2016/12/08(木) - 18:40
「僕、全然キャンプバイブス高くないんですよ。だからこんな偉そうに言うの、恥ずかしいんだけどなぁ(笑)」
とは言いつつも、須崎さん。韓国で買ってきたというハンディミルを回す手つきはとても軽やかで、とてもそんな風には見えません。お気に入りのロースター、GOOD PEOPLE & GOOD COFFEEで手に入れてきたという豆を粗挽きにして、バーナーで沸かしたお湯を注ぐと、グラインドしたコーヒー豆がふわっと軽やかに立ち上がって。須崎さん曰く、これは豆が新鮮な証拠なんだとか。ささ、アツアツのうちに、フーッ、ズッ。ゴクリ。
気温はマイナス2℃くらいだろうか?湧き上がる蒸気で暖をとる
お湯を注ぐと、香りと共に粗挽きの豆がふわっと立ち上がる
山の中で飲む一番ドリップの美味さったらないし、しかもそれが雪の中というのだから、ここに最高極まれり、ってもんでしょう。カズさんも、須崎さんも、三上さんも、岡村さんも。みんなの笑顔を見ていれば他に言葉なんて要りません。ゆっくり飲んでいるとすぐアイスコーヒー(しかもキンキン)になってしまうので、どうしても急ぎ足になるのが残念なのですが…。
11月後半のとある日、名栗の山中は、「東京の大騒ぎがどんなもんじゃい!」と言いたくなるほどの豪雪だった。ニュースによれば、関東平野部の11月の降雪は54年ぶり。ライドに雪を重ねようとしたわけではないけれど、雪が降ったら何はともあれ走るでしょ!というメンタルの持ち主だらけだった今回のライドは、大方の予想通り、中止には持ち込まれなかったわけである。
今回のSLATEライドの場所に選んだのは、埼玉県は飯能市、名栗。東京からもほど近く、都内在住のサイクリストにとっても日帰りで訪れることのできる人気の場所だ。かつては「西川材」の産地として一時代を築いたこの山々を舞台に、今流行りの「バイクパッキング」ならではの遊びを楽しんでみようぜ、ということになった。
今回の案内役を務めてくれた、Above Bike Storeのオーナーである須崎真也さん(右)と、サイクルハウスミカミの三上和志さん(左)
三上さんらが中心となって立ち上げた、奥武蔵MTB友の会。地域と連携しながら道を守る活動を行っている
名もなき小さなコンクリート橋を渡る
案内役を引き受けてくれたのは、Above Bike Storeのオーナーである須崎真也さんと、ここ飯能に拠点を置くサイクルハウスミカミの三上和志さんの二人。今年GIROがカリフォルニアで開催したGRINDUROへと参加するなど、積極的にアメリカのカルチャーを取り込む須崎さんには「スタイル」を、飯能の全ての枝道まで知り尽くした三上さんには「土地」を紹介してもらおうという贅沢な算段である。そしてSLATEと言えばのキャノンデール・ジャパンの”カズ”こと山本和弘さんと、アウトドアグッズをたくさん持ち込んで、目を一番輝かせていた同営業の岡村成明さんがジョインすることに。
「ワンデーのバイクパックなら、コーヒーセット持って行こうよ。途中で湧き水汲んで、景色の良いところでお湯沸かしてさ。最高だよ」事前にそう須崎さんにそそのかされ、この日のテーマが即決定。かくして「最高の一杯」を求め、僕らは雪に覆われた道を走りだした。
雪で倒れた木を避けながらダブルトラックを走る
鹿の角を見つけたカズさん。フロントバッグにくくりつけて、最終的にライドのお土産になった
バイクバッグを装備したSLATEたち。マグカップを括り付けると一気に本物感が増すのはなぜだろう?
自然と上手く付き合うために、自転車乗りが守ること。それを三上さんに教えてもらう
この辺りの事情を知り尽くしている三上さんに連れられると、すぐにトレイルの入り口へと到着だ。飯能の良いところの一つは自然と街がとても近く、さらにどこもかしこにも活気があることだろう。ただし、雪や雨などで地面が緩んだ時にトレイルに踏み込むのがご法度なのは、MTB乗りであれば周知のマナー。特に斜面であれば、たとえ一つの轍であってもそこに水が流れ、その流れが土を削り取って最終的に山を崩すことにも繋がってしまう。そんな自然と上手く付き合うために自転車乗りが守ることを三上さんに教えてもらいつつ、その手前まで続くダブルトラック(轍が2本、つまりクルマが走る未舗装路だ)でゆっくりと標高を上げていく。「←旧上州街道近道」と書かれたサインに歴史を感じながら。
森を抜けた我々は、うっすらと雪化粧した街道をスピーディーに駆け抜けて、一気に西進、名栗方面へと分け入っていく。途中では旧道沿いに湧き出る名水「庚申の水」を、観音様への感謝の気持ちと共に拝借。途中のコンビニでミネラルウォーターを買っても良いけれど、せっかくだからこういうプロセスを楽しみたい。こういう土地の、こういう場所に辿り着くのは、ローカルライダーの案内あってこそだ。
少しの雪や砂利道、舗装路が混ざるコンディションこそ650×42cタイヤが活きる場面だ
旧道沿いにある名水「庚申の水」を汲む。ローカルライダーの案内あってこそ辿り着ける場所
広河原逆川林道は乗車を阻む深い雪。ランニングを強いられつつも笑いが止まらない
浦山ダムから有馬峠へと続く広河原逆川林道に入ると、いよいよ雪は本格的になってくる。積雪15cmはあるだろうか?もうこうなってくるとSLATEオリジナルのスリックタイヤはとんでもなくスリッピーで、ただ一回でも雑にペダリングするとタイヤは空転を始め、力を抜いてあげない限りグリップは戻ってこない。そうっと、丁寧に。接地面と自転車の中心を身体の芯で感じながら。止まってしまったらシクロクロスよろしく、ダッシュで助走をつけてから乗り込まないと、永遠に再スタートは不可能だ。たまらなく難しいが、たまらなく楽しい。もう、最初から最後まで、笑いが止まらないのは、写真を見てもらうだけでも伝わると思う。
そしてこういう場面こそ、バイクバッグが活きてくる。簡単にある程度の量を持ち運べるよう発案されたモノだが、荷物を背負わなくて済むから身体が楽だし、バイクコントロールに集中できる。筆者はバイクパック初体験だったが、このちょうど良い便利さは新しい発見だった。
深い雪に包まれた広河原逆川林道
テールスライドさせながら林道を下る。4輪の轍を残したのは、同じく雪を心待ちにしていたであろうジムニー
突然の雪が紅葉とのコラボレーションを見せてくれた
バキバキッ、ドシッ、バササー...。突然の垂り雪に驚くカズさん
「この間GRINDUROに行った時、ブロックタイヤに換装しているSLATEを何台か見たんです。向こうで流行ってるワイドフラットバーハンドルにして、更にSRAMのワンバイ(フロントシングルスピード)にして。このままでも完成度は高いけれど、そうやってカスタムしたら、もっと遊びの幅を広げることができると思いますよ」と須崎さん。そもそもSLATEとは、新しいものを描き出すキャンバスの意味。自由な発想で生まれてきたバイクなんだから、走る場所だって自由だし、カスタムのやり方だって自由だ。
寒さを忘れさせてくれる、暖かいコーヒー。心が安堵する瞬間
湯気を見れば、なぜか心が落ち着く気がする
須崎さん一押しのGOOD PEOPLE&GOOD COFFEE。店舗は池尻大橋にある
この日は広河原逆川林道で標高を上げ、SDA王滝の練習コースとしても知られる大名栗林道でループするルートをなぞるはずだったが、結果的には、大名栗林道との分岐点にすら辿り着かなかった。でも、これでいい。行こうと思えば多分行けたけれど、無茶をしすぎないのが大人の嗜み。僕らは雪をしのげる場所を見つけてスノーヒルクライムを止め、寒さで調子の悪いガスバーナーに祈るように火をつけ、お湯を沸かし、コーヒーを飲んだ。ただただシンプルに、最高だった。
雪景色のコーヒーブレイクを楽しんだ後は、一気にもと来た林道を下っていく。こここそが、今回の走りにおけるハイライト。どうせ滑るなら最初から滑らせれば良いじゃないか、と、自然とテールスライドスラローム選手権が幕開ける。三上さんとカズさんはトップチューブに腰を下ろし、パウダースノーを飛ばしながら曲がっていく流石の走り。私と須崎さんははしゃぎ過ぎて転倒。もっと上まで登っていたら、もう一度転けるか、笑いすぎて腹筋を痛めるかしたはずなので、途中で引き返したのは良い判断だった。
かじかんだ身体を温めに、名栗温泉・大松閣へ。この地で100年以上にも渡って営業している人気の宿
柔らかなラジウム鉱泉がじわりと緊張を解いてくれた。熱すぎない、40度のお湯はライド後のトークにもぴったり
展望風呂から望む名栗の山々。空には大雪が嘘のような青空が広がっていた
ライドを終えた我々は、100年の歴史を持つ名栗温泉、大松閣へ。寒さでこわばった身体を柔らかなラジウム鉱泉が解きほぐしてくれる。展望風呂から外に目をやると、大雪が嘘のような青空が広がっていた。
11月末の、儚く、まるで夢のようなスノーライドを楽しんだ1日が終わりを告げようとしていた。
「西川材」、つまり”西の方から川を流れてやってくる材木”の名産地として一時代を築いた飯能、名栗。古くは江戸の大火の際に、さらには関東大震災の際に復興用材としての需要が高まり、その認知度と活気を高めた街だ。黄金期の勢いこそ薄れてしまったというが、それでも街道沿いに、生活道路沿いに、そして林道沿いにといったように、まだあちこちに残っている製材工場を目にすることができる。
それだけに、この地域の山は「生きている」。林業のプロフェッショナルの手が加えられた山は状態が良く保たれていて、整った杉林を横目に走るのが気持ち良い。この辺りを走っていると必ず一か所、二か所と機械が唸りを上げる「現場」を目の当たりにできたりもするのだ。まぁもっとも、この日は全てが雪に覆われていたのだが…。季節外れの雪景色に、白と赤の綺麗なコラボレーションを目にすることができた。
キャノンデール・ジャパンでは、SLATEの世界観を気軽に体感できるグラベルライドイベント「NLSエクスペリエンス」を神奈川県南足柄市で12月18日に開催する。ウォークライドとのコラボレーションであり、山本和弘、須田晋太郎両氏がガイドライダーを務める。詳しくはキャノンデールの専用ページ をチェックしてほしい。
とは言いつつも、須崎さん。韓国で買ってきたというハンディミルを回す手つきはとても軽やかで、とてもそんな風には見えません。お気に入りのロースター、GOOD PEOPLE & GOOD COFFEEで手に入れてきたという豆を粗挽きにして、バーナーで沸かしたお湯を注ぐと、グラインドしたコーヒー豆がふわっと軽やかに立ち上がって。須崎さん曰く、これは豆が新鮮な証拠なんだとか。ささ、アツアツのうちに、フーッ、ズッ。ゴクリ。
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山の中で飲む一番ドリップの美味さったらないし、しかもそれが雪の中というのだから、ここに最高極まれり、ってもんでしょう。カズさんも、須崎さんも、三上さんも、岡村さんも。みんなの笑顔を見ていれば他に言葉なんて要りません。ゆっくり飲んでいるとすぐアイスコーヒー(しかもキンキン)になってしまうので、どうしても急ぎ足になるのが残念なのですが…。
11月後半のとある日、名栗の山中は、「東京の大騒ぎがどんなもんじゃい!」と言いたくなるほどの豪雪だった。ニュースによれば、関東平野部の11月の降雪は54年ぶり。ライドに雪を重ねようとしたわけではないけれど、雪が降ったら何はともあれ走るでしょ!というメンタルの持ち主だらけだった今回のライドは、大方の予想通り、中止には持ち込まれなかったわけである。
今回のSLATEライドの場所に選んだのは、埼玉県は飯能市、名栗。東京からもほど近く、都内在住のサイクリストにとっても日帰りで訪れることのできる人気の場所だ。かつては「西川材」の産地として一時代を築いたこの山々を舞台に、今流行りの「バイクパッキング」ならではの遊びを楽しんでみようぜ、ということになった。
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案内役を引き受けてくれたのは、Above Bike Storeのオーナーである須崎真也さんと、ここ飯能に拠点を置くサイクルハウスミカミの三上和志さんの二人。今年GIROがカリフォルニアで開催したGRINDUROへと参加するなど、積極的にアメリカのカルチャーを取り込む須崎さんには「スタイル」を、飯能の全ての枝道まで知り尽くした三上さんには「土地」を紹介してもらおうという贅沢な算段である。そしてSLATEと言えばのキャノンデール・ジャパンの”カズ”こと山本和弘さんと、アウトドアグッズをたくさん持ち込んで、目を一番輝かせていた同営業の岡村成明さんがジョインすることに。
「ワンデーのバイクパックなら、コーヒーセット持って行こうよ。途中で湧き水汲んで、景色の良いところでお湯沸かしてさ。最高だよ」事前にそう須崎さんにそそのかされ、この日のテーマが即決定。かくして「最高の一杯」を求め、僕らは雪に覆われた道を走りだした。
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この辺りの事情を知り尽くしている三上さんに連れられると、すぐにトレイルの入り口へと到着だ。飯能の良いところの一つは自然と街がとても近く、さらにどこもかしこにも活気があることだろう。ただし、雪や雨などで地面が緩んだ時にトレイルに踏み込むのがご法度なのは、MTB乗りであれば周知のマナー。特に斜面であれば、たとえ一つの轍であってもそこに水が流れ、その流れが土を削り取って最終的に山を崩すことにも繋がってしまう。そんな自然と上手く付き合うために自転車乗りが守ることを三上さんに教えてもらいつつ、その手前まで続くダブルトラック(轍が2本、つまりクルマが走る未舗装路だ)でゆっくりと標高を上げていく。「←旧上州街道近道」と書かれたサインに歴史を感じながら。
森を抜けた我々は、うっすらと雪化粧した街道をスピーディーに駆け抜けて、一気に西進、名栗方面へと分け入っていく。途中では旧道沿いに湧き出る名水「庚申の水」を、観音様への感謝の気持ちと共に拝借。途中のコンビニでミネラルウォーターを買っても良いけれど、せっかくだからこういうプロセスを楽しみたい。こういう土地の、こういう場所に辿り着くのは、ローカルライダーの案内あってこそだ。
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浦山ダムから有馬峠へと続く広河原逆川林道に入ると、いよいよ雪は本格的になってくる。積雪15cmはあるだろうか?もうこうなってくるとSLATEオリジナルのスリックタイヤはとんでもなくスリッピーで、ただ一回でも雑にペダリングするとタイヤは空転を始め、力を抜いてあげない限りグリップは戻ってこない。そうっと、丁寧に。接地面と自転車の中心を身体の芯で感じながら。止まってしまったらシクロクロスよろしく、ダッシュで助走をつけてから乗り込まないと、永遠に再スタートは不可能だ。たまらなく難しいが、たまらなく楽しい。もう、最初から最後まで、笑いが止まらないのは、写真を見てもらうだけでも伝わると思う。
そしてこういう場面こそ、バイクバッグが活きてくる。簡単にある程度の量を持ち運べるよう発案されたモノだが、荷物を背負わなくて済むから身体が楽だし、バイクコントロールに集中できる。筆者はバイクパック初体験だったが、このちょうど良い便利さは新しい発見だった。
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雪景色のコーヒーブレイクを楽しんだ後は、一気にもと来た林道を下っていく。こここそが、今回の走りにおけるハイライト。どうせ滑るなら最初から滑らせれば良いじゃないか、と、自然とテールスライドスラローム選手権が幕開ける。三上さんとカズさんはトップチューブに腰を下ろし、パウダースノーを飛ばしながら曲がっていく流石の走り。私と須崎さんははしゃぎ過ぎて転倒。もっと上まで登っていたら、もう一度転けるか、笑いすぎて腹筋を痛めるかしたはずなので、途中で引き返したのは良い判断だった。
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ライドを終えた我々は、100年の歴史を持つ名栗温泉、大松閣へ。寒さでこわばった身体を柔らかなラジウム鉱泉が解きほぐしてくれる。展望風呂から外に目をやると、大雪が嘘のような青空が広がっていた。
11月末の、儚く、まるで夢のようなスノーライドを楽しんだ1日が終わりを告げようとしていた。
今回の「路面」:木屑の散る製材所脇の小道
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それだけに、この地域の山は「生きている」。林業のプロフェッショナルの手が加えられた山は状態が良く保たれていて、整った杉林を横目に走るのが気持ち良い。この辺りを走っていると必ず一か所、二か所と機械が唸りを上げる「現場」を目の当たりにできたりもするのだ。まぁもっとも、この日は全てが雪に覆われていたのだが…。季節外れの雪景色に、白と赤の綺麗なコラボレーションを目にすることができた。
キャノンデール・ジャパンでは、SLATEの世界観を気軽に体感できるグラベルライドイベント「NLSエクスペリエンス」を神奈川県南足柄市で12月18日に開催する。ウォークライドとのコラボレーションであり、山本和弘、須田晋太郎両氏がガイドライダーを務める。詳しくはキャノンデールの専用ページ をチェックしてほしい。
提供:キャノンデール・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部 text&photo:So.Isobe
取材協力:名栗温泉・大松閣
取材協力:名栗温泉・大松閣