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軽さ、剛性、空力。すべてを引き上げながらもなお、BMCらしさを失わない。それがBMCの新型Teammachine SLR01の乗り味だ。ツールで戦えるスペックを持ちながら、ホビーライダーにこそ「もっと走りたくなる」と思わせる新モデルの乗り味と、開発陣の哲学に迫った。

フランクフルトの丘陵地帯でTeammachine SLR01を試乗

Teammachine SLR01のテストライドの舞台となったのは、フランクフルト中心街にある発表会場を起点にした全長65km/獲得標高1000mのループコース。まだ発表されていないまっさらなバイクにテンションを上げたプロトンがマイン川沿いの美しいサイクリングロードを抜け、郊外の丘陵地帯へと向かう。

少数メディアを招いた発表会。プレゼンの前にテストライドに出かけた photo:So Isobe
参加者に用意されたワフーをセット。約65km/1000mアップのループに出掛けた photo:So Isobe


筆者に用意されたTeammachine SLRは54サイズ。国内ではフレームセット展開される「アンスラサイト/カーボン」カラーで、実物は黒ではなく紺色に近い色合いだ photo:So Isobe

ルートの後半は、ドイツで唯一のUCIワールドツアーレース「エシュボルン~フランクフルト」でも使用される区間が用意されていた。山岳といえるほどの難所こそないものの、脚にくる登りが3箇所ほど。スピードに乗せたまま駆け上がる登りから最大勾配20%近い急勾配まで、バリエーション豊かな登坂とダウンヒルが待ち受ける。まさに走りを試すにはうってつけの条件だった。

「ここは本来エシュボルンでは下る区間なんだけど、登ると意外にキツいんだ」と教えてくれたのは、この丘を普段から走り回っている地元フランクフルト在住のジャーナリスト。彼とBMCスタッフが引っ張るトレインに乗って走り出すや否や、Teammachine SLR01の走りに感服させられることとなった。

軽いのに優しい、速いのに疲れない

軽い。走りがとにかく軽くて小気味良い。ディスクブレーキ化に伴って高剛性化が進む現代において、いつもメディア発表会ではニューモデルの「硬さ」に身構えてしまうのが常。しかし、新型Teammachine SLR01にはその懸念がまったく当てはまらなかった。走りは想像以上に伸びやかだ。

予想を裏切る乗りやすさにご満悦のわたくし photo:YI Shan Huang
ここフランクフルト在住で、Roadbike Magazineに務めるエリック。ローカルルートを案内してくれた photo:YI Shan Huang


もちろんトッププロ選手がツール・ド・フランスで走らせた現代レーサーだから、特にヘッドチューブまわりには十分な剛性が与えられている。でも、パリパリに薄く、ひたすら硬い軽量バイクや、一定以上の負荷で踏まないと気持ちよく進まないエアロバイクとは違い、SLR01はペダリングに対してボトムブラケット周辺からリアバックまでが硬質な弾性を持っていて、バイクに併せて速いテンポでリズミカルに踏むことができる。パワーを掛けて踏み込んだ時の、一歩どころか二歩も背中を押してくれるようなフィーリングがとにかく素晴らしい。

我々メディアは「塊感」という言葉をもって剛性が前面に出た乗り味を表現するが、SLRの走りがそれらと一線を画するのは、おそらくハンドルやヘッドチューブ、フロントフォーク周りに過剰な剛性を感じないからだ。54サイズの完成車で7kg弱と物理的にも軽い(特に上周りが軽く、バイクを振った時の挙動がいい)ことも要因だと感じるし、おそらく組まれていたDTスイスのARC1100ホイールとのコンビネーションも素晴らしいのだろう。あまりにもフィーリングが良かったので帰国後にオリジナルカーボンホイールを装着した「Four完成車」を借り受けてテストしたのだが、ライドフィールの落ち幅は少なかった。つまりはフレームそのものの完成度が優れているのだろう。

帰国後にも日本代理店のフタバから試乗車(SLR 01 FOUR完成車)を借り受けてテスト。ホイールが違っても走りの性格は変わらなかった photo:Naoki Yasuoka

このテンポの良さは、立ち漕ぎで軽やかに峠を駆け上がるクライマーにもフィットする一方で、グーッと重いギアで路面の凹凸を踏みしめるような走りにもきちんと応えてくれる。逆に低出力で流して走った時も実に伸びやかで気持ちが良いし、各メーカーのハイエンドモデルと横並びで比べた時、脚の削られにくさ(=ライド後半での脚残りの良さ)はトップクラス。1500ワットをコンスタントに出して勝負するパワーライダーなら話が違うかもしれないが、大方のホビーレーサーの適正はきっとこういう乗り味だ。

セットされたタイヤは、開発スタンダードの26mmではなく28mm(ピレリ P-ZERO RACE)だった。ハンドリングはどちらかというと安定性に振った味付けで、たとえ気を抜いて走っている時、現地でのライド中で例を出すと、2列でしゃべりながら走っているような時でも(日本の公道だとアウトだが...)、ハンドルはいつだって穏やかに前を向いている。

ロントタイヤが路面を掴んでいる感覚が強く、コーナリング中の安心感が高い photo:Naoki Yasuoka

「下るために登る」が性分の筆者にとっては、最初こそちょっとタルいのかな、と思っていたけれど、攻めの意識で切り込んでみればしっかりと応えてくれるし、さらに倒してもまだその先がある。具体的に言えばフロントタイヤが路面を掴んでいる感覚が強く、安心感がずっと残る。

これは先に述べた「過剛性を感じない」性格が良い影響をもたらしているのだと思う。スーッと定常円を維持するのが楽だし、心理的にナーバスになる見通しの悪いダウンヒルでも余裕を持つことができる。ただし帰国後に乗ったFour完成車には26mmタイヤが取り付けられていたが、思ったよりも路面の凹凸を拾うことに気づいた。28mmタイヤへのアップデートは必要項目であり、30mm以上のタイヤで伸びやかなフィーリングを引き上げるのも悪くない。

強いて欠点を挙げるなら、ハンドルまわりの自由度だ。完成車にコックピットは付属せず、選べる一体型ハンドルは軽量な「ICS Carbon Evo(幅は400mmのみ)」か、エアロ重視の「ICS Carbon Aero(幅は360mmのみ)」の2種類で、ケーブルやブレーキホースの内装設計ゆえに、社外製の一体型ハンドルは基本的に使用できないという制限がある。ただし、ICS 2ステムとノーマルハンドルを組み合わせればバリエーションは広がるため、フィット面での調整余地はゼロではない。ちなみにBMCスタッフによれば、ICS Carbon EvoとICS Carbon Aeroは形状だけでなく剛性特性にも違いがあり、「Evoはより硬め」「Aeroはやや柔軟性がある」とのこと。フィット感やライドフィールの好みによって使い分けることもできる。

国内でテストしたSLR 01 FOUR完成車。アルテグラ装備で1,446,500円(税込)のプライスタグをつける photo:Naoki Yasuoka

先述したようにプロレースでのメジャーはエアロ重視のTeammachine Rだが、それでも今年のツール・ド・フランスでは過酷極まる山岳ステージでTeammachine SLR01が使われている場面も確認されていた。チューダープロサイクリングが先代SLR01を使うことはほぼ無かったし、プレゼンで「プロモーションのためにTeammachine SLR01に乗せることはしない」と明言されたことはつまり、新型Teammachine SLR01の総合能力向上が認められたことに他ならない。

「Teammachine SLR01は、BMCが大切に育て上げてきたバイク」

プレゼンターを務めたBMCのピエールアンリ・ムダ氏。Teammachine SLR01に込められた想いを聞いた photo:So Isobe

さて、BMCの開発陣は、どんな想いでTeammachine SLR01を作り上げたのか。筆者は発表会でプレゼンターを務めたBMCのピエールアンリ・ムダ氏にインタビューする機会に恵まれた。本特集記事の締めくくりとして、Teammachine SLR01に対するBMCの思い、そして、チューダープロサイクリングの選手がどう感じたのかを紹介したいと思う。

「もしBMCの中で1台だけ残せと言われたら、間違いなくTeammachine SLR01。それくらい、このバイクは私たちのコア(核)なんです」とムダ氏は言う。「多くのライダーに笑顔を与えてくれる、そんなバイクになったと感じています」と、自信あふれる言葉を続ける。

「Teammachine SLR01は、山岳チャレンジのために作られたバイクです。登って、下って、登って下って...を繰り返す、タフライドに挑むためのバイク。もっと楽しく乗れる、楽しく登って下れる。そんな自信作に仕上がりました」。

ツール・ド・フランスの山岳ステージで使用された新型Teammachine SLR01 (c)BMC

ジュリアン・アラフィリップ(フランス)を擁するチューダープロサイクリングとの協業は、開発体制にも確実な変化をもたらした。特に空力分野での進化は著しいと彼は言う。チームには専属のエアロスペシャリストが在籍し、他チームの上を行く最新の研究をもとにポジション改善を行っているという。このノウハウが、BMCの開発陣にも還元され、Teammachine RだけでなくSLR01の空力設計にも反映された。

意外なことに、先代モデルに対してのプロ選手からの改善要求はなかったと彼は続ける。エアロ性能を特に重視するチューダー・プロサイクリングの選手たちは主にTeammachine Rを使用しているためだと言うが、先のツール・ド・フランスやその前哨戦クリテリウム・デュ・ドーフィネでは発表前のTeammachine SLR01が登場するシーンも。これは、軽量化はもちろん空力性能が大幅に向上したことの証と言えるだろう。

「Teammachine SLR01はプロよりもホビーレーサーや熱心なライダー層に向けたバイク」 photo:Naoki Yasuoka

「それでも、Teammachine SLR01はプロよりもホビーレーサーや熱心なライダー層こそ、ピッタリとフィットするバイクです」と彼は続ける。軽量でオールマイティにこなせるSLR01は、エアロよりも総合性能を求める一般ライダーにとって強い味方となるものだ。

彼が強調するのは、単純な重量差では測れない「走りの軽さ」だ。先述した通り、筆者はあらゆる場面で新型Teammachine SLR01の走りの軽さを感じたが、チューダーのプロ選手であるマッテオ・トレンティンも同じように語っていたという。彼が初めて新型に乗ったとき、「流しているときの動きすら違う。先代よりも高出力を維持しやすい」と驚いたそうだ。

「あらゆるライドで、乗り手の味方になってくれるバイク」 photo:So Isobe

ムダ氏自身も「自分は彼のようには走れませんが、それでもスムーズなフィーリングははっきり体感できます」と笑う。クルージングでも仲間とのソーシャルライドでも、新しいSLR01は信頼できる相棒になると断言する。

それはつまり、このバイクが「速く走れる人」のためだけのものではない、ということだ。

軽いのに優しく、速いのに疲れないTeammachine SLR01の走りは、レーサーはもちろんのこと、僕たちホビーユーザーにとってこそうってつけ。ドイツと日本国内の試乗はそれぞれ3、4時間に留まったが、その程度では全然物足りなかった。また乗りたい。大きな峠を含めて1日ずっと乗ってみたい。バイクを返却したあと、自然とそんな気持ちが湧き上がるほど気持ちの良いバイクだった。
提供:フタバ | text:So Isobe