愛南〜内子 走行距離:125.15 km、獲得標高:1,520m

朝のうちに御荘から突き出た半島を巡ることに朝のうちに御荘から突き出た半島を巡ることに
愛南町で迎えた朝。そのまま国道で松山方面には向かわず、御荘から突き出た半島を巡ることにする。道の駅みしょうMICのすぐ脇から半島に向かう34号線が伸びている。

このエリアは四国の中でも空港から最も遠い地域の一つで、鉄道さえ通っていない。東京からの時間的距離が全国的にみてもかなり長い地域である愛南。そこからさらに伸びる複雑な地形の半島の先にある西海地区へ足を伸ばすことを楽しみにしていたのだ。

荷物を外した空身状態で外泊へと向かう荷物を外した空身状態で外泊へと向かう
御荘中心部から片道12km、海に突き出た半島にある石垣の集落で有名な西海の外泊(そとどまり)は、子供の頃に家族旅行で泊まった記憶があり、海の青さと透明度を強烈に覚えている。それが再訪を楽しみにしていた理由。またしても個人的な追憶モードに入ることをお許しください。

御荘の海にかかる光のカーテン御荘の海にかかる光のカーテン
地形が複雑に入り組んだリアス式海岸が続き、アップダウンも多い道を行って帰っての往復になるため、ホテルに荷物を預けて空荷の自転車で身軽に走っていくことにした。天気は冴えず、今にも泣き出しそうな曇り空。しかしそのおかげで幻想的な光のカーテンを見ることができた。

中泊集落。瓦葺きの漁村は日本の原風景だ中泊集落。瓦葺きの漁村は日本の原風景だ

道沿いには高茂岬へのサインがある。「愛南さんさん輪道」と名付けられたサイクリングルートは、愛媛マルゴト自転車道の推奨ルートでもある。四国一周以外の愛媛各地のオススメサイクリングルートが紹介されているwebサイトと、携帯アプリもルート選びの参考になる。

小一時間のライドの末、外泊に到着。傾斜地に石垣が築かれ、瓦葺きの民家が立ち並ぶ。素朴な石垣の集落は日本の原風景だ。西海は「信号がひとつも無いエリア」として知られていて、ここには近代的なものは何もないが、タイ・ハマチ・フグ・ヒラメの養殖が盛んで、御荘牡蠣も有名。夏みかんや河内晩柑が美味しいことでも知られる、海の幸&山の幸が豊かな地域。

島の斜面に並ぶ外泊の石垣集落島の斜面に並ぶ外泊の石垣集落
積み上げられた石垣が続く外泊集落積み上げられた石垣が続く外泊集落
急勾配の石垣の町を散歩する。多分そのとき(8歳ぐらいの時)に泊まったであろう民宿も見つけた。

子供の頃に海の綺麗さに感動した漁港にも行ってみた。あいにくの天気に海の色は冴えないが、充分に透明な青。絵の具を溶いたような吸い込まれそうな深い青い水に漂うテンジクダイを眺めていたら、タイムスリップした気分。記憶はすでに薄らいでいたが、かつて見た海の美しさはほとんど変わっていなかった。

外泊の漁港の海は昔のように青かった外泊の漁港の海は昔のように青かった
御荘の高台にある紫電改展示館も立ち寄りたかった念願の場所だ。小学生の頃、ちばてつやの漫画「紫電改のタカ」を読み漁った。お国のため? 愛する人のため? 何のために命をかけて戦うのか苦悩する少年飛行兵の青春を描いた戦争漫画で、切ないストーリーとテーマの重さから大ヒットにはならなかったが、「あしたのジョー」より好きな名作だった。

ゼロ戦を凌ぐ性能だった紫電改。日本に現存する唯一の機体だゼロ戦を凌ぐ性能だった紫電改。日本に現存する唯一の機体だ
御荘の海に34年間眠っていた機体を引き揚げた、日本に現存する唯一の紫電改。零戦の後継の高性能機で、子供の頃によくプラモデルを作ったな。戦争は嫌いだが、戦闘機のフォルムの美しさに惹かれてしまうのは男の子の性分なのだ。

海に散った英霊が祀られていた海に散った英霊が祀られていた ちばてつやの「紫電改のタカ」。戦争に悩む少年兵の青春を描いた名作だ ちばてつやの「紫電改のタカ」。戦争に悩む少年兵の青春を描いた名作だ

朝の2時間を追憶の周遊ツアーに費やしたが、ホテルに戻って預かってもらっていたバッグを受け取り、再出発。御荘は予想どおりアップダウンが多かったから、空身の自転車で行って良かった。

宇和島へ向けての美しい海岸線の漁村宇和島へ向けての美しい海岸線の漁村
日が差すと海の色が鮮やかに輝く日が差すと海の色が鮮やかに輝く
この旅をスタートさせた松山まで150km圏内に入った。みかんの段々畑と宇和海の小さな漁村の風景が続く。吉田を経て宇和島へ。早くも雨が降り出してきた。

海に浮かぶ漁村の船小屋海に浮かぶ漁村の船小屋 国道沿いには歩行者と自転車のための専用トンネルがあるのが嬉しい国道沿いには歩行者と自転車のための専用トンネルがあるのが嬉しい

松山まだついに100kmを切った。旅の終りが見えてきた松山まだついに100kmを切った。旅の終りが見えてきた JR宇和島駅にて。愛媛南部を代表する町だJR宇和島駅にて。愛媛南部を代表する町だ

宇和島に着くと土砂降りになった。駅前に鯛めしのかどや駅前本店を見つけ、雨宿りを兼ねた昼飯タイムとする。しかし鯛めしは昨夜食べたばかりなので、もうひとつの定番料理「さつま定食」を注文。麦味噌の汁を麦飯にかけて、とネギ、みかんの皮の薬味とともに食べる素朴な家庭料理だ。

南国風の椰子並木が特徴の宇和島市の駅前通り南国風の椰子並木が特徴の宇和島市の駅前通り 鯛めしのかどや駅前本店で雨宿りを兼ねたランチタイム鯛めしのかどや駅前本店で雨宿りを兼ねたランチタイム

宇和島の郷土料理「さつま定食」をいただく宇和島の郷土料理「さつま定食」をいただく
そして宇和島といえば小魚のすり身を揚げた揚げ蒲鉾「じゃこ天」も外せない。小骨を感じるくらいの粗さが丁度いい。「じゃこ」とは雑魚のこと。近海で獲れた海の味だ。

麦味噌の汁を麦飯にかけてネギ、みかんの皮の薬味とともに食べる麦味噌の汁を麦飯にかけてネギ、みかんの皮の薬味とともに食べる 宇和島名物のじゃこ天。小魚のすり身の天ぷらだ宇和島名物のじゃこ天。小魚のすり身の天ぷらだ

雨はいっこうに降り止まず、淡々と走るのみ。宇和島から西予市、大洲から内子へと向かう。悪くない景色は続くが、ずっと国道56号線をひた走る。結局、一日じゅうずっと雨は降り続いた。

みかんの段々畑と斜面の村は愛媛県南部を代表する風景だみかんの段々畑と斜面の村は愛媛県南部を代表する風景だ
雨のなかもくもくと国道を走り続ける。晴れていれば景色も楽しめるのだが...雨のなかもくもくと国道を走り続ける。晴れていれば景色も楽しめるのだが...
もっとも気温は高いので寒くはなく、むしろレインギアの中に汗をかくと冷えて厄介なので、峠も汗をかかないようにゆっくりペースで走る。晴れていたら景色も楽しめるのに...。

峠へは遍路道とローカル道のどちらを選ぶか....峠へは遍路道とローカル道のどちらを選ぶか.... 肱川を見下ろす大洲城。うかいで知られる古都だ肱川を見下ろす大洲城。うかいで知られる古都だ

大洲市内をとうとうと流れる肱川大洲市内をとうとうと流れる肱川
苦行ではないけど消化のような長い一日だった。日が暮れかけてから内子に着いて良い宿を探したが、さすが人気の古都だけあって雰囲気が素敵な宿は2人以上向きで、ちょっと予算オーバー。

内子町を集団で下校する子供たち内子町を集団で下校する子供たち
日が暮れた頃、内子町の町並み保存地区に到着日が暮れた頃、内子町の町並み保存地区に到着

結局は2年前のシクロクロス全日本選手権のときの取材宿だったビジネスホテルの HOTEL AZに投宿。

2年前に取材仕事で利用したホテルAZに結局は泊まることに  2年前に取材仕事で利用したホテルAZに結局は泊まることに ホテルAZではツインルームをシングル料金で提供してくれたホテルAZではツインルームをシングル料金で提供してくれた

シングルが満室だったためツインルームになってしまったが、なんとシングル料金にしてくれた。無料朝食つきで4,800円のリーズナブルさ。このチェーン系ホテルは夕食バイキングもリーズナブルでボリュームがあり、お酒も安く飲めるのでコスパ重視の方にはオススメだ。ただし部屋への自転車持ち込みはできず、入り口前の空きスペースに施錠して置くことになる(フロントが目の前なので防犯上は安心だ)。

内子町の民家。懐かしい風景だ内子町の民家。懐かしい風景だ
夕食は内子の町並み保存地区にでかけ、ドイツ人男性と日本人女性のご夫婦がやっている古民家ドイツ家庭料理レストラン、ツム・シュバルツェン・カイラー(Zum schwarzen Keiler)へ。

古民家ドイツ家庭料理レストラン、ツム・シュバルツェン・カイラー古民家ドイツ家庭料理レストラン、ツム・シュバルツェン・カイラー
古都で楽しむ本格ドイツビール古都で楽しむ本格ドイツビール
内子周辺の食材を生かした料理にヴルスト(ソーセージ)にジャーマンポテト、酢キャベツのザワークラウトなどなど、ドイツビールに本格ドイツ料理をニッポンの古都で楽しむ。そしてなぜか居合わせた地元の常連客カップルとも一緒になって、世界バックパッカー旅の話題で盛り上がってしまい、世界の辺境の旅での変な体験談を内子で語るという、なんだか妙にフレンドリーで楽しい夜になった。

内子町の食材を使ったドイツ料理をいただく内子町の食材を使ったドイツ料理をいただく
ビールのお供はヴルスト(ソーセージ)ビールのお供はヴルスト(ソーセージ) 酢キャベツのザワークラウトは欠かせない酢キャベツのザワークラウトは欠かせない

ご主人はドイツ人。「母から受け継いだ家庭料理を楽しんでください」ご主人はドイツ人。「母から受け継いだ家庭料理を楽しんでください」
本日の走行距離125km。雨と国道走行に疲れ果てた一日だったが、夜の食事が豪華だったせいか、ビールが美味しかったせいか、充実感たっぷりで夜はふける。

明日は内子から大洲、伊予長浜から海沿いで松山へフィニッシュの予定だ。最終日は晴れそうだ。

この旅の写真はすべてスマホ(iPhone12pro)で撮影しています。

四国一周サイクリング 記事一覧
写真と文:綾野 真、取材協力:愛媛県自転車新文化推進協会