茨城県は那珂市を巡る40kmのポタリングへ。由緒ある古社、伝統の水府提灯を生み出す工房、新たな挑戦を続ける老舗酒造。歴史と文化、それを支える豊かな自然から生まれるダイナミズムを感じた1日をレポート。



今回の旅の舞台は茨城県の那珂市。スタートはJR水郡線の上菅谷駅だ

車でも、電車でも東京から約2時間。茨城県のやや北側、那珂川と久慈川の2本の河川に挟まれるように位置する那珂市。すぐ南には黄門様で有名な水戸、海側にいけば大洗のあんこう祭りやネモフィラやコキアで知られるひたち海浜公園、西側にはタイムトライアル系サイクリストの聖地となりつつある城里と、多くの有名観光地に囲まれている(城里はちょっと違うかもですが……)。

そんな中でちょっぴり影の薄い那珂市だが、そんなエリアってすこし掘り下げると意外な魅力に満ちていることが多いもの。そして、魅力を堀り探るスコップとしてぴったりなのはなんといっても自転車、特にE-BIKEなら最高だ。

今回の皆さんの相棒はデイトナ製のE-ミニベロである「ポタリングバイク」。そしてスポーツサポートバスも帯同してくれる

この中にバッテリーが収まっています
途中の立寄スポットで使えるクーポンを受け取りました



というわけで秋も深まる11月中旬、JR水郡線の上菅谷駅に降り立った。広々とした駅前ロータリーには、昨年の石岡ライドでもお世話になったタビットさんのスポーツサポートバスの姿が!その中から降ろされてきたのは可愛らしい小径車たち。デイトナ社の「ポタリングバイク」は一見普通のミニベロに見えるけれど、実はリアキャリアの上のレザーバッグはバッテリーで、そこからリアハブモーターへ給電する歴としたE-BIKEなのだ。

籐籠をつけてもしっくりくるようなお洒落な外見とは裏腹に、しっかり走るのがこのバイクの魅力。小径車らしいキビキビ感とE-BIKEの安定感が上手い具合にハマってくれて、どこまでも気持ちよく走っていけそうだ。

知らない土地を巡るのに欠かせないのが豊富な知識を持つガイド。今回のツアーをリードしてくれるのは地域を知り尽くした常陸ロコサイクリングMTBの堀田代表だ。JCTA認定のサイクリングガイドやインストラクターの資格を持ち、那珂市の自転車活用推進協議会の委員も務める、ローカルの重鎮ライダーがルートを引いてくれたという。重鎮、と書くとちょっと重々しい印象だと思うので、非常に気さくでライド中も常に色んなエピソードで盛り上げてくれたことは先に記しておきます(笑)。

自転車の通行空間整備にも力を入れている那珂市

「パン工房ぐるぐる 那珂本店」に到着

顔合わせも済めば、早速ライドへ出発。駅前ロータリーから続く道には歩道にも普通自転車通行指定部分が大きく設けられつつ、車道にも幅広の自転車ナビレーンがあり、自転車の走行環境整備への情熱を感じる。

そんな道をしばらく行くと、早速最初の目的地である「パン工房ぐるぐる 那珂本店」に到着。茨城北部に3店舗を構え、ドイツで行われるパンの世界大会であるIbaカップに日本代表として出場した栗原シェフが率いる人気のベーカリーだ。

冷えているのがオススメとのことで早速いただきます
パンの世界大会であるIbaカップに出場した際のパンを一般向けに改良し販売している
人気の「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」



棚に並ぶパンはどれも美味しそうだけれど、中でも圧倒的な一番人気というのが「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」。なんと1日最高3,400個が売れたという伝説的な人気を誇るパンで、このために遠方からやってくるファンも多いのだという。

どれほど美味しいのだろうと手に取った瞬間、ズシッと伝わる重量感。これは相当な量のクリームが入っているに違いない、という予想は見事的中し、パクッとかぶりついた瞬間にクリームが溢れ出そうになる。

那珂市役所近くに保存されている曲屋

古式ゆかしい竈などが保存されていました
車も少ないのどかな道を行く



一時期マリトッツォが流行ったが、クリームとパンのバランスとしては近しいものがある。そして、奥久慈卵とホイップクリームを合わせたとろっとしたクリームは、ひんやり冷やされていながらにして濃厚さが押し寄せるほどで、これは人気が出るのも納得の美味しさだ。冷たい状態がオススメとのことで、現地で買いたてを食べるべき一品だ。

最高の朝ごはんから始まったライドは、一旦駅前を通り過ぎ西側へ。那珂市役所ほど近くにある曲がり屋は、町内に残る最後の茅葺屋根を保存するため公園へと移設されたのだとか。囲炉裏やかまどなど、日本古来の生活スタイルに思いを馳せつつ、次の立寄場所となるJA常陸 那珂直売所へ。

JA常陸 那珂直売所に到着。茨城でお土産に欲しいものといえば、やはり干し芋(駄洒落

立派な白菜がズラリ
帯同するバスに積んでもらえるので大根白菜なんでもござれ



久慈川と那珂川に挟まれた那珂市周辺の一帯は、その肥沃な土地から多くの作物が採れる一大農産地。その豊かな恵みは、直売所に並んだ作物の大きさとつけられた値札から、ひしひしと伝わってくる。

あまりの安さに一行の女性陣は大興奮で、おっきな白菜やキャベツを持ってレジへ。カゴつきの自転車だけど、流石に入らなくない……??と思っていると、駐車場にはスポーツサポートバスの姿が。いくら買い込んでも、帰りの電車で持ち運べる量までなら問題なし!!なんと素晴らしいツアーなんだ……(笑)。

飯島工作所の提灯職人、ジェフさん。異色の経歴の持ち主だ

向こう一週間分くらいの野菜をバスに詰め込み、再び走りだす。車通りの少ない道を繋ぎ、到着したのはぱっと見ではなんの変哲もない一軒家。ここは一体?と思っていると、いらっしゃい、と流暢な日本語と共に姿を現したのがジェフさんだ。

ジェフさんが出てきた建物は「飯島工作所」。何と日本三大提灯の一つである水府提灯の伝統を受け継ぐ提灯職人なのだとか。イギリス人とドイツ人の両親を持つジェフさんは、スイス生まれフランス育ち。そして日本人の奥さんと出会い来日し、義父となった飯島實さんが立ち上げた飯島工作所の跡を継いで提灯づくりの世界に踏み込んだという異色の経歴の持ち主。

まず材料となる竹を割る
節を取り除く機械。これはワンオフで製作してもらったもので、かなりの時短を実現できたのだとか



提灯の骨組みとなる型枠。めちゃくちゃおっきいです

竹の皮を剝いでいく
竹ひごを輪っかに成形する



神田明神や善光寺でも使われているという飯島工作所の提灯づくりの現場を見学できるというまたとない機会に、一同は興味津々。

素材となる竹を割り、節を除去し、骨組みとなる輪っかを作る。綺麗な円弧を描く竹の輪を型にはめ、糸で固定し、和紙を貼り、乾燥させれば提灯の火袋が完成する。

大きさと精密さに圧倒される

この大きさの提灯が
畳むとこのサイズに



ステンドグラスと提灯をコラボレーションさせた新製品も間もなく登場するという

なんといっても驚きなのはそのサイズ。この日の工房にも身長を超えるような大きさの提灯が鎮座しており、その迫力に圧倒された。こんな大きな提灯を作るには竹ひごも長いものが必要になるため、2階から竹を割れるよう、1階の天井に穴が開いている部分まで設けられている。

そして、伝統を受け継ぐだけでなく、未来へ向けた新たなプロダクトも手掛けている。それが、ジェフさんの得意とするステンドグラスと提灯をコラボレートさせた照明だ。提灯の柔らかな光が全体を照らしつつ、上部に配置されたステンドグラスの艶やかさを際立たせる、和と洋のマリアージュ。現在は試作段階とのことだが、近々一般販売も始まるとのこと。部屋にあればお洒落度アップ間違いなしの一品、今後の展開に乞うご期待だ。

貴重な現場を見せていただきありがとうございました!

スタートしてまだ2時間も経っていないのに名所が盛り沢山の那珂ライド。那珂xサイクリングの情報を集めたサイトもオープンし、注目度も高まっている。それでは更なる那珂グルメと見所が待つ後編へと続きます。