2014/04/18(金) - 12:19
サーヴェロのトップレンジを形作るにあたって、重要な役割を果たした「プロジェクト・カリフォルニア」。本ページではその「エアロダイナミクス」に焦点を当て、そこから生み出された革新的なテクノロジーについて触れていく。
例えばRシリーズには体重制限は設けられず、すべてのバイクは業界基準より20%高い、強度・安全性テストを行っている。BBRight、スマートウォール、S5のエアロ形状、Pシリーズの構造設計など、これらはプロジェクト・カリフォルニアから生まれたものだ。
多くのメーカーが転がり抵抗の軽減を目的にフレーム制作をしているのに対し、サーヴェロが注力するのはエアロダイナミクスである。サーヴェロの研究によると、ライディング時に発生している全抵抗の8割強が空気抵抗だ。トラック競技の1つである、4kmのタイムトライアル、インディヴィデュアルパーシュートで取られたデータに則って説明をしてみよう。(データは平坦走行、トラックレーサーによるもの)。
2% ドライブトレインによる摩擦
5% 転がり抵抗
7% 運動エネルギー(加速、スピード変化による抵抗)
86% 空気抵抗
空気抵抗に限定して話をすると、更にその中の80%がライダーで、残りがバイクである。では、エアロダイナミクスを減らすためにはどうしたら良いのだろうか?その最も簡単な方法は、前を走るライダーの後ろにつくこと。つまりはドラフティングであり、プロトンの集団走行である。集団の中で走行すると、3割もの抵抗値をカットすることが可能となるのである。
だがそれは、多人数で走る場合の話。速く走れば走るほど、空気抵抗は増す。つまりエアロダイナミクスの研究は、速さを求めるサイクリストにとっては重要である。しかし気にされないことではあるが、レクリエーションライドを楽しむホビーサイクリストにとってもそれは同じ事。たとえ時速30km/hで走っていても、少し空気抵抗を考慮するだけで、そこにはアドバンテージが生まれる。
20kmのコースを走行したとき、エリートサイクリストが標準的なロードバイクに乗り、40km/hで走れたとする。そこにエアロ装備で(ホイール、フレーム構造、エアロヘルメットなど)走行すると、それだけで42km/hで走ることができる。同様に30km/hで走行した場合は、31.392km/h。決してエリートレーサーのためだけではない。
また、100gのドラック(抵抗)は、パワーに表すと10w(ワット)と同レベルの影響がある。10ワットはタイムに換算すると1kmあたり1秒ぶんのエネルギーセーブが可能だ。ほんの僅かな値ではあるものの、高速域になればなるほど、その差は大きな違いとなって現われる。つまりはほとんど全てのサイクリストにとって、エアロダイナミクスの改善は、即ち、速さに繋がるファクターなのである。
例えば表の右から3番目の丸断面は、左側の翼断面形状と比較して約24倍の抵抗値を持っている。しかし自転車の構造になぞらえて考えると、例えば丸断面パイプをシートチューブに使用した場合、シートアングルがつく分、真上から見ると楕円形状となる。しかし、楕円形状ですら翼断面形状に比べると、約4倍の抵抗値を持っているのだ。これからも、フレームの形状が如何に重要であることが分かるだろう。
そして空気抵抗を考える上で、最も重要なこと。それは、前面投影面積である。サーヴェロがコントロールするパラメーターである。これはエアロダイナミクスに置ける非常に重要なポイントである。
そこでサーヴェロのエンジニアが採った策は、プロサイクリストのディヴィット・ザブリスキーと寸分違わぬマネキン(フォーム・デイブという名が与えられた)を作ったこと。"彼"の登場によって、例えバイクが違えど、風量が違えども100%の一貫性と再現性を実現し、質の高い実験を可能としたのだ。
さらにサーヴェロでは3次元光造形プラスチック(SLA・ステレオリソグラフィー。いわゆる3Dレーザープリンターで成型したもの)を利用したテスト用フレームを生み出した。つまりエンジニアのアイデアの一つ一つに対して(カーボンやスチールの)テストフレームを要さず費用を抑え、さらにテストが必要な部分のみを生成して実験に充てることで、開発期間の短縮にも役立つこととなった。
近年急速に浸透したCFD解析は、コンピュータ上でどのように気流が動いているか、風と抵抗を可視化(見えるようにする)して調べることができるソフトウェアである。これの特徴は、シミュレーション空間には壁面・外乱が存在しないため、実際の状況に限りなく近い状況を再現できること。気流がどうフレームにまとわりつき、抜けていくかを細かく研究できる。
さらにバイクの造形のアレンジも自由自在で、巨額の費用が必要となるテストフレームの成型の必要がない。ライダーを乗車させつつ、ハンドルバーを取り去った場合の抵抗値など、実際には不可能なシミュレーションを行うことができるのも、CFDの優位点だ。
しかし、CFDにも弱点はある。流体の基礎方程式が複雑な偏微分方程式であるため、答えに解析解ではなく、近似解を用いることしかできないこと。さらに、実際の風洞ではシミュレーションに入らない予想外の事態も起こりうる。つまり答えを出すにはCFD解析と風洞実験の併用が欠かせない。これがテクノロジーが発達した現代においても尚、(いわゆるアナログな)風洞実験を用いる理由なのである。
実際にライダーが乗り、道路上を走行している状態で話を進める。某有名ブランドC社のフラッグシップモデルを40km/hで走らせる場合365Wというパワーが必要だったのに対し、S5は同条件で320Wしか要さない。さらに集団に入ってしまえば(他のフレームも同様ではあるが)30%のパワーを削減でき、250Wでの走行が可能になるという。
さて、S3とS5は如何にして異なる空気抵抗値を生み出すのか。フロントフォーク付け根部分にフォーカスし、CFD解析による実験結果を見てみよう。例えば、水の流れに例えるとわかりやすいだろうか。S3ではクラウンの後ろ部分によどみが発生しているのに対し、S5ではこの部分の造形を工夫することで、スムーズな気流を実現している。
他ブランドも同じような設計思想を取り込んだフレームを発表しているが、ことさらダウンチューブ下側部分の気流のスムーズさは、S5に軍配が上がるのだという。
フレーム形状において、サーヴェロがもっともこだわっているのはシートチューブのカットアウト(タイヤに沿ってシートチューブが大きくカットされている部分)だ。S5のこの部分は2001年に発表されたタイムトライアルバイク・P3と酷似するが、それは最良の結果を早くから生み出していたことの表れだと言えよう。
更にマグラ社のブレーキキャリパーを用いたことで、よりこの部分の空気抵抗削減を実現。サーヴェロは、今後マグラ社のブレーキを使用する前提でフレームのデザインを行っていくとのことだ。
S5に関してはダウンチューブに3ヶ所のボトルケージ台座を設けることで、位置を2段階調整可能とした。これはつまり、ボトルを2本搭載する場合は、シートチューブ側との干渉を避けるためにダウンチューブの上側に位置させなければならないが、1本で済む場合は下側にボトルケージを取り付けることで、より空力抵抗を削減させるため。
自転車の走行に必要不可欠なボトルだが、その位置さえも考慮することで、S5は一般的なロードバイクよりも平均して10~20ワットも低い抵抗値を実現している。究極のエンジニアリングの下で生まれた、究極のエアロロードバイクと呼んでも間違いではないだろう。
「プロジェクト・カリフォルニア」とは
まずは「プロジェクト・カリフォルニア」について説明しておこう。これは2008年に発足したサーヴェロのエンジニアリング・プロジェクトの名称で、独自の設計思想を反映したカーボンレイアップ技術と、フォーミュラワンやヨットレーシング(アメリカスカップなどで用いられた)で使用した解析ソフトウェアを複合し、最高水準のセキュリティと品質を実現する。例えばRシリーズには体重制限は設けられず、すべてのバイクは業界基準より20%高い、強度・安全性テストを行っている。BBRight、スマートウォール、S5のエアロ形状、Pシリーズの構造設計など、これらはプロジェクト・カリフォルニアから生まれたものだ。
多くのメーカーが転がり抵抗の軽減を目的にフレーム制作をしているのに対し、サーヴェロが注力するのはエアロダイナミクスである。サーヴェロの研究によると、ライディング時に発生している全抵抗の8割強が空気抵抗だ。トラック競技の1つである、4kmのタイムトライアル、インディヴィデュアルパーシュートで取られたデータに則って説明をしてみよう。(データは平坦走行、トラックレーサーによるもの)。
2% ドライブトレインによる摩擦
5% 転がり抵抗
7% 運動エネルギー(加速、スピード変化による抵抗)
86% 空気抵抗
空気抵抗に限定して話をすると、更にその中の80%がライダーで、残りがバイクである。では、エアロダイナミクスを減らすためにはどうしたら良いのだろうか?その最も簡単な方法は、前を走るライダーの後ろにつくこと。つまりはドラフティングであり、プロトンの集団走行である。集団の中で走行すると、3割もの抵抗値をカットすることが可能となるのである。
だがそれは、多人数で走る場合の話。速く走れば走るほど、空気抵抗は増す。つまりエアロダイナミクスの研究は、速さを求めるサイクリストにとっては重要である。しかし気にされないことではあるが、レクリエーションライドを楽しむホビーサイクリストにとってもそれは同じ事。たとえ時速30km/hで走っていても、少し空気抵抗を考慮するだけで、そこにはアドバンテージが生まれる。
20kmのコースを走行したとき、エリートサイクリストが標準的なロードバイクに乗り、40km/hで走れたとする。そこにエアロ装備で(ホイール、フレーム構造、エアロヘルメットなど)走行すると、それだけで42km/hで走ることができる。同様に30km/hで走行した場合は、31.392km/h。決してエリートレーサーのためだけではない。
また、100gのドラック(抵抗)は、パワーに表すと10w(ワット)と同レベルの影響がある。10ワットはタイムに換算すると1kmあたり1秒ぶんのエネルギーセーブが可能だ。ほんの僅かな値ではあるものの、高速域になればなるほど、その差は大きな違いとなって現われる。つまりはほとんど全てのサイクリストにとって、エアロダイナミクスの改善は、即ち、速さに繋がるファクターなのである。
フレーム形状によって発生する空気抵抗の違い
表に示しているのがチューブの断面図で、形状によって独自のCd(空気抵抗係数)を示している。前提としてこれはいかなるスピード範囲でも変化せず、自転車の速度域でも同じである。例えば表の右から3番目の丸断面は、左側の翼断面形状と比較して約24倍の抵抗値を持っている。しかし自転車の構造になぞらえて考えると、例えば丸断面パイプをシートチューブに使用した場合、シートアングルがつく分、真上から見ると楕円形状となる。しかし、楕円形状ですら翼断面形状に比べると、約4倍の抵抗値を持っているのだ。これからも、フレームの形状が如何に重要であることが分かるだろう。
そして空気抵抗を考える上で、最も重要なこと。それは、前面投影面積である。サーヴェロがコントロールするパラメーターである。これはエアロダイナミクスに置ける非常に重要なポイントである。
エアロダイナミクスへの挑戦
サーヴェロでは実際に風洞内でバイクにライダーを乗せる実験を行なってきた。しかし実験の整合性・均一性を求める限り、どうしても生身の人間ではポジションの不正確さがネックとなってしまう。また同じポジションを1日中、さらに数日間ともなると(ちなみにほとんどの企業は風洞実験に数週間も費やすことはないだろう。)正確に同じ位置を保持することは非常に難しい。それは例え、プロライダーであっても、だ。そこでサーヴェロのエンジニアが採った策は、プロサイクリストのディヴィット・ザブリスキーと寸分違わぬマネキン(フォーム・デイブという名が与えられた)を作ったこと。"彼"の登場によって、例えバイクが違えど、風量が違えども100%の一貫性と再現性を実現し、質の高い実験を可能としたのだ。
さらにサーヴェロでは3次元光造形プラスチック(SLA・ステレオリソグラフィー。いわゆる3Dレーザープリンターで成型したもの)を利用したテスト用フレームを生み出した。つまりエンジニアのアイデアの一つ一つに対して(カーボンやスチールの)テストフレームを要さず費用を抑え、さらにテストが必要な部分のみを生成して実験に充てることで、開発期間の短縮にも役立つこととなった。
近年急速に浸透したCFD解析は、コンピュータ上でどのように気流が動いているか、風と抵抗を可視化(見えるようにする)して調べることができるソフトウェアである。これの特徴は、シミュレーション空間には壁面・外乱が存在しないため、実際の状況に限りなく近い状況を再現できること。気流がどうフレームにまとわりつき、抜けていくかを細かく研究できる。
さらにバイクの造形のアレンジも自由自在で、巨額の費用が必要となるテストフレームの成型の必要がない。ライダーを乗車させつつ、ハンドルバーを取り去った場合の抵抗値など、実際には不可能なシミュレーションを行うことができるのも、CFDの優位点だ。
しかし、CFDにも弱点はある。流体の基礎方程式が複雑な偏微分方程式であるため、答えに解析解ではなく、近似解を用いることしかできないこと。さらに、実際の風洞ではシミュレーションに入らない予想外の事態も起こりうる。つまり答えを出すにはCFD解析と風洞実験の併用が欠かせない。これがテクノロジーが発達した現代においても尚、(いわゆるアナログな)風洞実験を用いる理由なのである。
究極のエアロロードバイク
さて、そんなサーヴェロが生み出した最高レベルのエアロロードバイクがS5である。風洞実験でのデータであるものの、風の方向に関わらず、どの場合に置いてもS5の空気抵抗が少ないということがわかるだろう。平均すると、S3とは9ワットもの抵抗削減を実現している。実際にライダーが乗り、道路上を走行している状態で話を進める。某有名ブランドC社のフラッグシップモデルを40km/hで走らせる場合365Wというパワーが必要だったのに対し、S5は同条件で320Wしか要さない。さらに集団に入ってしまえば(他のフレームも同様ではあるが)30%のパワーを削減でき、250Wでの走行が可能になるという。
さて、S3とS5は如何にして異なる空気抵抗値を生み出すのか。フロントフォーク付け根部分にフォーカスし、CFD解析による実験結果を見てみよう。例えば、水の流れに例えるとわかりやすいだろうか。S3ではクラウンの後ろ部分によどみが発生しているのに対し、S5ではこの部分の造形を工夫することで、スムーズな気流を実現している。
他ブランドも同じような設計思想を取り込んだフレームを発表しているが、ことさらダウンチューブ下側部分の気流のスムーズさは、S5に軍配が上がるのだという。
フレーム形状において、サーヴェロがもっともこだわっているのはシートチューブのカットアウト(タイヤに沿ってシートチューブが大きくカットされている部分)だ。S5のこの部分は2001年に発表されたタイムトライアルバイク・P3と酷似するが、それは最良の結果を早くから生み出していたことの表れだと言えよう。
更にマグラ社のブレーキキャリパーを用いたことで、よりこの部分の空気抵抗削減を実現。サーヴェロは、今後マグラ社のブレーキを使用する前提でフレームのデザインを行っていくとのことだ。
S5に関してはダウンチューブに3ヶ所のボトルケージ台座を設けることで、位置を2段階調整可能とした。これはつまり、ボトルを2本搭載する場合は、シートチューブ側との干渉を避けるためにダウンチューブの上側に位置させなければならないが、1本で済む場合は下側にボトルケージを取り付けることで、より空力抵抗を削減させるため。
自転車の走行に必要不可欠なボトルだが、その位置さえも考慮することで、S5は一般的なロードバイクよりも平均して10~20ワットも低い抵抗値を実現している。究極のエンジニアリングの下で生まれた、究極のエアロロードバイクと呼んでも間違いではないだろう。
提供:東商会 text:山本健一