2019/01/09(水) - 12:00
夜も明けきらぬ中央道を、カズさんと乗り合わせたクルマを西へと走らせる。甲府盆地に差し掛かかったその先に、朝日に燃える甲斐駒ヶ岳と、雪を頂く八ヶ岳が見えてきた。なんとなくだけど、この景色が見えれば良い1日を過ごせるような気がする。近づくほど明瞭になる山容と共に、ライドへの期待が膨らんでいくのが分かる。
8回目を迎えるSLATEライドの舞台に選んだのは、長野県と山梨県をまたぐ八ヶ岳。夏は避暑地として多くのロード乗りを集め、初冬は国内シクロクロスブームの火付け役となったRaphaスーパークロス野辺山の開催地として賑わう高原周辺を、あえて12月半ばに走ってみようということになった。
八ヶ岳と言えば、富士山を望む八ヶ岳林道を筆頭とした未舗装林道群を抱え、周辺にも旧中津川林道をはじめとする垂涎モノの長大山岳林道が点在するエリア。そして何より、第一回Rapha Gentlemen's Race(現Rapha Prestige)を迎えてグラベルロードカルチャーの種を蒔いた場所でもあり、僕ら未舗装路を愛する者にとって、その山容は神聖なものとなって映り込む。
案内役を買って出てくれたのはご存知、Rapha Japan代表であり、野辺山クロスのオーガナイザーを務める矢野大介さん。自然の豊かさに惹かれてこの地に移り住み、早や10年。自らエリートCXレーサーとして走りつつ、周囲の魅力的なローカルルートの開拓に勤しむ氏がSLATEを映す目は、子供のようにキラキラと輝いていた。手早くこのバイクの朝の儀式(Leftyフォークの空気圧調整)を済ませ、八ヶ岳おろしに押されるようにしてペダルを漕ぎだした。
とっくに冬の装いになってはいるものの、どこか八ヶ岳の森は色鮮やかだ。標高が高く、太陽は低く、落葉しているからこそ森の隅々にまで光の粒が行き渡る。高原の冬らしいコントラストのくっきりとした陰陽に、サングラスを外し、目を細めて木々の間を駆け抜ける。
無数に伸びるダブルトラックを経由して、まずは武田信玄の命によって作られた棒道を目指した。ここは上杉謙信との戦いに備えて作られた軍用道路であり、小渕沢周辺に残る区間は近隣の乗馬クラブのルートとしても使われる場所。路面にたくさん刻まれた蹄の足跡に、かつて風林火山が駆け抜けた歴史が重なり合う。そこを僕らは現代の駿馬に乗って、脇道のシングルトラックやアップダウン、かつては大きな流れがあっただろう、巨石が並ぶ窪地を飛ばすのだ。いくら「棒」と言えど一直線ではなく、一筋縄でもいかない、楽しさと難しさが共存する道。
BMXとMTBのプロ選手として活躍した栗瀬裕太氏がオープンさせたパーク「YBP」を訪ね、たまたま営業日に当たった間借りカレー屋「サーカス」で優しくもスパイスの効いた南インドカレーを頂き、身体を中から温める。八ヶ岳南麓に位置する小渕沢は、少しずつ、でも着実に新しい店がオープンしている注目エリアの一つだ。
ところで、キャノンデールとRaphaの組み合わせと言えば、RaphaがEFエデュケーションファースト・ドラパックとパートナーシップを組み、選手と共にロードレースのみならず、未舗装路を含むアドベンチャーイベントに挑戦していくというニュースも耳新しいはずだ。チームは200マイルを走破するグラベルレース、ダーティー・カンザや、カルチャーの発信源でもあるグラインデューロへの参戦計画があるというから、SLATEや、TOPSTONEを駆るトップロード選手の姿を見ることができるのだろう。
一方、僕らは小渕沢エリアから標高を上げて滝沢牧場前を通り、至近の「八ヶ岳ふれあい公園」へ。ここは矢野さんはじめ野辺山クロス実行委員会が、地元に自転車文化を根付かせるべく常設シクロクロスコースを刻んだ場所だ。「せっかく雪がないから走っておこうよ!」と意気込んだ我々であったものの、ルート上を埋め尽くす10cm以上の霜柱は42mmタイヤをもってしても手強く、あえなく1周で撃沈。矢野さん曰く来年はコース増強を考えていて、更には2019年で10周年を迎える野辺山クロスも大変化を遂げる、とも。現在内容は調整中とのことなので、ここでは「日本のグラベルカルチャーが更に熱いことになる」とだけ記しておきたい。公式発表を心待ちに。
さて、傾き始めた日を見て、僕らはさらに標高を上げることにした。今年の八ヶ岳は雪が遅く取材時はほとんどドライ。でも正直にいうと、白く覆われた山頂を見てどうしても雪上を走りたかったのだ。そこで八ヶ岳林道で標高を上げ、本沢温泉(標高2150mという日本最高所の温泉だ)に続く林道を攻めることにした。
ふれあい公園から15km少しで林道入口に着くのだが、標高1500m付近からは、既に(というか、当然)雪だった。今年の八ヶ岳は雪が遅く「ダートを登って、温泉が近くなったら雪があるかも」くらいの感覚だったが、あれよと言う間に舗装路はブラックアイスバーンとなり、温泉へと至る本沢林道はえらく荒れた急勾配の上に15cmくらいの積雪…。もうここまで来たからには温泉を目指したかったのだが、どう考えてもあと1時間半は掛かりそう。無茶をしすぎないのが大人の嗜みということで、暫く登ったところで一路退却を選んだのだった。
やっぱり冬の八ヶ岳は、行けるでしょ的思考が全く通用しないほどに厳しかった。でも序盤で見て来たように、どこか旅人を暖かく迎え入れてくれるような側面も確かに感じたのだ。今回の旅で訪れた場所はもうすぐ、あるいはもう既に、雪の下となる。標高2000m以上を走る本沢林道の雪解けは多分5月よりも先のことだろう。でも、どんなルートを巡ろうか思案している時間もまた、楽しいものだ。それに今回訪れることができなかった場所も、まだまだ沢山ある。帰りの車中、カズさんとリベンジを誓い合ったのだった。
そう言えば、キャノンデールのオフロードバイクラインアップにおいて、今やダブルクラウンのLeftyフォークを搭載しているのはSLATEだけとなっていることに気付いた。F-SiもSCALPEL-Siも話題のLefty Ochoになり、SLATEも登場からはや4年目を迎えようとしている。
そろそろ、新型の登場に期待してもバチは当たらないのではなかろうか。毎年完売の人気ぶりだと言うし、TOPSTONEのローンチで感じた本社スタッフの熱いグラベル愛は、このままSLATEを過去帳入りさせるはずもないだろう。そしてその時のために、貯金を始めている自分がいる。
8回目を迎えるSLATEライドの舞台に選んだのは、長野県と山梨県をまたぐ八ヶ岳。夏は避暑地として多くのロード乗りを集め、初冬は国内シクロクロスブームの火付け役となったRaphaスーパークロス野辺山の開催地として賑わう高原周辺を、あえて12月半ばに走ってみようということになった。
八ヶ岳と言えば、富士山を望む八ヶ岳林道を筆頭とした未舗装林道群を抱え、周辺にも旧中津川林道をはじめとする垂涎モノの長大山岳林道が点在するエリア。そして何より、第一回Rapha Gentlemen's Race(現Rapha Prestige)を迎えてグラベルロードカルチャーの種を蒔いた場所でもあり、僕ら未舗装路を愛する者にとって、その山容は神聖なものとなって映り込む。
案内役を買って出てくれたのはご存知、Rapha Japan代表であり、野辺山クロスのオーガナイザーを務める矢野大介さん。自然の豊かさに惹かれてこの地に移り住み、早や10年。自らエリートCXレーサーとして走りつつ、周囲の魅力的なローカルルートの開拓に勤しむ氏がSLATEを映す目は、子供のようにキラキラと輝いていた。手早くこのバイクの朝の儀式(Leftyフォークの空気圧調整)を済ませ、八ヶ岳おろしに押されるようにしてペダルを漕ぎだした。
とっくに冬の装いになってはいるものの、どこか八ヶ岳の森は色鮮やかだ。標高が高く、太陽は低く、落葉しているからこそ森の隅々にまで光の粒が行き渡る。高原の冬らしいコントラストのくっきりとした陰陽に、サングラスを外し、目を細めて木々の間を駆け抜ける。
無数に伸びるダブルトラックを経由して、まずは武田信玄の命によって作られた棒道を目指した。ここは上杉謙信との戦いに備えて作られた軍用道路であり、小渕沢周辺に残る区間は近隣の乗馬クラブのルートとしても使われる場所。路面にたくさん刻まれた蹄の足跡に、かつて風林火山が駆け抜けた歴史が重なり合う。そこを僕らは現代の駿馬に乗って、脇道のシングルトラックやアップダウン、かつては大きな流れがあっただろう、巨石が並ぶ窪地を飛ばすのだ。いくら「棒」と言えど一直線ではなく、一筋縄でもいかない、楽しさと難しさが共存する道。
BMXとMTBのプロ選手として活躍した栗瀬裕太氏がオープンさせたパーク「YBP」を訪ね、たまたま営業日に当たった間借りカレー屋「サーカス」で優しくもスパイスの効いた南インドカレーを頂き、身体を中から温める。八ヶ岳南麓に位置する小渕沢は、少しずつ、でも着実に新しい店がオープンしている注目エリアの一つだ。
ところで、キャノンデールとRaphaの組み合わせと言えば、RaphaがEFエデュケーションファースト・ドラパックとパートナーシップを組み、選手と共にロードレースのみならず、未舗装路を含むアドベンチャーイベントに挑戦していくというニュースも耳新しいはずだ。チームは200マイルを走破するグラベルレース、ダーティー・カンザや、カルチャーの発信源でもあるグラインデューロへの参戦計画があるというから、SLATEや、TOPSTONEを駆るトップロード選手の姿を見ることができるのだろう。
一方、僕らは小渕沢エリアから標高を上げて滝沢牧場前を通り、至近の「八ヶ岳ふれあい公園」へ。ここは矢野さんはじめ野辺山クロス実行委員会が、地元に自転車文化を根付かせるべく常設シクロクロスコースを刻んだ場所だ。「せっかく雪がないから走っておこうよ!」と意気込んだ我々であったものの、ルート上を埋め尽くす10cm以上の霜柱は42mmタイヤをもってしても手強く、あえなく1周で撃沈。矢野さん曰く来年はコース増強を考えていて、更には2019年で10周年を迎える野辺山クロスも大変化を遂げる、とも。現在内容は調整中とのことなので、ここでは「日本のグラベルカルチャーが更に熱いことになる」とだけ記しておきたい。公式発表を心待ちに。
さて、傾き始めた日を見て、僕らはさらに標高を上げることにした。今年の八ヶ岳は雪が遅く取材時はほとんどドライ。でも正直にいうと、白く覆われた山頂を見てどうしても雪上を走りたかったのだ。そこで八ヶ岳林道で標高を上げ、本沢温泉(標高2150mという日本最高所の温泉だ)に続く林道を攻めることにした。
ふれあい公園から15km少しで林道入口に着くのだが、標高1500m付近からは、既に(というか、当然)雪だった。今年の八ヶ岳は雪が遅く「ダートを登って、温泉が近くなったら雪があるかも」くらいの感覚だったが、あれよと言う間に舗装路はブラックアイスバーンとなり、温泉へと至る本沢林道はえらく荒れた急勾配の上に15cmくらいの積雪…。もうここまで来たからには温泉を目指したかったのだが、どう考えてもあと1時間半は掛かりそう。無茶をしすぎないのが大人の嗜みということで、暫く登ったところで一路退却を選んだのだった。
やっぱり冬の八ヶ岳は、行けるでしょ的思考が全く通用しないほどに厳しかった。でも序盤で見て来たように、どこか旅人を暖かく迎え入れてくれるような側面も確かに感じたのだ。今回の旅で訪れた場所はもうすぐ、あるいはもう既に、雪の下となる。標高2000m以上を走る本沢林道の雪解けは多分5月よりも先のことだろう。でも、どんなルートを巡ろうか思案している時間もまた、楽しいものだ。それに今回訪れることができなかった場所も、まだまだ沢山ある。帰りの車中、カズさんとリベンジを誓い合ったのだった。
そう言えば、キャノンデールのオフロードバイクラインアップにおいて、今やダブルクラウンのLeftyフォークを搭載しているのはSLATEだけとなっていることに気付いた。F-SiもSCALPEL-Siも話題のLefty Ochoになり、SLATEも登場からはや4年目を迎えようとしている。
そろそろ、新型の登場に期待してもバチは当たらないのではなかろうか。毎年完売の人気ぶりだと言うし、TOPSTONEのローンチで感じた本社スタッフの熱いグラベル愛は、このままSLATEを過去帳入りさせるはずもないだろう。そしてその時のために、貯金を始めている自分がいる。
今回の「路面」:霜に埋もれたふれあい公園コース
提供:キャノンデール・ジャパン text&photo:So.Isobe