ツール・ド・おきなわの魅力はレースだけじゃない。沖縄本島北部の大自然を満喫するロングライドが「やんばるセンチュリーライド」だ。美しい海と世界自然遺産に登録された亜熱帯ジャングル、アップダウンが待つタフなコースで人気のロングライドを実走取材した。

朝7時のスタートを待つやんばるセンチュリーライド参加者たち photo:Satoru Kato

やんばるセンチュリーライドを取材した綾野真(シクロワイアード) photo:Satoru Kato 走った人 綾野 真(シクロワイアード編集長)
1996年の第8回大会よりツール・ド・おきなわを29年にわたり取材。レース部門に初めてオートバイ随行撮影を取り入れ、市民レースに「ホビーレーサーの甲子園」というキャッチフレーズをつけた名付け親でもある(豆知識)。サイクリングの部も当時より毎年のように自転車に乗って実走取材している。
ツール・ド・おきなわのレース部門が開催される前日の土曜日、同じ北部エリアを舞台にサイクリング各部門が開催される。用意されたコースは6つ。やんばるグルメライド90km、伊是名島サイクリング、伊江島ファミリーサイクリング、ワルミ大橋&古宇利大橋サイクリング、土日の2日間で行われる本島一周サイクリング325km。そして同じコースを土曜のみ走るのがここで紹介するやんばるセンチュリーライド163kmだ。

ジャージがお揃いのチームHEVEの皆さん 
自転車百哩走大王=センチュリーランを走る会の皆さん

もっとも大勢だったグループは台湾のサイクルクラブの皆さん photo:Makoto AYANO

韓国から参加の4人グループ 
ヨネックスにブリヂストン、日本ブランドのバイクに乗った韓国のサイクリスト
豪雨災害でレース部門が中止になった2024年は、サイクリング部門も一部を除きほぼ中止に。それ以前も2020・2021年は新型コロナの影響で延期開催・中止されたり、開催されても雨が降った2022・2023年と、思い返してみればサイクリング部門にとっても受難とも言える年が続いていた。

名護さくら太鼓の勇ましい演奏に見送られて走り出す photo:Makoto AYANO
筆者は日曜のレース取材中はオートバイに乗って撮影取材しているが、前日のサイクリングは「ロケハン」も兼ねて自転車で走るのが楽しみ。やんばるセンチュリーは記憶にあるだけで20回以上は走った計算になる(うち数回は金・土曜日開催だった本島一周を走った)。

ワルミ大橋から古宇利大橋を眺める海上の絶景スポット photo:Makoto AYANO
前回は2023年に走ったのだが、降り続いた雨で写真映えがせず、記事化は見送った。その前の年も雨だった...。11月の沖縄の雨は寒くはないが、絵的にはイメージじゃないし、カメラを持っての実走取材はなかなか大変なんです。
しかし今年はついに待望の晴れ。コロナと雨が続いた期間が長すぎたけど、じつに5年ぶりのピーカン晴れとなった!

アップダウンの先の海に古宇利島が見える感動的な風景 photo:Makoto AYANO
降水確率はわずか数%で、終日確実に快晴の予報に、朝のスタートラインで毎年続けて参加している仲間や大会関係者と顔を合わせて、思わずガッツポーズ。それほどまでに皆が待ちわびた晴天だ。

朝陽に輝く海を眺めながら古宇利大橋を渡る photo:Makoto AYANO
不運の年が続いただけに参加者は減ってしまい、サイクリングの部の総参加者数は約300人弱。さらに台湾では同じ週末にサイクリングフェスが開催されるとあって、例年多い台湾からの参加者にとっても今年は都合が悪かったようだ。それでも台湾、韓国からかなりの数の参加があったことは嬉しい限り。彼らにとっても沖縄は人気のデスティネーションなのだ。

古宇利島へと続く海上道路を走る photo:Satoru Kato
朝7時スタート。名護さくら太鼓の演奏を受け、まぶしい朝陽を浴びて走りだす。一昨年とはルートが変わり、序盤で古宇利島(こうりじま)に渡る海上道路を走るコースに向かう。北部イチ人気の景観を誇るルートだけに、この採用は嬉しい。

海の上を走る古宇利島の海上道路を往復する photo:Satoru Kato
以前はレースコースでもある本部半島をほぼ一周したが、それだと距離が伸びすぎてしまうと感じていた。一周はせずショートカットで古宇利島へ向かうことで全体距離が163kmに収まったのは良いことかもしれない。

古宇利島大橋の海上道路はまさに海の上を走っている感覚だ photo:Satoru Kato
マイルドな気温、おだやかな気候だったこの日、朝早くの斜光にエメラルドグリーンの海の色が映える。古宇利大橋を渡る往復ルートはそのすべての区間がフォトジェニックで感動的だ。かつて美ら島センチュリーランというイベントがあったが今は無いため、イベントでここを走れるのはほぼこのライドだけだ。

古宇利島の道の駅まえの広場が第1エイド 
エイドにはボランティアの女子高生たちが

2018年のツール・ド・おきなわチャンピオンレース覇者アラン・マランゴーニさん(GCN) photo:Makoto AYANO
渡った古宇利島側の第1エイドではお菓子のふるまいがあった。そこで「チャオ、マコト!」の声。2018年のツール・ド・おきなわチャンピオンレース覇者アラン・マランゴーニさん(イタリア)だ。2年前にも来日したマランゴーニさんは、かつてリクイガスに所属したトップレーサーで、選手キャリアの終盤はNIPPOヴィーニファンティーニで走り、引退レースのおきなわで優勝。その後も沖縄好きが高じてチャンスあれば来沖しているのだ。翌日の市民200kmレースを走るそうで、この日はGCNイタリアのYoutube用の撮影をしながら途中まで走ると言う。

朝のおめざに黒糖やマンゴーのお菓子 
エイドではMAURTENのジェルも配っていた
古宇利島と橋で繋がった屋我地島(やがじしま)を渡って本島側に戻ったら、そこからは海岸線をひたすら北上することになる。

センチュリーライドを走る会のおふたり。平本さん(右)はフェリーでeBikeを沖縄に持ち込んで走る photo:Makoto AYANO
左手は常に海。例年なら強い海風に翻弄されることが多いこの道も、この日は穏やかで無風だった。暑くもなかったのが助かる。まっすぐな海岸線を淡々と走る。

海岸線を穏やかな海を眺めながら走る photo:Makoto AYANO
大宜味村ではかつて道の駅だった旧施設のエイドで大休止。ここでは付近の名産であるシークヮーサー(やんばる特産の柑橘)の手づくりドリンクにサーターアンダーギー(揚げ菓子)、島バナナなど沖縄の食べものが揃い、地元の明るいオバァたちが熱〜くご接待してくれるのがなんとも楽しい。

手づくりのシークワーサードリンクを振る舞ってくれるオバァたち photo:Makoto AYANO

サーターアンダーギーやバナナやお菓子がずらり 
元気いっぱい大宜味村のオバァたちが熱烈歓迎してくれる
国頭村を抜け、与那へ。このあたりから市民レースの勝負どころが始まるので、前日試走しているレーサーたちが多くなる。ここまでずっと平坦が続いたが、徐々にアップダウンが始まりだす。サイクリングにとっても正念場だ。レース部門の難所である普久川ダムへの登り「与那の坂」には登らず、辺戸岬の方へと進路を取る。

おだやかな海を眺めながらのは平坦路が続く photo:Makoto AYANO

道の駅国頭ではヤンバルクイナがウェイトリフティング! 
ヤンバルクイナの生息するエリアへと入った
最北端の辺戸岬はコースから外れるが、筆者は数年に一度立ち寄ることにしている。数年ぶり訪問を楽しみにしていたし、天候が良かった今年はなおさら。岬への道は少しアップダウンがあるが、時間にしたら10分以内で往復できる。

沖縄本島最北端の辺戸岬にて。素晴らしい景観が楽しめます photo:Makoto AYANO
晴れた辺戸岬は沖縄本島最北端を実感できる景観で、いつもよりひときわ美しかった。海の向こうには与論島が眺められた。

ヤンバルクイナ横断注意! photo:Makoto AYANO

ヤンバルクイナを護るための看板があちこちに 
やんばるの固有種「オキナワトゲネズミ」にも気をつけて!
下って「奥」のエイドでランチタイムだ。ここでも地元の方々が中心になって沖縄風の豚汁とカレーライス、おにぎりの振る舞いがある。芝の美しい公園を眺めつつ、テーブルに座ってゆっくり昼食をいただく時間。ランチはボリュームたっぷりだが、ここからの厳しいやんばる路は、ガッツリ食べておかなくては乗り切れないのだ。

本島最北端の奥のエイド。ここでしっかり休んで食べることが大切です photo:Makoto AYANO

奥エイドで食事を楽しむ韓国からのグループ photo:Makoto AYANO 
ジャージがカッコイイ在沖アメリカンなお二人 photo:Makoto AYANO

カレーに豚汁などボリューム満点ランチをいただきます 
奥のエイドで食事を振る舞ってくれたボランティアさんたち
最北の奥の集落は本島いちの過疎地だが、地元の人たちも年一回の「ツールド」の一行が来ることを楽しみにしてくれているようだ。ランチをいただきながら各国のサイクリストともおしゃべり。皆さんcyclowiredをなんとか読んでくれているようで、「記事読んで来たよ」とよく声をかけられます。

元気いっぱい楽しんでいた韓国のインフルエンサーグループ 
酸っぱいやんばる特産の柑橘、シークワーサー
ここからの山道は本当に厳しくなる。繰り返すアップダウンに、バイクを押して歩き出す人も。後方には回収車が控えている。
北端で折り返してからのやんばる路は、鬱蒼としたジャングルの広がる森のなかを貫く道路だ。路面や路肩のあちこちに天然記念物ヤンバルクイナの注意看板がある。

海を横目に本島最南端の海岸線を走る photo:Satoru Kato
ジャングルを行く道はしんと静まり返って、通過するクルマもほとんどいない。時々、レースの試走を行うサイクリストにすれ違う。

いつか泊まってみたい秘境感いっぱいのアダガーデンホテルがエイドに photo:Makoto AYANO 
外国人留学生がボランティアしてくれました photo:Makoto AYANO
道は険しく、次のエイドステーションまでは距離がある。ツール・ド・おきなわの指定ホテルになっているアダガーデンホテルも毎年エイド協力してくれるが、従業員の方たちのおもてなしが嬉しい。
ジャングルの展望が開けるスポットからは、太古の息吹が聞こえてきそうな原始の森の風景を覗き見ることができる。運が良ければヤンバルクイナに会うことができるというが、それも納得の秘境の雰囲気だ。

道の駅やんばるパイナップルの丘 安波エイドには特産のパイナップルやお菓子がたくさん photo:Makoto AYANO

キリッと冷たいフローズンパイン 
タイガーナッツクッキーは香ばしかった
道の駅やんばるパイナップルの丘・安波ではフローズンパイナップル、タイガーナッツやソフトクッキーなどのお菓子をいただく。ちなみにこの道の駅の屋上には、森と海へ向かって漕げる大きな空中ブランコがあります。

ダイナミックな海の展望が楽しめる福地ダム上流洪水吐 photo:Makoto AYANO
昼を回り、少し暑くなってきた。エイドはしばらく無くなるが、高江に沖縄独特のコミュニティスーパー「共同売店」があるので、そこでドリンクとアイスを買って補給した。
この高江共同店の50m手前には、農園でコーヒーの木を栽培している可愛いカフェ「ヒロコーヒーファーム」があって個人的に超オススメスポットなんですが、この日はお休みでした...。目の覚める切れ味の爽やかな日本産コーヒーと自家製プリンゼは、また来年の楽しみに。

美しい瀬崇の浜を横目に走る photo:Makoto AYANO
このあたりからはアップダウンもいくぶんか緩やかになるが、まだ山道が続く。東海岸に出て海沿いを行けば、東村(ひがしそん)に出る。

東村のエイドは元気な小学生たちがお手伝い photo:Makoto AYANO
福地川海浜公園エイドでは、東村の特産であるパイナップルをつかったゼリーやカットパイン、かき氷、冷たいそうめんなど、暑くなった時間帯に嬉しい食べ物が振る舞われる。普通は「ひとり1杯まで」なんてところを、「おかわり何杯でも食べてって!」という超太っ腹なお接待。しかもエイドを手伝ってくれるのは地元の子供たちで、元気いっぱいの応援に心が洗われた。ホントに元気が出ます。

東村特産のパイナップルは甘酸っぱくて最高でした 
東村のパインゼリー

暑さが増す後半に嬉しい冷やし素麺 
カーブチーのかき氷は酸っぱさが効く

台湾のカップルサイクリストも「大満足」とか 
元気いっぱいの子どもたちがパインゼリーを振る舞ってくれた
マングローブの繁る慶佐次川を抜けて、有銘から続く長い坂を越えれば大浦湾が見えてくる。日が傾くなか、道の駅わんさか大浦パークが最終エイドだ。ここで2日間の本島一周サイクリングの参加者はホテルに向かい、他の参加者は羽地の登りを越えて反対側の名護へ向かう。

海が青く輝く瀬嵩の浜を走る photo:Makoto AYANO

わんさか大浦パークのエイドが最後だ 
スッパイマンと黒糖飴でチャージ
最終エイドでの足切りタイムは17時で、これに間に合えば山越えで名護まで走ることができるが、この時刻を過ぎれば収容車で山を越えて帰ることに。コースの厳しさに降参する人も多い。

レースの最後の勝負どころでもある羽地の登りをこなす photo:Makoto AYANO
レース部門でも最後の勝負どころとなっている羽地の登りは獲得標高にして約200mほど。勾配も緩めで大したことない坂のはずが、ロングライドの最終盤とあって、脚にキている人にはとてつもなく大変な坂に思える。

落ちるようなダウンヒルで名護市外へ下る photo:Makoto AYANO
ピークからは名護市街と海が見晴らせるダイナミックなダウンヒル。下りきればオリオンビール工場の前に出て、名護市街へ。フィニッシュはレースと共通のメイン会場だ。各ブースには市民レーサーたちがたくさん集まってなごやかな雰囲気。

オリオンビール工場前を通過して名護市街へ photo:Makoto AYANO
走行データは実測で距離162.51km、獲得標高2,192mでした。以前は実測距離186kmもあって、ちょっと厳しすぎたと思うので、序盤のコース変更は大正解だと思います。それでもなかなかの厳しさですが。

センチュリーライドを走りきった仲間と記念撮影 photo:Makoto AYANO
1日じゅう沖縄らしい良い天気のなか走れたので、最高の気分でフィニッシュできた。その後は身体に嬉しい沖縄料理を肴に、やっぱり「オジー自慢のオリオンビール」で乾杯!(しかし明日のレース取材があるのでほどほどに...)。
6年ぶりに沖縄らしい最高の天気のなか走れたやんばるセンチュリーライド。長い期間不運が続いてしまったけど、改めて南国ライドの素晴らしさを再確認できた一日でした。
かつて1,000人以上が参加したサイクリング部門の最盛期と比べれば寂しい感じはあったけれど、それは仕方ないこと。しかしレース部門と同様に盛り上がった今年、その満足度は必ずや人に伝わるもの。来年はもっと参加者が増え、もとの賑わいが戻ってくることを願っています。
text&photo:Makoto AYANO


1996年の第8回大会よりツール・ド・おきなわを29年にわたり取材。レース部門に初めてオートバイ随行撮影を取り入れ、市民レースに「ホビーレーサーの甲子園」というキャッチフレーズをつけた名付け親でもある(豆知識)。サイクリングの部も当時より毎年のように自転車に乗って実走取材している。
ツール・ド・おきなわのレース部門が開催される前日の土曜日、同じ北部エリアを舞台にサイクリング各部門が開催される。用意されたコースは6つ。やんばるグルメライド90km、伊是名島サイクリング、伊江島ファミリーサイクリング、ワルミ大橋&古宇利大橋サイクリング、土日の2日間で行われる本島一周サイクリング325km。そして同じコースを土曜のみ走るのがここで紹介するやんばるセンチュリーライド163kmだ。





豪雨災害でレース部門が中止になった2024年は、サイクリング部門も一部を除きほぼ中止に。それ以前も2020・2021年は新型コロナの影響で延期開催・中止されたり、開催されても雨が降った2022・2023年と、思い返してみればサイクリング部門にとっても受難とも言える年が続いていた。

筆者は日曜のレース取材中はオートバイに乗って撮影取材しているが、前日のサイクリングは「ロケハン」も兼ねて自転車で走るのが楽しみ。やんばるセンチュリーは記憶にあるだけで20回以上は走った計算になる(うち数回は金・土曜日開催だった本島一周を走った)。

前回は2023年に走ったのだが、降り続いた雨で写真映えがせず、記事化は見送った。その前の年も雨だった...。11月の沖縄の雨は寒くはないが、絵的にはイメージじゃないし、カメラを持っての実走取材はなかなか大変なんです。
しかし今年はついに待望の晴れ。コロナと雨が続いた期間が長すぎたけど、じつに5年ぶりのピーカン晴れとなった!

降水確率はわずか数%で、終日確実に快晴の予報に、朝のスタートラインで毎年続けて参加している仲間や大会関係者と顔を合わせて、思わずガッツポーズ。それほどまでに皆が待ちわびた晴天だ。

不運の年が続いただけに参加者は減ってしまい、サイクリングの部の総参加者数は約300人弱。さらに台湾では同じ週末にサイクリングフェスが開催されるとあって、例年多い台湾からの参加者にとっても今年は都合が悪かったようだ。それでも台湾、韓国からかなりの数の参加があったことは嬉しい限り。彼らにとっても沖縄は人気のデスティネーションなのだ。

朝7時スタート。名護さくら太鼓の演奏を受け、まぶしい朝陽を浴びて走りだす。一昨年とはルートが変わり、序盤で古宇利島(こうりじま)に渡る海上道路を走るコースに向かう。北部イチ人気の景観を誇るルートだけに、この採用は嬉しい。

以前はレースコースでもある本部半島をほぼ一周したが、それだと距離が伸びすぎてしまうと感じていた。一周はせずショートカットで古宇利島へ向かうことで全体距離が163kmに収まったのは良いことかもしれない。

マイルドな気温、おだやかな気候だったこの日、朝早くの斜光にエメラルドグリーンの海の色が映える。古宇利大橋を渡る往復ルートはそのすべての区間がフォトジェニックで感動的だ。かつて美ら島センチュリーランというイベントがあったが今は無いため、イベントでここを走れるのはほぼこのライドだけだ。



渡った古宇利島側の第1エイドではお菓子のふるまいがあった。そこで「チャオ、マコト!」の声。2018年のツール・ド・おきなわチャンピオンレース覇者アラン・マランゴーニさん(イタリア)だ。2年前にも来日したマランゴーニさんは、かつてリクイガスに所属したトップレーサーで、選手キャリアの終盤はNIPPOヴィーニファンティーニで走り、引退レースのおきなわで優勝。その後も沖縄好きが高じてチャンスあれば来沖しているのだ。翌日の市民200kmレースを走るそうで、この日はGCNイタリアのYoutube用の撮影をしながら途中まで走ると言う。


古宇利島と橋で繋がった屋我地島(やがじしま)を渡って本島側に戻ったら、そこからは海岸線をひたすら北上することになる。

左手は常に海。例年なら強い海風に翻弄されることが多いこの道も、この日は穏やかで無風だった。暑くもなかったのが助かる。まっすぐな海岸線を淡々と走る。

大宜味村ではかつて道の駅だった旧施設のエイドで大休止。ここでは付近の名産であるシークヮーサー(やんばる特産の柑橘)の手づくりドリンクにサーターアンダーギー(揚げ菓子)、島バナナなど沖縄の食べものが揃い、地元の明るいオバァたちが熱〜くご接待してくれるのがなんとも楽しい。



国頭村を抜け、与那へ。このあたりから市民レースの勝負どころが始まるので、前日試走しているレーサーたちが多くなる。ここまでずっと平坦が続いたが、徐々にアップダウンが始まりだす。サイクリングにとっても正念場だ。レース部門の難所である普久川ダムへの登り「与那の坂」には登らず、辺戸岬の方へと進路を取る。



最北端の辺戸岬はコースから外れるが、筆者は数年に一度立ち寄ることにしている。数年ぶり訪問を楽しみにしていたし、天候が良かった今年はなおさら。岬への道は少しアップダウンがあるが、時間にしたら10分以内で往復できる。

晴れた辺戸岬は沖縄本島最北端を実感できる景観で、いつもよりひときわ美しかった。海の向こうには与論島が眺められた。



下って「奥」のエイドでランチタイムだ。ここでも地元の方々が中心になって沖縄風の豚汁とカレーライス、おにぎりの振る舞いがある。芝の美しい公園を眺めつつ、テーブルに座ってゆっくり昼食をいただく時間。ランチはボリュームたっぷりだが、ここからの厳しいやんばる路は、ガッツリ食べておかなくては乗り切れないのだ。





最北の奥の集落は本島いちの過疎地だが、地元の人たちも年一回の「ツールド」の一行が来ることを楽しみにしてくれているようだ。ランチをいただきながら各国のサイクリストともおしゃべり。皆さんcyclowiredをなんとか読んでくれているようで、「記事読んで来たよ」とよく声をかけられます。


ここからの山道は本当に厳しくなる。繰り返すアップダウンに、バイクを押して歩き出す人も。後方には回収車が控えている。
北端で折り返してからのやんばる路は、鬱蒼としたジャングルの広がる森のなかを貫く道路だ。路面や路肩のあちこちに天然記念物ヤンバルクイナの注意看板がある。

ジャングルを行く道はしんと静まり返って、通過するクルマもほとんどいない。時々、レースの試走を行うサイクリストにすれ違う。


道は険しく、次のエイドステーションまでは距離がある。ツール・ド・おきなわの指定ホテルになっているアダガーデンホテルも毎年エイド協力してくれるが、従業員の方たちのおもてなしが嬉しい。
ジャングルの展望が開けるスポットからは、太古の息吹が聞こえてきそうな原始の森の風景を覗き見ることができる。運が良ければヤンバルクイナに会うことができるというが、それも納得の秘境の雰囲気だ。



道の駅やんばるパイナップルの丘・安波ではフローズンパイナップル、タイガーナッツやソフトクッキーなどのお菓子をいただく。ちなみにこの道の駅の屋上には、森と海へ向かって漕げる大きな空中ブランコがあります。

昼を回り、少し暑くなってきた。エイドはしばらく無くなるが、高江に沖縄独特のコミュニティスーパー「共同売店」があるので、そこでドリンクとアイスを買って補給した。
この高江共同店の50m手前には、農園でコーヒーの木を栽培している可愛いカフェ「ヒロコーヒーファーム」があって個人的に超オススメスポットなんですが、この日はお休みでした...。目の覚める切れ味の爽やかな日本産コーヒーと自家製プリンゼは、また来年の楽しみに。

このあたりからはアップダウンもいくぶんか緩やかになるが、まだ山道が続く。東海岸に出て海沿いを行けば、東村(ひがしそん)に出る。

福地川海浜公園エイドでは、東村の特産であるパイナップルをつかったゼリーやカットパイン、かき氷、冷たいそうめんなど、暑くなった時間帯に嬉しい食べ物が振る舞われる。普通は「ひとり1杯まで」なんてところを、「おかわり何杯でも食べてって!」という超太っ腹なお接待。しかもエイドを手伝ってくれるのは地元の子供たちで、元気いっぱいの応援に心が洗われた。ホントに元気が出ます。






マングローブの繁る慶佐次川を抜けて、有銘から続く長い坂を越えれば大浦湾が見えてくる。日が傾くなか、道の駅わんさか大浦パークが最終エイドだ。ここで2日間の本島一周サイクリングの参加者はホテルに向かい、他の参加者は羽地の登りを越えて反対側の名護へ向かう。



最終エイドでの足切りタイムは17時で、これに間に合えば山越えで名護まで走ることができるが、この時刻を過ぎれば収容車で山を越えて帰ることに。コースの厳しさに降参する人も多い。

レース部門でも最後の勝負どころとなっている羽地の登りは獲得標高にして約200mほど。勾配も緩めで大したことない坂のはずが、ロングライドの最終盤とあって、脚にキている人にはとてつもなく大変な坂に思える。

ピークからは名護市街と海が見晴らせるダイナミックなダウンヒル。下りきればオリオンビール工場の前に出て、名護市街へ。フィニッシュはレースと共通のメイン会場だ。各ブースには市民レーサーたちがたくさん集まってなごやかな雰囲気。

走行データは実測で距離162.51km、獲得標高2,192mでした。以前は実測距離186kmもあって、ちょっと厳しすぎたと思うので、序盤のコース変更は大正解だと思います。それでもなかなかの厳しさですが。

1日じゅう沖縄らしい良い天気のなか走れたので、最高の気分でフィニッシュできた。その後は身体に嬉しい沖縄料理を肴に、やっぱり「オジー自慢のオリオンビール」で乾杯!(しかし明日のレース取材があるのでほどほどに...)。
6年ぶりに沖縄らしい最高の天気のなか走れたやんばるセンチュリーライド。長い期間不運が続いてしまったけど、改めて南国ライドの素晴らしさを再確認できた一日でした。
かつて1,000人以上が参加したサイクリング部門の最盛期と比べれば寂しい感じはあったけれど、それは仕方ないこと。しかしレース部門と同様に盛り上がった今年、その満足度は必ずや人に伝わるもの。来年はもっと参加者が増え、もとの賑わいが戻ってくることを願っています。
text&photo:Makoto AYANO
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