2021/03/19(金) - 18:07
四万十市〜土佐清水 走行距離:66.80km、獲得標高:606m
停滞した四万十市(旧中村市)で迎えた四国一周サイクリング10日目。カーテンを開けると、昨日に続いて降り止まない雨。もう1日停滞することも考えたが、午後にかけて降水確率が少しだけ下がっていたことに期待して走り出すことにする。それでも80%。しかし2日連続で同じ場所に停滞することが走るより難しいのは、自転車乗りとしては普通の性分だろうと思う。気がすすまないが10時半を出発時間と決めて、ホテルのブッフェ朝食を昼抜きでも走れるくらいガッツリ食べる。朝食の美味しいホテルは利用価値大のいいホテル。和&洋の2セットいただきました。(がめつくてすみません)。
2日間お世話になった新ロイヤルホテル四万十は自転車乗りへの対応は慣れたもの。大浴場にも満足。お値段は普通のビジネスホテル並。オランダナショナルチームが2017年に東京五輪前の下見合宿で利用したホテルで、TT&ロードの2冠の世界チャンピオンにもなったアンナ・ファンデルブレッヘンらが滞在したホテル。1階にモンベルショップもあり、アウトドアグッズ調達にも困らない。お世話になりました。
朝食を終え、意を決して出発。小降りだったから軽く見ていたが、走り出してすぐになかなかの雨量になった。ゴアテックス・シェイクドライのレインジャケットにレインパンツを着込み、濡れても冷えないネオプレーン製のグローブとシューズカバーを装着。ヘルメットにはホテルのアメニティでお馴染みのシャワーキャップを被せて防水する。
冬のツーリングの装備で絶対に削れないのがレインギア。今回とくに真冬の旅ということで、シューズカバーとグローブはレイン用をもう1セット持っていたのは良かった。フル装備で固めれば、雨の中でもなんとか走り出す気になれる。
さすが南国高知。雨は降り続くが気温が10℃以上あるのでそれほど寒くはないのが幸いだった。それでも真冬に雨に濡れて走るのはかなりの覚悟が必要だが...。
四万十川下流から足摺岬方面へと向かう。土佐清水から半島東周り海沿いルートで四国最南端を目指す。雨だとスマホを出すのも億劫で、この間はずっと写真が無い。
東海岸の「岬巡りルート」は晴れれば美しいのだけど、昼を過ぎても雨がいっこうに止む気配は無く、降り続いていた。ずぶ濡れで走る。淡々と走り続けるのみ。
足摺岬が近づき、ようやく雨が小降りに。椿と照葉樹林を抜ける細道に入ったところで歩き遍路2人と出会い、喋っているうちに仲良くなる。おじさんは何度かに分けて歩く「区切り打ち」、銀髪の若者は全身フル白装束で全区間を歩くという。ふたりは他人だが、道すがら意気投合して一緒に歩いてるとか。2人ともよく喋る明るいお遍路さんだった。
じつは銀髪の彼は仁井田あたりで2日前に見かけていた。が、私が四万十川沿いルートで遠回りして、昨日は中村で一日停滞していた間に抜かされたらしい。それくらい私は寄り道が多くてのんびりペースということか...。
四国一周ルートとへんろ道はときどき被りながらも、それぞれ違う道。八十八ヶ所巡りは全行程1,400kmの道のりで、獲得標高差も多い山道が続く。単純な海沿い四国一周1,000kmよりもずっと厳しい道だ。
おじさんのほうが私を見て自転車遍路に興味をもったようで質問攻めにあう。歩き疲れたらしく、次は自転車で回ってみたいと言う。
この日、土佐清水で出会って少し話した別の歩き遍路は「登山もやるけど、遍路で歩く一日は富士山を登る一日よりも厳しい」と話していた。単調な道を歩く精神的な痛み、重い荷物を背負って舗装路を歩く脚の痛みと、毎日歩き続けることからくる脚の怪我や疲労の蓄積...。比べればサイクリングはほとんどを楽しさが占めると思う(乗り慣れていればの話だが)。
一日に移動可能な距離で言っても、自転車は歩きの5倍の行動距離にできる。局所的な痛みも無く、歩きの5倍以上はラクだと思う。とくに日没迫る時間帯に、宿の無いエリアを歩いている遍路を見かけると気の毒な気持ちになる。自転車なら余計に1時間も走れば必ず宿は見つけられる。でも、歩きだとそうはいかない。
昼頃には四国の最南端の足摺岬に到着。雨景色の足摺岬は初めてだが、視界の180°以上が見渡す限りの海。ここはいつ来てもダイナミックなパノラマだ。晴れていれば水平線に地球の丸さが実感できるのだが。
足摺岬から再び土佐清水に戻る。まだ日没時間までには余裕があるが、ここから先は大きな町が無く、ホテル過疎地域のためスマホで宿探し。しかも宿の多くが冬季+コロナ休業中だし、日曜は開いている店も少ないため、安全策で近くのペンションを抑える。電話してみると夕食は出せないとのこと。小さな宿は夕方近くの連絡だと食事の用意が間に合わないのが難点。しょうがない。
「じゃあ夕食はどうしようか」と、不満を感じつつペンションへと向かう道すがら、歩き遍路を追い抜いた。自分の甘えた気持に嫌悪感を抱いてしまう。彼は今夜どこに泊まるのだろうか? 大きなリュックに寝袋を背負っているから、お寺のお堂で寝るのだろうか。お遍路さん、頑張ってください。一日じゅう雨だったとはいえ、楽しく走って快適な宿に泊まり美味しいものを食べるサイクリングには楽しさしか無いのだから。
泊まらせていただくペンション木のくじらは土佐清水の街から5キロ。感染症対策もバッチリな清潔感あふれる木の部屋に通され、テラスから海を眺めていると空が赤く染まりだす。サンダルをお借りして、庭から海へと歩道で降りることができた。岩礁の先に沈む真っ赤な夕陽はなんともドラマチックだった。
海のすぐそばの好ロケーションと引き換えに、夕食は自転車にライトを点けてのナイトランで土佐清水の町へ食事に出ることに。しかも宿はちょっとした小山の上で行き帰りにはヒルクライムが必要。真っ暗な足摺サニーロードをライトを頼りに走れば、止んだと思ってた雨が降り出してまたずぶ濡れに...。
夜の土佐清水の街はちょっとさびれた感じが漂っていた。ペンションの奥さんに勧めていただいた中央商店街の食事処りきゅう家に入る。家族経営の暖かな雰囲気が嬉しい食堂&居酒屋で、開店してまだ1年の新らしいお店。
土佐清水といえば「清水サバ」があまりに有名だが、今日はあいにく提供ができないとのこと。そこでオススメの獲れたてハガツオの刺し身をいただく。これが激ウマだった。そしてこのところ魚が続いたから、そして今日は一日雨のなか走って冷えたから、温かなトンカツが美味かった。
魚屋が経営するりきゅう屋さんは地元でも評判の店。漁協もオススメの清水サバの丼ものや定食が美味い店のようだ(新しい店だから食べログの評価は低すぎるが)。
「この街を元気にしたいと思ってこの店を出したんだよ」とご主人。またいつか清水サバを食べに土佐清水へ来なくてはなるまい。
雨に降り続けられた一日。身体がすっかりふやけてしまったが、美味しい食事で体の芯まで温まることができた。ただ、食事を終えてからペンションまでライトを点けて夜道を走っていたら、また冷えてしまったけれど。ペンションの奥さんに勧められたとおりタクシーを呼べば良かったかな...。
この旅の写真はすべてスマホ(iPhone12pro)で撮影しています。
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写真と文:綾野 真、取材協力:愛媛県自転車新文化推進協会