念レース開催!

3月のビッグレースと言えばGIIのウィナーズカップ。昨年そのレースが行われた伊東温泉競輪場では、選手候補生達の養成所生活を締めくくる真剣勝負「卒業記念レース」が開催される。
開催日は3月16(月)〜17日(火)。夜は温泉宿で日頃の疲れを癒やしつつ、未来の競輪選手達への応援に声枯らすのも一興、再整備中の場内もまた新鮮。再整備の進行状況により駐車スペースや場内動線などには都度変更が生じているため、公式サイトやSNSで情報をチェックして、ぜひ本場へと足を運んでみて欲しい。
→伊東温泉けいりん公式サイト
→伊東温泉けいりん公式X(旧Twitter)
→伊東温泉けいりん公式Instagram
→伊東温泉けいりん公式Facebook


去る1月15日(木)には、日本競輪選手養成所の131回(男子)・132回(女子)選手候補生の一般試験の合格発表が行われた。来年度も競輪選手を目指し、多くの候補生がここの門を叩き、切磋琢磨する。
上記のインタビューでもご覧頂いたように、昨今はロードレースやBMXと言った他の自転車競技から転向する候補生も増えている。また、神山所長の言葉通り、実際に40歳や50歳を過ぎても現役を続けている選手が何人もおり、それも競輪の魅力の一つだ(神山所長自身も56歳まで現役)。30代から競輪選手になった人もいる。
もし「自分も競輪選手になれるかも?なってみたいかも?」と興味が湧いたら、日本競輪選手養成所のウェブサイトやSNSを見てみよう。下記のリンクからページやポストを辿れば、より多くの事を学び知ることが可能だ。
提供:公益財団法人 JKA text&photo: Yuichiro Hosoda