2021/03/16(火) - 12:29
8日目 四万十川ラフティング 走行距離:13.8km+川下り15km、獲得標高:127m
四国一周サイクリング8日目。午前中いっぱい雨の予報だった。しかし江川崎を出発する頃には空に晴れ間が見え始め、四万十川にもやのかかったまま走り出す。下流の四万十市(=旧中村)に住む友人、高倉剛君と連絡を取り合い、15km先の沈下橋で合流することになった。高倉君は「オケラアドベンチャーズ」という屋号でラフティングやマウンテンバイクなど四万十川を舞台にしたアウトドア遊びのガイド業を営んでいて、彼の提案で中流から四万十市まで15kmのバイクラフティングをしようということになったのだ。彼と会うのは5、6年ぶり? 久しぶりに会う2人が、上流と下流からそれぞれ出発して、はたして中間地点で落ち合うことができるだろうか?
それにしてもバイクラフティングって何だ? 「ようは川下りですよ」と、高倉君はそれだけしか教えてくれない。ワクワクするけど...。
待ち合わせ場所まで近すぎて、ホテル星羅四万十でのんびりしてから10時に出発。ここから先の下流域は商店などがほとんど無いエリア。ホテル対岸のスーパーが朝8時から空いていたので、おにぎりなど昼のお弁当代わりになるものを買い込んでから走り出す。
雨が水蒸気となって朝もやになってたちこめる。素朴で幻想的な川の風景を眺めながら、まだ濡れた雨上がりの細道をのんびり走る。沈下橋を見つけては観察。それぞれ形が違うのが面白い。雨が降れば水かさが増し、激しい流れとなる四万十川。欄干があると流木などが引っかかって橋が壊れるから、それが無いのが沈下橋だ。
激流で痛んだり、老朽化した沈下橋のいくつかは工事中だった。この先しばらくの注意点として、川沿いの道路の口屋内近くの区間が工事中のため、2021年6月までは1時間毎に10分間しか通行できない。通行時間の時刻表は付近で出回っているが、タイミングが悪いと最悪50分待ちになる。
お昼前には待ち合わせの高瀬沈下橋に到着。高倉君を待つ間、しばらくは橋の上でぼ〜っとする時間。沈下橋の上から見る川面は澄み切ったグリーン。水底まで透けて見えるから、コイやウグイの群も見える。
川面に空が映って雲が浮かんでる。逆さまの風景があまりに鮮明に写り込むもんだから、天地が逆転した錯覚さえ受ける。小宇宙かな? なんて贅沢な時間だろう。
橋の上からゆらゆらする川面をぼ〜っと眺めていたら、中村から遡上してきた高倉君が自転車に乗って現れた。お久しぶり! 荷物を積んだトレーラーをE-BIKEで牽いて走ってきたようだ。
高倉君は数年前に故郷の高知に戻る前は、関東でシクロクロスを走っていた友人。屋号どおりちょっとオケラに似てるアウトドア人だ。いや行動力がオケラ似なのかな?(笑) 高知の宿毛市に実家があり、米作りもしていたけど、四万十川でアウトドアガイド業をするため四万十市に引っ越したばかり。開業したと思ったらコロナの影響で客は来ず、ヒマしているのだとか。
高倉君がE-BIKEで牽いているのは折り畳みできるパックラフトを積んだBARLEY(バーレー)のコンパクトなトロリー。「パックラフト」とは、簡単に言うと空気で膨らませるゴム製のボート。浮き輪とかゴムボートみたいなカヤックだ。でも自転車があるけど、どうするの?
じつは昨夜に連絡を取り合ったときも、メッセージで待ち合わせ場所の沈下橋の名前と時間だけをやり取りしたのみ。そこからどうやって川を下るのかはあえて伏せられたまま。ちょっとしたミステリーツアーなのだった。彼曰く「そのほうが面白いから」。
沈下橋から川岸に降りて荷を解き、ラフトを膨らませる。ポンプ代わりの空気袋をパタパタやれば、ものの5分でしっかり膨らむ簡単さ。自転車は両ホイールを外して、ストラップで船体に固定する。なるほど! しかもしっかり固定できている。あとはライフジャケットを着て、簡単なパドル講習を受けて川面にGO! 四万十川の穏やかな流れに乗り、中村まで15kmのバイクラフティング旅へ。
簡単な構造のひとり乗りラフトだが、浮力があるので重いE-BIKEを積んでもプカプカ浮くのだ。ボクの荷物も外してそのまま積み込んだ。ボクのオルトリーブのバイクパッキングバッグはもともと完全防水だから、水をかぶったとしても問題なしだ。
流れのある瀬はラインを選び、流木や岸の岩などでラフトを破かないようにして下る。流れが緩いからスピードは遅い。2艇並んで清流に浮かびながら、おしゃべりしながら楽しむ川旅だ。
ちなみにボクはネパールでの1泊2日のホワイトウォーター・ラフティングの経験があるので、パドルのさばき方はすぐ思い出した。その時は6人乗りのゴムボートタイプだった。まさか自転車さえスマートに積める、折りたたんでコンパクトに持ち運べる一人乗りラフトがあるなんて。
もともと四万十川はどちらが上流か下流かわからない川だけに「修行区間」と呼ぶ流れのないトロ場区間も長く、そこはパドルで漕いで進まなくてはいけない。気温は上がり、16℃と1月と思えない暖かさ。水は素手でも冷たくない。一生懸命漕いでると汗ばむくらいだ。水は透明度が高く、覗き込めば川底まで見通せる。
ヤマセミ、カワセミ、ミサゴ、鵜、オシドリ、鴨、雁がすぐ近くで羽ばたいて飛び立っていく。魚よりもむしろ鳥をいっぱい見た。
自転車で川沿いを走るなら、どうしても川は眺めるだけになってしまうが、ラフティングなら川に包まれるように旅ができる。実際、パドルが掻き上げる水しぶきでびしょ濡れだ。サイクル用レインウェアも大活躍。バイクパッキングのバッグも完全防水だからまったく問題無かった。バイクとラフティングのコンビネーションがこんなにいいなんて知らなかった。
沈下橋の下をくぐりながら裏から眺める。橋の裏面に水面の反射光の波紋が映って美しい。綺麗な四万十の水と森と空に包まれて、流れに身を任せる。
変化する川のさまざまな表情を堪能して、日没前に中村市の赤鉄橋に到着した。陸に上がり、ラフトを畳んで自転車を組み立てて、再びトロリーに積載。一連の作業は素速く、今度はペダルを漕いで市内へ向かう。
今日の行程を振り返ると、2方向から来た久し振りに会う2人が、乗り物をバイクからラフトに乗り換え、道から川へ。人力だけで完結する移動をしたことになる。後日にクルマをピックアップに行くことも無いのだ。遊びの達人になれた気分だ。
高倉君オススメのビジネスホテルに飛び込み、濡れたジャージやレインギアを脱いだら、サンダル履きで地元の銭湯「中村温泉」へ向かう。浴室に富士山の壁画も見当たらない、タイル素地だけの飾り気の無い庶民の銭湯は、薪ボイラーでガンガン沸かす「地獄の熱湯」がウリ。川旅で冷え切った身体が芯から温まった。
夜はジモティーの人気店「味劇場ちか」で四万十の肴で乾杯。焼きサバ寿司、カツオ、カンパチ、クジラ竜田揚げ、川エビ揚げ、ウツボ唐揚げなどなど、高知の川の幸、海の幸を高倉君こだわりのサッポロ赤ラベル瓶で楽しむ。飲んべぇはまたしても瓶ビールにこだわるんだな(笑)。
「味劇場」と銘打ったこの郷土料理店、料理人とお客との対話を重視したカウンター席が扇形の「劇場型居酒屋」がその名の由来の超人気店だが、コロナの影響でこの日の客は僕らの他に2人だけだった...。威勢のいい板前さんや気のいい仲居さんが、盛況だったかつての日々を思い出して寂しがっていた。ボクら2人はせめてもの救いになればと、名物料理をいっぱい美味しく食べた。
スローな川下りに興じた大満足な一日だった。まさか自転車をラフトに乗り換えて川を下ることになるとは思わなかった。高倉君ともともと知り合いだったことがラッキーだった。
飲みながらいっぱい話をしてくれたけど、高倉君は四万十エリアを楽しみ尽くす色んな面白いアソビを構想中だ。四万十川の一般的な観光ツアーとしては屋形船やカヌー体験もあるが、こんなにマンツーマンでディープなアクティビティを提供してくれるのは彼だけだ。
遍路道トレイルをMTBで走ったり、トレッキングなども案内できるという。今は四万十市中心部(市役所の隣)の古民家を事務所にすべく改築中で、完成の暁には安宿としても提供する予定もあるとか。何より彼自身サイクリストなので、話が早い。
みんなも高倉君のオケラアドベンチャーズを頼って四万十に遊びに行って欲しい。遠いけど、ボクもゼッタイまた行く。今度は釣りと素潜りを追加だな!
この旅の写真はすべてスマホ(iPhone12pro)で撮影しています。
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写真と文:綾野 真、取材協力:愛媛県自転車新文化推進協会