2017/04/15(土) - 08:54
四国一周サイクリングPR隊の旅もいよいよ最終日。四国の最南端である足摺岬からの出発で、一路松山を目指す。サイクリング先進県となっている愛媛に学ぶ旅だ。
昨日は足摺岬への到着が遅かったPR隊の一行。岬といえば沈む夕陽を見るのが定番だが、あいにく天気がすぐれず感動のシーンは拝めなかった。幸いにもこの日は朝から好天予報。PR隊の一行はリベンジすべく朝5時過ぎに起床し、6時15分の日の出を観に足摺岬まで自転車で行こうということになった。元気なものである。
朝の空気が肌寒い中自転車にまたがり、アップダウンに富んだ岬への道をライトの灯りを頼りに進む。岬への遊歩道を歩き、灯台を見下ろす展望台で日の出を待つ。太平洋から上る朝日はじつに感動的だった。冷え切った身体を温めにホテルに戻り温泉にドボン! 断崖の露天風呂は太平洋に向けて視界が開け、素晴らしい眺め。朝食を摂って今日も旅の一日が始まる。
最南端ということでかつては細かった足摺への道も、今は広く綺麗に整備された。観光バスやクルマは当然その新道を走るのだが、サイクリストなら旧道がおすすめ。少し回り道になるが、クルマが通らなくなったぶん安全に走れて、点在する集落をつなぐ素朴な道を楽しめる。
愛媛南部、南予地方の中心都市である宇和島へ向かう道は美しいルートだ。竜串・見残しといった海の名勝地や、みかんの段々畑、入り組んだ小さな湾と点在する昔ながらの集落が織りなす景観は日本の原風景ともいえる雰囲気を残している。愛媛で育った筆者はこの一帯が四国でもっとも美しい海沿いのエリアだと思っている。しかし海岸線沿いを走るにはあまりに入り組んでおり、また素朴なぶん、道沿いに食料の買える商店が少なかったりと、旅するには苦労を強いられる道ではあるけれど。
象のカタチをした四国の、鼻の先端にあたるのが佐田岬だ。四国一周1,000kmルートには組み入れられていない。その理由を門田さんに尋ねた。
「佐田岬までは一本道の往復で、八幡浜から約50km・往復100kmは時間にして丸1日を要するからです。四国一周を達成することを主目的と考えると、その目的地を入れることで得られる体験と、時間的なロスを天秤にかける必要があります。1週間〜10日という時間も確保することが難しいという方の前提で、採用すべきかしないべきかを決めました。でも時間に余裕がある学生さんや、ピークハント的な趣向のあるサイクリストの方ならもちろん目指してください」。
愛媛には2014年にスタートした「マルゴト自転車道」プロジェクトにより、県内に26のサイクリングモデルコースがある。この南予一帯にもそれは多く、走るところは無限にある。しかし今回の四国一周サイクリング1,000kmルートでは、あくまで四国一周という体験を提案することが大きな目的にある。そのため合理的にルートを選んでいるのだ。
「海岸線の美しい愛媛県ですが、カットした部分は多いですね。例えば海外の方に走ってもらうと、『この道はなんで走るの?』と聞かれます。旅のテーマに沿わないルートはグループサイクリングなどでは不平が出る原因となりますよね。県外のゲストに”見せるべき四国”を考える時、その道をルートに組み入れるかどうかはシビアに選びます」と門田さん。
入り組んだ海岸線が特徴の南予を抜け、大洲市に出る。四国の「象」でいう、鼻筋にあたる海岸線は”せとかぜ海道(夕焼けこやけライン)”の名がある。西に開けているため日没の拝める時に走ればずっと夕焼けが楽しめるのだろう。伊予長浜までは海沿いの平坦で開放感いっぱいの気持ちいい道だ。PR隊は一青妙さんと門田さんを先頭に、追い風に乗って順調に飛ばす。
青い海を見つつ、道路沿いにはサイクリングルートを示すブルーラインが引かれている。そしてブルーライン内には約2kmほど毎に「長浜まで15km」「道の駅まで3km」といった文字サインが埋め込まれている。自転車で走りながら、それが自然に視認できるのだ。普通なら路肩に看板を立てるものだが、それよりずっと優れた方法だと門田さんは説明する。
「看板だと見落とす可能性もあるし、読むために視線を動かして確認しなければいけないから、走る方向から目をそらすことになって危険なんです。ブルーラインにはめ込んで書かれた『ピクト』なら、路面を見る視線の同一方向にあるし、見落とすことはありません。これ、なかなかのアイデアでしょ? 台湾の人が愛媛を走りに来てこの方法に感心して、今では台湾じゅうでこの方式が採用されているんです。先月PR隊が台湾を訪れた時、ピクトだらけでした(笑)。さすが台湾は手が早いですね」。
なによりブルーラインに沿って走るのは「サイクリングルートを外れていない」という安心感がある。走ってみれば納得の安心感である。また、走りながら次のポイントの情報が得られるので、食事や補給、休憩のことを計算しながら走れるのがいい。地図やGPSに頼る走りとは違う安心感だ。この日走ったエリアにはしっかりとブルーラインとピクトが施され、自転車先進県・愛媛を実感することできた。
内子町では「道の駅内子フレッシュパークからり」のレストランで食事をとった。内子豚をはじめとした地産地消のこだわり食材でつくられた食事がとても美味しかった。この旅ではじめて供された肉料理だが、スタミナ勝負の自転車の旅には嬉しい味とタンパク源だ。
食事の後は人気の内子町巡りへ。白壁と木蝋の町並み保存を進めてきた内子の、ハゼの流通で財をなした商家が建ち並ぶ昔のままの景観が残る八日市護国地区を散策した。
なんともレトロな歌舞伎劇場「内子座」は、我々が訪れたときには地元の中学生のブラスバンド部の練習会が行われていた。景観がただ保存されているだけでなく、今も実際に使われているのが驚きだ。
いよいよこの旅も終盤。PR隊は最終地点の松山へと向かう。ゴールは出発地点でもあった愛媛県庁と松山のシンボルである道後温泉だ。
県庁ではサイクリング事業に関わる職員さんたちと、ゆるキャラ「みきゃん」の広報カーがお出迎えしてくれた。厳かな県庁のファザードで、全員で一周達成のバンザイポーズを決めるPR隊。県庁前でこんなことができるのは、愛媛をおいて他にないだろう。
迎えてくれたサイクリング事業に携わる県職員の方々に旅の成果を報告し、一行は最後の締めの目的地、道後温泉へ向かう。
途中、なんと中村時広都知事の公用車が通りがかり、知事はクルマの窓からPR隊に向かって「おかえりなさい!」と手を振ってくれた。愛媛のサイクリング事業を強力に進めてきた中村知事。今回はスタートセレモニーのみで旅の道中はご一緒できなかったが、またそのうちサイクルジャージ姿で四国一周を走ってくれることだろう。
宿が松山市内なら、道後温泉へは路面電車で市街のどこからでも簡単にアクセスできる。四国一周サイクリング最後の夜はぜひ、日本最古の温泉で旅の疲れを癒やしたい。
■台湾一周「環島(ファンダオ)」と四国一周サイクリングの交流
駆け足で巡った四国一周1,000kmの旅。今回はルート概要の視察と各県への協力要請といったデモンストレーション色の濃いものだったが、ごく近いうちに台湾の関係者などを招いての四国一周サイクリングが計画されているという。
実は、今回の旅の前には中村知事を始めとした愛媛県庁職員や関係者らによって結成されたPR隊が、実際に6日間で走る台湾一周サイクリングを敢行して、その先々で四国一周サイクリングをPRしてきたのだ。中村知事も2日間を走り、台湾じゅうに四国一周サイクリングの魅力を発信してきたという。
今までもFormosa900 台湾一周サイクリングなどの記事でお伝えしてきたが、このプロジェクトを主に進めるのは愛媛県の関係者たち。中村知事の先導で、副知事以下、局長クラスの県職員や、今治市など愛媛県内各市の職員が実際に自分の脚で台湾一周サイクリングを体験。そこで得たものをサイクリング事業推進に活かしてきたという流れがある。愛媛県はこのプロジェクトにおいて、ジャイアントのキング・リュウ(劉金標)元会長が台湾を一周した経験を国政に働きかけ、この10年間で台湾を世界の自転車先進国と呼ばれるまでに環境を整備してきたことにならおうとしているのだ。つまり、愛媛県はそれほど本気なのだ。
四国一周プロジェクトは、国内外への発信と同時に、とくに台湾との交流関係強化を目指している。台湾一周900kmの「環島(ファンダオ)」と四国一周1000kmは良く似ている。台湾を一周した人が今度は四国を一周する。四国を一周した人が台湾を一周する。そんな交流が盛んになるようにしたいという。すでに両国の自転車事業の先導役の人たちは両島一周を済ませている。今後、四国各県の行政が愛媛県の動きに同調していけば、四国一周1,000kmサイクリングルートが人気のしまなみ海道同様の観光資源として確立されるだろう。「サイクリングアイランド四国」の攻めはこれからも加速しそうだ。
今回、デモツアーで旅した四国。圧縮された旅だったが、一周サイクリングルートの概要、各県の事情や空気感、そして事業をすすめる関係者たちの考えることが理解できた旅となった。これからも四国における自転車を取り巻く動きに注目して行きたい。そして近いうちに四国一周の全行程を自転車で旅することを楽しみにしている。
photo&text:Makoto.AYANO
昨日は足摺岬への到着が遅かったPR隊の一行。岬といえば沈む夕陽を見るのが定番だが、あいにく天気がすぐれず感動のシーンは拝めなかった。幸いにもこの日は朝から好天予報。PR隊の一行はリベンジすべく朝5時過ぎに起床し、6時15分の日の出を観に足摺岬まで自転車で行こうということになった。元気なものである。
朝の空気が肌寒い中自転車にまたがり、アップダウンに富んだ岬への道をライトの灯りを頼りに進む。岬への遊歩道を歩き、灯台を見下ろす展望台で日の出を待つ。太平洋から上る朝日はじつに感動的だった。冷え切った身体を温めにホテルに戻り温泉にドボン! 断崖の露天風呂は太平洋に向けて視界が開け、素晴らしい眺め。朝食を摂って今日も旅の一日が始まる。
最南端ということでかつては細かった足摺への道も、今は広く綺麗に整備された。観光バスやクルマは当然その新道を走るのだが、サイクリストなら旧道がおすすめ。少し回り道になるが、クルマが通らなくなったぶん安全に走れて、点在する集落をつなぐ素朴な道を楽しめる。
愛媛南部、南予地方の中心都市である宇和島へ向かう道は美しいルートだ。竜串・見残しといった海の名勝地や、みかんの段々畑、入り組んだ小さな湾と点在する昔ながらの集落が織りなす景観は日本の原風景ともいえる雰囲気を残している。愛媛で育った筆者はこの一帯が四国でもっとも美しい海沿いのエリアだと思っている。しかし海岸線沿いを走るにはあまりに入り組んでおり、また素朴なぶん、道沿いに食料の買える商店が少なかったりと、旅するには苦労を強いられる道ではあるけれど。
象のカタチをした四国の、鼻の先端にあたるのが佐田岬だ。四国一周1,000kmルートには組み入れられていない。その理由を門田さんに尋ねた。
「佐田岬までは一本道の往復で、八幡浜から約50km・往復100kmは時間にして丸1日を要するからです。四国一周を達成することを主目的と考えると、その目的地を入れることで得られる体験と、時間的なロスを天秤にかける必要があります。1週間〜10日という時間も確保することが難しいという方の前提で、採用すべきかしないべきかを決めました。でも時間に余裕がある学生さんや、ピークハント的な趣向のあるサイクリストの方ならもちろん目指してください」。
愛媛には2014年にスタートした「マルゴト自転車道」プロジェクトにより、県内に26のサイクリングモデルコースがある。この南予一帯にもそれは多く、走るところは無限にある。しかし今回の四国一周サイクリング1,000kmルートでは、あくまで四国一周という体験を提案することが大きな目的にある。そのため合理的にルートを選んでいるのだ。
「海岸線の美しい愛媛県ですが、カットした部分は多いですね。例えば海外の方に走ってもらうと、『この道はなんで走るの?』と聞かれます。旅のテーマに沿わないルートはグループサイクリングなどでは不平が出る原因となりますよね。県外のゲストに”見せるべき四国”を考える時、その道をルートに組み入れるかどうかはシビアに選びます」と門田さん。
入り組んだ海岸線が特徴の南予を抜け、大洲市に出る。四国の「象」でいう、鼻筋にあたる海岸線は”せとかぜ海道(夕焼けこやけライン)”の名がある。西に開けているため日没の拝める時に走ればずっと夕焼けが楽しめるのだろう。伊予長浜までは海沿いの平坦で開放感いっぱいの気持ちいい道だ。PR隊は一青妙さんと門田さんを先頭に、追い風に乗って順調に飛ばす。
青い海を見つつ、道路沿いにはサイクリングルートを示すブルーラインが引かれている。そしてブルーライン内には約2kmほど毎に「長浜まで15km」「道の駅まで3km」といった文字サインが埋め込まれている。自転車で走りながら、それが自然に視認できるのだ。普通なら路肩に看板を立てるものだが、それよりずっと優れた方法だと門田さんは説明する。
「看板だと見落とす可能性もあるし、読むために視線を動かして確認しなければいけないから、走る方向から目をそらすことになって危険なんです。ブルーラインにはめ込んで書かれた『ピクト』なら、路面を見る視線の同一方向にあるし、見落とすことはありません。これ、なかなかのアイデアでしょ? 台湾の人が愛媛を走りに来てこの方法に感心して、今では台湾じゅうでこの方式が採用されているんです。先月PR隊が台湾を訪れた時、ピクトだらけでした(笑)。さすが台湾は手が早いですね」。
なによりブルーラインに沿って走るのは「サイクリングルートを外れていない」という安心感がある。走ってみれば納得の安心感である。また、走りながら次のポイントの情報が得られるので、食事や補給、休憩のことを計算しながら走れるのがいい。地図やGPSに頼る走りとは違う安心感だ。この日走ったエリアにはしっかりとブルーラインとピクトが施され、自転車先進県・愛媛を実感することできた。
内子町では「道の駅内子フレッシュパークからり」のレストランで食事をとった。内子豚をはじめとした地産地消のこだわり食材でつくられた食事がとても美味しかった。この旅ではじめて供された肉料理だが、スタミナ勝負の自転車の旅には嬉しい味とタンパク源だ。
食事の後は人気の内子町巡りへ。白壁と木蝋の町並み保存を進めてきた内子の、ハゼの流通で財をなした商家が建ち並ぶ昔のままの景観が残る八日市護国地区を散策した。
なんともレトロな歌舞伎劇場「内子座」は、我々が訪れたときには地元の中学生のブラスバンド部の練習会が行われていた。景観がただ保存されているだけでなく、今も実際に使われているのが驚きだ。
いよいよこの旅も終盤。PR隊は最終地点の松山へと向かう。ゴールは出発地点でもあった愛媛県庁と松山のシンボルである道後温泉だ。
県庁ではサイクリング事業に関わる職員さんたちと、ゆるキャラ「みきゃん」の広報カーがお出迎えしてくれた。厳かな県庁のファザードで、全員で一周達成のバンザイポーズを決めるPR隊。県庁前でこんなことができるのは、愛媛をおいて他にないだろう。
迎えてくれたサイクリング事業に携わる県職員の方々に旅の成果を報告し、一行は最後の締めの目的地、道後温泉へ向かう。
途中、なんと中村時広都知事の公用車が通りがかり、知事はクルマの窓からPR隊に向かって「おかえりなさい!」と手を振ってくれた。愛媛のサイクリング事業を強力に進めてきた中村知事。今回はスタートセレモニーのみで旅の道中はご一緒できなかったが、またそのうちサイクルジャージ姿で四国一周を走ってくれることだろう。
宿が松山市内なら、道後温泉へは路面電車で市街のどこからでも簡単にアクセスできる。四国一周サイクリング最後の夜はぜひ、日本最古の温泉で旅の疲れを癒やしたい。
■台湾一周「環島(ファンダオ)」と四国一周サイクリングの交流
駆け足で巡った四国一周1,000kmの旅。今回はルート概要の視察と各県への協力要請といったデモンストレーション色の濃いものだったが、ごく近いうちに台湾の関係者などを招いての四国一周サイクリングが計画されているという。
実は、今回の旅の前には中村知事を始めとした愛媛県庁職員や関係者らによって結成されたPR隊が、実際に6日間で走る台湾一周サイクリングを敢行して、その先々で四国一周サイクリングをPRしてきたのだ。中村知事も2日間を走り、台湾じゅうに四国一周サイクリングの魅力を発信してきたという。
今までもFormosa900 台湾一周サイクリングなどの記事でお伝えしてきたが、このプロジェクトを主に進めるのは愛媛県の関係者たち。中村知事の先導で、副知事以下、局長クラスの県職員や、今治市など愛媛県内各市の職員が実際に自分の脚で台湾一周サイクリングを体験。そこで得たものをサイクリング事業推進に活かしてきたという流れがある。愛媛県はこのプロジェクトにおいて、ジャイアントのキング・リュウ(劉金標)元会長が台湾を一周した経験を国政に働きかけ、この10年間で台湾を世界の自転車先進国と呼ばれるまでに環境を整備してきたことにならおうとしているのだ。つまり、愛媛県はそれほど本気なのだ。
四国一周プロジェクトは、国内外への発信と同時に、とくに台湾との交流関係強化を目指している。台湾一周900kmの「環島(ファンダオ)」と四国一周1000kmは良く似ている。台湾を一周した人が今度は四国を一周する。四国を一周した人が台湾を一周する。そんな交流が盛んになるようにしたいという。すでに両国の自転車事業の先導役の人たちは両島一周を済ませている。今後、四国各県の行政が愛媛県の動きに同調していけば、四国一周1,000kmサイクリングルートが人気のしまなみ海道同様の観光資源として確立されるだろう。「サイクリングアイランド四国」の攻めはこれからも加速しそうだ。
今回、デモツアーで旅した四国。圧縮された旅だったが、一周サイクリングルートの概要、各県の事情や空気感、そして事業をすすめる関係者たちの考えることが理解できた旅となった。これからも四国における自転車を取り巻く動きに注目して行きたい。そして近いうちに四国一周の全行程を自転車で旅することを楽しみにしている。
photo&text:Makoto.AYANO
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