「ホビーレーサーの甲子園」の異名を取るツール・ド・おきなわ市民レース。南国・沖縄に用意された最高の舞台で日頃の鍛錬の成果を発揮するときがきた。混戦となった昨年同様に雨予報のレースで、各クラスの頂点に立つ者はいったい誰だろうか?



市民200kmレースの220人による一斉発声「チバリヨー!」でスタート photo:Makoto AYANO

国内長距離のロードレースがツール・ド・おきなわだ。シーズン最後のレースであり、アップダウンも激しい沖縄本島北部の過酷な公道を使った長距離ロードレースとなる。

■コースは3年連続で番越を越えて下ってすぐのフィニッシュ

市民200km、140km、100kmといった長距離レースのコースは3年連続で2022年から採用されているルートとなる。市民200kmは名護市街からスタート、本部半島外周を回り国道58号で海岸線を北上、普久川ダムへの登り、通称「与那の坂」を登り、辺戸岬へと向かう「奥の周回」をこなし、2度目の与那の坂を越えて東海岸へと出て、学校坂、有銘、嘉陽などの坂が続くアップダウン路をこなす。

市民200kmは羽地の登りで勝負は真鍋晃、井上亮、中里仁の3人に絞られる photo:Makoto AYANO

東村を経てフィニッシュまで残り9kmで大浦湾より羽地・名護方面へと登りはじめ、終盤の最大の勝負どころ、3連トンネルへの登りへ。番越(ばんこし)トンネルを越え、東江原(あがりえばる)の2連トンネルを抜けて頂上へと登りつめてから名護市街への下りへ。オリオンビール工場へと通じる長いダウンヒルを経て国道58号線に出て、スタートした方向にフィニッシュする。

2023年は終日雨のレース。登りに入っても本降りのまま体温を奪っていった photo:Makoto AYANO

レース当日の天候は2日前現在で「曇り」予報。前日まで降り続く雨が止むかはわからないが、コースにはウェットな箇所が残るに違いなく、滑りやすい沖縄独特の路面には注意が必要になる。日中の気温は25°以上の予報で低くはないが、雨になれば体感温度の低さから消耗戦になるだろう。

普久川ダム頂上の給水ポイントを通過 photo:Makoto AYANO

もっとも昨年は気温が15°程度にまで下がり、南国・沖縄とは思えないほどの低気温から冷えと寒さでリタイアに追い込まれた選手が続出。低体温症に陥った選手も出るほどの過酷なレースとなった。落車も多く、雨対策とともに寒さ耐性が勝負を分ける要因になった。昨年に通算8勝目を挙げることを目論んだ”ミスターツール・ド・おきなわ” 高岡亮寛(Roppongi Express)も冷えから身体が動かず、中盤で遅れることになったのだ。

■井上亮の連覇か、高岡亮寛のリベンジか 群雄割拠の市民200km

中里仁を振り切った真鍋晃(EMU SPEED CLUB)と井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Makoto AYANO

昨年の優勝者は井上亮(Magellan Systems Japan)。羽地の登りで3人に絞り込んだ先頭グループからアタックし、番越トンネル手前から独走でフィニッシュへ。参加10年目にして切望してきた栄冠を掴んだ。トライアスロンなども楽しむ医師アスリートの井上だが、今シーズンも例年同様ほとんどロードレースには姿を見せず、おきなわだけに勝負を賭ける。井上は現在の調子と抱負、レースの展望を次のように語る。

羽地の登りで抜け出して独走、市民200kmレースを制した井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Makoto AYANO

「今年も沖縄の地へ来れたことを嬉しく思います。昨年は悲願の市民200km優勝を果たしました。まさに人生の一つの大きな目標であったからか、冬〜春にかけて燃え尽き症候群のような状態となり非常に苦しみました。7月にトライアスロンに出場するもコンディションは上がらず低調な状態でしたが、夏頃におきなわ連覇を目指そうと自転車に集中し始めてからは徐々に心身共に戻ってきて、結果的にはかつてないほど充実した練習が積めたと自負しています。

市民レース200km優勝 井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Satoru Kato

とはいえ、今年も多くの猛者たちがこのレースでの栄冠を目標として激しいトレーニングを積んできており、厳しいレースとなることは間違いないでしょう。今年は強力なヒルクライマーが多数参戦するようで、彼らと戦えることも非常に楽しみにしていますが、やはりレースの中心となるのはグランフォンド世界王者となった高岡さんでしょう。昨年自分が優勝して、このレースを幾度も勝利してきた王者の偉大さがよくわかりました。何年も高いモチベーションを保ち続け、こんなことをやり続けてきたんだな、と。

勝てることがないだろうと思っていた高岡亮寛さんが祝福してくれた photo:Makoto AYANO

10年前にこのレースに出始めてから高岡さんの背中を追い続けてきた、その気持ちは今も変わりません。直前でどんな調子であろうが、このレースには確実に合わせてくるのが王者です。今年も全盛期のトップコンディションで我々の前に立ちはだかると想定しており、私はチャレンジャーとして全力で挑み、熱い闘いができることを楽しみにしています」。

肩をぶつけ合って羽地を登る井上亮(Magellan Systems Japan)と真鍋晃(EMU SPEED CLUB) photo:Makoto AYANO

昨年2位はMt富士ヒルクライム2022覇者の真鍋晃(EMU SPEED CLUB)。今シーズンの真鍋はMt富士ヒルライム主催者選抜2位、乗鞍ヒルクライムのチャンピオンの部2位などヒルクライムレースでは安定してトップに居る。

真鍋は言う。「乗鞍以降は乗る量が減ってしまったが、体調はなんとか仕上がってきている(と思いたい)。今年のレースは実力がある選手が多く参加しているため休まらない展開になると思う。最後の登り勝負になりそうな気がする。目標はまずは安全に(落車等なく)完走すること。そのうえで優勝が出来たら最高だと思う」。

抜け出た井上亮と真鍋晃に追従しようとする中里仁(Rapha Cycling Club)ら photo:Makoto AYANO

昨年3位の中里仁(Rapha Cycling Club) もシーズン中の国内ロードレースにほぼ顔を見せなかったひとりだ。事前のコメントはとれなかったが、今年はツール・ド・おきなわ一本に絞ってトレーニングを積み、コンディションを狂わせる要因となる他のレースへの参戦を一切控えているという情報を得た。夏には與那嶺恵理のトレーニングパートナーとしてパリ五輪へも同行するなど、特別なシーズンを過ごしての参戦となる。

「学校坂」でのハイペースに遅れだした高岡亮寛(Roppongi Express) photo:Makoto AYANO

そして昨年は9分27秒遅れの18位に終わったものの、誰もが優勝候補として名を挙げるのが高岡亮寛(Roppongi Express)だ。今年はデンマークで開催されたグランフォンド世界選手権で年代別優勝、ツール・ド・ふくしま総合優勝、そしてアメリカ開催のグラベル最高峰イベント、アンバウンド・グラベルでも年代別で優勝するなど「最強ホビーレーサー」を裏付ける証拠に事欠かない。昨年は「2度目の3連覇」を逃したものの、47歳の高岡は8度目の勝利に真っ直ぐ挑む。

高岡は言う。「いつも通りです。井上亮君が大本命です。加藤大貴君と田中裕士君の走りは展開に大きく影響を及ぼすと思います。いつも通りに自分の力の100%を出せれば満足です」。

家族と一緒に記念撮影する140kmレースの覇者 小林亮(soleil de lest) photo:Satoru Kato

そして市民200kmへの初参戦ながらダークホースとして挙げたいのが昨年のおきなわ140kmレースの覇者である小林亮(soleil de lest)だ。今シーズンはニセコクラシック150km総合優勝、ツール・ド・ふくしま総合2位の結果がある。ふくしま第2ステージでは終盤に高岡と2人で抜け出して勝負に臨んだが、足を攣らせて2位に終わった。小林はスプリント力に勝るため、最後まで先頭グループに残れば勝機がぐっと上がる。

ツール・ド・ふくしまでは高岡とのマッチレースに持ち込んだ小林亮(soleil de lest)「勝機が見えた」が… photo:Satoru Kato

小林は言う。「少しレースから遠ざかっていましたが、夏にしっかりと走り込めました。ニセコや福島の時より○kg絞って挑める。これが吉と出るか凶と出るか?! 。例年より強豪クライマーがエントリーしているように思うので、登りに強い選手たちが普久川で動くと思う。そこに誰が乗っていくか? 難しい展開になりそうです。目標は、種目は違えど3連覇! 目指すは優勝です。ニセコと沖縄の両タイトルを獲った人は今までいない?と思うので、頑張ります!」。

ツール・ド・おきなわ市民レースは日曜日の朝6:45にスタートするUCI「チャンピオンレース」に続き各クラスが順次スタート。大会公式Youtubeチャンネルにて各クラスの模様がライブ配信される。シクロワイアードではオートバイ撮影2台体制で全クラスのレースを総力取材。結果速報やレースレポートでお伝えします。

昨年の上位入賞者たち

市民レース200km
1位 井上亮(Magellan Systems Japan)5:25:09.226
2位 真鍋晃(EMU SPEED CLUB)+0:23.304
3位 中里仁(Rapha Cycling Club)+0:23.795
4位 井上和郎(バルバサイクルレーシングチーム) +1:11.017
5位 小出樹(ロードレース男子部)+2:12.953
6位 皿谷宏人(エキップティラン)+2:21.398
7位 牧野郁斗(YURIFit Cycling TEAM)+2:21.752
8位 加藤優佑(どすこい巡業沖縄場所)+2:30.872
9位 西谷亮(ACTIVIKE)+2:39.187
10位 市村直生(湾岸サイクリング・ユナイテッド)+3:32.233

市民レース140km オープン
1位 小林亮(soleil de lest)3:45:31.838
2位 佐藤駿(TRYCLE.ing/往来教)+0:01.472
3位 康寿成(TRYCLE.ing) +0:02.658
4位 菊川実紀 +0:04.860
5位 石橋利晃(湾岸サイクリング・ユナイテッド)+0:04.890
6位 山下大輔(アール技研工業)+0:05.469

市民レース140kmマスターズ優勝 左迫間昭一(チームGINRIN熊本) photo:Satoru Kato

市民レース140km マスターズ
1位 左迫間昭一(チームGINRIN熊本)3:53:53.123
2位 井上健志(チームGINRIN熊本)+0:00.213
3位 横山隆司(セレクシオンHKD)+0:00.235
4位 猶原聡(竹芝サイクルレーシング) +0:01.056
6位 矢野淳二(ビワイチ会 嫁ラブ) +0:01.533

市民レース100kmオープン優勝 深澤陽介(soleil de l′est) photo:Satoru Kato

市民レース100km オープン
1位 深澤陽介(soleil de l′est)2:44:54.508
2位 井上幸洋(北中城高校自転車競技部) +0:53.244
3位 Miguel Mun wa Kok+0:55.916
4位 畑祐太郎(SSOL)+0:56.176
5位 柘植洋一(Team DADDY)+0:57.033
6位 税所蓮(バルバレーシングクラブハクサン) +0:58.755

市民レース100kmマスターズ 井上善裕(INOUE RACING CYCLE) photo:Satoru Kato

市民レース100km マスターズ
1位 井上善裕(INOUE RACING CYCLE)2:51:16.583
2位 栗山和之(soleil de l'est) +0:02.956
3位 東智博 +2:09.052
4位 中前元久(バルバサイクルレーシングチーム)+2:09.146
5位 波片鉄平(CR3W) +2:09.653
6位 藤木智範(TEAM ZERO UNO FRONTIER)+2:10.554

市民レース50kmオープン優勝 中川由人(SBC Vertex Racing Team) photo:Satoru Kato

市民レース50km オープン
1位 中川由人(SBC Vertex Racing Team)1:13:30.645
2位 石井雄悟(MASxSAURUS)+0:00.712
3位 鳥海和希(MAVERICK)+0:27.114
4位 前川広大(ElecTFew Cycling) +0:27.778
5位 新城銀二(沖縄輪業): +0:32.433
6位 佐々木年史 +0:34.869

市民レース50kmフォーティー優勝 山本耕平(ARCCレーシングチーム) photo:Satoru Kato

市民レース50km フォーティー
1位 山本耕平(ARCCレーシングチーム)1:17:21.693
2位 堀江亮(まいぺーす)+2:13.934
3位 田中龍太朗(TeamZenko)+2:14.267
4位 渡部雅友(おーばーどぅーいんぐ) +2:14.388
5位 安藤貴史(鷹組)+2:14.639
6位 阿南大介(内房レーシングクラブ)+2:14.651

市民レース50kmフィフティー優勝 宮崎直樹(チームWADA) photo:Satoru Kato

市民レース50km フィフティー
1位 宮崎直樹(チームWADA)1:21:35.541
2位 内村豪(鹿屋サイクリングクラブ)+0:00.306
3位 藤元秀樹(comsat)+0:00.982
4位 堀浩之(バルバレーシングクラブカナザワ+0:01.020
5位 重田一義(ARCCレーシングチーム)+0:01.192
6位 深谷英治(Teamまんま) +0:01.201

市民レース50kmオーバー60 独走勝利した小野忠(パインヒルズ90) photo:Makoto AYANO

市民レース50km オーバー60
1位 小野忠(パインヒルズ90)1:22:15.197
2位 高橋信宏(team APEX) +2:47.304
3位 木山智(Team ARI/JETT)+2:47.869
4位 福島雄二(ベステックス)+2:48.067
5位 佐藤修(BLAU RERA)+2:48.102
6位 茅木孝(内房レーシングクラブ)+2:48.253

市民レディースレース50km優勝 市村愛(セマスR新松戸) photo:Satoru Kato

市民レディースレース50km
1位 市村愛(セマスR新松戸)1:31:18.339
2位 南芙美子(TeamZenko)+0:00.121
3位 河野愛佳(バルバレーシングクラブトヤマ)+0:00.122
4位白崎美由紀(バルバレーシングクラブフクイ)+0:00.346
5位 近藤ゆみ +0:00.500
6位 佐倉あゆみ(Team Kermis Cross)+0:00.619

中学生レース50km
1位 中川恵太(SccTeam)1:17:24.375
2位 佐野凌麻(ORCA CYCLING TEAM)+4:42.990
3位 福地大和(OUTDOORLIFE Racing) +4:44.343

チャレンジレース50Km オープン
1位 小菅清二+Top : 0:00.000
2位 山崎崇貴(ハンブル)+1:51.778
3位 大城開偉(興南高校)+3:06.939

チャレンジレース50Km フォーティー
1位 中村孝一(TEAM KIDS)1:31:57.940
2位 伊藤司(TEAM APEX)+1:25.442
3位 北本司(Team FORTUNA BRM)+1:46.431

チャレンジレース50Km オーバー50
1位 木下博文1:30:43.918
2位 柏葉光宏+3:24.483
3位 仲原英久+3:26.597

小学生レース10km
1位 LeungKwun-Dik Jeremy(Invis Cycling)0:14:38.650
2位 佐野将麻(ORCA CYCLING TEAM)+0:01.151
3位 山﨑悠大(宇陀サイクルレーシング)+0:22.470

text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO, Satoru Kato

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