2022/03/13(日) - 14:39
世界的に高い評価を得るMTBブランドであるサンタクルズのXCフルサスモデル"BLUR"がモデルチェンジ。同社のアイコンでもあるVPPを廃し、シングルピヴォットリンケージを採用することでより軽く効率的な走りを手に入れたレーシングバイクをインプレッション。
MTB界のリーディングカンパニーとして、多くのライダーからの支持を集めるサンタクルズ。DH世界王者の座に幾度となく君臨したグレッグ・ミナーをはじめ、多くの強豪選手を擁するサンタクルズ・シンジケートの存在もあり、下り寄りのイメージを持っている方も多いのではないだろうか。
だが実際のところ、サンタクルズはあらゆるカテゴリーのMTBをラインアップする総合ブランドであり、なんとなればCXバイクも手掛けているほど幅広い分野のバイクを知り尽くしたブランドだ。XCレースにも力を入れており、XCチームの「サンタクルズFSA」には、マキシム・マロット(フランス)やルカ・ブライドット(イタリア)といったナショナルチャンピオン経験者が昨シーズンより加入。その存在感を強めている。
今回のインプレッションバイクであるBLURは、同社のXCフルサスモデルであり、サンタクルズFSAのメインバイクとして開発されたピュアXCレーサーだ。BLURシリーズとしては5代目にあたる新作となり、XCレースでの勝利を収めるため完全に設計を一新した。
登りも下りも過激になるXCOのコースに対応するために求められているのは、極限まで軽量でありながらコントローラブルな1台。その理想を実現するために開発されたのが新開発のSuperlightサスペンションシステムだ。前作に採用されていたリンケージシステムの"VPP"は、理想的なリアアクスルの軌道を実現するサンタクルズのコアとなるテクノロジー。だが一方で、複雑なリンクやリアトライアングル設計によって重量的なデメリットもあった。
この問題を解決するためにサンタクルズが選択したのは、シンプルなシングルピヴォット。近年、多くのレーシングXCバイクが回帰しているシステムであり、サンタクルズも同じ解を導き出したといえるだろう。
だが、サンタクルズが辿り着いたSuperlightサスペンションは、ただのシングルピヴォットではなく、極薄の扁平形状のフレックスシートステーを組み合わせることで、軽量でありながら理想的なサスペンションキネマティックスを実現しているという。このスーパーライトサスペンションを採用することで、新型BLURは289gものフレーム重量軽減に成功したという。
レバレッジカーブを最適化することで、アンチスクワットを過度に強めることのないリンク設計が可能に。サスペンションへのペダリングの影響を抑えることで、より効率的な推進力を発揮。同時に、常にスムーズなサスペンションストロークを実現することで、登りでの高いトラクションと弾かれることのない安定感のある下り性能を両立した。
また、リアトライアングルを閉じた三角形としてきたVPPから、短辺を取り払った"く"の字型とすることで、シートチューブへもボトルを取り付け可能に。ダブルボトルを運べることにより、XCマラソンのような長距離ライドにもピッタリなバイクとなっている。
新設計のスーパーライトサスペンションにより、一気に性能を底上げしてきた新型BLUR。カーボン素材の異なるCCとCという2つのフレームグレード、100mmストロークのXCパッケージと120mmストロークのTRパッケージが用意され、それぞれにパーツアセンブルが異なるキットが数種類ラインアップされる。
今回テストを行ったのは、サイクルハウスミカミの三上和志店長とRiseRideの鈴木祐一店長の2人。XCレースで活躍してきた実績を持つベテランたちが、伊豆MTBトレーニングコースで期待の新作を乗り込んだ。
―サンタクルズ BLURを一日乗り込んでいただきましたが、いかがでしたか
鈴木:いや、驚きましたよ。コースに入る前に推奨セッティングに合わせて、少し馴染みを出そうと駐車スペースで乗っただけで「これは面白いバイクだぞ」と。ペダリングに対してはもちろん、バイクを寝かした時の反応も俊敏で、はやくコースインしたくてウズウズしちゃいました。
ピュアなXCレースバイクには、軽さや瞬発力、反応性といったペダリングに関わる性能がまず第一に求められますよね。BLURはその能力も抜群に優れているのですが、そこに加えて下りでも圧倒的に安定感がある、つまり速く走れるんですよね。
その性能というのが、どこから生まれてくるのかといえば、路面をしっかりと掴み続ける力の高さなんだと思います。登りでも荒れた路面にしっかりトラクションをかけて推進力につなげていきますし、下りではグリップに直結します。
サンタクルズといえばDHやエンデューロといった下り系が得意というイメージが強かったのですが、良い意味で裏切られました。最近はXCチームのほうにも強い選手が入って、東京オリンピックでも走っていたので、こっち(XC)方面に力を入れているのは知ってはいたんですが、まさかここまでのバイクに仕上がっているとは。ただただ驚きでした。
三上:僕は普段からハードテールのXCレースバイクを愛用してるので、やっぱりフルサスだとちょっともたつく感じがあるのかな、とあえてあまり期待しないようにして乗ってみたんです。でも、乗った瞬間に明らかな加速の良さが感じられてこれは凄いバイクだぞ、と。
ハードテールは踏んだら踏んだ分だけ進むんですが、BLURはその上を行きますね。右脚が踏み終わって、左脚を踏み始めるまでの「間」を繋いでくれるタメがあって、常に推進力が存在している感覚があります。
極端に言うなら、E-BIKEに通ずるものがあります。E-BIKEは踏んだ後に少しアシストパワーの余韻があって次のペダリングに繋がっていく、あの感じです(笑)ペダリングのトルクむらをなだらかにしてくれて、トラクションが綺麗にかかり続けるようなイメージですね。
今日のコースでは、オフキャンバーかつ木の根が連続するような登りもあったんですが、そういうところで他のバイクより絶対に楽だなと確信できますね。バイクが暴れることなく路面のギャップを吸収してくれるので、みんなが嫌がるセクションで攻撃できる、そういうアドバンテージを作ってくれる1台ですね。
鈴木:今回、一本目は三上さんがBLURに乗って、自分が私物のバイクに乗って走ったんですよ。三上さんとも付き合い長いし、お互いの力量というのは知り尽くしているんですが、ついていくのが大変で。相変わらず上手いし速いな、と思っていたんです。で、バイクを乗り換えてみると、今度は三上さんがちょっと苦しそうになってて(笑)
三上:そうそう(笑)最初の一本は「ちょっと後ろ離れたな」とか思ってたんですけど、乗り換えてみたら、「速くなった!?頑張ってついていかなきゃ!」みたいな。ここまでバイクで差が出るのは面白かったですね。
―確かに撮影していても、BLURに乗っている人が楽そうでした(笑)
さて、サンタクルズの代名詞でもあるVPPを廃止し、最近のXCフルサスのスタンダード的なシングルピヴォットへと移行しましたが、この点についてはいかがでしょう。
三上:最初、BLURがモデルチェンジすると聞いた時から、そこは関心のあるポイントでしたね。VPPを堅持するのか、やっぱりシングルピヴォットになるんじゃないか、と色々噂もあって。発表されたバイクを見たときには、サンタクルズのいちファンとして、やっぱりオリジナリティという意味では少し残念だなという気持ちはありました(笑)
ですが、このシステムへと進化することで一気に軽くなったというのは事実ですし、実際に走ってみればその恩恵はすぐに分かります。シングルピヴォットかつフレックスステーという設計が、絶妙なタメ感を生み出しているのでしょう。
鈴木:VPP時代のBLURは、やっぱりサンタクルズは下ることを大切にしているのだな、というイメージがありましたよね。形もそうですし、重量面でも。それが、今回のモデルチェンジでは、これはワールドカップを獲りに行く気なんだな、という本気さが伝わってきました。サンタクルズ=下り系というイメージを払拭するという意味でも、VPPではなくシングルピヴォットを採用するというのは大きな意味があったと思いますね。
ただ、シンプルな機構ですし多くのライバルが採用しているシステムでもあります。現代XCレースバイクの王道だからこそ、ある程度想像がつくんですよね。もちろんサンタクルズなんだから良いバイクなんだろうけど、そこまでライバルと差があるとは思っていなかった。
それが蓋を開けてみればライバルたちと一線を画す乗り味で、本当に驚かされました。どうしたらこうなるの!?って(笑)この味付けが出来るところが、しかも得意だというイメージが無かったXCバイクでやり遂げるところが、サンタクルズの開発力なんだと思います。
三上:シングルピヴォットになって、リアの剛性が下がっているのではないかと心配していましたが、全然そんなことは無かったですね。リアバックが捻じれるとサスの動きにも影響が出ますが、登りでも下りでもそんなことは全く感じられませんでした。
ズレるような力がかかるような木の根だらけの登りで、その辺りに注意しながら走ってみたのですが、100mmトラベルとは思えないくらいのストローク感がありましたね。最近流行りのダウンカントリークラス、120mmトラベルに匹敵するキャパシティを感じました。
―近年のXCレースでは下りも厳しくなっていると聞きます。ダウンヒル性能についてはいかがでしょうか。
三上:もう少し剛性の高いフォークを入れたトレイルバイクと比べても、挙動のタイミングや操作感は遜色無いですね。XCバイクなのでワンテンポ遅れるだろうと予想していたら、トレイルバイクと同じタイミングで曲がり始めるのでどんどん遠慮が無くなって、もっと攻めてみよう、と(笑)
しっかり体の動きについてきてくれるので、もっと遊びたくなっちゃうようなワクワク感を下りでも味わえます。これが剛性が低いバイクだとスピードが上がるとヨレてしまって怖い思いをすることになるのですが、BLURはまだまだ余裕がありました。タイヤをダウンカントリーモデルに履き替えれば、フレームより先に自分の限界が来るでしょうね。
鈴木:下りの比重が高くなってきているとはいえ、XCレースでは大半の時間はペダリングしているので、そちらの性能が優先されてしまう。これまでのXCバイクって、やっぱり登り性能と天秤にかけて、下りは我慢する必要がありました。
三上さんが言及していた剛性という面が象徴的で、リアバックがねじれると不安感が出るんですよね。それを防ぐために、剛性を高めると安定するんですが、その分重くなってしまう。その相反する要素をどう両立するのかがXCバイクの難しいところであり醍醐味でもあるわけです。
それが、このBLURはどちらも非常に高いレベルで両立している。こんなに登れるバイクが、ここまで下れて良いの?と驚くぐらいです。余裕があるので、いろんなラインを選択する面白さも味わえますし、決して速く走れるだけのバイクではない、というのが特徴的です。
―いわゆるダウンカントリー的な走らせ方も可能ということでしょうか
三上:実際、パーツアセンブルの違うTRパッケージはダウンカントリー寄りの位置づけですから、もちろん可能です。ただ、ピュアなレーシングバイクパッケージであったとしても、そんな楽しみ方をカバーできるというところがこのBLURのユニークなポイントです。
鈴木:ダウンカントリーバイクを新たに設計するブランドも多い中で、フレームは共通というのはネガティブに捉えられるかもしれないですが、実際に乗ってみれば杞憂だと思いますね。このバイクに120mmストロークのフォークを入れて、もう少し硬めでグリップの高いDCタイヤを履かせても破綻することはないだろうな、という安心感があります。
―XCレーシングバイクとして高い性能を持っている一方で、キャパシティも大きなバイクだということですね。レーサー以外で、例えばロードバイクにこれまで乗っていたけれど、MTBを始めてみたいというビギナーが選択しても後悔しないバイクでしょうか?
三上:難しい質問ですねえ。もちろん値段の問題もありますが、そこは逆にある程度良いものを最初から買っておいた方が安く済むよ!ロードバイクでもそうだったでしょ?ということで許してもらうとして(笑)
MTB初心者にどのカテゴリーのバイクを勧めるべきか、どういったバイクが良いか、というのはつまるところ、その人が何をしたいのかということによって決まると思いますね。速く、遠くへ走りたい、王滝にチャレンジしたい、という人にトレイルバイクを勧めるのも違いますし、ゲレンデで下りを楽しく走りたいという人にXCバイクを勧めるのも違うじゃないですか。
なので、まず自分がどういった楽しみ方をしたいのかということをちょっとイメージしてみて、相談できる人がいれば相談してみて、決めるというのが良いと思いますよ。
鈴木:もっとストロークの長いトレイルバイクのほうが下りで安全だというのは事実ですが、やはりそこは人それぞれの目標や楽しみ方が大切だと思いますね。ビギナーが王滝を目標にしてBLURを買ったとして、下りを安全に乗れないかといえばそんなことは無いですよ。MTBに慣れるまでは、サドルを下げたりして、安全度を上げる工夫は出来ますから。
―もう一点選び方について。サンタクルズのラインアップでは120mmストロークにBLUR TRとTALLBOYが併存していますが、どういった違いになりますか?
三上:スペックだけ見るとほぼ同じで、サスペンションのリンケージが違うだけに見えますが、実際はかなり立ち位置は異なります。BLURは、クロスカントリーからダウンカントリータイヤがマッチするバイクで、TALLBOYはよりケーシングがしっかりしたトレイルタイヤがマッチするバイクです。
似たようなスペックですが、例えばBLURにトレイルタイヤを入れてしまうと、フロントフォークの剛性が不足して、せっかくのバランスが崩れてしまうでしょうし、逆も同じことが言えます。
鈴木:フレームとフォーク、タイヤのバランスは重要ですね。今回のテストでBLUR XCにダウンカントリータイヤを組み合わせてみたら、少しタイヤを持て余すような印象もありました。このタイヤを使うのであれば、もう少しストロークが欲しいなと。
なので、BLURでもXCのパッケージとTRのパッケージはそれぞれ最高のバランスで組まれていますし、TALLBOYはBLURよりも太いサスペンションとトレイルタイヤというパッケージがしっくりくるバイクなんだと思います。
サンタクルズ BLUR S
フレーム:Carbon C
フォーク:RockShox Sid SL Select+, 100mm w/ Remote
ショック:RockShox SidLuxe Select+
コンポーネント:SRAM GX Eagle, 12spd
リム:RaceFace AR Offset 27 29"
ハブ:DT Swiss 370
タイヤ:Maxxis Aspen, 29"x2.4WT, 3C, EXO, TR
価格:863,390円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI HP
鈴木祐一(RiseRide)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライドHP
text&photo:Naoki Yasuoka
MTB界のリーディングカンパニーとして、多くのライダーからの支持を集めるサンタクルズ。DH世界王者の座に幾度となく君臨したグレッグ・ミナーをはじめ、多くの強豪選手を擁するサンタクルズ・シンジケートの存在もあり、下り寄りのイメージを持っている方も多いのではないだろうか。
だが実際のところ、サンタクルズはあらゆるカテゴリーのMTBをラインアップする総合ブランドであり、なんとなればCXバイクも手掛けているほど幅広い分野のバイクを知り尽くしたブランドだ。XCレースにも力を入れており、XCチームの「サンタクルズFSA」には、マキシム・マロット(フランス)やルカ・ブライドット(イタリア)といったナショナルチャンピオン経験者が昨シーズンより加入。その存在感を強めている。
今回のインプレッションバイクであるBLURは、同社のXCフルサスモデルであり、サンタクルズFSAのメインバイクとして開発されたピュアXCレーサーだ。BLURシリーズとしては5代目にあたる新作となり、XCレースでの勝利を収めるため完全に設計を一新した。
登りも下りも過激になるXCOのコースに対応するために求められているのは、極限まで軽量でありながらコントローラブルな1台。その理想を実現するために開発されたのが新開発のSuperlightサスペンションシステムだ。前作に採用されていたリンケージシステムの"VPP"は、理想的なリアアクスルの軌道を実現するサンタクルズのコアとなるテクノロジー。だが一方で、複雑なリンクやリアトライアングル設計によって重量的なデメリットもあった。
この問題を解決するためにサンタクルズが選択したのは、シンプルなシングルピヴォット。近年、多くのレーシングXCバイクが回帰しているシステムであり、サンタクルズも同じ解を導き出したといえるだろう。
だが、サンタクルズが辿り着いたSuperlightサスペンションは、ただのシングルピヴォットではなく、極薄の扁平形状のフレックスシートステーを組み合わせることで、軽量でありながら理想的なサスペンションキネマティックスを実現しているという。このスーパーライトサスペンションを採用することで、新型BLURは289gものフレーム重量軽減に成功したという。
レバレッジカーブを最適化することで、アンチスクワットを過度に強めることのないリンク設計が可能に。サスペンションへのペダリングの影響を抑えることで、より効率的な推進力を発揮。同時に、常にスムーズなサスペンションストロークを実現することで、登りでの高いトラクションと弾かれることのない安定感のある下り性能を両立した。
また、リアトライアングルを閉じた三角形としてきたVPPから、短辺を取り払った"く"の字型とすることで、シートチューブへもボトルを取り付け可能に。ダブルボトルを運べることにより、XCマラソンのような長距離ライドにもピッタリなバイクとなっている。
新設計のスーパーライトサスペンションにより、一気に性能を底上げしてきた新型BLUR。カーボン素材の異なるCCとCという2つのフレームグレード、100mmストロークのXCパッケージと120mmストロークのTRパッケージが用意され、それぞれにパーツアセンブルが異なるキットが数種類ラインアップされる。
今回テストを行ったのは、サイクルハウスミカミの三上和志店長とRiseRideの鈴木祐一店長の2人。XCレースで活躍してきた実績を持つベテランたちが、伊豆MTBトレーニングコースで期待の新作を乗り込んだ。
―サンタクルズ BLURを一日乗り込んでいただきましたが、いかがでしたか
鈴木:いや、驚きましたよ。コースに入る前に推奨セッティングに合わせて、少し馴染みを出そうと駐車スペースで乗っただけで「これは面白いバイクだぞ」と。ペダリングに対してはもちろん、バイクを寝かした時の反応も俊敏で、はやくコースインしたくてウズウズしちゃいました。
ピュアなXCレースバイクには、軽さや瞬発力、反応性といったペダリングに関わる性能がまず第一に求められますよね。BLURはその能力も抜群に優れているのですが、そこに加えて下りでも圧倒的に安定感がある、つまり速く走れるんですよね。
その性能というのが、どこから生まれてくるのかといえば、路面をしっかりと掴み続ける力の高さなんだと思います。登りでも荒れた路面にしっかりトラクションをかけて推進力につなげていきますし、下りではグリップに直結します。
サンタクルズといえばDHやエンデューロといった下り系が得意というイメージが強かったのですが、良い意味で裏切られました。最近はXCチームのほうにも強い選手が入って、東京オリンピックでも走っていたので、こっち(XC)方面に力を入れているのは知ってはいたんですが、まさかここまでのバイクに仕上がっているとは。ただただ驚きでした。
三上:僕は普段からハードテールのXCレースバイクを愛用してるので、やっぱりフルサスだとちょっともたつく感じがあるのかな、とあえてあまり期待しないようにして乗ってみたんです。でも、乗った瞬間に明らかな加速の良さが感じられてこれは凄いバイクだぞ、と。
ハードテールは踏んだら踏んだ分だけ進むんですが、BLURはその上を行きますね。右脚が踏み終わって、左脚を踏み始めるまでの「間」を繋いでくれるタメがあって、常に推進力が存在している感覚があります。
極端に言うなら、E-BIKEに通ずるものがあります。E-BIKEは踏んだ後に少しアシストパワーの余韻があって次のペダリングに繋がっていく、あの感じです(笑)ペダリングのトルクむらをなだらかにしてくれて、トラクションが綺麗にかかり続けるようなイメージですね。
今日のコースでは、オフキャンバーかつ木の根が連続するような登りもあったんですが、そういうところで他のバイクより絶対に楽だなと確信できますね。バイクが暴れることなく路面のギャップを吸収してくれるので、みんなが嫌がるセクションで攻撃できる、そういうアドバンテージを作ってくれる1台ですね。
鈴木:今回、一本目は三上さんがBLURに乗って、自分が私物のバイクに乗って走ったんですよ。三上さんとも付き合い長いし、お互いの力量というのは知り尽くしているんですが、ついていくのが大変で。相変わらず上手いし速いな、と思っていたんです。で、バイクを乗り換えてみると、今度は三上さんがちょっと苦しそうになってて(笑)
三上:そうそう(笑)最初の一本は「ちょっと後ろ離れたな」とか思ってたんですけど、乗り換えてみたら、「速くなった!?頑張ってついていかなきゃ!」みたいな。ここまでバイクで差が出るのは面白かったですね。
―確かに撮影していても、BLURに乗っている人が楽そうでした(笑)
さて、サンタクルズの代名詞でもあるVPPを廃止し、最近のXCフルサスのスタンダード的なシングルピヴォットへと移行しましたが、この点についてはいかがでしょう。
三上:最初、BLURがモデルチェンジすると聞いた時から、そこは関心のあるポイントでしたね。VPPを堅持するのか、やっぱりシングルピヴォットになるんじゃないか、と色々噂もあって。発表されたバイクを見たときには、サンタクルズのいちファンとして、やっぱりオリジナリティという意味では少し残念だなという気持ちはありました(笑)
ですが、このシステムへと進化することで一気に軽くなったというのは事実ですし、実際に走ってみればその恩恵はすぐに分かります。シングルピヴォットかつフレックスステーという設計が、絶妙なタメ感を生み出しているのでしょう。
鈴木:VPP時代のBLURは、やっぱりサンタクルズは下ることを大切にしているのだな、というイメージがありましたよね。形もそうですし、重量面でも。それが、今回のモデルチェンジでは、これはワールドカップを獲りに行く気なんだな、という本気さが伝わってきました。サンタクルズ=下り系というイメージを払拭するという意味でも、VPPではなくシングルピヴォットを採用するというのは大きな意味があったと思いますね。
ただ、シンプルな機構ですし多くのライバルが採用しているシステムでもあります。現代XCレースバイクの王道だからこそ、ある程度想像がつくんですよね。もちろんサンタクルズなんだから良いバイクなんだろうけど、そこまでライバルと差があるとは思っていなかった。
それが蓋を開けてみればライバルたちと一線を画す乗り味で、本当に驚かされました。どうしたらこうなるの!?って(笑)この味付けが出来るところが、しかも得意だというイメージが無かったXCバイクでやり遂げるところが、サンタクルズの開発力なんだと思います。
三上:シングルピヴォットになって、リアの剛性が下がっているのではないかと心配していましたが、全然そんなことは無かったですね。リアバックが捻じれるとサスの動きにも影響が出ますが、登りでも下りでもそんなことは全く感じられませんでした。
ズレるような力がかかるような木の根だらけの登りで、その辺りに注意しながら走ってみたのですが、100mmトラベルとは思えないくらいのストローク感がありましたね。最近流行りのダウンカントリークラス、120mmトラベルに匹敵するキャパシティを感じました。
―近年のXCレースでは下りも厳しくなっていると聞きます。ダウンヒル性能についてはいかがでしょうか。
三上:もう少し剛性の高いフォークを入れたトレイルバイクと比べても、挙動のタイミングや操作感は遜色無いですね。XCバイクなのでワンテンポ遅れるだろうと予想していたら、トレイルバイクと同じタイミングで曲がり始めるのでどんどん遠慮が無くなって、もっと攻めてみよう、と(笑)
しっかり体の動きについてきてくれるので、もっと遊びたくなっちゃうようなワクワク感を下りでも味わえます。これが剛性が低いバイクだとスピードが上がるとヨレてしまって怖い思いをすることになるのですが、BLURはまだまだ余裕がありました。タイヤをダウンカントリーモデルに履き替えれば、フレームより先に自分の限界が来るでしょうね。
鈴木:下りの比重が高くなってきているとはいえ、XCレースでは大半の時間はペダリングしているので、そちらの性能が優先されてしまう。これまでのXCバイクって、やっぱり登り性能と天秤にかけて、下りは我慢する必要がありました。
三上さんが言及していた剛性という面が象徴的で、リアバックがねじれると不安感が出るんですよね。それを防ぐために、剛性を高めると安定するんですが、その分重くなってしまう。その相反する要素をどう両立するのかがXCバイクの難しいところであり醍醐味でもあるわけです。
それが、このBLURはどちらも非常に高いレベルで両立している。こんなに登れるバイクが、ここまで下れて良いの?と驚くぐらいです。余裕があるので、いろんなラインを選択する面白さも味わえますし、決して速く走れるだけのバイクではない、というのが特徴的です。
―いわゆるダウンカントリー的な走らせ方も可能ということでしょうか
三上:実際、パーツアセンブルの違うTRパッケージはダウンカントリー寄りの位置づけですから、もちろん可能です。ただ、ピュアなレーシングバイクパッケージであったとしても、そんな楽しみ方をカバーできるというところがこのBLURのユニークなポイントです。
鈴木:ダウンカントリーバイクを新たに設計するブランドも多い中で、フレームは共通というのはネガティブに捉えられるかもしれないですが、実際に乗ってみれば杞憂だと思いますね。このバイクに120mmストロークのフォークを入れて、もう少し硬めでグリップの高いDCタイヤを履かせても破綻することはないだろうな、という安心感があります。
―XCレーシングバイクとして高い性能を持っている一方で、キャパシティも大きなバイクだということですね。レーサー以外で、例えばロードバイクにこれまで乗っていたけれど、MTBを始めてみたいというビギナーが選択しても後悔しないバイクでしょうか?
三上:難しい質問ですねえ。もちろん値段の問題もありますが、そこは逆にある程度良いものを最初から買っておいた方が安く済むよ!ロードバイクでもそうだったでしょ?ということで許してもらうとして(笑)
MTB初心者にどのカテゴリーのバイクを勧めるべきか、どういったバイクが良いか、というのはつまるところ、その人が何をしたいのかということによって決まると思いますね。速く、遠くへ走りたい、王滝にチャレンジしたい、という人にトレイルバイクを勧めるのも違いますし、ゲレンデで下りを楽しく走りたいという人にXCバイクを勧めるのも違うじゃないですか。
なので、まず自分がどういった楽しみ方をしたいのかということをちょっとイメージしてみて、相談できる人がいれば相談してみて、決めるというのが良いと思いますよ。
鈴木:もっとストロークの長いトレイルバイクのほうが下りで安全だというのは事実ですが、やはりそこは人それぞれの目標や楽しみ方が大切だと思いますね。ビギナーが王滝を目標にしてBLURを買ったとして、下りを安全に乗れないかといえばそんなことは無いですよ。MTBに慣れるまでは、サドルを下げたりして、安全度を上げる工夫は出来ますから。
―もう一点選び方について。サンタクルズのラインアップでは120mmストロークにBLUR TRとTALLBOYが併存していますが、どういった違いになりますか?
三上:スペックだけ見るとほぼ同じで、サスペンションのリンケージが違うだけに見えますが、実際はかなり立ち位置は異なります。BLURは、クロスカントリーからダウンカントリータイヤがマッチするバイクで、TALLBOYはよりケーシングがしっかりしたトレイルタイヤがマッチするバイクです。
似たようなスペックですが、例えばBLURにトレイルタイヤを入れてしまうと、フロントフォークの剛性が不足して、せっかくのバランスが崩れてしまうでしょうし、逆も同じことが言えます。
鈴木:フレームとフォーク、タイヤのバランスは重要ですね。今回のテストでBLUR XCにダウンカントリータイヤを組み合わせてみたら、少しタイヤを持て余すような印象もありました。このタイヤを使うのであれば、もう少しストロークが欲しいなと。
なので、BLURでもXCのパッケージとTRのパッケージはそれぞれ最高のバランスで組まれていますし、TALLBOYはBLURよりも太いサスペンションとトレイルタイヤというパッケージがしっくりくるバイクなんだと思います。
サンタクルズ BLUR S
フレーム:Carbon C
フォーク:RockShox Sid SL Select+, 100mm w/ Remote
ショック:RockShox SidLuxe Select+
コンポーネント:SRAM GX Eagle, 12spd
リム:RaceFace AR Offset 27 29"
ハブ:DT Swiss 370
タイヤ:Maxxis Aspen, 29"x2.4WT, 3C, EXO, TR
価格:863,390円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI HP
鈴木祐一(RiseRide)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライドHP
text&photo:Naoki Yasuoka
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