2021/03/22(月) - 13:34
愛南〜内子 走行距離:125.15 km、獲得標高:1,520m
愛南町で迎えた朝。そのまま国道で松山方面には向かわず、御荘から突き出た半島を巡ることにする。道の駅みしょうMICのすぐ脇から半島に向かう34号線が伸びている。
このエリアは四国の中でも空港から最も遠い地域の一つで、鉄道さえ通っていない。東京からの時間的距離が全国的にみてもかなり長い地域である愛南。そこからさらに伸びる複雑な地形の半島の先にある西海地区へ足を伸ばすことを楽しみにしていたのだ。
御荘中心部から片道12km、海に突き出た半島にある石垣の集落で有名な西海の外泊(そとどまり)は、子供の頃に家族旅行で泊まった記憶があり、海の青さと透明度を強烈に覚えている。それが再訪を楽しみにしていた理由。またしても個人的な追憶モードに入ることをお許しください。
地形が複雑に入り組んだリアス式海岸が続き、アップダウンも多い道を行って帰っての往復になるため、ホテルに荷物を預けて空荷の自転車で身軽に走っていくことにした。天気は冴えず、今にも泣き出しそうな曇り空。しかしそのおかげで幻想的な光のカーテンを見ることができた。
道沿いには高茂岬へのサインがある。「愛南さんさん輪道」と名付けられたサイクリングルートは、愛媛マルゴト自転車道の推奨ルートでもある。四国一周以外の愛媛各地のオススメサイクリングルートが紹介されているwebサイトと、携帯アプリもルート選びの参考になる。
小一時間のライドの末、外泊に到着。傾斜地に石垣が築かれ、瓦葺きの民家が立ち並ぶ。素朴な石垣の集落は日本の原風景だ。西海は「信号がひとつも無いエリア」として知られていて、ここには近代的なものは何もないが、タイ・ハマチ・フグ・ヒラメの養殖が盛んで、御荘牡蠣も有名。夏みかんや河内晩柑が美味しいことでも知られる、海の幸&山の幸が豊かな地域。
急勾配の石垣の町を散歩する。多分そのとき(8歳ぐらいの時)に泊まったであろう民宿も見つけた。
子供の頃に海の綺麗さに感動した漁港にも行ってみた。あいにくの天気に海の色は冴えないが、充分に透明な青。絵の具を溶いたような吸い込まれそうな深い青い水に漂うテンジクダイを眺めていたら、タイムスリップした気分。記憶はすでに薄らいでいたが、かつて見た海の美しさはほとんど変わっていなかった。
御荘の高台にある紫電改展示館も立ち寄りたかった念願の場所だ。小学生の頃、ちばてつやの漫画「紫電改のタカ」を読み漁った。お国のため? 愛する人のため? 何のために命をかけて戦うのか苦悩する少年飛行兵の青春を描いた戦争漫画で、切ないストーリーとテーマの重さから大ヒットにはならなかったが、「あしたのジョー」より好きな名作だった。
御荘の海に34年間眠っていた機体を引き揚げた、日本に現存する唯一の紫電改。零戦の後継の高性能機で、子供の頃によくプラモデルを作ったな。戦争は嫌いだが、戦闘機のフォルムの美しさに惹かれてしまうのは男の子の性分なのだ。
朝の2時間を追憶の周遊ツアーに費やしたが、ホテルに戻って預かってもらっていたバッグを受け取り、再出発。御荘は予想どおりアップダウンが多かったから、空身の自転車で行って良かった。
この旅をスタートさせた松山まで150km圏内に入った。みかんの段々畑と宇和海の小さな漁村の風景が続く。吉田を経て宇和島へ。早くも雨が降り出してきた。
宇和島に着くと土砂降りになった。駅前に鯛めしのかどや駅前本店を見つけ、雨宿りを兼ねた昼飯タイムとする。しかし鯛めしは昨夜食べたばかりなので、もうひとつの定番料理「さつま定食」を注文。麦味噌の汁を麦飯にかけて、とネギ、みかんの皮の薬味とともに食べる素朴な家庭料理だ。
そして宇和島といえば小魚のすり身を揚げた揚げ蒲鉾「じゃこ天」も外せない。小骨を感じるくらいの粗さが丁度いい。「じゃこ」とは雑魚のこと。近海で獲れた海の味だ。
雨はいっこうに降り止まず、淡々と走るのみ。宇和島から西予市、大洲から内子へと向かう。悪くない景色は続くが、ずっと国道56号線をひた走る。結局、一日じゅうずっと雨は降り続いた。
もっとも気温は高いので寒くはなく、むしろレインギアの中に汗をかくと冷えて厄介なので、峠も汗をかかないようにゆっくりペースで走る。晴れていたら景色も楽しめるのに...。
苦行ではないけど消化のような長い一日だった。日が暮れかけてから内子に着いて良い宿を探したが、さすが人気の古都だけあって雰囲気が素敵な宿は2人以上向きで、ちょっと予算オーバー。
結局は2年前のシクロクロス全日本選手権のときの取材宿だったビジネスホテルの HOTEL AZに投宿。
シングルが満室だったためツインルームになってしまったが、なんとシングル料金にしてくれた。無料朝食つきで4,800円のリーズナブルさ。このチェーン系ホテルは夕食バイキングもリーズナブルでボリュームがあり、お酒も安く飲めるのでコスパ重視の方にはオススメだ。ただし部屋への自転車持ち込みはできず、入り口前の空きスペースに施錠して置くことになる(フロントが目の前なので防犯上は安心だ)。
夕食は内子の町並み保存地区にでかけ、ドイツ人男性と日本人女性のご夫婦がやっている古民家ドイツ家庭料理レストラン、ツム・シュバルツェン・カイラー(Zum schwarzen Keiler)へ。
内子周辺の食材を生かした料理にヴルスト(ソーセージ)にジャーマンポテト、酢キャベツのザワークラウトなどなど、ドイツビールに本格ドイツ料理をニッポンの古都で楽しむ。そしてなぜか居合わせた地元の常連客カップルとも一緒になって、世界バックパッカー旅の話題で盛り上がってしまい、世界の辺境の旅での変な体験談を内子で語るという、なんだか妙にフレンドリーで楽しい夜になった。
本日の走行距離125km。雨と国道走行に疲れ果てた一日だったが、夜の食事が豪華だったせいか、ビールが美味しかったせいか、充実感たっぷりで夜はふける。
明日は内子から大洲、伊予長浜から海沿いで松山へフィニッシュの予定だ。最終日は晴れそうだ。
この旅の写真はすべてスマホ(iPhone12pro)で撮影しています。
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写真と文:綾野 真、取材協力:愛媛県自転車新文化推進協会