2025/03/30(日) - 15:00
世界最大の自転車メーカー、ジャイアントの誇るオールラウンドレーサーのTCRをインプレッション。最上級グレードと同じフォークを用いつつ、フレームの素材を変更することでより扱いやすい性能を実現した実戦モデル、TCR ADVANCED PROの実力に迫る。

ジャイアント TCR ADVANCED PRO 1 photo:Makoto AYANO/cyclowired.jp
台湾に拠点を置き、世界で最も多くの生産台数を誇るジャイアント。その高品質なものづくりによって世界中のメーカーのOEMも手掛けており、銀輪の巨人とも呼ばれるほど大きな存在感を放っている。
そのジャイアントが誇るレーシングバイクがTCRシリーズ。1997年にマイク・バロウズの手によって送り出された初代TCRは、世界で初めてロードバイクにスローピングフレームを導入したバイクとして、自転車史にその名を刻んだ。

調整可能なエアロシートポストを採用 
ケーブルフル内装のOVERDRIVE AEROシステムを搭載 
細身のカーボンフォークがクライミングバイクらしさを主張する
以来、30年近い歳月が経つ中でTCRは幾度もモデルチェンジを重ねてきた。ジャイアントのロードバイクラインアップにエンデュランスモデルのDEFY、エアロロードのPROPELが加わっても、TCRの名は受け継がれ、軽量オールラウンドレーサーとしてのポジションも不変。
より軽く、より速く。9度のモデルチェンジを経て、遂に第10世代へと辿り着いたTCR。歴代モデルの中でも最高の重量剛性比とエアロダイナミクスを兼ね備え、オールラウンドレーサーとしてこれまでに無い高みへと到達した。
いかにもクライミングバイク然とした細身のスタイリングを与えられた新型TCR。先代から多くの要素に変更が加えられているが、もっともわかりやすい変更点はシリーズで初めてケーブルフル内装システムを採用したことだろう。

トップチューブにはTCRのモデル名が誇らしげに入る 
フレアハンドルがアセンブルされている

PRO 1グレードはシマノ 105DI2をアセンブル 
ダウンチューブはボリューミー。高い駆動剛性を下支えする
現行プロペルで初採用された上下1-1/2インチベアリングとD型断面コラム、すなわちOVERDRIVE AEROシステムを搭載し、ケーブルを露出しないルーティングを実現。研ぎ澄まされたシルエットを邪魔しないクリーンなルックスとエアロダイナミクスの向上をTCRにもたらしている。
一方、TCRにとって最も重要となる開発目標が重量剛性比。これまでの歴史の中で徹底的にぜい肉を削ぎ落されてきたTCRだが、第10世代では前作比で70g以上の軽量化を実現。ハイエンドモデルであるTCR ADVANCED SLグレードでは690gという重量を叩き出し、セカンドグレードとなるADVANCEDグレードのフレームも800gと非常に軽量に仕上げられている。

ステムに装着するサイクルコンピューターマウントを純正で装備 
パワーメーターを完成車状態で装備する
現代のレーシングバイクの必須項目とも言えるエアロ性能についても、ジャイアントは抜かりない。フォークやダウンチューブ、シートポストなど、空気抵抗に大きな影響を与えるチューブには、より広い範囲のヨー角で一貫して空気抵抗を低減する新断面形状「トランケイテッド・エリプス」を採用した。剛性と空力性能を兼ね備え、かつ軽いという理想的な性能を発揮するこの形状により、新型TCRは真のオールラウンドレーサーとして大きな進化を果たした。
具体的な数値で言えば、前作との比較でフレームセットで2.28ワットを削減。新型TCRと最高のマッチングを求めて開発されたカデックス MAX 40ホイールとRACE GCタイヤ、RACE INTEGRATED/AERO INTEGRATEDハンドルバーを装着した完成車の状態では4.19ワットを稼ぎ出すことに成功している。

細身のシートステーによって、軽さと快適性を両立 
トランケイテッドエリプス形状により、空力性能を向上させた 
ケーブルフル内装により、クリーンなルックスを手に入れた
TCR史上最速を体現した第10世代TCR。今回インプレッションするのは、最上級モデルであるADVANCED SLグレードに次ぐ"ADVANCED PRO"モデル。走行性能に大きな影響を与えるフロントフォークをADVANCED SLから受け継ぎつつ、フレームをADVANCEDグレードとしたセンカンドグレードだ。
SLグレードの基本性能は受け継ぎつつ、ISPではなく簡単にサドル高を調整可能なVARIANTシートポストを採用している点など、扱いやすく実戦的なスペックが特徴のフレームに、シマノ 105DI2と、ジャイアント SLR 1 40ホイールを組み合わせたTCR ADVANCED PRO 1完成車を通して、その実力に迫る。
ーインプレッション
「スプリントもしてみたくなる力強いバイクに進化した」成毛千尋(アルディナサイクラリー)

「スプリントもしてみたくなる力強いバイクに進化した」成毛千尋(アルディナサイクラリー) photo:Kenta Onoguchi
TCRというと、元々はオールラウンドレーサーから始まっていて、PROPEL登場後はクライミング系のレーシングバイクというイメージに変わりました。今回、TCR Advanced Proに乗ってみると、クライミングバイクらしい軽さはそのままに、よりかっちり感が強くなりました。より研ぎ澄まされたレーシングバイクになったという印象です。このバイクでスプリントもしたくなってしまいましたよ。
実際にジェイコ・アルウラーの選手たちがTCRに乗って活躍しているのも頷けます。開発においてもオーストラリアの体格が大きな選手からのフィードバックが入っていることが感じられます。オールラウンドレーサーらしい線が細いフレームの形状からは想像できないほどの剛性感があります。プロ選手たちのビッグパワーを受け止めるための力強いバイクという印象を受けました。
剛性感に関してもピュアスプリントバイクのようにガムシャラに踏んだら足に返ってくるような硬さではなく、足あたりの角が取れているような硬さです。どのような踏み方をしても応えてくれるので、とっつきやすいバイクになっていると思います。

「力強いフレームに仕上がっていて、クリテもヒルクライムもカバーする」成毛千尋(アルディナサイクラリー) photo:Kenta Onoguchi
それだけではなくバイク全体の完成度のレベルが引き上げられたと言ってもいいでしょう。近年トレンドの軽量・エアロ・高剛性が全て高次元で実現し、1台で全てをこなすピュアレーシングバイクの趣向を強めたという感じがあります。
ハイパワーに応えてくれる特性がありながらも、TCRらしい軽快感はそのままです。肉薄のカーボンによるわかりやすい軽さというよりも、芯が強いフレームから軽快感を生み出しているような印象があります。これは実際に力強く踏み込んでみて、初めて感じられるような乗り味です。
コーナリング時の挙動など乗り味に関しては、不自然さがなく扱いやすいと思います。Sサイズの完成車に搭載されているハンドルバーのトップ側の幅が370mm(エンド側400mmのフレア設計)に設定されているのは特筆すべきポイントです。Sサイズ程度であれば400mm幅を装備するところですが、トレンドのエアロを意識した仕様になっていることがわかります。これはレーサーに向けてのメッセージ性を感じますね。

「TCRは世代を重ねるごとに進化を続けている」成毛千尋(アルディナサイクラリー) photo:Kenta Onoguchi
なのでサンデーサイクリストよりもレース志向が強めの方にオススメしたいです。クリテリウムでもいいし、ヒルクライムでもいける。どんなレースでも対応できる性能を持っています。特に休まずにひたすら走るようなタイプのサイクリストに向いているでしょう。
TCRはエアロや超軽量どちらの良いところを備えたバイクです。世代を重ねるごとに進化を続けており、現行モデルは本当に熟成された設計だと感じます。カーボンの質の高さは確かに感じられますし、全体的に高いレベルで完成度の高いモデルに仕上がっています。
「レーシングバイクとして純度の高い一台」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「レーシングバイクとして純度の高い一台」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Kenta Onoguchi
ミドルグレードでありながら、純然たるレーシングバイクとしての性能を発揮してくれる一台ですね。まっすぐ矢が飛んでいくような、歴代のTCRらしい走りのイメージを受け継ぎつつ、現代のレーサーに相応しく仕上げられています。
剛性感はかなり高く、入力に対して機敏に反応してくれるので、脚力が有れば有るほどバイクの良さを引き出せるような乗り味です。非常に細身のチュービングで、見た目としてはかなり華奢な印象を受けますが、実際はかなり硬い。スプリントでマックスパワーを入力しても余すところなく受け止めて、前へ前へと進んでいく、パワーロスを感じさせないバイクです。
反応の良さというのはハンドリングについても通ずる特徴ですね。クイックに入力を反映してくれるので、思うがままに操れます。集団の中ですこし空いたスペースへと入りたいなんて時でも、このバイクであればストレスなく移動できるでしょう。

「ハンドル周り含め、最新のレースバイクとして完成されている」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Kenta Onoguchi
ピンヒールのような極細のフォークブレードから、線が細そうな乗り味を想起していましたが、実際には四肢がしっかりと踏ん張って地面を掴んでいるような感覚で、ダウンヒルでも安心して倒しこめます。ハードブレーキングでもフォークが負けるなんてこともないですし。
バイクのコンセプトである登りが主戦場であることは明らかで、そこに関しては文句をつけようがない。その上、先代からエアロ性能も向上しているので平坦でもスピードが落ちづらくなっていますし、メリットを感じられるシーンが広がっているのは確かです。同じジャイアントのPROPELとの選び分けは悩ましいところでしょう。
一つだけウィークポイントを挙げるなら、快適性はそこまで高くないという点でしょうか。細身で軽く硬いバイクらしく、衝撃の伝え方は直線的です。25Cタイヤを装着した状態での印象ですので、突き上げが気になる方は28Cにサイズアップすれば改善すると思いますね。

「スプリントの掛かりも抜群。レースにそのまま出られる一台」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Kenta Onoguchi
また、パーツアセンブルという面ではかなり攻めたセッティングが施されていたのも印象的でした。ブラケット部がかなり狭いフレアハンドルが装着されていて、近年のエアロなハンドルセッティングを完成車状態で実現しています。
ナローハンドルがはじめてという方はダンシング時の挙動など、慣れが必要となるでしょうが、最新のレーシングバイクとしては一つの正解だと思いますし、そのアグレッシブな姿勢は個人的には好感が持てます。
その辺りも含め、ジャイアントにとってTCRはピュアなレーシングバイクであるのだと再認識させられる一台です。レースを視野に入れている方で、登りが好きなのであればこのTCR ADVANCED PRO 1を選んでおけば、まず間違いない。そう言える完成度の高いバイクでした。

ジャイアント TCR ADVANCED PRO 1
ジャイアント TCR ADVANCED PRO 1
フレーム:Advanced-Grade Composite, 12x142mm thru-axle, disc
フォーク:Advanced SL-Grade Composite, full-composite OverDrive Aero steerer, 12x100mm thru-axle, disc
コンポーネント:シマノ 105DI2
ホイール:ジャイアント SLR 1 40 WheelSystem, [F]40mm, [R]40mm
タイヤ:ジャイアント Gavia Course 0, tubeless, 700x25c (28mm)
価格:682,000円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール

成毛千尋(アルディナサイクラリー) 成毛千尋(アルディナサイクラリー)
東京・小平市にあるアルディナサイクラリーの店主。Jプロツアーを走った経験を持つ強豪ライダーで、2009年ツール・ド・おきなわ市民200km4位、2018年グランフォンド世界選手権にも出場。ロードレース以外にもツーリングやトライアスロン経験を持ち、自転車の多様な楽しみ方を提案している。初心者からコアなサイクリストまで幅広く歓迎しており、ユーザーに寄り添ったショップづくりを心がける。奥さんと二人でお店を切り盛りしており女性のお客さんもウェルカムだ。
アルディナサイクラリー

高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)
学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。
text:Naoki Yasuoka, Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO, Kenta Onoguchi

台湾に拠点を置き、世界で最も多くの生産台数を誇るジャイアント。その高品質なものづくりによって世界中のメーカーのOEMも手掛けており、銀輪の巨人とも呼ばれるほど大きな存在感を放っている。
そのジャイアントが誇るレーシングバイクがTCRシリーズ。1997年にマイク・バロウズの手によって送り出された初代TCRは、世界で初めてロードバイクにスローピングフレームを導入したバイクとして、自転車史にその名を刻んだ。



以来、30年近い歳月が経つ中でTCRは幾度もモデルチェンジを重ねてきた。ジャイアントのロードバイクラインアップにエンデュランスモデルのDEFY、エアロロードのPROPELが加わっても、TCRの名は受け継がれ、軽量オールラウンドレーサーとしてのポジションも不変。
より軽く、より速く。9度のモデルチェンジを経て、遂に第10世代へと辿り着いたTCR。歴代モデルの中でも最高の重量剛性比とエアロダイナミクスを兼ね備え、オールラウンドレーサーとしてこれまでに無い高みへと到達した。
いかにもクライミングバイク然とした細身のスタイリングを与えられた新型TCR。先代から多くの要素に変更が加えられているが、もっともわかりやすい変更点はシリーズで初めてケーブルフル内装システムを採用したことだろう。




現行プロペルで初採用された上下1-1/2インチベアリングとD型断面コラム、すなわちOVERDRIVE AEROシステムを搭載し、ケーブルを露出しないルーティングを実現。研ぎ澄まされたシルエットを邪魔しないクリーンなルックスとエアロダイナミクスの向上をTCRにもたらしている。
一方、TCRにとって最も重要となる開発目標が重量剛性比。これまでの歴史の中で徹底的にぜい肉を削ぎ落されてきたTCRだが、第10世代では前作比で70g以上の軽量化を実現。ハイエンドモデルであるTCR ADVANCED SLグレードでは690gという重量を叩き出し、セカンドグレードとなるADVANCEDグレードのフレームも800gと非常に軽量に仕上げられている。


現代のレーシングバイクの必須項目とも言えるエアロ性能についても、ジャイアントは抜かりない。フォークやダウンチューブ、シートポストなど、空気抵抗に大きな影響を与えるチューブには、より広い範囲のヨー角で一貫して空気抵抗を低減する新断面形状「トランケイテッド・エリプス」を採用した。剛性と空力性能を兼ね備え、かつ軽いという理想的な性能を発揮するこの形状により、新型TCRは真のオールラウンドレーサーとして大きな進化を果たした。
具体的な数値で言えば、前作との比較でフレームセットで2.28ワットを削減。新型TCRと最高のマッチングを求めて開発されたカデックス MAX 40ホイールとRACE GCタイヤ、RACE INTEGRATED/AERO INTEGRATEDハンドルバーを装着した完成車の状態では4.19ワットを稼ぎ出すことに成功している。



TCR史上最速を体現した第10世代TCR。今回インプレッションするのは、最上級モデルであるADVANCED SLグレードに次ぐ"ADVANCED PRO"モデル。走行性能に大きな影響を与えるフロントフォークをADVANCED SLから受け継ぎつつ、フレームをADVANCEDグレードとしたセンカンドグレードだ。
SLグレードの基本性能は受け継ぎつつ、ISPではなく簡単にサドル高を調整可能なVARIANTシートポストを採用している点など、扱いやすく実戦的なスペックが特徴のフレームに、シマノ 105DI2と、ジャイアント SLR 1 40ホイールを組み合わせたTCR ADVANCED PRO 1完成車を通して、その実力に迫る。
ーインプレッション
「スプリントもしてみたくなる力強いバイクに進化した」成毛千尋(アルディナサイクラリー)

TCRというと、元々はオールラウンドレーサーから始まっていて、PROPEL登場後はクライミング系のレーシングバイクというイメージに変わりました。今回、TCR Advanced Proに乗ってみると、クライミングバイクらしい軽さはそのままに、よりかっちり感が強くなりました。より研ぎ澄まされたレーシングバイクになったという印象です。このバイクでスプリントもしたくなってしまいましたよ。
実際にジェイコ・アルウラーの選手たちがTCRに乗って活躍しているのも頷けます。開発においてもオーストラリアの体格が大きな選手からのフィードバックが入っていることが感じられます。オールラウンドレーサーらしい線が細いフレームの形状からは想像できないほどの剛性感があります。プロ選手たちのビッグパワーを受け止めるための力強いバイクという印象を受けました。
剛性感に関してもピュアスプリントバイクのようにガムシャラに踏んだら足に返ってくるような硬さではなく、足あたりの角が取れているような硬さです。どのような踏み方をしても応えてくれるので、とっつきやすいバイクになっていると思います。

それだけではなくバイク全体の完成度のレベルが引き上げられたと言ってもいいでしょう。近年トレンドの軽量・エアロ・高剛性が全て高次元で実現し、1台で全てをこなすピュアレーシングバイクの趣向を強めたという感じがあります。
ハイパワーに応えてくれる特性がありながらも、TCRらしい軽快感はそのままです。肉薄のカーボンによるわかりやすい軽さというよりも、芯が強いフレームから軽快感を生み出しているような印象があります。これは実際に力強く踏み込んでみて、初めて感じられるような乗り味です。
コーナリング時の挙動など乗り味に関しては、不自然さがなく扱いやすいと思います。Sサイズの完成車に搭載されているハンドルバーのトップ側の幅が370mm(エンド側400mmのフレア設計)に設定されているのは特筆すべきポイントです。Sサイズ程度であれば400mm幅を装備するところですが、トレンドのエアロを意識した仕様になっていることがわかります。これはレーサーに向けてのメッセージ性を感じますね。

なのでサンデーサイクリストよりもレース志向が強めの方にオススメしたいです。クリテリウムでもいいし、ヒルクライムでもいける。どんなレースでも対応できる性能を持っています。特に休まずにひたすら走るようなタイプのサイクリストに向いているでしょう。
TCRはエアロや超軽量どちらの良いところを備えたバイクです。世代を重ねるごとに進化を続けており、現行モデルは本当に熟成された設計だと感じます。カーボンの質の高さは確かに感じられますし、全体的に高いレベルで完成度の高いモデルに仕上がっています。
「レーシングバイクとして純度の高い一台」高木三千成(シクロワイアード編集部)

ミドルグレードでありながら、純然たるレーシングバイクとしての性能を発揮してくれる一台ですね。まっすぐ矢が飛んでいくような、歴代のTCRらしい走りのイメージを受け継ぎつつ、現代のレーサーに相応しく仕上げられています。
剛性感はかなり高く、入力に対して機敏に反応してくれるので、脚力が有れば有るほどバイクの良さを引き出せるような乗り味です。非常に細身のチュービングで、見た目としてはかなり華奢な印象を受けますが、実際はかなり硬い。スプリントでマックスパワーを入力しても余すところなく受け止めて、前へ前へと進んでいく、パワーロスを感じさせないバイクです。
反応の良さというのはハンドリングについても通ずる特徴ですね。クイックに入力を反映してくれるので、思うがままに操れます。集団の中ですこし空いたスペースへと入りたいなんて時でも、このバイクであればストレスなく移動できるでしょう。

ピンヒールのような極細のフォークブレードから、線が細そうな乗り味を想起していましたが、実際には四肢がしっかりと踏ん張って地面を掴んでいるような感覚で、ダウンヒルでも安心して倒しこめます。ハードブレーキングでもフォークが負けるなんてこともないですし。
バイクのコンセプトである登りが主戦場であることは明らかで、そこに関しては文句をつけようがない。その上、先代からエアロ性能も向上しているので平坦でもスピードが落ちづらくなっていますし、メリットを感じられるシーンが広がっているのは確かです。同じジャイアントのPROPELとの選び分けは悩ましいところでしょう。
一つだけウィークポイントを挙げるなら、快適性はそこまで高くないという点でしょうか。細身で軽く硬いバイクらしく、衝撃の伝え方は直線的です。25Cタイヤを装着した状態での印象ですので、突き上げが気になる方は28Cにサイズアップすれば改善すると思いますね。

また、パーツアセンブルという面ではかなり攻めたセッティングが施されていたのも印象的でした。ブラケット部がかなり狭いフレアハンドルが装着されていて、近年のエアロなハンドルセッティングを完成車状態で実現しています。
ナローハンドルがはじめてという方はダンシング時の挙動など、慣れが必要となるでしょうが、最新のレーシングバイクとしては一つの正解だと思いますし、そのアグレッシブな姿勢は個人的には好感が持てます。
その辺りも含め、ジャイアントにとってTCRはピュアなレーシングバイクであるのだと再認識させられる一台です。レースを視野に入れている方で、登りが好きなのであればこのTCR ADVANCED PRO 1を選んでおけば、まず間違いない。そう言える完成度の高いバイクでした。

ジャイアント TCR ADVANCED PRO 1
フレーム:Advanced-Grade Composite, 12x142mm thru-axle, disc
フォーク:Advanced SL-Grade Composite, full-composite OverDrive Aero steerer, 12x100mm thru-axle, disc
コンポーネント:シマノ 105DI2
ホイール:ジャイアント SLR 1 40 WheelSystem, [F]40mm, [R]40mm
タイヤ:ジャイアント Gavia Course 0, tubeless, 700x25c (28mm)
価格:682,000円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール

東京・小平市にあるアルディナサイクラリーの店主。Jプロツアーを走った経験を持つ強豪ライダーで、2009年ツール・ド・おきなわ市民200km4位、2018年グランフォンド世界選手権にも出場。ロードレース以外にもツーリングやトライアスロン経験を持ち、自転車の多様な楽しみ方を提案している。初心者からコアなサイクリストまで幅広く歓迎しており、ユーザーに寄り添ったショップづくりを心がける。奥さんと二人でお店を切り盛りしており女性のお客さんもウェルカムだ。
アルディナサイクラリー

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。
text:Naoki Yasuoka, Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO, Kenta Onoguchi
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