2010/03/01(月) - 22:14
スタートを切ったツール・ド・ランカウイ2010。愛三工業レーシングにとっては、チームとして初参戦、そして今シーズンの初戦となる。区間勝利を狙うチームの初日の結果は? 現地からお送りします。
「明日はバイクに乗って取材していいわ」とツール・ド・ランカウイのプレス陣を管轄するシャロン女史から嬉しい提案をもらった昨夜。このシャロン女史、かなり有能な働き者で、各国のプレスの様々な要求を嫌な顔ひとつせずさばいていく。おまけに手際がいい。総じてランカウイのスタッフは親切で、面倒見がいい。
けれど、時間に関してはそこは「マレーシア時間」。8時にホテルを出るはずのプレスバスが出発したのは、8時45分。急がば回れ、という言葉もあることだし、じっと待つことにする。善は急げ、とも言うけれど…。
いよいよツール・ド・ランカウイが幕を開ける。愛三工業レーシングチームはシーズンのデビュー戦として、10日ほど前から現地入りしてじっくりと調整を続けてきた。スタートサインを終え、チームカーの前でスタートを待つ選手たちはほがらかな雰囲気。もっとギスギスしているかとも思ったけれど、そこは調整がうまく行っている証拠だろう、選手には笑みも見られる。
アジアで戦う愛三は、やはりアジアで知られているのだろう、多くのファンが選手たちに写真をせがむ。注目度の高さは、地元のTVメディアが取材にやってくるほど。今や何チャンネルで放送するのか、聞いておけばよかったと後悔。
ただ、ほがらかさの中にどこかピリッとした緊張感も肌を刺す。特に、西谷泰治の白い日本チャンピオンジャージからは集中と意志がみなぎっているのが感じられる。その意志を言葉にしてもらった。
西谷「ようやく念願かなってこのアジアで一番大きいレースに出場することができたので、なにかしらの成績、やはりステージ優勝を念頭に置いて頑張りたいですね。10日前に現地入りして、暑さにも体が慣れてきたし、チームのみんなも大きく体調を崩すことがなかったのでいい感じでレースを迎えることができたんじゃないかなと思っています」
チームが勝利を収めるためには統率と団結が不可欠になる。キャプテンとしてチームをまとめる役割を田中監督に期待される綾部勇成にとっても、個人の走りとチームの走りの両方を考えるレースになりそうだ。
綾部「チーム合宿がいいカタチでできて、マレーシアにも早く入ることができたので、体調はだいぶいいです。このレースでは、前半は逃げに乗っていく走りをしたいですね。もしうまくいかなかったら、チームはスプリントで勝負もできるので、後半はそれに備えて走りたいと思います。みんなをうまくまとめて、いい成績を出したいです」
選手たちのスタート10分前に、プレスモト(バイク)に乗る。パイロットはアジジというマレーシア人のナイスガイなのだが、なんとアジジ、日本語が堪能なのだ。こちらも変に恐縮して、「ヨロシクオネガイイタシマス」と丁重にあいさつをする。いざ出発。
コタ・バルの街の沿道には多くの観衆が詰めかけている。それが水着のお姉さんじゃなく、ヒジャブとよばれるヴェールを被った婦人たちなところが、マレーシアを感じさせる。彼のカトリックの長女と呼ばれるフランスでは、娘は肌を出したがり、このイスラム国家マレーシアでは隠したがる。「ツール・ド・」の後にくる名前が違うと、こんな違いがあったりする。
モトでコースを選手たちより先に走っていると、つくづく自転車レースは街から街へ、旅人のスポーツであることを実感する。街では人垣ができ、田舎道は閑散としている。平日ながら、多くの人たちがにゅっと首を突き出して、今か今かとプロトンの到着を待ちわびる。
それにしても、学校がとても多い。3kmおきくらいに威勢のいいちゃきちゃきの声援が飛ぶと思えば、そこは学校を過ぎている時なのである。プレスモトに声援を送ってくれるのは嬉しいけれど、「本物」はすごい迫力なんだぞ。ノドの無駄遣いはしないが吉だよ少年少女よ。
子どもとプロトン。絵になると決まっているシチュエーションを前にして、カメラを持つ者はシャッターの誘惑に抗えない。というわけで、多くのフォトグラファーが撮るであろうことを悟りながらもやっぱり、元気な子どもたちとプロトンが収まる写真を撮る。それはパリでエッフェル塔の写真を撮るのと同じくらいに、定番なのである。
一度写真を撮るために、バイクを降りて写真を撮る。そしてまたモトに乗って、今度はプロトンを後ろから抜き返さなくてはならない。これがチームカーの密集する後方からやらないといけないものだから、かなりパイロットは気を遣うところ。
それでも、この瞬間が一番走っている選手をよく見れる瞬間でもある。集団の中で愛三の選手たちの走りをじっくり(と言っても2、3秒なのだ)と見る。今日は3、4回ほどこの機会を得たが、愛三はチームとしてまとまって集団前方に常に位置していた。並みいるチームの中にあって、存在感を見せていることに、嬉しさと誇らしさを覚える。
レースはというと、序盤の断続的なアタック合戦から抜け出したピーター・マクドナルド(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)とラストラパトリア・ディナワン(インドネシア、ポリゴン・スウィート・ナイス)の2人が逃げる展開に。
2009年のオーストラリアチャンピオンにしてUCIオセアニアツアーリーダーのマクドナルド。ディナワンはよく食らいついたが、やがて離されてしまった。しかし格上の選手に果敢に戦うその姿勢は大きく評価されてしかるべきだろう。ちぎれて単独走行をしているディナワンの苦しそうな表情を見たから余計に感情移入していることもあるだろうが…。
もうひとりいい走りをしたアジア人ライダーがいる。地元マレーシアの、もはやスター選手と言っていいだろうアヌアル・マナン(クムサン・ジンセン・アジア)だ。中間スプリントを積極的に獲りにいき、3つのうちの2つをトップで通過し、ポイント賞を確定した。
新チームの初戦にいい結果をもたらしたマナン。この若く小柄なマレージアンスプリンターを、区間優勝の経験を持つベテラン福島晋一はどのように導いたのか、いまさらながら想像してみたくなる。
レース終盤になっても愛三が集団前方に陣取っている。ISD・ネーリが積極的にコントロールする集団の前方で、品川、別府、鈴木が西谷を囲うように走っている。この姿を見てゴールへ急いだ。愛三チームが良い形で機能している。
集団スプリントとなったゴールライン。望遠レンズの中に白い西谷の姿が見えた!がしかし、最後は飲み込まれ、両手を上げたのはマイケル・マシューズ(オーストラリア、チームジェイコ・スキンズ)。西谷とは逆サイドでスプリントした盛が20位、西谷は22位で初日を終えた。
ゴール後の愛三チームのもとへ。西谷がうつむいたまま微動だにしない。敗北の味をぐっと噛み殺している姿。悔しさが体中を支配する。チームが機能したからこそ、勝負できなかったことの悔しさと責任が重くエースにのしかかる。
西谷「今日は最後、みんなにスプリントを手伝ってもらったんですけど、自分は走れていないのか…力不足です。ダメでした。チームは初戦ということもあり、ナメられないためにも集団の前を取りました。自分たちのやるべきことがしっかりできたのはよかったと思います」
20位に入った盛。初戦を「チームとしても初めてのレースで、レース勘がつかみにくかったこともあると思います。でも初戦にしてはラインもしっかり組めたし、カタチができたので、あとは普段の実力を取り戻してしっかり走ればきっと結果は出ると思います。後半から(調子が)上がってくると思うので、今日はこれでいいと思います。足を使ってでも集団の前でレースを展開して、自分たちのやりたいことを周りにアピールできたので、これからです」と締めくくった。
明日も平坦基調のステージ。後半70kmは強風が予想される南シナ海沿岸を走るコースだ。今日よりも展開が読みにくいステージになるはずだ。今日の走りを明日のために。愛三のツール・ド・ランカウイはまだ始まったばかりだ。
愛三工業レーシングチームのホームページ内にツール・ド・ランカウイ2010特集サイトが特設されています。愛三の選手の戦いぶりはこちらでもご覧ください。
text&photo:Yufta Omata
「明日はバイクに乗って取材していいわ」とツール・ド・ランカウイのプレス陣を管轄するシャロン女史から嬉しい提案をもらった昨夜。このシャロン女史、かなり有能な働き者で、各国のプレスの様々な要求を嫌な顔ひとつせずさばいていく。おまけに手際がいい。総じてランカウイのスタッフは親切で、面倒見がいい。
けれど、時間に関してはそこは「マレーシア時間」。8時にホテルを出るはずのプレスバスが出発したのは、8時45分。急がば回れ、という言葉もあることだし、じっと待つことにする。善は急げ、とも言うけれど…。
いよいよツール・ド・ランカウイが幕を開ける。愛三工業レーシングチームはシーズンのデビュー戦として、10日ほど前から現地入りしてじっくりと調整を続けてきた。スタートサインを終え、チームカーの前でスタートを待つ選手たちはほがらかな雰囲気。もっとギスギスしているかとも思ったけれど、そこは調整がうまく行っている証拠だろう、選手には笑みも見られる。
アジアで戦う愛三は、やはりアジアで知られているのだろう、多くのファンが選手たちに写真をせがむ。注目度の高さは、地元のTVメディアが取材にやってくるほど。今や何チャンネルで放送するのか、聞いておけばよかったと後悔。
ただ、ほがらかさの中にどこかピリッとした緊張感も肌を刺す。特に、西谷泰治の白い日本チャンピオンジャージからは集中と意志がみなぎっているのが感じられる。その意志を言葉にしてもらった。
西谷「ようやく念願かなってこのアジアで一番大きいレースに出場することができたので、なにかしらの成績、やはりステージ優勝を念頭に置いて頑張りたいですね。10日前に現地入りして、暑さにも体が慣れてきたし、チームのみんなも大きく体調を崩すことがなかったのでいい感じでレースを迎えることができたんじゃないかなと思っています」
チームが勝利を収めるためには統率と団結が不可欠になる。キャプテンとしてチームをまとめる役割を田中監督に期待される綾部勇成にとっても、個人の走りとチームの走りの両方を考えるレースになりそうだ。
綾部「チーム合宿がいいカタチでできて、マレーシアにも早く入ることができたので、体調はだいぶいいです。このレースでは、前半は逃げに乗っていく走りをしたいですね。もしうまくいかなかったら、チームはスプリントで勝負もできるので、後半はそれに備えて走りたいと思います。みんなをうまくまとめて、いい成績を出したいです」
選手たちのスタート10分前に、プレスモト(バイク)に乗る。パイロットはアジジというマレーシア人のナイスガイなのだが、なんとアジジ、日本語が堪能なのだ。こちらも変に恐縮して、「ヨロシクオネガイイタシマス」と丁重にあいさつをする。いざ出発。
コタ・バルの街の沿道には多くの観衆が詰めかけている。それが水着のお姉さんじゃなく、ヒジャブとよばれるヴェールを被った婦人たちなところが、マレーシアを感じさせる。彼のカトリックの長女と呼ばれるフランスでは、娘は肌を出したがり、このイスラム国家マレーシアでは隠したがる。「ツール・ド・」の後にくる名前が違うと、こんな違いがあったりする。
モトでコースを選手たちより先に走っていると、つくづく自転車レースは街から街へ、旅人のスポーツであることを実感する。街では人垣ができ、田舎道は閑散としている。平日ながら、多くの人たちがにゅっと首を突き出して、今か今かとプロトンの到着を待ちわびる。
それにしても、学校がとても多い。3kmおきくらいに威勢のいいちゃきちゃきの声援が飛ぶと思えば、そこは学校を過ぎている時なのである。プレスモトに声援を送ってくれるのは嬉しいけれど、「本物」はすごい迫力なんだぞ。ノドの無駄遣いはしないが吉だよ少年少女よ。
子どもとプロトン。絵になると決まっているシチュエーションを前にして、カメラを持つ者はシャッターの誘惑に抗えない。というわけで、多くのフォトグラファーが撮るであろうことを悟りながらもやっぱり、元気な子どもたちとプロトンが収まる写真を撮る。それはパリでエッフェル塔の写真を撮るのと同じくらいに、定番なのである。
一度写真を撮るために、バイクを降りて写真を撮る。そしてまたモトに乗って、今度はプロトンを後ろから抜き返さなくてはならない。これがチームカーの密集する後方からやらないといけないものだから、かなりパイロットは気を遣うところ。
それでも、この瞬間が一番走っている選手をよく見れる瞬間でもある。集団の中で愛三の選手たちの走りをじっくり(と言っても2、3秒なのだ)と見る。今日は3、4回ほどこの機会を得たが、愛三はチームとしてまとまって集団前方に常に位置していた。並みいるチームの中にあって、存在感を見せていることに、嬉しさと誇らしさを覚える。
レースはというと、序盤の断続的なアタック合戦から抜け出したピーター・マクドナルド(オーストラリア、ドラパック・ポルシェ)とラストラパトリア・ディナワン(インドネシア、ポリゴン・スウィート・ナイス)の2人が逃げる展開に。
2009年のオーストラリアチャンピオンにしてUCIオセアニアツアーリーダーのマクドナルド。ディナワンはよく食らいついたが、やがて離されてしまった。しかし格上の選手に果敢に戦うその姿勢は大きく評価されてしかるべきだろう。ちぎれて単独走行をしているディナワンの苦しそうな表情を見たから余計に感情移入していることもあるだろうが…。
もうひとりいい走りをしたアジア人ライダーがいる。地元マレーシアの、もはやスター選手と言っていいだろうアヌアル・マナン(クムサン・ジンセン・アジア)だ。中間スプリントを積極的に獲りにいき、3つのうちの2つをトップで通過し、ポイント賞を確定した。
新チームの初戦にいい結果をもたらしたマナン。この若く小柄なマレージアンスプリンターを、区間優勝の経験を持つベテラン福島晋一はどのように導いたのか、いまさらながら想像してみたくなる。
レース終盤になっても愛三が集団前方に陣取っている。ISD・ネーリが積極的にコントロールする集団の前方で、品川、別府、鈴木が西谷を囲うように走っている。この姿を見てゴールへ急いだ。愛三チームが良い形で機能している。
集団スプリントとなったゴールライン。望遠レンズの中に白い西谷の姿が見えた!がしかし、最後は飲み込まれ、両手を上げたのはマイケル・マシューズ(オーストラリア、チームジェイコ・スキンズ)。西谷とは逆サイドでスプリントした盛が20位、西谷は22位で初日を終えた。
ゴール後の愛三チームのもとへ。西谷がうつむいたまま微動だにしない。敗北の味をぐっと噛み殺している姿。悔しさが体中を支配する。チームが機能したからこそ、勝負できなかったことの悔しさと責任が重くエースにのしかかる。
西谷「今日は最後、みんなにスプリントを手伝ってもらったんですけど、自分は走れていないのか…力不足です。ダメでした。チームは初戦ということもあり、ナメられないためにも集団の前を取りました。自分たちのやるべきことがしっかりできたのはよかったと思います」
20位に入った盛。初戦を「チームとしても初めてのレースで、レース勘がつかみにくかったこともあると思います。でも初戦にしてはラインもしっかり組めたし、カタチができたので、あとは普段の実力を取り戻してしっかり走ればきっと結果は出ると思います。後半から(調子が)上がってくると思うので、今日はこれでいいと思います。足を使ってでも集団の前でレースを展開して、自分たちのやりたいことを周りにアピールできたので、これからです」と締めくくった。
明日も平坦基調のステージ。後半70kmは強風が予想される南シナ海沿岸を走るコースだ。今日よりも展開が読みにくいステージになるはずだ。今日の走りを明日のために。愛三のツール・ド・ランカウイはまだ始まったばかりだ。
愛三工業レーシングチームのホームページ内にツール・ド・ランカウイ2010特集サイトが特設されています。愛三の選手の戦いぶりはこちらでもご覧ください。
text&photo:Yufta Omata
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