2022/10/10(月) - 16:32
長野県木曽郡を舞台とする新生ロングライドイベント「木曽おんたけグランフォンド」が10/2(日)に初開催を迎えた。略してKOGF、魅力的な長野のサイクルイベントに新たな1ページが加わることとなる。実走レポートと共に、木曽郡の素晴らしいサイクリング環境を紹介しよう。
本イベントは、東京五輪MTBチームの強化合宿をここ木曽で行ったことに端を発する。その恵まれた走行環境、冷涼な気候、そして御嶽山の織りなす絶景ルートを一般サイクリストにも広めるべく、プロジェクトが始動。8月に催された少人数のテストイベントを経て、このたび第1回開催にこぎつけた。
木曽郡は長野県南方に位置し、自転車通の読者には乗鞍や王滝の近く、といえばイメージしやすいだろう。木曽福島といえば、かつて京都と江戸を結んだ中山道「木曽路」のうち、ちょうど中腹にあたる伝統ある宿場町だ。現在はラフティング、登山、渓流釣り、そしてキャンプなど、山遊びを丸ごと詰め込んだフィールドとして人々を魅了している。
サイクリングという文脈において木曽は未だ知名度こそ低いものの、プロデューサーを務める鈴木雷太氏が太鼓判を押す絶好のロケーション。ましてや山岳王国の長野、魅力的なコースであることは約束されたようなものだ。期待に胸を膨らませつつ、あずさ5号経由で木曽福島を目指した。
スタート/ゴール会場は、百草丸の製造元である「日野百草本舗王滝店」。最寄駅はJR木曽福島駅、自走だと上り基調で13kmほどかかるため、クルマ利用が無難だ。早朝のきりりとした空気の下、長野に馴染みの深いサイクリスト達が集結。標高850mのスタート地点、朝の気温は10度前半を刻む高所だが、朝靄が晴れるやいなやカラッとした空気が清々しいほどの好天を見た。
さて、イベントのコースプロフィールをおさらいしよう。
参加カテゴリーは1つのみで、公開されたルートは距離95km / 獲得標高2,300m。制限時間は7時~15時までの8時間。ルートデータは、大会公式HPからRideWithGPSへとアクセスできる。
95kmで獲得2,000m以上と聞けば、登りの濃縮ぶりに尻込みする方もいるかもしれない。事実、ピュアビギナーには気軽にオススメすることを憚られる骨太コースだったが、充実のエイドとサポートカーの存在が完走を後押ししてくれる。10km以上のヒルクライム経験、100km以上のロングライドを完走できる中級者クラスに、是非チャレンジしてほしい位の難易度だ。
会場には、出展ブースおよびサポートカーを担うべくマビックが駆けつけた。前日エントリーの傍ら、ホイール試乗も行っていたようだ。開会の挨拶も早々に、防寒着に身を包んだサイクリストがコースへと繰り出していった。
木曽の道は綺麗だ。それは、舗装が行き届いているという意味と、どこを切り取っても絶景という意味でだ。片側通行の工事箇所を除いて、信号は3回しか登場しない。日曜日開催ながら交通量も少なく、走りやすさしかないフィールドだ。朝靄のかかる、幻想的な山間道でウォーミングアップが捗る。
エイドは私設も含めると合計5ヶ所あり、どれも峠の手前でしっかり補給をすませることができる。木曽は味噌や漬物、日本酒など発酵製品作りが盛んで、コース沿いの「中善酒造店」で早速甘酒が登場するサプライズが。第1エイドではおにぎりときゅうりのお漬物が振る舞われ、シンプルながら豊かな木曽の食文化に親しめる。
KOGF最初の山場、地蔵峠。緑深い閑静な登りが延々と続き、ピークにはその名の通りお地蔵様が迎えてくれる、ありがたい(?)峠だ。ここで脚を使いすぎないよう、ペーシングには注意されたし。
地蔵峠の通過後に現れる第2エイド「彩菜館」で振る舞われる手打ちそばは、かけorざるを選べる本格派であった。続く九蔵峠は比較的小粒な登りで、開放的な視界の山岳路が続く。ピーク付近では、いよいよ御嶽山の雄姿を大写しに拝むことができる。
長峰峠を越えて岐阜県に突入すると、メインディッシュの御嶽山へ向けた10km/500mアップもの登りが始まる。富士ヒルクライムに似た緩斜面が続き、景色もどことなく似ている。御嶽山と聞いて火山活動を思い浮かべる方もいるかもしれないが、古くから信仰を集める霊山としての側面もある。パワースポットを目指して登るとなれば、なんともご利益に恵まれそうな気がしてくる。
参加時のバイクについてだが、やはりヒルクライム比重が高いがゆえ、コンパクトクランクまたはローギア30T以上を準備したくなる。全行程で斜度15%を刻むような無慈悲な激坂は無いが、不安を覚える場合はワイドレシオという保険を検討するべきだろう。そして長いダウンヒル区間で、ディスクブレーキの制動力が活躍することは言うまでもない。
60km地点の第3エイド「飛騨御嶽尚子ボルダーロード石碑」まで辿り着けば、そこは標高1,800mの高地。右手に乗鞍岳、左手に御嶽山を望む絶景スポットが開け、その眺望はKOGFならではと言いたい。イベント当日は雲ひとつない快晴で、地元の方曰くここまでの晴天は運がいいとのこと。エイドで栗子餅、味噌おにぎり、おおびら(具沢山の汁物)、お漬物をいただき、参加者同士で長いヒルクライムを労った。
折り返し後はゆるやかなアップダウンこそあれど、ほぼ下り基調で進む。ご褒美のダウンヒルパートで脚を取り戻しつつ第4エイドを目指すが、すすきの美しい平原や、川のせせらぎを横目にみるみる距離を消化していく。
最終エイドのホテル木曽温泉黄金の湯まで下れば、ゴールまで残り15km。グランピングやテントサウナが楽しめる施設で、イベント参加時はこちらに宿泊が大正解。前日に登山やアウトドアを楽しんだ参加者もいたそうで、サイクリング以外のアクティビティに目を向けるきっかけになるだろう。
絶景に目が慣れ、脚に疲れが見えてきた頃合いで、最後のひと登りをこなしてゴールの日野百草本舗へ。完走のご褒美は味わい深い甘味のパリブレストと、香り高い入浴剤のセットが待っている。ゴール関門15時に対して、全参加者が30分以上もの余裕をもって無事完走を果たしていた。
ロングライド後の一番、日本人とは切っても切れない温泉だが、木曽エリアにおいては心配無用。会場周辺、そして福島宿には日帰り温泉が充実し、気持ちよく汗を流して帰路につけるだろう。いや、心地よい疲労に任せてもう一泊、温泉と地酒を楽しんで翌日帰ってもいいくらいの勢いだ。ライドのみ楽しんで帰宅するには、あまりにも惜しい場所なのだから。
結びに、KOGFのプロデューサー鈴木雷太氏の言葉を引用しよう。
「知らないとただの秘密の場所。今はまだ、サイクリストが木曽を知らない」
参加者の笑顔あふれる穏やかなムードを見るに、KOGFは第1回にして大成功のイベントだった。それすなわち、アルプスあづみのセンチュリーライドや八ヶ岳グランフォンドに並ぶ、長野県の新たな山岳系ロングライドがここに始動したと言えよう。早くも第2回開催へ向けて動いており、2023年はより天候の安定した7月決行で検討を進めているそうだ。
素晴らしいサイクリングスポットを幾多も抱える長野県だが、木曽はまだまだ穴場かもしれない。このKOGFを皮切りに、日常的に木曽エリアを訪れるサイクリストが増えることを期待したい。トレーニングの合宿地として、サイクリング+αを満たすアウトドアフィールドとして、はたまた中山道を往く旅の中継地点として。サイクリングの秋、遠征先リストにぜひ木曽を加えてみてはいかがだろうか。
text&photo:Ryota Nakatani
本イベントは、東京五輪MTBチームの強化合宿をここ木曽で行ったことに端を発する。その恵まれた走行環境、冷涼な気候、そして御嶽山の織りなす絶景ルートを一般サイクリストにも広めるべく、プロジェクトが始動。8月に催された少人数のテストイベントを経て、このたび第1回開催にこぎつけた。
木曽郡は長野県南方に位置し、自転車通の読者には乗鞍や王滝の近く、といえばイメージしやすいだろう。木曽福島といえば、かつて京都と江戸を結んだ中山道「木曽路」のうち、ちょうど中腹にあたる伝統ある宿場町だ。現在はラフティング、登山、渓流釣り、そしてキャンプなど、山遊びを丸ごと詰め込んだフィールドとして人々を魅了している。
サイクリングという文脈において木曽は未だ知名度こそ低いものの、プロデューサーを務める鈴木雷太氏が太鼓判を押す絶好のロケーション。ましてや山岳王国の長野、魅力的なコースであることは約束されたようなものだ。期待に胸を膨らませつつ、あずさ5号経由で木曽福島を目指した。
スタート/ゴール会場は、百草丸の製造元である「日野百草本舗王滝店」。最寄駅はJR木曽福島駅、自走だと上り基調で13kmほどかかるため、クルマ利用が無難だ。早朝のきりりとした空気の下、長野に馴染みの深いサイクリスト達が集結。標高850mのスタート地点、朝の気温は10度前半を刻む高所だが、朝靄が晴れるやいなやカラッとした空気が清々しいほどの好天を見た。
さて、イベントのコースプロフィールをおさらいしよう。
参加カテゴリーは1つのみで、公開されたルートは距離95km / 獲得標高2,300m。制限時間は7時~15時までの8時間。ルートデータは、大会公式HPからRideWithGPSへとアクセスできる。
95kmで獲得2,000m以上と聞けば、登りの濃縮ぶりに尻込みする方もいるかもしれない。事実、ピュアビギナーには気軽にオススメすることを憚られる骨太コースだったが、充実のエイドとサポートカーの存在が完走を後押ししてくれる。10km以上のヒルクライム経験、100km以上のロングライドを完走できる中級者クラスに、是非チャレンジしてほしい位の難易度だ。
会場には、出展ブースおよびサポートカーを担うべくマビックが駆けつけた。前日エントリーの傍ら、ホイール試乗も行っていたようだ。開会の挨拶も早々に、防寒着に身を包んだサイクリストがコースへと繰り出していった。
木曽の道は綺麗だ。それは、舗装が行き届いているという意味と、どこを切り取っても絶景という意味でだ。片側通行の工事箇所を除いて、信号は3回しか登場しない。日曜日開催ながら交通量も少なく、走りやすさしかないフィールドだ。朝靄のかかる、幻想的な山間道でウォーミングアップが捗る。
エイドは私設も含めると合計5ヶ所あり、どれも峠の手前でしっかり補給をすませることができる。木曽は味噌や漬物、日本酒など発酵製品作りが盛んで、コース沿いの「中善酒造店」で早速甘酒が登場するサプライズが。第1エイドではおにぎりときゅうりのお漬物が振る舞われ、シンプルながら豊かな木曽の食文化に親しめる。
KOGF最初の山場、地蔵峠。緑深い閑静な登りが延々と続き、ピークにはその名の通りお地蔵様が迎えてくれる、ありがたい(?)峠だ。ここで脚を使いすぎないよう、ペーシングには注意されたし。
地蔵峠の通過後に現れる第2エイド「彩菜館」で振る舞われる手打ちそばは、かけorざるを選べる本格派であった。続く九蔵峠は比較的小粒な登りで、開放的な視界の山岳路が続く。ピーク付近では、いよいよ御嶽山の雄姿を大写しに拝むことができる。
長峰峠を越えて岐阜県に突入すると、メインディッシュの御嶽山へ向けた10km/500mアップもの登りが始まる。富士ヒルクライムに似た緩斜面が続き、景色もどことなく似ている。御嶽山と聞いて火山活動を思い浮かべる方もいるかもしれないが、古くから信仰を集める霊山としての側面もある。パワースポットを目指して登るとなれば、なんともご利益に恵まれそうな気がしてくる。
参加時のバイクについてだが、やはりヒルクライム比重が高いがゆえ、コンパクトクランクまたはローギア30T以上を準備したくなる。全行程で斜度15%を刻むような無慈悲な激坂は無いが、不安を覚える場合はワイドレシオという保険を検討するべきだろう。そして長いダウンヒル区間で、ディスクブレーキの制動力が活躍することは言うまでもない。
60km地点の第3エイド「飛騨御嶽尚子ボルダーロード石碑」まで辿り着けば、そこは標高1,800mの高地。右手に乗鞍岳、左手に御嶽山を望む絶景スポットが開け、その眺望はKOGFならではと言いたい。イベント当日は雲ひとつない快晴で、地元の方曰くここまでの晴天は運がいいとのこと。エイドで栗子餅、味噌おにぎり、おおびら(具沢山の汁物)、お漬物をいただき、参加者同士で長いヒルクライムを労った。
折り返し後はゆるやかなアップダウンこそあれど、ほぼ下り基調で進む。ご褒美のダウンヒルパートで脚を取り戻しつつ第4エイドを目指すが、すすきの美しい平原や、川のせせらぎを横目にみるみる距離を消化していく。
最終エイドのホテル木曽温泉黄金の湯まで下れば、ゴールまで残り15km。グランピングやテントサウナが楽しめる施設で、イベント参加時はこちらに宿泊が大正解。前日に登山やアウトドアを楽しんだ参加者もいたそうで、サイクリング以外のアクティビティに目を向けるきっかけになるだろう。
絶景に目が慣れ、脚に疲れが見えてきた頃合いで、最後のひと登りをこなしてゴールの日野百草本舗へ。完走のご褒美は味わい深い甘味のパリブレストと、香り高い入浴剤のセットが待っている。ゴール関門15時に対して、全参加者が30分以上もの余裕をもって無事完走を果たしていた。
ロングライド後の一番、日本人とは切っても切れない温泉だが、木曽エリアにおいては心配無用。会場周辺、そして福島宿には日帰り温泉が充実し、気持ちよく汗を流して帰路につけるだろう。いや、心地よい疲労に任せてもう一泊、温泉と地酒を楽しんで翌日帰ってもいいくらいの勢いだ。ライドのみ楽しんで帰宅するには、あまりにも惜しい場所なのだから。
結びに、KOGFのプロデューサー鈴木雷太氏の言葉を引用しよう。
「知らないとただの秘密の場所。今はまだ、サイクリストが木曽を知らない」
参加者の笑顔あふれる穏やかなムードを見るに、KOGFは第1回にして大成功のイベントだった。それすなわち、アルプスあづみのセンチュリーライドや八ヶ岳グランフォンドに並ぶ、長野県の新たな山岳系ロングライドがここに始動したと言えよう。早くも第2回開催へ向けて動いており、2023年はより天候の安定した7月決行で検討を進めているそうだ。
素晴らしいサイクリングスポットを幾多も抱える長野県だが、木曽はまだまだ穴場かもしれない。このKOGFを皮切りに、日常的に木曽エリアを訪れるサイクリストが増えることを期待したい。トレーニングの合宿地として、サイクリング+αを満たすアウトドアフィールドとして、はたまた中山道を往く旅の中継地点として。サイクリングの秋、遠征先リストにぜひ木曽を加えてみてはいかがだろうか。
text&photo:Ryota Nakatani
フォトギャラリー
リンク
Amazon.co.jp