2024/05/21(火) - 18:00
久留米でのオールガールズクラシックの1週間後、一路北へ。競輪の中でも最大級のレース「日本選手権競輪」を見るために、福島のいわき平競輪場を訪れた。
日本選手権競輪は別名「競輪ダービー」とも呼ばれ、GIの中でも最高峰と目される大会だ。決勝を含めた開催日数も6日間に及ぶ。出場選手は昨年1年間(昨年2月~今年1月)の賞金獲得額上位者を中心に選考、シード的な扱いとなる「特別選抜予選」の出場選手も賞金獲得額順(及びS級S班※後述)に選抜される。今開催は、4月30日(火)より始まり、5月5日(日)の最終第11レースの決勝で幕を閉じる。
開催場となるいわき平競輪場は、JRいわき駅から南へ15〜20分ほど歩いた場所にある。駅南口からまっすぐに伸びる広い道路を行き、菱川橋を渡る頃には右手に競輪場のスタンド屋根が見えてくるので、それを目印に向かえば迷うことはない。なお、当大会開催中は、駅前から無料シャトルバスも運行されていた。
また、屋外競輪場では唯一、バンク内側の自由な位置でレース観戦が可能となっており、バンク外側とはまた違ったレースの迫力を満喫できる。そのバンク内外を隔てる仕切りもポリカーボネート製の透明板であるため、見通し良くレースの模様を見渡すことが出来る。
バンクは1周400m。みなし直線が62.7mと長く、風が強めに吹くこともあって先行選手には不利となりやすい。そのため、バックストレッチからの捲りや最後の直線での追い込みが決まりやすいコースとなっている。
バンク内側も2層構造となっており、外側は通路兼観戦エリア、中央へと階段を降りるとカーニバルプラザと呼ばれるフラットな空間が広がる。この日、3-4コーナー側にはイベントステージが設置され、逆側には屋台が立ち並び賑わっていた。ゴールデンウィーク中のビッグレースとあって観客の数も相当なものだったが、年配の方や家族連れに加えて20代と思しき若い世代の人達も多く、活気が感じられた。
今回も食事は一般のお客さん達に混じってメインスタンドのレストランへ。やはり現地の「いつもの味」を知るのも旅の醍醐味。いわき平はこれまで紹介した競輪場とは違い、食券制だ。来場者が多く、効率を優先していることもあるのだろう。まずは券売機で食券を購入すると、麺類やごはん類などに受け渡し場所が分かれており、そこで食券を渡す形式。食事の準備が出来ると食券に書かれた番号で声がかかるので、カウンターへ受け取りに行く。
注文を待っているうち、隣の空いた席におじさん(私もアラフィフのおじさんだが・笑)がやって来て、「ここいい?」と声をかけてきたので「もちろんです!」と応じて相席。「昔のここは今とはまた違った活気があってね。忙しくなって一度離れたんだけど、定年退職してからまた戻ってきて」と、自身の事を絡めながら何十年か前のここの様子を話してくれた。
注文を受け取り「さて、食事の写真を」とカメラを構えたところで、種類は違えど前回の久留米と同じくラーメンを注文してしまっていたことに気づく。「イカン、変化に乏しいな…」と思い、話が弾んだ流れでおじさんが注文したえび天そばと、それを食べている様子を撮らせていただいた。おじさんは残りの汁を飲み干すと、にこやかに「それじゃね」と言って、席を立ち人混みに消えていった。
レースで選手の級班を見分けるポイントはレーサーパンツ。どの級班も両サイドに7つの白星が入る点は共通で、色分けにより判別することが出来る。2000名を超える競輪選手の頂点に君臨するS級S班は、赤のレーサーパンツに黒ラインが入り、その上に白星が並ぶ。その人数はわずか9名、非常に狭き門となっている。S級1・2班は同一で、黒ベースに赤ライン。A級も全ての級班が黒に緑のラインが入った物を着用する。
これに加え、前年のKEIRINグランプリ優勝者は、翌年の1年間、胸に「K」と「KING of KEIRIN」のロゴが入ったグランプリユニフォームを着用し、全てのレースを1番車で走ることが出来る。また、前年グランプリの出場者も胸に「K」のロゴが入ったユニフォームを1年間纏うことが出来る。こちらの車番は固定ではなく、レースにより1〜9番が割り振られる。
ガールズケイリンは発足当初はA級2班とされ、独自の級班制が敷かれていなかったが、2017年7月1日よりL級1班が設けられ、現在のところはここに全選手が所属する形となっている。
16:40の発走に向け、バンクに溶け込むデザインの敢闘門より決勝に臨む9人の選手達が入ってきた。西陽が差し込み、いわき平の空中バンクに外周の樹脂柵が規則的な影を落とす。風速はメインスタンド側からバックストレッチ側へ2.0m。スタンド手前の3つの旗が終始はためいていた。
格付け上はKEIRINグランプリ(GP)が最高峰だが、何よりも日本選手権競輪を獲りたいと話す選手も少なくない。3歳馬最強を決める競馬のダービーとは違って年齢制限はないものの、やはりその名を冠したレースは格別だ。
関東勢は埼玉のベテラン・平原康多(埼玉)を中心に5人が進出するも、ラインを2分し、3人と2人の別線を選択。岩本俊介(千葉)と、S級S班の3名は全員単騎となった。昨年親子GI制覇をこの日本選手権競輪で決めたディフェンディングチャンピオン・山口拳矢(岐阜)もその一人。彼のダービー連覇なるかも話題の中心となった。
レースは先頭員が離れると、別線となった関東ラインの1つ、小林泰正(群馬)が前に出て先行、その番手に諸橋愛(新潟)が付ける。しかし最終周回に差し掛かり、後ろに控えていた吉田拓矢(茨城)を先頭に、平原を直後に乗せたもう一方の関東ラインがこれを捲っていき、バックストレートで前へ出切った。吉田のスピードはそのまま衰えず4コーナーまで引き切ると、直線にかかりその番手に付けていた平原がこれをかわし切って先頭へ。後続からは岩本と古性が追い込むも敵わず、平原康多がダービー王の栄冠を手にした。
40歳にしてGI初出場の岩本俊介が「あんなに車が出るとは。夢を見ましたね」と2着。勝った時にも常に謙虚なコメントを寄せるベテランが実力の片鱗を見せた。人気を背負った1人、古性優作は3着で「ただただ力不足でした」と肩を落とした。連覇を狙った山口拳矢は8着に沈んだ。
勝利した平原は、昨年のダービーは怪我で不参加。今なお怪我の影響が残りつつも、久しぶりのGI、中でも「どんなに調子がいい時でも勝てない大会だった」と別格のダービー優勝に表彰台では涙ぐみ、言葉に詰まる場面も。これで年末のKEIRINグランプリ出場権を獲得すると同時に今年度の獲得賞金額でもトップに躍り出た。
日本選手権競輪は別名「競輪ダービー」とも呼ばれ、GIの中でも最高峰と目される大会だ。決勝を含めた開催日数も6日間に及ぶ。出場選手は昨年1年間(昨年2月~今年1月)の賞金獲得額上位者を中心に選考、シード的な扱いとなる「特別選抜予選」の出場選手も賞金獲得額順(及びS級S班※後述)に選抜される。今開催は、4月30日(火)より始まり、5月5日(日)の最終第11レースの決勝で幕を閉じる。
開催場となるいわき平競輪場は、JRいわき駅から南へ15〜20分ほど歩いた場所にある。駅南口からまっすぐに伸びる広い道路を行き、菱川橋を渡る頃には右手に競輪場のスタンド屋根が見えてくるので、それを目印に向かえば迷うことはない。なお、当大会開催中は、駅前から無料シャトルバスも運行されていた。
バンク内側からの観戦も出来る「空中バンク」
2006年にリニューアルされ、近代建築らしい外観を持ついわき平競輪場は、屋外競輪場としては国内で最も特徴的なバンクだ。駐車スペースを1層目とし、そこから地上6m程の高さにある二層目にバンクを設けており、その浮遊感ある構造から「空中バンク」と呼ばれている。外周通路は空中に張り出しており、見ればその呼び名に納得がいくはずだ。また、屋外競輪場では唯一、バンク内側の自由な位置でレース観戦が可能となっており、バンク外側とはまた違ったレースの迫力を満喫できる。そのバンク内外を隔てる仕切りもポリカーボネート製の透明板であるため、見通し良くレースの模様を見渡すことが出来る。
バンクは1周400m。みなし直線が62.7mと長く、風が強めに吹くこともあって先行選手には不利となりやすい。そのため、バックストレッチからの捲りや最後の直線での追い込みが決まりやすいコースとなっている。
バンク内側も2層構造となっており、外側は通路兼観戦エリア、中央へと階段を降りるとカーニバルプラザと呼ばれるフラットな空間が広がる。この日、3-4コーナー側にはイベントステージが設置され、逆側には屋台が立ち並び賑わっていた。ゴールデンウィーク中のビッグレースとあって観客の数も相当なものだったが、年配の方や家族連れに加えて20代と思しき若い世代の人達も多く、活気が感じられた。
今回も食事は一般のお客さん達に混じってメインスタンドのレストランへ。やはり現地の「いつもの味」を知るのも旅の醍醐味。いわき平はこれまで紹介した競輪場とは違い、食券制だ。来場者が多く、効率を優先していることもあるのだろう。まずは券売機で食券を購入すると、麺類やごはん類などに受け渡し場所が分かれており、そこで食券を渡す形式。食事の準備が出来ると食券に書かれた番号で声がかかるので、カウンターへ受け取りに行く。
注文を待っているうち、隣の空いた席におじさん(私もアラフィフのおじさんだが・笑)がやって来て、「ここいい?」と声をかけてきたので「もちろんです!」と応じて相席。「昔のここは今とはまた違った活気があってね。忙しくなって一度離れたんだけど、定年退職してからまた戻ってきて」と、自身の事を絡めながら何十年か前のここの様子を話してくれた。
注文を受け取り「さて、食事の写真を」とカメラを構えたところで、種類は違えど前回の久留米と同じくラーメンを注文してしまっていたことに気づく。「イカン、変化に乏しいな…」と思い、話が弾んだ流れでおじさんが注文したえび天そばと、それを食べている様子を撮らせていただいた。おじさんは残りの汁を飲み干すと、にこやかに「それじゃね」と言って、席を立ち人混みに消えていった。
競輪選手のランク分けを知ろう
競輪選手は年間の競走得点により、ランク分けがされている。上からS級S班−1班−2班、A級1班−2班−3班と6クラスに区分される。日本競輪選手養成所(旧日本競輪学校)を卒業した選手はA級3班からのスタートとなり、ここから勝利や上位入着を重ねることで、より上のクラスへの昇給が認められる。基本的な級班入れ替えは、年の前期・後期の2度行われる。レースで選手の級班を見分けるポイントはレーサーパンツ。どの級班も両サイドに7つの白星が入る点は共通で、色分けにより判別することが出来る。2000名を超える競輪選手の頂点に君臨するS級S班は、赤のレーサーパンツに黒ラインが入り、その上に白星が並ぶ。その人数はわずか9名、非常に狭き門となっている。S級1・2班は同一で、黒ベースに赤ライン。A級も全ての級班が黒に緑のラインが入った物を着用する。
これに加え、前年のKEIRINグランプリ優勝者は、翌年の1年間、胸に「K」と「KING of KEIRIN」のロゴが入ったグランプリユニフォームを着用し、全てのレースを1番車で走ることが出来る。また、前年グランプリの出場者も胸に「K」のロゴが入ったユニフォームを1年間纏うことが出来る。こちらの車番は固定ではなく、レースにより1〜9番が割り振られる。
ガールズケイリンは発足当初はA級2班とされ、独自の級班制が敷かれていなかったが、2017年7月1日よりL級1班が設けられ、現在のところはここに全選手が所属する形となっている。
平原康多が復活のダービー初戴冠 日本選手権競輪[GI]決勝
16:40の発走に向け、バンクに溶け込むデザインの敢闘門より決勝に臨む9人の選手達が入ってきた。西陽が差し込み、いわき平の空中バンクに外周の樹脂柵が規則的な影を落とす。風速はメインスタンド側からバックストレッチ側へ2.0m。スタンド手前の3つの旗が終始はためいていた。
格付け上はKEIRINグランプリ(GP)が最高峰だが、何よりも日本選手権競輪を獲りたいと話す選手も少なくない。3歳馬最強を決める競馬のダービーとは違って年齢制限はないものの、やはりその名を冠したレースは格別だ。
関東勢は埼玉のベテラン・平原康多(埼玉)を中心に5人が進出するも、ラインを2分し、3人と2人の別線を選択。岩本俊介(千葉)と、S級S班の3名は全員単騎となった。昨年親子GI制覇をこの日本選手権競輪で決めたディフェンディングチャンピオン・山口拳矢(岐阜)もその一人。彼のダービー連覇なるかも話題の中心となった。
レースは先頭員が離れると、別線となった関東ラインの1つ、小林泰正(群馬)が前に出て先行、その番手に諸橋愛(新潟)が付ける。しかし最終周回に差し掛かり、後ろに控えていた吉田拓矢(茨城)を先頭に、平原を直後に乗せたもう一方の関東ラインがこれを捲っていき、バックストレートで前へ出切った。吉田のスピードはそのまま衰えず4コーナーまで引き切ると、直線にかかりその番手に付けていた平原がこれをかわし切って先頭へ。後続からは岩本と古性が追い込むも敵わず、平原康多がダービー王の栄冠を手にした。
40歳にしてGI初出場の岩本俊介が「あんなに車が出るとは。夢を見ましたね」と2着。勝った時にも常に謙虚なコメントを寄せるベテランが実力の片鱗を見せた。人気を背負った1人、古性優作は3着で「ただただ力不足でした」と肩を落とした。連覇を狙った山口拳矢は8着に沈んだ。
勝利した平原は、昨年のダービーは怪我で不参加。今なお怪我の影響が残りつつも、久しぶりのGI、中でも「どんなに調子がいい時でも勝てない大会だった」と別格のダービー優勝に表彰台では涙ぐみ、言葉に詰まる場面も。これで年末のKEIRINグランプリ出場権を獲得すると同時に今年度の獲得賞金額でもトップに躍り出た。
第78回日本選手権競輪 決勝 結果
着 | 車番 | 選手名 | 級班 | 着差 | 上りタイム |
---|---|---|---|---|---|
1着 | 2 | 平原康多(埼玉) | S1 | 11.3秒 | |
2着 | 9 | 岩本俊介(千葉) | S1 | 3/4車身 | 11.2秒 |
3着 | 1 | 古性優作(大阪) | SS | 1/2車身 | 11.2秒 |
4着 | 4 | 吉田拓矢(茨城) | S1 | 1/2車輪 | 11.5秒 |
5着 | 7 | 武藤龍生(埼玉) | S1 | 1/2車輪 | 11.3秒 |
6着 | 3 | 清水裕友(山口) | SS | 3/4車身 | 11.1秒 |
7着 | 6 | 諸橋愛(新潟) | S1 | 3/4車身 | 11.4秒 |
8着 | 5 | 山口拳矢(岐阜) | SS | 3/4車輪 | 11.2秒 |
9着 | 8 | 小林泰正(群馬) | S1 | 3/4車身 | 11.5秒 |
私は最終日のみの取材であったが、日本選手権競輪の全日程は、6日間の長丁場。最後の決勝に至るまで予選を含めて毎日レースが行われる競輪も、短距離のステージレースのようなものだ。乗りながら調子を上げる者、逆に疲労を重ねて脚が回らなくなる者もいれば、落車などで敗退を余儀なくされる者もいる。競輪は、その中の1レースわずか3分ほどの間に自転車レースの醍醐味も凝縮されている。
次回は岸和田。ガールズGIのパールカップと、男子GI・高松宮記念杯競輪を追って大阪へ向かう。これも男女合わせて6日間。特に最初の3日は男女のレースが1日のうちで併催されるため、だんじりの街にある会場の雰囲気がどんなものとなるか、楽しみだ。
提供:公益財団法人 JKA photo&text: Yuichiro Hosoda