2022/07/19(火) - 18:09
近年注目のトップ女性サイクリストを紹介していく連載の一旦ここでひと区切り。最後に登場してもらうのは、現在女子プロトンで最強のオールラウンダーと呼んで異論はないアネミエク・ファンフルーテン。現在39歳。だがどの若手選手よりも、強い。
アネミエク・ファンフルーテン(オランダ、モビスター)
タイプ:オールラウンダーofオールラウンダー
主な戦績:世界選手権ロード2019、世界選手権個人TT2018・2017、ジロ・ドンネ総合優勝2018・2019・2022、ロンド・ファン・フラーンデレン2011・2021、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019・2022、東京五輪個人タイムトライアル金メダル、他多数
Instagram : @annemiekvanvleuten
Twitter : @AvVleuten
女子最強選手の進化は止まらない
現役選手のうちで、ファンフルーテンのキャリアをしのぐ選手は、file.2で紹介したマリアンヌ・フォス(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)しかいない。しかしこの5〜6年の戦歴でいうと、間違いなく彼女がトップクラスである。それだけ勝ち星の多い選手であるので、細かに戦績を挙げることはしないが、ただその強さだけではなく、狙ったレースでは必ず自ら動くアグレッシブなレーススタイルこそ、彼女の魅力である。
そう、「必ず」なのである。無尽蔵かと感嘆したくなるほどアタックを繰り返し、独走に持ち込むその走りは観るものを魅了する。無駄足を使わされることも多いが、それでも果敢に攻めた結果2位に終わることも少なくない。しかし、それでも毎回全力を出し切ったと清々しい彼女の佇まいは、すべての現役選手の見本となるものだ、と個人的には思う。
脚質はオールラウンダー。強いて言えば軽量級の選手のためスプリント力には劣るが、それを補ってあまりある登坂でのパンチ力と、過去に個人TTの世界チャンピオンに2度輝いた独走力が持ち味。独走優勝を飾った2020年のストラーデビアンケでは、ラスト25kmの時速が、男子レースを含めても3番目に速いタイムだったことも話題になった。大半の男子選手よりも速く、あの登り基調のファイナルを駆け抜けたわけだ。
あまりに圧倒的な強さは、アンナ・ファンデルブレッヘンとのライバル対決として女子プロトンを大いに盛り上げてきた。2020年の世界選手権前にファンフルーテンが腕を骨折したことで、ファンデルブレッヘンが単独エースになると目されたが、怪我を押して出場。ライバル不在のファンデルブレッヘンが優勝を果たすと、2位グループのスプリントではファンフルーテンが制し2位に。同国のチームメイトだが、揃って突出した強さであることを印象づけた。
優勝候補の筆頭として臨んだ東京五輪ロードレースではしかしオランダーチームの意思疎通が勝敗を分けた。単独で逃げていたアンナ・キーゼンホッファーの存在を認識していなかったファンフルーテンが最終局面でトレードマークの攻撃に出て独走。フィニッシュラインで高々と両手を挙げてみせたが、その数分後、2位であることを告げられ涙した。五輪という舞台での前代未聞の出来事に会場は騒然となった。
しかしそれで終わらないのがファンフルーテン。個人タイムトライアルでは完璧な走りで金メダル獲得。最強国オランダの面子も保たれた。
チームミーティングで「プランBはない。とにかく全力で」と姉御肌も見せる。サッカー出身というバックボーンを持ち、男子選手と積極的に練習を行うなど、どこか既存の女子レーサーの枠から外れているような、規格外の選手という印象が強い。しかし勝負にこだわるその姿勢と、積極性、走りの切れ味は39歳の現在も衰えるどころか、さらに磨きがかかっている。
一方で、落車が多いことが気がかりだ。少ない弱点として、バイクコントロールのスキルに関しては、シクロクロスを経験している他のオランダ選手と比べて低いと言わざるを得ない。落車をしての戦線離脱も多く、その点がウィークポイントでもある。2023年末での現役引退を表明した彼女にとって、残された時間も多くない。なおも貪欲に勝利を求め続ける彼女が狙うのは、もちろんツール・ド・フランスのマイヨジョーヌである。
ファンフルーテンの2022年シーズンここまで
シーズン初戦のバレンシアナでステージ優勝と総合優勝。速くもその強さを見せつけるシーズンインとなった。北のクラシックも、オンループ・ヘットニュースブラッドでは終盤ツキイチに徹したデミ・フォレリング(オランダ、SDワークス)を意に介せず、そのままマッチスプリントでねじ伏せるという圧倒ぶり。一方で今季SDワークスに移籍したロッタ・コペッキーには苦しめられ、ストラーデビアンケで一騎打ちに敗れ2位、ロンドでもコペッキーとシャンタル・ブラーク(オランダ、SDワークス)のコンビに翻弄されての2位。常に苦境を打破してきたファンフルーテンだが、コペッキーのスピードと、SDワークスのチーム力には手を焼いた。
しかし続くアルデンヌクラシックではアムステルで4位、フレーシュ・ワロンヌで2位と徐々に順位を挙げ、大一番のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではトレードマークの独走に持ち込んで2019年以来の2勝目を飾った。
ワールドツアーチームも増え、各チームが選手のレベル向上と組織的な走りを行うようになり、ファンフルーテンも独力での打開が難しくなってきた。しかしモビスターも近年補強を積極的に行っており、アルレニス・シエラ(キューバ)、サラ・ジガンテ(オーストラリア)、レア・トーマス(アメリカ)といった選手たちを採用。ファンフルーテンのサポート体制も整えている。
先日終幕したジロ・ドンネではステージ2勝を挙げて総合優勝。これでキャリア3度目のジロ制覇となった。マリア・ローザを着ながら下りで落車するなど、あわや、というシーンも見られたが、その登坂力は他選手に対し一歩以上抜きん出ている印象。ツール・ド・フランスでのマイヨジョーヌ獲得に向けて、準備は万全といったところだろう。
アネミエク・ファンフルーテン(オランダ、モビスター)
タイプ:オールラウンダーofオールラウンダー
主な戦績:世界選手権ロード2019、世界選手権個人TT2018・2017、ジロ・ドンネ総合優勝2018・2019・2022、ロンド・ファン・フラーンデレン2011・2021、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019・2022、東京五輪個人タイムトライアル金メダル、他多数
Instagram : @annemiekvanvleuten
Twitter : @AvVleuten
女子最強選手の進化は止まらない
現役選手のうちで、ファンフルーテンのキャリアをしのぐ選手は、file.2で紹介したマリアンヌ・フォス(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)しかいない。しかしこの5〜6年の戦歴でいうと、間違いなく彼女がトップクラスである。それだけ勝ち星の多い選手であるので、細かに戦績を挙げることはしないが、ただその強さだけではなく、狙ったレースでは必ず自ら動くアグレッシブなレーススタイルこそ、彼女の魅力である。
そう、「必ず」なのである。無尽蔵かと感嘆したくなるほどアタックを繰り返し、独走に持ち込むその走りは観るものを魅了する。無駄足を使わされることも多いが、それでも果敢に攻めた結果2位に終わることも少なくない。しかし、それでも毎回全力を出し切ったと清々しい彼女の佇まいは、すべての現役選手の見本となるものだ、と個人的には思う。
脚質はオールラウンダー。強いて言えば軽量級の選手のためスプリント力には劣るが、それを補ってあまりある登坂でのパンチ力と、過去に個人TTの世界チャンピオンに2度輝いた独走力が持ち味。独走優勝を飾った2020年のストラーデビアンケでは、ラスト25kmの時速が、男子レースを含めても3番目に速いタイムだったことも話題になった。大半の男子選手よりも速く、あの登り基調のファイナルを駆け抜けたわけだ。
あまりに圧倒的な強さは、アンナ・ファンデルブレッヘンとのライバル対決として女子プロトンを大いに盛り上げてきた。2020年の世界選手権前にファンフルーテンが腕を骨折したことで、ファンデルブレッヘンが単独エースになると目されたが、怪我を押して出場。ライバル不在のファンデルブレッヘンが優勝を果たすと、2位グループのスプリントではファンフルーテンが制し2位に。同国のチームメイトだが、揃って突出した強さであることを印象づけた。
優勝候補の筆頭として臨んだ東京五輪ロードレースではしかしオランダーチームの意思疎通が勝敗を分けた。単独で逃げていたアンナ・キーゼンホッファーの存在を認識していなかったファンフルーテンが最終局面でトレードマークの攻撃に出て独走。フィニッシュラインで高々と両手を挙げてみせたが、その数分後、2位であることを告げられ涙した。五輪という舞台での前代未聞の出来事に会場は騒然となった。
しかしそれで終わらないのがファンフルーテン。個人タイムトライアルでは完璧な走りで金メダル獲得。最強国オランダの面子も保たれた。
チームミーティングで「プランBはない。とにかく全力で」と姉御肌も見せる。サッカー出身というバックボーンを持ち、男子選手と積極的に練習を行うなど、どこか既存の女子レーサーの枠から外れているような、規格外の選手という印象が強い。しかし勝負にこだわるその姿勢と、積極性、走りの切れ味は39歳の現在も衰えるどころか、さらに磨きがかかっている。
一方で、落車が多いことが気がかりだ。少ない弱点として、バイクコントロールのスキルに関しては、シクロクロスを経験している他のオランダ選手と比べて低いと言わざるを得ない。落車をしての戦線離脱も多く、その点がウィークポイントでもある。2023年末での現役引退を表明した彼女にとって、残された時間も多くない。なおも貪欲に勝利を求め続ける彼女が狙うのは、もちろんツール・ド・フランスのマイヨジョーヌである。
ファンフルーテンの2022年シーズンここまで
シーズン初戦のバレンシアナでステージ優勝と総合優勝。速くもその強さを見せつけるシーズンインとなった。北のクラシックも、オンループ・ヘットニュースブラッドでは終盤ツキイチに徹したデミ・フォレリング(オランダ、SDワークス)を意に介せず、そのままマッチスプリントでねじ伏せるという圧倒ぶり。一方で今季SDワークスに移籍したロッタ・コペッキーには苦しめられ、ストラーデビアンケで一騎打ちに敗れ2位、ロンドでもコペッキーとシャンタル・ブラーク(オランダ、SDワークス)のコンビに翻弄されての2位。常に苦境を打破してきたファンフルーテンだが、コペッキーのスピードと、SDワークスのチーム力には手を焼いた。
しかし続くアルデンヌクラシックではアムステルで4位、フレーシュ・ワロンヌで2位と徐々に順位を挙げ、大一番のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではトレードマークの独走に持ち込んで2019年以来の2勝目を飾った。
ワールドツアーチームも増え、各チームが選手のレベル向上と組織的な走りを行うようになり、ファンフルーテンも独力での打開が難しくなってきた。しかしモビスターも近年補強を積極的に行っており、アルレニス・シエラ(キューバ)、サラ・ジガンテ(オーストラリア)、レア・トーマス(アメリカ)といった選手たちを採用。ファンフルーテンのサポート体制も整えている。
先日終幕したジロ・ドンネではステージ2勝を挙げて総合優勝。これでキャリア3度目のジロ制覇となった。マリア・ローザを着ながら下りで落車するなど、あわや、というシーンも見られたが、その登坂力は他選手に対し一歩以上抜きん出ている印象。ツール・ド・フランスでのマイヨジョーヌ獲得に向けて、準備は万全といったところだろう。
アネミエク・ファンフルーテン(オランダ、モビスター)
タイプ | 主な戦績 |
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オールラウンダーofオールラウンダー | 世界選手権ロード2019 |
世界選手権個人TT2018・2017 | |
ジロ・ドンネ総合優勝2018・2019・2022 | |
ロンド・ファン・フラーンデレン2011・2021 | |
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019・2022 | |
東京五輪個人タイムトライアル金メダル | |
他多数 |
text:Yufta Omata
photo:CorVos
photo:CorVos
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