2017/11/02(木) - 12:11
「良い道はローカルに聞け」とよく言うけれど、今回ほどその言葉を意識したことはないかもしれない。旅の地は、高知県は宿毛市。土地の人が”地の果て”と言うこの場所は、僕らSLATE乗りにとっての中心地なのではなかろうか。山光水色まばゆい自然に充ち満ちた、四国南西部を訪ねた。
宿毛市に向けて国道56号をひたすら南下する。幾つもの入り江を横目に見ながら
旅の始まりにポンジュースを添えて。気分から四国を堪能
羽田空港から1時間も飛べば、エメラルドグリーンの海と、白い砂浜に縁取りされた大小たくさんの島々が目に飛び込んでくる。瀬戸内海らしい光景を楽しんでいるうちに、雲の合間を縫って松山空港へと機体はランディング。このSLATE連載企画には欠かせないキャノンデール・ジャパンのカズこと山本和弘さんたちと合流し、クルマは一路四国の一番左下、宿毛(すくも)を目指した。
「宿毛ってね、実は東京から一番遠い場所なんです」。およそ3時間のドライブを経た我々を迎えてくれた今回の案内役、高倉剛さんが教えてくれた。確かに、険しい四国の山々に阻まれてか未だ高速道路は届いておらず、高知空港からも松山空港からも所要時間はおよそ3時間。グーグル先生に聞いてみても、離島を除くと宿毛は日本列島の中でも屈指の遠国だという。
朝日に煙る宿毛湾。背後の山々が豊かな漁場を育む
通りかかった小さな漁港。海の男達はもう一仕事終えた時間だ
養殖鯛の出荷現場に立ち会う
けれど、そういう土地こそ旅好きにとって魅力的。豊かな海産物に恵まれた湾と、お遍路さん所縁の歴史深い山々、そして無数の古道があるとくれば、もはやこの地を訪れることは本連載の使命。急いで旅の予定を立てたのだった。
案内役を買って出てくれた高倉さんは、生まれも育ちもこの宿毛。キャノンデールを愛し、鋸を片手に愛車SLATEで古の道を開拓し続けるという、名に違わない剛の者である。「ティム・ジョンソンが登場したSLATEのプロモーションムービーを見てすぐビビビッときました。”これは買わなきゃ”って思ったんですよね」と笑う彼を先頭に、海にきらめく朝日に目を細めながらスタートを切った。
高知県で育まれてきたモーニング文化。味噌汁付きがスタンダードだ
案内役の高倉剛さんと、愛車のSLATE
朝日に照らされて走り出す。日差しと緑の濃さは南国のそれ
宿毛は、すごく面白い土地だ。スタートするまでの僅か半日のうちに、既にそう思っていた。前日夜には名物の皿鉢料理を堪能し、早朝、水面の朝日を撮るべく向かった漁港では、思いがけず宿毛湾の特産である養殖鯛の水揚げを見学。そして朝食に選んだのは高倉さんから教えられた"すくモーニング"。いきなり食べ物の話ばかりで恐縮だが、宿毛をはじめ高知県は独自のモーニング文化が根付いていて、人口当たりの喫茶店数は愛知県を凌いで日本一なのだとか。それに、豊かな漁場があるということは、その後ろには豊かな山々が控えていることを意味している。
第三十九番札所、延光寺を訪ねる
境内は静謐な雰囲気を漂わせていた
細く、けれど確かに踏みしめられた筋を辿る
まず訪れたのは、四国八十八箇所の第三十九番札所、延光寺。聖武天皇の勅命によって建立されたというその境内は静謐で、一方でひっきりなしにお遍路さんが訪ねてくる賑わいも感じさせられる。旅の安全祈願のお参りをした後に、僕らはお寺のすぐ脇から伸びるトレイルに分け入った。
延光寺の建立は724年と、今から約1300年も前という。この踏み跡もその時から、もしくはそれ以前から、お遍路さんの歩みを見守ってきたのだろうか。竹林の中を縫うように据え付けられた道は、山肌の険しさからは拍子抜けするほどに勾配が緩く、極上のライドを楽しめた。これは、明らかに歩きやすさを考えた「優しい道」。1400kmを歩くお遍路さんのためを思った造り、とは、あながち考えすぎでも無いだろう。
ここ宿毛は全国有数の林業の地。旧い作業車がその身を休めていた
「この先ずっと、下りです」という案内に胸が躍る
見通しの良いフラットダートを飛ばしていく
ダート林道で標高を上げる。木漏れ日が眩しい
舗装林道で手早く標高を上げ、緩く長いグラベルダートで山を駆け下りる、最高のルーティーン。山の奥深くまで林道が入り込み、大型トラックが走れるように道幅も広く取られているのは林業が盛んなこの地ならではだ。路面がSLATEにうってつけな細かい砂利敷きであるのも珍しく、カズさんに「いやぁ、さすが分かってますよね!」と言わしめる、SLATE乗りがSLATEライドのために描いたルートに、最後まで僕らのテンションは上がりっぱなしだった。
熱心なサイクリストである中平市長。ヘルメットの「SUKUMO」にご注目
ツアーやイベントでも積極的に林道を活用してほしいと言う
ところで、こうしたグラベルライドにはいつも、林道やトレイルの「グレーゾーン問題」が付きまとう。私有地だったり、自転車通行禁止だったり、そもそも通行止めだったりを踏まえてコースを設定しなければならない。しかしこの日、僕らには協力な助っ人が付いていてくれた。
サイクルジャージが似合う、スラッとした体格の持ち主は、中平富宏さん。なんとこの方、現職の宿毛市市長である。普段から高倉さんと共にライドを楽しみ、若い頃はオフロードバイクで道なき道を踏破していたと笑う、氏に感じるバイタリティは無尽蔵。「僕がルールなんで」と冗談を飛ばしながら、通行止めゲートの鍵をポケットから出して開けてくれる。
市長のお墨付きというこれ以上ないバックアップが心強いが、何も取材だからというわけじゃない。よほど無理な行程でない限り、申請さえ出せばツアーやイベント開催用に林道を解放してくれるという。「美しい宿毛の自然を自転車で楽しんで欲しいですからね」という中平市長の熱い思いは全国随一。四国で自転車フレンドリーなのは愛媛だけではない。
水は以外にも冷たくなかった。土佐は南国なんだと思い知らされる
苔むした切り通しの壁
苔と滲みでエイジングされたコンクリート橋
本当に、水が綺麗だなと感じる。高知といえば四万十川が代名詞だが、今回の旅でたくさん目にし、渡り、火照った脚を冷やした名もなき渓流は、その全てが凛と澄んでいた。小さな川魚の影が無数に見え、昨晩の皿鉢料理でも堪能した、手長海老や地元でちゃんばら貝と呼ばれる巻貝などは、子供の水遊びでも獲れる川や海の恵みだという。美しい山々がこの川を、海を、そして地域を育んでいるのだ。
舗装路と未舗装路をミックスしながら峠を越えていく、SLATEでしか味わえない究極の醍醐味。25cだったらもっとヒルクライムが速く、MTBだったらもっとシングルトラックで安定しているだろう。けれど、山と人の生活圏が近いこの地をめいっぱい遊ぶには、守備範囲が広いこのバイクこそ最適だと確信した。
湯気を立てて運ばれてきた天下茶屋の焼肉
特性の甘辛タレをつけて、白飯と共に豪快に頂く
「これは食わなきゃダメです」
朝からほぼ走り通しだった僕たちは、ハンガーノック寸前で最後の目的地である「天下茶屋」を目指す。名前からしてまんじゅう屋か団子屋かと思っていたそれはしかし、宿毛で知らぬ者はいない焼肉屋だった。鉄板で豪快に焼かれた究極のソウルフード(写真を見て野菜炒めでは?などと野暮を言ってはならない。これが宿毛の焼肉なのだ)を、ニンニクを加えた名物の甘辛タレに絡めて、山盛りのご飯と共にかきこむ幸せ。このために走ってきた、というつぶやきが、満腹のため息と一緒にこぼれた。
茶屋を出て、若干傾きかけた太陽に照らされながら、ゴール地点に向けて進路を取る。どんどん新しい発見に上塗りされていった今回の旅は、本当に色濃いものだった。みずみずしさに満ち溢れた自然を持つこの地だが、そこに人の暮らしと歴史、そして特色ある文化が深く根付いていることにこそ、大きな魅力を感じる。
この場所にまた来たい、もっと知りたい。旅の終わりが近づく毎にその思いが強くなっていった。
舗装路でアタックするカズさん。身体のキレは現役さながら
今なお林業が盛んな宿毛市。今回の旅でもあちこちで人の営みを支える、木材の生産現場を目にすることができた。宿毛市はまだ知名度の低い木質バイオマス発電所を2年前に稼働させ、今まで用途の無かった間伐材を燃料に変える取り組みを軌道に乗せたばかりという林業先進自治体だ。
大規模林業の動脈たる林道は、大型車の通行を考慮してとても道幅が広く、かつ泥濘まないよう細かな砂利敷きで、スリックや低ノブタイヤを装備するSLATEにもうってつけ。首都圏ではお目にかかることができなくなった、旧式トラックが未だ現役で活躍しているのも味わい深い光景だった。
なお、宿毛市の観光ガイドでは、サイクリング関連のページを掲載中。林道を使ったツアー・イベント開催に興味のある方は上記ページ下部の観光協会まで。
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「宿毛ってね、実は東京から一番遠い場所なんです」。およそ3時間のドライブを経た我々を迎えてくれた今回の案内役、高倉剛さんが教えてくれた。確かに、険しい四国の山々に阻まれてか未だ高速道路は届いておらず、高知空港からも松山空港からも所要時間はおよそ3時間。グーグル先生に聞いてみても、離島を除くと宿毛は日本列島の中でも屈指の遠国だという。
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けれど、そういう土地こそ旅好きにとって魅力的。豊かな海産物に恵まれた湾と、お遍路さん所縁の歴史深い山々、そして無数の古道があるとくれば、もはやこの地を訪れることは本連載の使命。急いで旅の予定を立てたのだった。
案内役を買って出てくれた高倉さんは、生まれも育ちもこの宿毛。キャノンデールを愛し、鋸を片手に愛車SLATEで古の道を開拓し続けるという、名に違わない剛の者である。「ティム・ジョンソンが登場したSLATEのプロモーションムービーを見てすぐビビビッときました。”これは買わなきゃ”って思ったんですよね」と笑う彼を先頭に、海にきらめく朝日に目を細めながらスタートを切った。
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宿毛は、すごく面白い土地だ。スタートするまでの僅か半日のうちに、既にそう思っていた。前日夜には名物の皿鉢料理を堪能し、早朝、水面の朝日を撮るべく向かった漁港では、思いがけず宿毛湾の特産である養殖鯛の水揚げを見学。そして朝食に選んだのは高倉さんから教えられた"すくモーニング"。いきなり食べ物の話ばかりで恐縮だが、宿毛をはじめ高知県は独自のモーニング文化が根付いていて、人口当たりの喫茶店数は愛知県を凌いで日本一なのだとか。それに、豊かな漁場があるということは、その後ろには豊かな山々が控えていることを意味している。
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延光寺の建立は724年と、今から約1300年も前という。この踏み跡もその時から、もしくはそれ以前から、お遍路さんの歩みを見守ってきたのだろうか。竹林の中を縫うように据え付けられた道は、山肌の険しさからは拍子抜けするほどに勾配が緩く、極上のライドを楽しめた。これは、明らかに歩きやすさを考えた「優しい道」。1400kmを歩くお遍路さんのためを思った造り、とは、あながち考えすぎでも無いだろう。
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サイクルジャージが似合う、スラッとした体格の持ち主は、中平富宏さん。なんとこの方、現職の宿毛市市長である。普段から高倉さんと共にライドを楽しみ、若い頃はオフロードバイクで道なき道を踏破していたと笑う、氏に感じるバイタリティは無尽蔵。「僕がルールなんで」と冗談を飛ばしながら、通行止めゲートの鍵をポケットから出して開けてくれる。
市長のお墨付きというこれ以上ないバックアップが心強いが、何も取材だからというわけじゃない。よほど無理な行程でない限り、申請さえ出せばツアーやイベント開催用に林道を解放してくれるという。「美しい宿毛の自然を自転車で楽しんで欲しいですからね」という中平市長の熱い思いは全国随一。四国で自転車フレンドリーなのは愛媛だけではない。
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本当に、水が綺麗だなと感じる。高知といえば四万十川が代名詞だが、今回の旅でたくさん目にし、渡り、火照った脚を冷やした名もなき渓流は、その全てが凛と澄んでいた。小さな川魚の影が無数に見え、昨晩の皿鉢料理でも堪能した、手長海老や地元でちゃんばら貝と呼ばれる巻貝などは、子供の水遊びでも獲れる川や海の恵みだという。美しい山々がこの川を、海を、そして地域を育んでいるのだ。
舗装路と未舗装路をミックスしながら峠を越えていく、SLATEでしか味わえない究極の醍醐味。25cだったらもっとヒルクライムが速く、MTBだったらもっとシングルトラックで安定しているだろう。けれど、山と人の生活圏が近いこの地をめいっぱい遊ぶには、守備範囲が広いこのバイクこそ最適だと確信した。
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朝からほぼ走り通しだった僕たちは、ハンガーノック寸前で最後の目的地である「天下茶屋」を目指す。名前からしてまんじゅう屋か団子屋かと思っていたそれはしかし、宿毛で知らぬ者はいない焼肉屋だった。鉄板で豪快に焼かれた究極のソウルフード(写真を見て野菜炒めでは?などと野暮を言ってはならない。これが宿毛の焼肉なのだ)を、ニンニクを加えた名物の甘辛タレに絡めて、山盛りのご飯と共にかきこむ幸せ。このために走ってきた、というつぶやきが、満腹のため息と一緒にこぼれた。
茶屋を出て、若干傾きかけた太陽に照らされながら、ゴール地点に向けて進路を取る。どんどん新しい発見に上塗りされていった今回の旅は、本当に色濃いものだった。みずみずしさに満ち溢れた自然を持つこの地だが、そこに人の暮らしと歴史、そして特色ある文化が深く根付いていることにこそ、大きな魅力を感じる。
この場所にまた来たい、もっと知りたい。旅の終わりが近づく毎にその思いが強くなっていった。
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今回の「路面」:大規模林業を支える、フラットダートの未舗装林道
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大規模林業の動脈たる林道は、大型車の通行を考慮してとても道幅が広く、かつ泥濘まないよう細かな砂利敷きで、スリックや低ノブタイヤを装備するSLATEにもうってつけ。首都圏ではお目にかかることができなくなった、旧式トラックが未だ現役で活躍しているのも味わい深い光景だった。
なお、宿毛市の観光ガイドでは、サイクリング関連のページを掲載中。林道を使ったツアー・イベント開催に興味のある方は上記ページ下部の観光協会まで。
提供:キャノンデール・ジャパン 協力:宿毛市 text&photo:So.Isobe