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久留米でのオールガールズクラシックの1週間後、一路北へ。競輪の中でも最大級のレース「日本選手権競輪」を見るために、福島のいわき平競輪場を訪れた。

日本選手権競輪は別名「競輪ダービー」とも呼ばれ、GIの中でも最高峰と目される大会だ。決勝を含めた開催日数も6日間に及ぶ。出場選手は昨年1年間(昨年2月~今年1月)の賞金獲得額上位者を中心に選考、シード的な扱いとなる「特別選抜予選」の出場選手も賞金獲得額順(及びS級S班※後述)に選抜される。今開催は、4月30日(火)より始まり、5月5日(日)の最終第11レースの決勝で幕を閉じる。

日本選手権競輪のPRボードが掲示されたJRいわき駅のコンコース photo: Yuichiro Hosoda

開催場となるいわき平競輪場は、JRいわき駅から南へ15〜20分ほど歩いた場所にある。駅南口からまっすぐに伸びる広い道路を行き、菱川橋を渡る頃には右手に競輪場のスタンド屋根が見えてくるので、それを目印に向かえば迷うことはない。なお、当大会開催中は、駅前から無料シャトルバスも運行されていた。

駅前の大型ビジョンでも日本選手権競輪の告知映像が流されていた photo: Yuichiro Hosoda
いわき駅南口から、いわき平競輪場行きの無料シャトルバスが発着していた photo: Yuichiro Hosoda


駅から競輪場へ向かうメインストリートには、地元選手と日本選手権競輪のタペストリーも並んだ photo: Yuichiro Hosoda
新川にかかる菱川橋のたもとまで来ると、いわき平競輪場が右手に見えてくる photo: Yuichiro Hosoda


橋を渡り、その先信号2つめの信号を右へ曲がるといわき平競輪場に到着 photo: Yuichiro Hosoda

バンク内側からの観戦も出来る「空中バンク」

2006年にリニューアルされ、近代建築らしい外観を持ついわき平競輪場は、屋外競輪場としては国内で最も特徴的なバンクだ。駐車スペースを1層目とし、そこから地上6m程の高さにある二層目にバンクを設けており、その浮遊感ある構造から「空中バンク」と呼ばれている。外周通路は空中に張り出しており、見ればその呼び名に納得がいくはずだ。

また、屋外競輪場では唯一、バンク内側の自由な位置でレース観戦が可能となっており、バンク外側とはまた違ったレースの迫力を満喫できる。そのバンク内外を隔てる仕切りもポリカーボネート製の透明板であるため、見通し良くレースの模様を見渡すことが出来る。

先へ行くとバックスタンド側の入口が見えてくる photo: Yuichiro Hosoda

入場すると、バンクの真下を通ってそのままバンク内側へ抜けられる photo: Yuichiro Hosoda
エントランス脇の階段を上るとバックスタンドの中へとアクセスできる photo: Yuichiro Hosoda


バックストレッチ側の一般観覧席からバンクを臨む。最上部にはクッション付きの桟敷席もあり、子ども連れでもゆったり過ごせる photo: Yuichiro Hosoda

宙に浮くような形となっているバンクと外周通路。空中バンクと言う別名に納得の構造 photo: Yuichiro Hosoda

バンクは1周400m。みなし直線が62.7mと長く、風が強めに吹くこともあって先行選手には不利となりやすい。そのため、バックストレッチからの捲りや最後の直線での追い込みが決まりやすいコースとなっている。

バンク内側も2層構造となっており、外側は通路兼観戦エリア、中央へと階段を降りるとカーニバルプラザと呼ばれるフラットな空間が広がる。この日、3-4コーナー側にはイベントステージが設置され、逆側には屋台が立ち並び賑わっていた。ゴールデンウィーク中のビッグレースとあって観客の数も相当なものだったが、年配の方や家族連れに加えて20代と思しき若い世代の人達も多く、活気が感じられた。

快晴のいわき平競輪場 photo: Yuichiro Hosoda

猛スピードで駆けていく選手達が間近に見られるバンク内周 photo: Yuichiro Hosoda

大阪・関西万博の公式マスコット・ミャクミャク様がPRに来場 photo: Yuichiro Hosoda
福島の競輪選手会の皆さんはかき氷を販売していた。ピストを漕ぐとかき氷機が回る仕組み photo: Yuichiro Hosoda


屋台前には人が列を作っていた。会場のどこを見渡しても、若い人達が多いことが印象的だった photo: Yuichiro Hosoda

今回も食事は一般のお客さん達に混じってメインスタンドのレストランへ。やはり現地の「いつもの味」を知るのも旅の醍醐味。いわき平はこれまで紹介した競輪場とは違い、食券制だ。来場者が多く、効率を優先していることもあるのだろう。まずは券売機で食券を購入すると、麺類やごはん類などに受け渡し場所が分かれており、そこで食券を渡す形式。食事の準備が出来ると食券に書かれた番号で声がかかるので、カウンターへ受け取りに行く。


バックスタンドからさらに道路を歩くとメインスタンド側のエントランスにたどり着く photo: Yuichiro Hosoda

メイン・バック両スタンドとも、反射を抑えた全面ガラス張りで、風雨を気にせずレースを観戦可能だ photo: Yuichiro Hosoda
冷水などが飲めるドリンクサービスコーナーもある photo: Yuichiro Hosoda


メインスタンドの1階、半円状にレイアウトされたいわき平競輪場のレストラン「IKIYA」 photo: Yuichiro Hosoda

注文を待っているうち、隣の空いた席におじさん(私もアラフィフのおじさんだが・笑)がやって来て、「ここいい?」と声をかけてきたので「もちろんです!」と応じて相席。「昔のここは今とはまた違った活気があってね。忙しくなって一度離れたんだけど、定年退職してからまた戻ってきて」と、自身の事を絡めながら何十年か前のここの様子を話してくれた。

注文を受け取り「さて、食事の写真を」とカメラを構えたところで、種類は違えど前回の久留米と同じくラーメンを注文してしまっていたことに気づく。「イカン、変化に乏しいな…」と思い、話が弾んだ流れでおじさんが注文したえび天そばと、それを食べている様子を撮らせていただいた。おじさんは残りの汁を飲み干すと、にこやかに「それじゃね」と言って、席を立ち人混みに消えていった。

相席したおじさんと話しながらラーメンをいただいた photo: Yuichiro Hosoda
みそチャーシューメン 800円。競輪場はどこも食事が安くてお財布に優しい photo: Yuichiro Hosoda


おじさんの食事はえび天そば photo: Yuichiro Hosoda
カレーの他に軽食やおつまみもアリ photo: Yuichiro Hosoda


競輪選手のランク分けを知ろう

競輪選手は年間の競走得点により、ランク分けがされている。上からS級S班−1班−2班、A級1班−2班−3班と6クラスに区分される。日本競輪選手養成所(旧日本競輪学校)を卒業した選手はA級3班からのスタートとなり、ここから勝利や上位入着を重ねることで、より上のクラスへの昇給が認められる。基本的な級班入れ替えは、年の前期・後期の2度行われる。

レースで選手の級班を見分けるポイントはレーサーパンツ。どの級班も両サイドに7つの白星が入る点は共通で、色分けにより判別することが出来る。2000名を超える競輪選手の頂点に君臨するS級S班は、赤のレーサーパンツに黒ラインが入り、その上に白星が並ぶ。その人数はわずか9名、非常に狭き門となっている。S級1・2班は同一で、黒ベースに赤ライン。A級も全ての級班が黒に緑のラインが入った物を着用する。

S級1班と2班の選手は、黒地に赤ライン+白星のレーサーパンツ photo: Yuichiro Hosoda
S級S班のレーサーパンツと前年のKEIRINグランプリ出場者を示すユニフォームを着る山口拳矢(岐阜) photo: Yuichiro Hosoda


発走前にストレッチを行う松浦悠士(広島)。2023年のKEIRINグランプリ勝者の証「KING OF KEIRIN」ユニフォームを纏う photo: Yuichiro Hosoda

これに加え、前年のKEIRINグランプリ優勝者は、翌年の1年間、胸に「K」と「KING of KEIRIN」のロゴが入ったグランプリユニフォームを着用し、全てのレースを1番車で走ることが出来る。また、前年グランプリの出場者も胸に「K」のロゴが入ったユニフォームを1年間纏うことが出来る。こちらの車番は固定ではなく、レースにより1〜9番が割り振られる。

ガールズケイリンは発足当初はA級2班とされ、独自の級班制が敷かれていなかったが、2017年7月1日よりL級1班が設けられ、現在のところはここに全選手が所属する形となっている。

平原康多が復活のダービー初戴冠 日本選手権競輪[GI]決勝

第5レース終了後に行われた日本選手権競輪ファイナリストの選手紹介 photo: Yuichiro Hosoda

16:40の発走に向け、バンクに溶け込むデザインの敢闘門より決勝に臨む9人の選手達が入ってきた。西陽が差し込み、いわき平の空中バンクに外周の樹脂柵が規則的な影を落とす。風速はメインスタンド側からバックストレッチ側へ2.0m。スタンド手前の3つの旗が終始はためいていた。

格付け上はKEIRINグランプリ(GP)が最高峰だが、何よりも日本選手権競輪を獲りたいと話す選手も少なくない。3歳馬最強を決める競馬のダービーとは違って年齢制限はないものの、やはりその名を冠したレースは格別だ。

昨年のダービー王、5番車山口拳矢(岐阜) photo: Yuichiro Hosoda
別線を選択した6番車諸橋愛(新潟) photo: Yuichiro Hosoda


強い風に、終始フラッグがはためく photo: Yuichiro Hosoda
古性優作(大阪)を先頭に入場してくる、日本選手権競輪の決勝出場選手 photo: Yuichiro Hosoda


発走機上に決勝出場選手が出揃う photo: Yuichiro Hosoda

関東勢は埼玉のベテラン・平原康多(埼玉)を中心に5人が進出するも、ラインを2分し、3人と2人の別線を選択。岩本俊介(千葉)と、S級S班の3名は全員単騎となった。昨年親子GI制覇をこの日本選手権競輪で決めたディフェンディングチャンピオン・山口拳矢(岐阜)もその一人。彼のダービー連覇なるかも話題の中心となった。

レースは先頭員が離れると、別線となった関東ラインの1つ、小林泰正(群馬)が前に出て先行、その番手に諸橋愛(新潟)が付ける。しかし最終周回に差し掛かり、後ろに控えていた吉田拓矢(茨城)を先頭に、平原を直後に乗せたもう一方の関東ラインがこれを捲っていき、バックストレートで前へ出切った。吉田のスピードはそのまま衰えず4コーナーまで引き切ると、直線にかかりその番手に付けていた平原がこれをかわし切って先頭へ。後続からは岩本と古性が追い込むも敵わず、平原康多がダービー王の栄冠を手にした。

先頭誘導選手の後を追い、スタートしていく photo: Yuichiro Hosoda
バンクと観客を隔てるポリカーボネート板の反射が先頭員と選手達の間に差し込む photo: Yuichiro Hosoda


先頭員が離れ、選手達が取るべき位置を狙う photo: Yuichiro Hosoda

小林泰正(群馬)、諸橋愛(新潟)、古性優作(大阪)の順で1直線となり赤板の周回をこなしていく photo: Yuichiro Hosoda

最終周回のバックストレッチで吉田、平原、武藤の関東ラインが前に出切る photo: Yuichiro Hosoda

4コーナー出口で平原康多(埼玉)が先頭の吉田拓矢(茨城)に並びかけていく photo: Yuichiro Hosoda
他車の追随を許さず平原康多(埼玉)が日本選手権競輪を制した photo: Yuichiro Hosoda


40歳にしてGI初出場の岩本俊介が「あんなに車が出るとは。夢を見ましたね」と2着。勝った時にも常に謙虚なコメントを寄せるベテランが実力の片鱗を見せた。人気を背負った1人、古性優作は3着で「ただただ力不足でした」と肩を落とした。連覇を狙った山口拳矢は8着に沈んだ。

勝利した平原は、昨年のダービーは怪我で不参加。今なお怪我の影響が残りつつも、久しぶりのGI、中でも「どんなに調子がいい時でも勝てない大会だった」と別格のダービー優勝に表彰台では涙ぐみ、言葉に詰まる場面も。これで年末のKEIRINグランプリ出場権を獲得すると同時に今年度の獲得賞金額でもトップに躍り出た。

人気を集めた1番車古性優作(大阪)は3着 photo: Yuichiro Hosoda
レースを終えて「夢を見ました」と語った9番車岩本俊介(千葉)が2着 photo: Yuichiro Hosoda


共にラインを築いた吉田拓矢(茨城)に祝福される平原康多(埼玉) photo: Yuichiro Hosoda
練習仲間でもある武藤龍生(埼玉)を平原康多(埼玉)がねぎらう photo: Yuichiro Hosoda


苦難を乗り越えて掴んだ優勝に涙ぐむ平原康多(埼玉) photo: Yuichiro Hosoda
穏やかな表情でトロフィーを手にする平原康多(埼玉) photo: Yuichiro Hosoda


選手達に胴上げされる平原康多(埼玉) photo: Yuichiro Hosoda

第78回日本選手権競輪 決勝 結果
車番 選手名 級班 着差 上りタイム
1着 2 平原康多(埼玉) S1 11.3秒
2着 9 岩本俊介(千葉) S1 3/4車身 11.2秒
3着 1 古性優作(大阪) SS 1/2車身 11.2秒
4着 4 吉田拓矢(茨城) S1 1/2車輪 11.5秒
5着 7 武藤龍生(埼玉) S1 1/2車輪 11.3秒
6着 3 清水裕友(山口) SS 3/4車身 11.1秒
7着 6 諸橋愛(新潟) S1 3/4車身 11.4秒
8着 5 山口拳矢(岐阜) SS 3/4車輪 11.2秒
9着 8 小林泰正(群馬) S1 3/4車身 11.5秒 


私は最終日のみの取材であったが、日本選手権競輪の全日程は、6日間の長丁場。最後の決勝に至るまで予選を含めて毎日レースが行われる競輪も、短距離のステージレースのようなものだ。乗りながら調子を上げる者、逆に疲労を重ねて脚が回らなくなる者もいれば、落車などで敗退を余儀なくされる者もいる。競輪は、その中の1レースわずか3分ほどの間に自転車レースの醍醐味も凝縮されている。

次回は岸和田。ガールズGIのパールカップと、男子GI・高松宮記念杯競輪を追って大阪へ向かう。これも男女合わせて6日間。特に最初の3日は男女のレースが1日のうちで併催されるため、だんじりの街にある会場の雰囲気がどんなものとなるか、楽しみだ。

共に戦った選手達の祝福を受けながらバンクを去る平原康多(埼玉) photo: Yuichiro Hosoda
提供:公益財団法人 JKA photo&text: Yuichiro Hosoda