創立112年を迎える日本発祥のバイクブランド、フジ(FUJI)。グランツール覇者のデニス・メンショフやカルロス・サストレらを擁するジェオックスへ供給する「グランツールのためのバイク」がこのアルタミラだ。

フジ アルタミラ1.0フジ アルタミラ1.0 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

日本発祥のアメリカンブランド、フジ

1899年に電灯の輸入販売を手がける日米商会からフジブランドの歴史はスタートする。その後徐々に自転車の輸入に業務をシフトし、国内レースでの勝利を重ねるごとにブランドは大きくなり、自転車そのものを手がけるようになる。1972年にはアメリカへ「FUJI」ブランドとして輸出するまでになり、アメリカでレースバイクとしてブラッシュアップ。ブランドもアメリカ・フィラデルフィアの海外ブランドとなった。

1990年代にはアメリカ強豪チームのマーキュリーに供給。2004年にドイツのジュディス・アルントが世界選手権女子ロードを制した時のバイクもFUJIだった。レーシングバイクブランドとして、欧米での存在感を増すフジ。2009年にはプロツアーチーム、フジ・セルヴェットに供給し、世界のトップレースを走った。

フォークはボリュームたっぷりだが、フレームとよくマッチするデザインだフォークはボリュームたっぷりだが、フレームとよくマッチするデザインだ ヘッド回りの造形も美しく仕上がっているヘッド回りの造形も美しく仕上がっている オフセットするカーボンフォークは質量感充分オフセットするカーボンフォークは質量感充分

そのフジが、2011シーズン、2人のグランツールウィナーを擁するジェオックスTMCへバイクを供給する。ツール覇者カルロス・サストレとジロ&ブエルタ覇者デニス・メンショフの強力タッグが狙うのはもちろん、グランツール制覇。そしてフジが彼らのためにグランツールで勝てるバイクとして開発したのがアルタミラだ。

グランツールを走るためのバイク

フジ・セルヴェット時代から熟成を重ねるSL-1の後継機にあたるアルタミラ。デザインモチーフは、スペインが誇る世界遺産アルタミラの洞窟だ。先史のプリミティヴな壁画に見られる情熱的で質量感のある線が、このバイクにも活きている。

アルタミラ1.0はポストがノーマル仕様だアルタミラ1.0はポストがノーマル仕様だ 下に向かって広がるテーパー状のヘッドチューブ下に向かって広がるテーパー状のヘッドチューブ

グランツールのためのバイクとあって、長時間を走り抜けるバイク作りがなされている。軽量なことはもちろん、振動吸収性や路面のトラクションの良さなど、体にかかるストレスを軽減するためのフレームバランスを追求している。
下側1-1/2のテーパー形状のヘッドチューブは、高い反応性を実現するため強度を得る形状。エンドまでフルカーボンのモノコックフォークはボリューム感溢れるが、ヘッドとのバランスで快適性の獲得を目指している。

トップチューブにはつぶしが入るトップチューブにはつぶしが入る ボリューム感あるダウンチューブにFUJIのロゴが斜めに入るボリューム感あるダウンチューブにFUJIのロゴが斜めに入る

バイク下部に注目すると、BB-86の採用が目立つ。これにより高い剛性感を獲得するが、振動吸収性を犠牲にしないために激細のシートステーがアッセンブルされている。剛性と快適性というどのメーカーも苦心する共存に、フジが出した回答はこの形状なのだ。
フレーム重量はLサイズ(センタートップ530mm)で790gと超軽量。デュラエースやレコードなどレーススペックのコンポ・ホイールで組めば楽にUCIの下限重量である6.8kgより軽いバイクになるだろう。

BBはプレスフィットBB-86を採用しているBBはプレスフィットBB-86を採用している つぶしの入るチェーンステーはペダリングパワーを的確に伝達するつぶしの入るチェーンステーはペダリングパワーを的確に伝達する

登坂性能を重視し快適性をバランスする

この軽さから、メーカーでは登坂性能の高さを強調している。同じくフジのレースバイクであるSSTはクラシックレース向けの性能に振られているが、登りの多いレースではジェオックスTMCもアルタミラを投入してくるだろう。もちろん、この軽さはグランツールのような長期戦でも体への疲労を軽減してくれる効果がある。

高い登り性能は、ともすると軽量バイクにありがちな「下れないバイク」になりかねない。しかしグランツールのためのバイクとして設計されるアルタミラにあっては、前述のテーパードヘッドの設計やカーボン素材を適材適所に配することでダウンヒル時の安定感や、フルブレーキング時のコントロール性能を高めている。

ハイモデュラスカーボンを用いたダウンチューブ〜BB部は大口径ハイモデュラスカーボンを用いたダウンチューブ〜BB部は大口径 細く、直線的なシートステー細く、直線的なシートステー すっきりとしたリア三角が美しいすっきりとしたリア三角が美しい

どんなシチュエーションでも安心して乗れることがグランツールバイクの条件だと言うことだ。そんなアルタミラのターゲットユーザーは、週末ライダーからアスリートまで。優れた安定感は乗り始めの人にもお勧めしやすく、シリアスレーサーとっては剛性と快適性を両立する軽量バイクという設計を無視できないはずだ。

これだけ軽いフレームだが、価格は25万2000円。驚きのコストパフォーマンスというより他に無い。アルタミラ1.0はシートポスト式だが、シートポストが一体型のアルタミラLTDもラインナップされる。こちらの価格は27万3000円。重量はLサイズで955gとやはり軽量にパッケージングされている。

シートステーとチェーンステーの太さの違いがダイレクトなペダリングと振動吸収性を両立させるシートステーとチェーンステーの太さの違いがダイレクトなペダリングと振動吸収性を両立させる リアエンドまでカーボンだリアエンドまでカーボンだ

それではこの「グランツール」バイク、2人のテスターのインプレッションを聞いてみよう。




ーインプレッション

「前後のバランスに優れるラグジュアリーなバイク」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


脚質的に僕にはすごく合っていました。踏み込んでいくペダリングを僕はよくするんですが、じわっと踏んでもしっとりとして、パリっとした感じではない。反応が速いわけではないんですけど、振動吸収性はすごく高い。前後のバランスがすごくいいので、重心をどこに置いてもすごく自然な乗り味です。

下りのコーナーで前に突っ込んでもしっかりふんばってくれる。そして登り坂でダッシュしてもバックが逃げていく感じが少ない。どちらかと言えば、ロングライドモデルと言えるかもしれませんね。

「前後のバランスに優れるラグジュアリーなバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「前後のバランスに優れるラグジュアリーなバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

レースバイクとして使うなら、少しおとなしめの味付けではないでしょうか。僕の中の位置づけとすれば、スコットのCR-1と重なるバイクかな、と思います。乗り味、外観をとってもラグジュアリーですね。実業団レーサーには少し物足りないかもしれないけれど、ロングライドや週末サイクリングを楽しむ方にとってはいい味付けです。見た目も落ち着いていて、年配の方にも受け入れられやすいのでは。

派手さこそ無いのですが、押さえるところは押さえてある。性格的に、クルマで言えばセルシオ。大人っぽい雰囲気を感じます。見た目には大口径でレーシングバイクを思わせるのに、実際のライディングフィールのしっとり感は、いいクロモリのバイクに近いような粘りを感じました。こういった味付けのできるメーカーはそう多くないと思いますよ。

「レーシングバイクとしてすごくバランスのとれた自転車」
鈴木祐一(Rise Ride)


「レーシングバイクとしてすごくバランスのとれた自転車」鈴木祐一(Rise Ride)「レーシングバイクとしてすごくバランスのとれた自転車」鈴木祐一(Rise Ride) レースで欲しい性能がすべて高いレベルでまとまっている自転車だと思います。軽いとか、高速巡航しやすいとか、平均点以上のものをすべて持っているので、逆にどこがいいかを言いづらいくらいですね。レーシングバイクとしてすごくバランスのとれた自転車です。

ヘッドが立っている印象を受けます。フォークのオフセット量と合わせてのジオメトリーがクイックさを生み出している。BBまわりの剛性の高さもしっかり押さえられていますね。踏んだ力を逃がさず適切にリアのホイールに伝えるためにチェーンステーの剛性も高くなっており、バランスがしっかりとられています。

あとは、路面追従性を高めるシートステーの味付け。ウィップするまでは感じないですが、確実に路面を捉えて離さないフィーリングを感じました。ただBBの剛性を高めるのではなく、タイヤに力が伝わるところを計算して、効果的な推進力を生み出す設計がされているのはこのバイクのいいところだと思います。

フレーム全体のバランスも、重心の位置がちょうどいいところにある感じがする。振りが軽すぎることもなく、かといって重すぎることもない。長時間ロードレースの集団内で走る上でいい安定感と安心感を与えてくれるでしょう。

踏み込んでいった時の加速感も気持ちいい一方で、高回転のペダリングでもダイレクトに反応してくれて前へ前へと進んでいきますね。個人的に好きなフィーリングです。レベルの高い自転車ではないでしょうか。




フジ アルタミラ1.0フジ アルタミラ1.0 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

フジ アルタミラ1.0

カラー: Carbon/Gold
メインフレーム: High Modulus D-6 carbon w/ Integrated head tube w/1 1/2" lower,
        Oversized PIIS BB-86 shell
リアトライアングル: High Modulus D-6 carbon thin seat stays,
          Oversized chain stay and Carbon drop out w/replaceable hanger
フォーク: FC-330 Carbon Monocoque w/Tapered Carbon steerer & carbon drop out
サイズ: XS (44cm), S (47cm), M (50cm), L (53cm), XL (55cm), XXL (58cm)
フレーム重量:790g
フレームセット価格:25万2000円(税込み)




インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


鈴木祐一鈴木祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


ウェア協力:SUGOi

text:Yufta.OMATA
photo:Makoto.AYANO

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