タイムが今年モデルチェンジを発表したエアロオールラウンダーのSCYLON。伝統のRTM工法やBSC構造に最新技術を取り入れ、エアロのエッセンスを加えた最新世代のインプレッションを行った。

タイム SCYLON
フレンチバイクブランドの雄、タイム。カーボンのロードバイク開発にいち早く取り組み、RTM(レジントランスファーモールディング)工法を採用した高性能バイクで数々の勝利を収め、「いつかはタイム」と数多くのサイクリストに言わしめた名門ブランドだ。
そのタイムが長年に渡って築き上げてきた技術と哲学の結晶がSCYLONだ。2017年の登場以来、同社のフラッグシップレーサーとして君臨してきたこのモデルが、2025年に第2世代へと進化を遂げている。
SCYLON GEN2もタイムが誇るRTM工法を採用しつつ、タイムが25年間磨き続けてきた編組カーボン構造(BCS)の最新技術が取り入れられた。進化したBCSとRTM工法による最新世代は、軽量・エアロ・高剛性が求めれられる現代のレースバイクにふさわしい性能を実現した。

形状が繊細に変化するシートステー 
ダウンチューブは非常に薄型のカムテール形状だ 
フォークもエアロを意識した形状が採用されている
大きく進化がもたらされたのは大きく2つ。使用する素材自体とカーボンの編み方だ。新型SCYLONに使用されるカーボンマテリアルは東レのM46J超高弾性繊維とT800高強度繊維で、これを7対3の比率で組み合わせたもの。1年以上にわたる材料試験と積層研究の末に辿り着いた配合比であり、軽量性と剛性、強度のバランスを極限まで追求した結果だ。
さらに「方向性モーフィング」と呼ばれる新技術が採用された。SCYLONに採用されるBCS構造とは靴下のように繊維の編み込みで作られており、方向性モーフィングというのは編み込む繊維の角度を部分ごとに変化させるもの。
具体的には繊維がクロスする角度を角度を45度から30度の範囲で徐々に変化させることで、チューブの部位ごとに最適化された性能を発揮させている。シートチューブには柔軟性を持たせつつ、前三角には剛性とハンドリングの精度を与えるといったコントロールが可能となった。

シートチューブの根本はトラッドな作りとなっている 
フランスが誇るバイクブランドのタイム

タイムを象徴する編みカーボン地を確認できるロゴのクリア仕上げ 
トップチューブの形状もエアロデザインに一新された
またSCYLON GEN2のフレーム構造では、ボトムブラケットからダウンチューブ、ヘッドチューブ、トップチューブへと連続する前三角部分がワンピース構造とされていることも特徴だ。カーボン繊維が途切れることない構造は剛性、強度を高め、優れたパフォーマンスを実現している。
チェーンステーは「パワーボックス・システム」として刷新された。超高弾性繊維を全体に使用することで、従来の優れた性能を維持しながら20%の軽量化を達成している。同時にタイヤクリアランスも最大32Cへと増加しており、ワイド化が進むロードタイヤにも対応可能となっている。

ヘッドチューブはプレーンなストレート形状だ 
スリムな作りだが、BB周りやチェーンステーで高い剛性を実現している
新型SCYLONのフレームは各サイズで100g以上の軽量化を達成。ねじり剛性は9%向上しており、ペダリングに対する反応性も優れたフレームとして進化を遂げた。
SCYLON GEN2はエアロダイナミクス性能でも大幅な進歩を遂げている。前後幅が広めのカムテール形状のダウンチューブやシートチューブなどフレーム各部のチューブ形状最適化により空気抵抗を12%削減。さらにフロントフォークもインテグレーテッドデザインとすることで、空気抵抗を4%低減している。
フロントフォークはケーブルを内装するために完全に新設計とされた。独自のリブ構造やコラムのケブラー補強によって強度と剛性を確保。エンド部分はフォージドカーボンとすることで軽量性と耐久性を高めている。また、43mmと50mmの2種類のオフセットを用意することで幅広いライダーのニーズに対応する。

ダウンチューブの前方は空気を綺麗に流すような形状だ 
シートチューブはエアロを意識した切り欠きデザインが採用されている 
オリジナルのシートポストによってオフセットが変更可能となった
SCYLON GEN2のケーブルフル内装システムはFSAのインテグレーテッドヘッドセットとSRSトップキャップで実現する。これによってケーブルはフル内装とセミ内装どちらにも対応できるため、ライダーの好みなどに合わせやすくなっている。シートポストも専用開発されており、-20mmと+10mmの2種類のオフセットに対応し、大幅な前後調整が可能になった。
タイムらしいフレーム設計で、軽量性とエアロダイナミクス、剛性という現代のロードレーサーに求められるものを全て追求したSCYLON GEN2。シクロワイアード編集部の高木三千成によるインプレッションをお届けしよう。
ーインプレッション
「タイムらしさとエアロが融合したオールラウンドレーサー」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「剛性が非常に高く、反応性に優れている」高木三千成(シクロワイアード編集部)
新型SCYLONも歴代バイクのエッセンスを感じられる、タイムらしいバイクでした。フレーム全体の高い剛性は引き継がれ、ホイールベースの長さに由来する直進安定性が印象に残りました。オールラウンドバイクとエアロロードの良い所が融合しているような走行感は実際に体験でき、現代のエアロオールラウンダーとして遜色のない仕上がりとなっています。
試乗車にアセンブルされていたホイールがヴィジョンのMetron SL 60というエアロモデルということもあり、バイクの挙動はエアロ寄りでした。具体的にはハンドリングはニュートラルとよりは、ごく僅かにワンテンポ遅れて反応します。とはいえピュアエアロロードよりは素直に反応してくれますし、扱いやすさとしてオールラウンドモデルと変わらないというのがバイク全体の印象です。
エアロやジオメトリーの部分で特徴が出ていますが、タイムらしい剛性感はSCYLONを語る上では外せません。タイムらしさというのBB周りからヘッド部分にかけての剛性が高くて、ペダルを踏み込んだ瞬間からリニアに加速するレーススペックにあります。今作もBB部分がボックスのような硬さがあり、ハイパワーをかけてもチューブが撓むことが一切なくパワーが全て推進力になっているような感覚がありました。

「ボトムブラケットからヘッドにかけての剛性が高い」高木三千成(シクロワイアード編集部)
特に登り坂では一定のペースを維持するのには想像以上にパワーは必要ないのも好印象でした。7割のパワーで巡航していて、そこから100%の力でアタックをかけた時も気持ちよく加速してくれる感覚もあり、レースの最終盤でもライダーを支えてくれるでしょう。
レースバイクとしての性能を発揮するための剛性なので、ペダリングに対する反応はシビアかもしれません。リニアに反応する瞬発力は魅力の一つですが高い剛性も相まって、クランク位置が1〜2時から4時くらいまでの間、ケイデンスは90から100回転の間で綺麗に入力する必要がありそうです。その部分はタイムらしい剛性感による特徴が表れていると感じます。
やや剛性感がマイルドなMetron 60 SLホイールとの組み合わせでこの印象を抱いたので、軽量で高剛性のフラッグシップホイールを装備すれば、さらなるシャープで軽い加速性能を味わえそうです。レーサーであれば45mmや40mmくらいのリムハイトでオールラウンド性に磨きをかけ、ファストサイクリングを楽しみたい方はMetron 60 SLのような程よい剛性感とエアロ性能に優れるホイールを選択した方が気持ちよく走れますね。

「タイムらしい剛性とエアロが融合したエアロオールラウンダー」高木三千成(シクロワイアード編集部)
もちろんMetron 60 SLでレースに出てもいいと思いますよ。例えば群馬CSCのような単発的な登りがあるコースでは、この装備でも軽やかに走れるはずです。そのくらいフレームとしての完成度は高いので、得意とするシチュエーションはホイールで変わるでしょう。
だから新型SCYLONはレーサーだけではなく、週末のサイクリングをハイスピードで楽しみたい方や、KOMを狙いたいと考えている方、レースバイクの酸いも甘いも味わいたい方の気持ちには応えてくれるバイクでした。そしてタイムらしい剛性感を求めている方であれば、エアロの進化を実感できるバイクに仕上がっていると思います。

タイム SCYLON
タイム SCYLON
フレーム素材:GEN2 BCS M46J/T800カーボンファイバーレイアップ
ボトムブラケット:PF386EVO
最大タイヤ幅:700x32C
サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
カラー:NUDE、PEARL、BRILLIANT RED、BRILLIANT PURPLE
価格:792,000円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール

高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)
学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。現在も東京の稲城FIETSクラスアクトに所属し、Jプロツアーで全国のレースに参戦している。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位でUCIポイントを獲得した。
text:Gakuto Fujiwara
photo:Naoki Yasuoka

フレンチバイクブランドの雄、タイム。カーボンのロードバイク開発にいち早く取り組み、RTM(レジントランスファーモールディング)工法を採用した高性能バイクで数々の勝利を収め、「いつかはタイム」と数多くのサイクリストに言わしめた名門ブランドだ。
そのタイムが長年に渡って築き上げてきた技術と哲学の結晶がSCYLONだ。2017年の登場以来、同社のフラッグシップレーサーとして君臨してきたこのモデルが、2025年に第2世代へと進化を遂げている。
SCYLON GEN2もタイムが誇るRTM工法を採用しつつ、タイムが25年間磨き続けてきた編組カーボン構造(BCS)の最新技術が取り入れられた。進化したBCSとRTM工法による最新世代は、軽量・エアロ・高剛性が求めれられる現代のレースバイクにふさわしい性能を実現した。



大きく進化がもたらされたのは大きく2つ。使用する素材自体とカーボンの編み方だ。新型SCYLONに使用されるカーボンマテリアルは東レのM46J超高弾性繊維とT800高強度繊維で、これを7対3の比率で組み合わせたもの。1年以上にわたる材料試験と積層研究の末に辿り着いた配合比であり、軽量性と剛性、強度のバランスを極限まで追求した結果だ。
さらに「方向性モーフィング」と呼ばれる新技術が採用された。SCYLONに採用されるBCS構造とは靴下のように繊維の編み込みで作られており、方向性モーフィングというのは編み込む繊維の角度を部分ごとに変化させるもの。
具体的には繊維がクロスする角度を角度を45度から30度の範囲で徐々に変化させることで、チューブの部位ごとに最適化された性能を発揮させている。シートチューブには柔軟性を持たせつつ、前三角には剛性とハンドリングの精度を与えるといったコントロールが可能となった。




またSCYLON GEN2のフレーム構造では、ボトムブラケットからダウンチューブ、ヘッドチューブ、トップチューブへと連続する前三角部分がワンピース構造とされていることも特徴だ。カーボン繊維が途切れることない構造は剛性、強度を高め、優れたパフォーマンスを実現している。
チェーンステーは「パワーボックス・システム」として刷新された。超高弾性繊維を全体に使用することで、従来の優れた性能を維持しながら20%の軽量化を達成している。同時にタイヤクリアランスも最大32Cへと増加しており、ワイド化が進むロードタイヤにも対応可能となっている。


新型SCYLONのフレームは各サイズで100g以上の軽量化を達成。ねじり剛性は9%向上しており、ペダリングに対する反応性も優れたフレームとして進化を遂げた。
SCYLON GEN2はエアロダイナミクス性能でも大幅な進歩を遂げている。前後幅が広めのカムテール形状のダウンチューブやシートチューブなどフレーム各部のチューブ形状最適化により空気抵抗を12%削減。さらにフロントフォークもインテグレーテッドデザインとすることで、空気抵抗を4%低減している。
フロントフォークはケーブルを内装するために完全に新設計とされた。独自のリブ構造やコラムのケブラー補強によって強度と剛性を確保。エンド部分はフォージドカーボンとすることで軽量性と耐久性を高めている。また、43mmと50mmの2種類のオフセットを用意することで幅広いライダーのニーズに対応する。



SCYLON GEN2のケーブルフル内装システムはFSAのインテグレーテッドヘッドセットとSRSトップキャップで実現する。これによってケーブルはフル内装とセミ内装どちらにも対応できるため、ライダーの好みなどに合わせやすくなっている。シートポストも専用開発されており、-20mmと+10mmの2種類のオフセットに対応し、大幅な前後調整が可能になった。
タイムらしいフレーム設計で、軽量性とエアロダイナミクス、剛性という現代のロードレーサーに求められるものを全て追求したSCYLON GEN2。シクロワイアード編集部の高木三千成によるインプレッションをお届けしよう。
ーインプレッション
「タイムらしさとエアロが融合したオールラウンドレーサー」高木三千成(シクロワイアード編集部)

新型SCYLONも歴代バイクのエッセンスを感じられる、タイムらしいバイクでした。フレーム全体の高い剛性は引き継がれ、ホイールベースの長さに由来する直進安定性が印象に残りました。オールラウンドバイクとエアロロードの良い所が融合しているような走行感は実際に体験でき、現代のエアロオールラウンダーとして遜色のない仕上がりとなっています。
試乗車にアセンブルされていたホイールがヴィジョンのMetron SL 60というエアロモデルということもあり、バイクの挙動はエアロ寄りでした。具体的にはハンドリングはニュートラルとよりは、ごく僅かにワンテンポ遅れて反応します。とはいえピュアエアロロードよりは素直に反応してくれますし、扱いやすさとしてオールラウンドモデルと変わらないというのがバイク全体の印象です。
エアロやジオメトリーの部分で特徴が出ていますが、タイムらしい剛性感はSCYLONを語る上では外せません。タイムらしさというのBB周りからヘッド部分にかけての剛性が高くて、ペダルを踏み込んだ瞬間からリニアに加速するレーススペックにあります。今作もBB部分がボックスのような硬さがあり、ハイパワーをかけてもチューブが撓むことが一切なくパワーが全て推進力になっているような感覚がありました。

特に登り坂では一定のペースを維持するのには想像以上にパワーは必要ないのも好印象でした。7割のパワーで巡航していて、そこから100%の力でアタックをかけた時も気持ちよく加速してくれる感覚もあり、レースの最終盤でもライダーを支えてくれるでしょう。
レースバイクとしての性能を発揮するための剛性なので、ペダリングに対する反応はシビアかもしれません。リニアに反応する瞬発力は魅力の一つですが高い剛性も相まって、クランク位置が1〜2時から4時くらいまでの間、ケイデンスは90から100回転の間で綺麗に入力する必要がありそうです。その部分はタイムらしい剛性感による特徴が表れていると感じます。
やや剛性感がマイルドなMetron 60 SLホイールとの組み合わせでこの印象を抱いたので、軽量で高剛性のフラッグシップホイールを装備すれば、さらなるシャープで軽い加速性能を味わえそうです。レーサーであれば45mmや40mmくらいのリムハイトでオールラウンド性に磨きをかけ、ファストサイクリングを楽しみたい方はMetron 60 SLのような程よい剛性感とエアロ性能に優れるホイールを選択した方が気持ちよく走れますね。

もちろんMetron 60 SLでレースに出てもいいと思いますよ。例えば群馬CSCのような単発的な登りがあるコースでは、この装備でも軽やかに走れるはずです。そのくらいフレームとしての完成度は高いので、得意とするシチュエーションはホイールで変わるでしょう。
だから新型SCYLONはレーサーだけではなく、週末のサイクリングをハイスピードで楽しみたい方や、KOMを狙いたいと考えている方、レースバイクの酸いも甘いも味わいたい方の気持ちには応えてくれるバイクでした。そしてタイムらしい剛性感を求めている方であれば、エアロの進化を実感できるバイクに仕上がっていると思います。

タイム SCYLON
フレーム素材:GEN2 BCS M46J/T800カーボンファイバーレイアップ
ボトムブラケット:PF386EVO
最大タイヤ幅:700x32C
サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
カラー:NUDE、PEARL、BRILLIANT RED、BRILLIANT PURPLE
価格:792,000円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。現在も東京の稲城FIETSクラスアクトに所属し、Jプロツアーで全国のレースに参戦している。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位でUCIポイントを獲得した。
text:Gakuto Fujiwara
photo:Naoki Yasuoka
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