世界選手権10勝、ワールドカップ36勝、オリンピックメダル3度獲得を誇るMTB史上最強のアスリートであるニノ・シューター(スイス、スコット・スラムMTBレーシングチーム)が、今年9月に母国スイスで行われる世界選手権とワールドカップを最後に、競技の第一線から退くことを表明した。

2022年に10度目の世界選手権優勝を達成したニノ・シューター photo:UCI
スコット・スラムMTBレーシングチームは、クロスカントリーMTBにおける史上最強の存在であり、23年にわたりMTBというスポーツの象徴であり続けた「GOAT(Greatest Of All Time)」ニノ・シューターが、ワールドカップサーキットから引退することを発表した。
東京オリンピック以降、幾度も引退の噂が流れたが、そのたびにシューターはトーマス・ピドコックをはじめとする若き新星たちと名勝負を繰り広げ、世界選手権とワールドカップの優勝記録を自ら更新し続けた。その走りは誰よりもスタイリッシュで、観客やメディアを通じて世界中のファンを魅了し、MTB界の象徴的存在として君臨し続けた。
最後の舞台として彼が選んだのは、9月に母国で開催される世界選手権クランモンタナ大会、そして地元レンツァーハイデでのワールドカップだ。とりわけレンツァーハイデは、34回目のワールドカップ優勝、8回目の世界選手権制覇を果たした思い出深い地であり、キャリアの終幕にこれ以上ふさわしい舞台はない。

盟友で最大のライバル、ジュリアン・アブサロンと一時代を築き上げた (c)SCOTT-SRAM
引退の発表に際し、シューターは次のように語った。「プロのマウンテンバイクレーサーとしてこれまで得られたすべての経験に、心から感謝しています。今は、この経験を次の人生の章へと活かしていく時だと思っています。これから先に待っていることも、きっと同じくらいワクワクするものになるでしょう。ワールドカップのコーステープの間を走ることからは卒業しますが、自転車の世界から姿を消すわけではありません。サイクリングで出会う素晴らしい仲間たちとともに、これからもこの世界に関わり続けていきます。」
チームディレクターであり、長年シューターを支えてきたトーマス・フリシュクネヒトは、次のようにコメントしている。
「このスポーツに関わる者にとって、ニノのような卓越したアスリートと共に仕事ができることは夢のようなことです。23年前に彼が私のチームに加わって以来、共に歩んできましたが、その栄光の戦績は言うまでもありません。しかし、ニノは単なる最多勝利者ではありません。彼の人柄、プロフェッショナリズム、そしてスポーツに対する無限の情熱は、私に計り知れない感銘を与え続けています。ニノ・シューターのレガシーは永遠に残り、彼はこれからも次の世代にとって輝かしい手本であり続けるでしょう。」
シクロワイアードでは東京オリンピックの際に、ニノ本人にインタビューを行い、日本のジュニア・ユース世代に向けて数々の経験やアドバイスを語ってもらった。その言葉を今改めて振り返ると、彼のキャリアの本質が浮かび上がる。ラストダンスとなる母国での世界選手権とワールドカップでの走りに最高のエールを送りたい。東京五輪時インタビュー記事はこちら
ニノ・シューター 公式声明

ニノ・シューター(スイス、スコット・スラムMTBレーシングチーム) (c)SCOTT-SRAM 「MTB界の仲間たち、そしてそれ以外のすべての方へ。
この20年間、私はマウンテンバイクという競技に、身体、精神、そして魂のすべてを捧げてきました。それは美しく、時に残酷なまでに過酷な世界でした。勝つか、挑戦者であり続けるか、さもなくば去るのみ。現状維持を続ける選手の居場所はありません。24時間365日、すべてを懸ける覚悟がなければ生き残れないとても厳しい世界です。
2003年、ルガーノで初めて世界選手権に挑んだとき、私はただ夢を追う若者でした。あの時に手にした初めての国際大会のメダルが、やがて数えきれない瞬間へとつながり、参加した世界選手権の半分以上で勝利を収めることになるとは思いもしませんでした。まさに、とてつもない旅でした。
しかし、今は心を休め、この道のりを通して支えてくれた人たちとより多くの時間を過ごす時です。今年こそが、完璧な別れを告げる機会です。クランモンタナでの世界選手権、そして私のお気に入りの舞台レンツァーハイデでのワールドカップ。この2つのホームレースで引退できることは、最高の結末です。
チームメイト、ライバル、ファン、そしてMTBコミュニティ全体に、心からの感謝を伝えたい。あなた方がいたから、この旅は忘れられないものになり、私を強くプッシュしてくれました。メダルの背後にある魔法は、あなた方そのものです。
私は姿を消すわけではありません。これからも自転車に乗り続け、レースも続けます(ただしワールドカップのスタートラインにはもう立ちません)。まもなく新しいプロジェクトを発表する予定です。
今はただ、この最後の瞬間にすべてを捧げます。
クランモンタナで、レンツァーハイデで、またお会いしましょう。共に伝説を創り上げましょう。
Ride on, Your Nino.
text:Yoshinori Suzuki

スコット・スラムMTBレーシングチームは、クロスカントリーMTBにおける史上最強の存在であり、23年にわたりMTBというスポーツの象徴であり続けた「GOAT(Greatest Of All Time)」ニノ・シューターが、ワールドカップサーキットから引退することを発表した。
東京オリンピック以降、幾度も引退の噂が流れたが、そのたびにシューターはトーマス・ピドコックをはじめとする若き新星たちと名勝負を繰り広げ、世界選手権とワールドカップの優勝記録を自ら更新し続けた。その走りは誰よりもスタイリッシュで、観客やメディアを通じて世界中のファンを魅了し、MTB界の象徴的存在として君臨し続けた。
最後の舞台として彼が選んだのは、9月に母国で開催される世界選手権クランモンタナ大会、そして地元レンツァーハイデでのワールドカップだ。とりわけレンツァーハイデは、34回目のワールドカップ優勝、8回目の世界選手権制覇を果たした思い出深い地であり、キャリアの終幕にこれ以上ふさわしい舞台はない。

引退の発表に際し、シューターは次のように語った。「プロのマウンテンバイクレーサーとしてこれまで得られたすべての経験に、心から感謝しています。今は、この経験を次の人生の章へと活かしていく時だと思っています。これから先に待っていることも、きっと同じくらいワクワクするものになるでしょう。ワールドカップのコーステープの間を走ることからは卒業しますが、自転車の世界から姿を消すわけではありません。サイクリングで出会う素晴らしい仲間たちとともに、これからもこの世界に関わり続けていきます。」
チームディレクターであり、長年シューターを支えてきたトーマス・フリシュクネヒトは、次のようにコメントしている。
「このスポーツに関わる者にとって、ニノのような卓越したアスリートと共に仕事ができることは夢のようなことです。23年前に彼が私のチームに加わって以来、共に歩んできましたが、その栄光の戦績は言うまでもありません。しかし、ニノは単なる最多勝利者ではありません。彼の人柄、プロフェッショナリズム、そしてスポーツに対する無限の情熱は、私に計り知れない感銘を与え続けています。ニノ・シューターのレガシーは永遠に残り、彼はこれからも次の世代にとって輝かしい手本であり続けるでしょう。」
シクロワイアードでは東京オリンピックの際に、ニノ本人にインタビューを行い、日本のジュニア・ユース世代に向けて数々の経験やアドバイスを語ってもらった。その言葉を今改めて振り返ると、彼のキャリアの本質が浮かび上がる。ラストダンスとなる母国での世界選手権とワールドカップでの走りに最高のエールを送りたい。東京五輪時インタビュー記事はこちら
ニノ・シューター 公式声明

この20年間、私はマウンテンバイクという競技に、身体、精神、そして魂のすべてを捧げてきました。それは美しく、時に残酷なまでに過酷な世界でした。勝つか、挑戦者であり続けるか、さもなくば去るのみ。現状維持を続ける選手の居場所はありません。24時間365日、すべてを懸ける覚悟がなければ生き残れないとても厳しい世界です。
2003年、ルガーノで初めて世界選手権に挑んだとき、私はただ夢を追う若者でした。あの時に手にした初めての国際大会のメダルが、やがて数えきれない瞬間へとつながり、参加した世界選手権の半分以上で勝利を収めることになるとは思いもしませんでした。まさに、とてつもない旅でした。
しかし、今は心を休め、この道のりを通して支えてくれた人たちとより多くの時間を過ごす時です。今年こそが、完璧な別れを告げる機会です。クランモンタナでの世界選手権、そして私のお気に入りの舞台レンツァーハイデでのワールドカップ。この2つのホームレースで引退できることは、最高の結末です。
チームメイト、ライバル、ファン、そしてMTBコミュニティ全体に、心からの感謝を伝えたい。あなた方がいたから、この旅は忘れられないものになり、私を強くプッシュしてくれました。メダルの背後にある魔法は、あなた方そのものです。
私は姿を消すわけではありません。これからも自転車に乗り続け、レースも続けます(ただしワールドカップのスタートラインにはもう立ちません)。まもなく新しいプロジェクトを発表する予定です。
今はただ、この最後の瞬間にすべてを捧げます。
クランモンタナで、レンツァーハイデで、またお会いしましょう。共に伝説を創り上げましょう。
Ride on, Your Nino.
text:Yoshinori Suzuki
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