スペシャライズドCPO

スポーツバイクの中古車って、どんなイメージだろうか？どんな扱い方をされたかもわからない自転車をイチかバチかで個人売買する、というのが2024年現在の大半の中古スポーツバイク事情なのではないだろうか。見る目が問われるといえば聞こえは良いけれど、判断材料は数枚の写真と真偽不明の商品説明、そして過去の出品者への評価のみ。実物も無しに鑑定しろと言われれば、目利きであればあるほど仕事を断るだろう。それでも憧れのバイクが手の届く値段で手に入るとあれば、信じて飛び込むのもまた人情。

しかし、少し考えてみれば自動車や自動二輪の世界では中古車市場がしっかりあって、安心して中古車を購入できる環境が整っている。その中でも特に信頼性を重視する人に選ばれているのが、新車購入とほぼ変わらない安心感で中古車を購入できる「メーカー認定中古車」という形態だ。

年式や走行距離などある一定の基準を満たした中古車を対象に、メーカーならではの厳格な品質検査と整備を行い、保証を付与して販売するメーカー認定中古車は、中古車ならではの販売価格と新車購入並みの安心感を両立する存在として、多くのユーザーのニーズを満たしている。

「Certified Pre-Owned＝CPO」 メーカー認定中古車という概念が、ついにスポーツバイクの世界にもやってきた。日本初の取り組みの舞台となるのが、西新宿にある「スペシャライズドCPO」だ。青梅街道から少し入った路地にあるインダストリアルなイメージの店舗の奥には、大きな赤い"S"のロゴが見える。店内にはスペシャライズドの誇るハイエンドグレード"S-WORKS"シリーズのバイクを筆頭に、ロード、グラベル、MTBやE-BIKEが並ぶ。

なんだか高級車ディーラーのようだな、という印象はきっと贅沢に空間を使ったレイアウトによるものだろう。陳列されているのは厳選された10台前後のバイクたちのみ。そのどれもがピカピカと輝いていて、ここが中古車専門店であると知らなければ箱出しの新車だと思ってしまいそうなほど。なんとなれば、バイクとホイール以外にはカウンターしかないのだから、一般的なバイクショップよりもミニマルでむしろショールームのような雰囲気である。

取材したタイミングでは、ペーター・サガンのシグネチャーカラーのS-WORKS TARMAC SL7が中央に鎮座しており、今この時期に新車で販売されるはずがないだろうという理解が追い付いたことで、やっと並べられているバイクが中古車であるという実感が持てた。そう、スペシャライズドCPOに用意されているのは、それほどのクオリティのバイクたちなのだ。

「とにかくバイクの品質にはこだわっています」と、胸を張るのは執行役員を務める阿藻さん。スペシャライズドCPOで取り扱われるバイクは、販売から5年以内のモデルかつ、20項目以上のメンテナンス・プログラムをクリアした車体のみとなっている。

最も気になるカーボンフレームやカーボンホイールの状態に関しては、まず目視であらゆる場所をチェック。キズなどがある場合にはオリンパス製の超音波探傷器を用いて検査し、安全上問題が無いかを確認する。これらの基準を満たしたもののみが認定中古車となり、1年間のメーカー保証が付帯した状態で販売されるのだ。

厳しい基準をクリアするためには、パーツ交換は当たり前。「私たちが提供するのは、完璧な状態に仕上げたバイクだけです。「特にバーテープやブラケットフードなど、身体に触れるパーツは出来るだけ新しくしています。少しでも怪しいパーツは取り換えて、新車とほぼ変わらない状態まで整備したものが、我々の認定中古車なんです」という。

その為にかけられているコストは非常に多く、物理的な部品コストはもちろん、メンテナンス作業に係る時間的なコストも新車組立とは比べ物にならないという。実際に作業を見学させてもらったが、目視確認一つとっても、表面の歪みが見やすいように照明を当てつつ、あらゆる面から舐めるように観察。安全に直結するブレーキ回りの整備も、少し音鳴りがすればパッドを交換し、ローターを洗浄するなど、その作業内容は丁寧かつ徹底的だ。

一台一台コンディションが異なる中古車にメーカー保証を付けられるまでの品質を担保するためには、作業するメカニックにも中古車ならではの取り扱いに関する知識と経験が求められる。スペシャライズドCPOの在籍スタッフは、数多くのユーズドバイクの買い取りと整備に携わってきた経験を持っている。そして何よりも全員が自転車のことが大好きで、関わる自転車を最高の状態に仕上げたいという「自転車愛」に満ちたスタッフが揃っている。

そんな精鋭スタッフたちは皆、スペシャライズドの実施する技術研修を受け、同社のバイクならではのノウハウにも精通した証である資格を取得。その上、日々数多くのスペシャライズドバイクを手掛ける中で得たフィードバックにより、更にその精度は高まっている。

また、来店時には事前予約が必要なのもスペシャライズドCPOの特徴だ。「しっかり一人一人のお客様に対応させていただくために事前予約制にしています。」とはストアマネージャーを務める芳中さん。そして、バイクのクオリティを高めることにも一役買っているという。

「事前予約制にすることで、整備作業に集中できる時間も確保できるんです。新車に比べるとどうしても手がかかることが多く、中にはオーバーホールに近い作業を行うこともありますね」と芳中さん。完全予約制と言われると、ハードルが高く感じてしまう方もいるかもしれない。ただ、自分の為にスタッフが時間を確保して対応してくれるということ、そして職人肌のメカニックが納得いくまで整備されたバイクを手にすることが出来るという2つのメリットは、そんなちょっとしたハードルを吹き飛ばして余りあるはずだ。

スぺシャライズドCPOの魅力はお買い得なバイクだけではない。直近5年間に発売されていたスペシャライズドバイクであれば、既に廃盤となった人気モデルや、数量限定で販売された特別カラーモデルなど、新車購入が不可能なバイクと出会える可能性がある。当時憧れていたバイク、手が出なかった一台に再び出会い、自分のもとに迎えられるのはユーズドバイクの醍醐味といえるだろう。スぺシャライズドCPOでは、特に人気が予想される限定モデルなどが入荷した際は抽選販売となる。

そして、店頭に並べられているバイクは、多くの在庫のごく一部。常にオフィシャルページに在庫状況が掲載されているため、気になるバイクを見つけた方は予約時に伝えておけば、お目当てのバイクを準備しておいてもらえる。

もちろん中古車という商品の性質上、欲しいモデルの欲しいカラー、そして自分にフィットするサイズが在庫されているかは運次第。ただもしピッタリの一台があれば、お買い得であることは間違いない。それは1日取材する中で一台のバイクに掛けられる手間暇を見た私には確信できる。

高価格化が進む現在のスポーツバイクにおいて、中古車市場の拡大は不可避だろう。その中で、中古車＝自己責任という旧来の概念を打ち崩し、憧れのバイクをグッと身近にしてくれる認定中古車。ファーストオーナーであることにこだわりが無く、より上質なサイクリングを楽しみたい、レースで成績を残したいという人にとって、有力な選択肢となるはずだ。

そして、スぺシャライズドCPOは新車に迫る品質と安全性を担保しながら、よりリーズナブルな価格で憧れのバイクを手に入れられる「認定中古車」という新たな分野の開拓者として、大きな役割を果たしていくだろう。