2017/12/25(月) - 11:26
キャノンデールが誇るオールロード、SLATEをお供に全国各地を巡る本連載。今回僕らが巡ったのは、つる舞う形の群馬県、高崎市。名産のだるま工房を見学し、山に向かって無限に続くワンディングロードに、古くから続く自転車文化醸成の根元を見た。
Leftyフォークの空気量を調整。SLATEで楽しむための朝の儀式だ
今回の案内役は、高崎でサイクルライフアドバイザーとして活動する白石雅也さん
川沿いの、不確かなダブルトラックを下っていく。SLATEが最も得意とする場面だ
遠方に感じるけれど、実際には都心から関越道経由で1時間半、新幹線なら最速わずか45分。群馬県南西部に位置する高崎市はこんなにも近いのだ。今回の案内役であり、高崎に生まれ育ち、この地でサイクルライフアドバイザーとして活動する白石雅也さんが迎えてくれた。
群馬県は、その存在からして関東の自転車乗りにとって特別だ。と、個人的には考えている。古くから競輪文化が栄え、北には関東のホビーレーサーにはおなじみの群馬CSCがある。老舗クラブチームや、プロ選手を多く輩出している高校があって、その勢いは2015年、狩野智也選手の手によるプロロードチーム誕生という形で芽生えた。
それに、僕らSLATE乗りのような未舗装路を愛する者の目にとってこそ、この地は魅力的に映るのだ。ヒルクライムで有名な上毛三山(赤城山、榛名山、妙義山)だが、実はその周辺には無数の林道が山中へと伸び、北に目を向ければ、かの有名な毛無峠や、40kmオーバーという距離を誇る栗原川林道など、垂涎モノのスポットが散りばめられている。山容の壮大さが、そこにある道を、景色を、そして存在を唯一無二にたらしめ、僕らの憧憬を掻き立てる。
細くうねるワインディングで、SLATEを豪快に走らせるカズさん。国内のSLATE使いで彼の右に出る者はいない
榛名山は林道巡りこそが面白い。林道標識を撮りためるのもまた一興
この道から車輪の往来が消えたのはいつからだろう。その巨体を保持出来なくなった大木を超えていく
群馬県唯一の鉄筋コンクリート造ローゼ桁橋、善地大橋。詩的な風化具合が人気だったが、近年綺麗に塗り替えられてしまったようだ
けれど、今回の趣旨にはそういったハードコアー探求は薄め。ガイドを引き受けてくれた白石さんのススメで、高崎の代名詞と言っても過言では無い「だるま」の産地を訪ね、地元ロード乗りの定番コースを巡り、少々シングルトラックで遊ぶという、誰でも気軽に楽しめる、SLATEの機動力を活かすルートを辿ることにした。
スタート地点の箕郷中央公園から、だるま工房が密集している群馬八幡駅周辺へ。走っていて気付いたことが、この辺りに川が多いこと。榛名白川、烏川、碓氷川、鏑川、そしてそれらが一つとなって注ぎ込む利根川。内陸県と言えど、豊かな水の恵みがここにはある。
その流れを生み出しているのが、背後に聳える豊かな山々だ。雨や雪が地中に沁み込み、長い年月を掛けて、湧水として、時には温泉として(群馬県は全国屈指の温泉大国である)現れる。水上、川場、沼田、渋川。県北部に水に関連した地名が多いことも必然なのだろう。
高崎だるまを生産する工房「大門屋」を訪問。その規模に驚く
政治家や企業、プロ選手などの依頼も引き受けるご主人
エイジングされた前掛け
絵付けは手作業で、よく見ると一つ一つ表情が違う。お気に入りを探すのも面白い
さて、僕ら3両編成のSLATEトレインは、高崎だるまを生産する工房「大門屋」に到着。政治家や企業、プロスポーツ選手からの依頼を受けることも多いというご主人が、工房を案内してくれた。
駅でも、街道沿いを走っていても目に入る高崎だるま。昔からこの地域では、縁起物としてだけではなく、さまざまな願かけが行われ、広く人々に親しまれてきた。その生産量はゆうに全国シェアの80%を占め、その歴史は200年以上にも及ぶという。だるま生産業者のほとんどがこの地区に密集しているのは、達磨大師立像を祀った「縁起だるまの少林山」(達磨寺)のお膝元だから。工房の隅に積み上げられていた一斗缶に「ダルマ用塗料」というラベルが貼られていたのも面白い発見だった。
気持ち良いワインディングが続くフルーツライン。道のアップダウンにリズムを合わせていく
地元サイクリスト御用達の十文字うどん。水沢うどんとも違うちぢれ麺はこの店のオリジナル
肉汁うどんのほか、冬季限定のカレーうどんも人気だそう
クルマ社会が成り立つこの地域だが、都内から1時間半というアクセスにもかかわらず、少し市街地を離れただけで理想の自転車天国が広がっていることに気づいた。大小様々なワインディングロードが続くこの風景に、昔からスポーツバイク文化が根ざしている理由を感じ取る。
例えば、榛東地区を駆け巡る榛名フルーツラインが良い例だろう。地元ロードチームの練習コースとしても愛されるこの道は、道幅が広く、舗装が綺麗で、それでいて完抜けしていないので圧倒的に交通量が少ない。下ハンドルを握り、トップギアで駆け抜けるのが最高に心地よい。オフロードだけに留まらないのがSLATEが兼ね備える魅力の一つだ。
白石さんのお勧めで、小高い丘を登りきった場所にある「十文字うどん」へと滑り込む。群馬のうどんと言えば水沢が有名だが、肉つけ汁とともに頂くこの店独自のちぢれ麺も、なかなかの美味、そして滋味。駐車場にバイクラックが置いてあるのは、練習を兼ねて訪れるロードバイカーの多さを表している。
フルーツライン沿いに続くぶどう畑。完熟した甘い香りが漂ってきた
様々な品種が時期に合わせて栽培されている。訪れた時は巨峰が旬の終わりを迎えていた
「箱にぐんまちゃんがいるとさ、みんな喜ぶんだよ。だからこの辺りの農家で特別にシール作ったんだ」
「今年も例年通り美味いよ。良かったら味見していかんね」
そして、この地域は道路の名称が表す通り、北関東屈指の果樹産地だ。春は東日本随一の規模を誇る梅の花が咲き誇り、夏はブルーベリーに始まり、桃、プラム。そして秋にはぶどうと梨が楽しめる。果樹園が運営する直売所も多く、ライド中に食べ比べするのもまた一興だろう。
お腹を満たした後は、登る榛名のオフロード。榛名山の麓から舗装林道を経由して、もうしばらく車両なんか通っていないはずのシングルトラックへと切り込んでいく。古の踏み跡を辿りながら、倒れた大木をまたぎながらのダウンヒル。地図からも消えた道だが、往来を通したかつての熱量が、半分消えかかった道から伝わってきた。
新しくSLATEラインナップに加わった「APEX 1」。車体のブルーは写真やカタログで見るよりもはるかに鮮やか
タイヤはWTBのResolute。低ノブゆえに舗装路でも重くない
シンプルなフロントシングルギアを採用
最後に、本連載の前回分から登場している、新しいSLATEについて説明を。カタログや写真で見るよりずっと鮮やかなパールブルーの一台は、2018年モデルとして登場した「SLATE APEX 1」だ。SRAMのフロントシングルコンポーネントと、WTBの低ノブタイヤを装備した、これまでと同じようで、結構違う意欲作。
SLATEのアイデンティティたるスリックタイヤではないことに違和感を覚えたものの、一度オフロードに入ると、その走破性と安定感に納得。フロントシングル変則は咄嗟のギア操作に迷うこともなく、オフロード初心者にも扱いやすい性格に生まれ変わっているのだ。もちろんブロックタイヤによって若干走りの硬さは出るものの、30mmトラベルのOliverフォークで乗り味を調整できる。よりオフロードを攻め込みたい方にはベストチョイスの一台と言えそうだ。
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群馬県は、その存在からして関東の自転車乗りにとって特別だ。と、個人的には考えている。古くから競輪文化が栄え、北には関東のホビーレーサーにはおなじみの群馬CSCがある。老舗クラブチームや、プロ選手を多く輩出している高校があって、その勢いは2015年、狩野智也選手の手によるプロロードチーム誕生という形で芽生えた。
それに、僕らSLATE乗りのような未舗装路を愛する者の目にとってこそ、この地は魅力的に映るのだ。ヒルクライムで有名な上毛三山(赤城山、榛名山、妙義山)だが、実はその周辺には無数の林道が山中へと伸び、北に目を向ければ、かの有名な毛無峠や、40kmオーバーという距離を誇る栗原川林道など、垂涎モノのスポットが散りばめられている。山容の壮大さが、そこにある道を、景色を、そして存在を唯一無二にたらしめ、僕らの憧憬を掻き立てる。
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スタート地点の箕郷中央公園から、だるま工房が密集している群馬八幡駅周辺へ。走っていて気付いたことが、この辺りに川が多いこと。榛名白川、烏川、碓氷川、鏑川、そしてそれらが一つとなって注ぎ込む利根川。内陸県と言えど、豊かな水の恵みがここにはある。
その流れを生み出しているのが、背後に聳える豊かな山々だ。雨や雪が地中に沁み込み、長い年月を掛けて、湧水として、時には温泉として(群馬県は全国屈指の温泉大国である)現れる。水上、川場、沼田、渋川。県北部に水に関連した地名が多いことも必然なのだろう。
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駅でも、街道沿いを走っていても目に入る高崎だるま。昔からこの地域では、縁起物としてだけではなく、さまざまな願かけが行われ、広く人々に親しまれてきた。その生産量はゆうに全国シェアの80%を占め、その歴史は200年以上にも及ぶという。だるま生産業者のほとんどがこの地区に密集しているのは、達磨大師立像を祀った「縁起だるまの少林山」(達磨寺)のお膝元だから。工房の隅に積み上げられていた一斗缶に「ダルマ用塗料」というラベルが貼られていたのも面白い発見だった。
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例えば、榛東地区を駆け巡る榛名フルーツラインが良い例だろう。地元ロードチームの練習コースとしても愛されるこの道は、道幅が広く、舗装が綺麗で、それでいて完抜けしていないので圧倒的に交通量が少ない。下ハンドルを握り、トップギアで駆け抜けるのが最高に心地よい。オフロードだけに留まらないのがSLATEが兼ね備える魅力の一つだ。
白石さんのお勧めで、小高い丘を登りきった場所にある「十文字うどん」へと滑り込む。群馬のうどんと言えば水沢が有名だが、肉つけ汁とともに頂くこの店独自のちぢれ麺も、なかなかの美味、そして滋味。駐車場にバイクラックが置いてあるのは、練習を兼ねて訪れるロードバイカーの多さを表している。
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お腹を満たした後は、登る榛名のオフロード。榛名山の麓から舗装林道を経由して、もうしばらく車両なんか通っていないはずのシングルトラックへと切り込んでいく。古の踏み跡を辿りながら、倒れた大木をまたぎながらのダウンヒル。地図からも消えた道だが、往来を通したかつての熱量が、半分消えかかった道から伝わってきた。
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最後に、本連載の前回分から登場している、新しいSLATEについて説明を。カタログや写真で見るよりずっと鮮やかなパールブルーの一台は、2018年モデルとして登場した「SLATE APEX 1」だ。SRAMのフロントシングルコンポーネントと、WTBの低ノブタイヤを装備した、これまでと同じようで、結構違う意欲作。
SLATEのアイデンティティたるスリックタイヤではないことに違和感を覚えたものの、一度オフロードに入ると、その走破性と安定感に納得。フロントシングル変則は咄嗟のギア操作に迷うこともなく、オフロード初心者にも扱いやすい性格に生まれ変わっているのだ。もちろんブロックタイヤによって若干走りの硬さは出るものの、30mmトラベルのOliverフォークで乗り味を調整できる。よりオフロードを攻め込みたい方にはベストチョイスの一台と言えそうだ。
今回の「路面」:蒟蒻栽培に欠かせない、火山性地層
提供:キャノンデール・ジャパン text&photo:So.Isobe