2017/10/20(金) - 09:20
ヨーロッパでのサイクリングツアーなどを開催しているフェローサイクルのブエルタ・ア・エスパーニャ観戦ツアーにCW編集部員のカマタが帯同。vol.5はコンタドール執念のステージ優勝を果たした第20ステージをレポート。vol.4はこちら
ブエルタ・ア・エスパーニャも残すところ2ステージとなった旅の6日目。今日は午前中にスタート地点であるコルベラ・デ・アストゥリアスでスタートを見届けた後、ゴール地点である超級山岳アングリル峠に向かう。ロードレースのオリンポス(神々が住む最高峰)とも、エル・インフェルノ(地獄)とも呼ばれるロードレース界屈指の勾配を持つこの峠は、ブエルタ観戦ツアー1番の目玉と言っていいだろう。
ホテルでいつも通り朝食を取り出発。2泊したヒホンの4つ星ホテル、エルナン・コルテスも今日でお別れ。後々思い返してみれば今回泊まった4つのホテルの中で1番良いホテルであった。一行は車に乗りスタート地点のコルベラ・デ・アストゥリアスへ向かう。コンタドールの引退レースを見るためにブエルタに来た中村夫妻と小林夫妻にとっては、コンタドールのサインをもらう最後のチャンスとなるため、バスの前で出待ちをして粘り続けるとのことだ。
私としてもどうにかツアー参加者の方々とコンタドールの2ショット写真を撮影したいので、スタート前のブースや各チームバスを回ってから出待ちに合流することにした。スタート会場に出展しているブースはそんなに毎回変わる訳もなくいつも通り。ふと自分用の自転車ソックスがあまりなかったことを思い出したのでウェア屋さんとサンティーニのブースで購入。BMCレーシングのソックスは5ユーロと安かったし、サンティーニソックスはブエルタ限定デザインなので記念にピッタリだ。
出走サインをステージ上まで書きに行く選手のために、そこまでの道にはバリケードが用意される。その横では民族衣装に身を包んだ集団が円になってバグパイプやドラムを演奏。陽気な音楽が会場を盛り上げる。今日はスタート地点ということもあってか、ヴィラージュの食べ物もあまりなかった。ということでコンタドールの出待ちに合流するべくチームバス駐車場まで歩いて行くと、チームバスとチームカーが勢揃い。各チームエリアにファンが群がっていた。
もちろん1番大きな集まりが出来ていたのはトレック・セガフレード。スペインでのコンタドール人気を象徴するようだ。その集団に近づいてみると最前列には中村夫妻と小林夫妻、伊藤さんが陣取っていた。便乗して前の方で待機させてもらう。しばらく待っているとチームスタッフが伊藤さんの持っているコンタドール応援ジャージを見て、「貸してみろ」と言うので渡すとコンタドールのサインを書き入れて持ってきてくれた。伊藤さんも念願のサインをゲットして、ここまで来た甲斐があったなと言うものだ。
しかしまだ他の方もサインも2ショットも欲しいわけで、引き続き辛抱強く待つことに。そのうち、曇り空だった天気が悪くなり雨が降り始めた。それでも辛抱強く30分程待ち続けると、ついにコンタドールがチームバスから降臨。その瞬間に何故か一気に雨量が増し、なおかつファンの皆がバリケードを押し倒す勢い押し寄せたため、もみくちゃになってしまった。中村さんが必死に「アルベルト」と叫ぶがサインしてもらえず、コンタドールは雨が強いので足早にバイクに跨り出走サインに行ってしまった。サインを貰うのも戦いである。しょうがないだろう。
しばらくしてレースがスタート。選手達を見送り車に戻り、私達は先回りして決戦の地アングリル峠に向かうのだ。熱心なコンタドールファンの中村さんの話によると、コンタドールにとってこのアングリル峠は大切な意味を持つ場所らしい。
ツールを2回、ジロを2回、ブエルタを3回と合計で7回グランツ―ルを制した(ドーピング違反により剥奪されたタイトルを入れれば9回)アルベルト・コンタドール。そんな栄光あるキャリアにおいて特に強さが際立っていたのが2008年シーズンであるという。中でもブエルタ・ア・エスパーニャ2008第13ステージでのアングリル峠の走りはコンタドール最盛期の象徴たる走りで、中村さん夫妻にとって自転車レースを見始める契機になったとのこと。
正直、私は2008年のブエルタを見ていなかったため、コンタドールの最盛期というと2009年のツール・ド・フランスでアンディ・シュレックと競い合っていたシーンが思い浮かぶが、その動画を見せられて納得。ロドリゲスとバルベルデを引き離すシーンや、23%にも及ぶ激坂区間を飛ぶように駆け上がる姿はまさしく最強のクライマーそのものであった。
そんなコンタドールにも中村さんにも思い出深いアングリル峠が今日のレース観戦の舞台である。さすがにオフィシャルツアーステッカーを張っている車両でも山頂までは行けないということで、残り8km地点にあるヴィラージュ付近に車を停める。普通の観戦者は麓の駐車場から歩くか自転車で登らなければいけないと考えるとなかなか利便性が高い。
今日もヴィラージュのサンドイッチやらピザやらで腹ごしらえし、少し上の観戦ポイントを目指して歩く。この日のアングリル峠は荒天。強風が吹き荒れ雨も降ったり止んだりだ。コース脇に設営してあった観戦ブースがなぎ倒されてしまい、そのビニールでサイクリストのおじさんが暖を取っているという光景も目にした。それほどまでに寒いのだ。そんな天気の中黙々と歩を進める。30分ほど登るとテレビ中継で見るような人垣ができた観戦スポットに到着した。
第17ステージでも本格的な山岳ステージを観戦したが、今回はその時よりも人が多い。さすがはブエルタのエル・インフェルノ(地獄)である。この日はスペイン中、さらには世界中から熱心なロードレースファンがこのアングリル峠に集まっており、国や言葉を超えて皆で自転車レースを楽しむことが出来る場所となっている。そんな所に自分がいるのが少し信じられない。帰国してレポートを書いてる今となっては夢だったと思わざる得ない。
選手は思ったより早くやってくる。それもそのはず、我々はレーススタートを見てからアングリル峠に来ているのだ。この観戦スポットへのアクセスのしやすさ、渋滞のなさもブエルタ観戦のメリットの1つだろう。いつも通りヘリコプターの音が聞こえだし、シマノカーが上がってくればレースがやってくる合図だ。
先頭でやってきたのは3名の先頭集団。その一番前を走るのがコンタドールだ。その姿は動画で見た2008年のブエルタ第13ステージの時のように、他の選手を従えた王者の風格で、事実コンタドールは我々が観戦していたポイントから200mほど進んだ場所でペースアップをしたという。その後もニーバリやフルームといった選手が目の前を通過。皆このブエルタ最後の峠を凄まじい気迫で登っていく。
上位勢が過ぎれば残りの選手たちは少し安堵した表情で登ってくる。今日でほぼブエルタでの仕事を終える選手もいるのだ。アシストの選手たちには惜しみない拍手が送られ、登るのが辛い選手を直接押すファンの姿もちらほら。そういったサイクルロードレースの文化そのものがここにはあった。
大体の選手達が通り過ぎたら皆でヴィラージュまで戻る。その途中コンタドールがステージを制したとの情報が入る。びっくりしたというよりあの勢いならば当然だろうと少しホッとした気持ち。同時に歴史的瞬間に居合わせられたことを非常に嬉しく思った。
ヴィラージュ付近に戻るとロベルトの運転する車が待機していた。どうやら1番遠くまで行っていた私と中村夫妻が最後になってしまったようだ。車に乗り込み早々に下山。今日はここから最終ステージが行われるマドリードまで車で5時間の大移動なのだ。徒歩で麓まで下る観戦者を尻目に我々は一足先にアングリル峠を離れたのであった。いざ行こうマドリード!
遂に最終ステージを迎えたブエルタ・ア・エスパーニャ2017。最終回となるvol.6ではマドリードでの観光と最終周回ステージの様子をレポートします。
vol.6はこちら
text&photo:Kosuke.Kamata
ブエルタ・ア・エスパーニャも残すところ2ステージとなった旅の6日目。今日は午前中にスタート地点であるコルベラ・デ・アストゥリアスでスタートを見届けた後、ゴール地点である超級山岳アングリル峠に向かう。ロードレースのオリンポス(神々が住む最高峰)とも、エル・インフェルノ(地獄)とも呼ばれるロードレース界屈指の勾配を持つこの峠は、ブエルタ観戦ツアー1番の目玉と言っていいだろう。
ホテルでいつも通り朝食を取り出発。2泊したヒホンの4つ星ホテル、エルナン・コルテスも今日でお別れ。後々思い返してみれば今回泊まった4つのホテルの中で1番良いホテルであった。一行は車に乗りスタート地点のコルベラ・デ・アストゥリアスへ向かう。コンタドールの引退レースを見るためにブエルタに来た中村夫妻と小林夫妻にとっては、コンタドールのサインをもらう最後のチャンスとなるため、バスの前で出待ちをして粘り続けるとのことだ。
私としてもどうにかツアー参加者の方々とコンタドールの2ショット写真を撮影したいので、スタート前のブースや各チームバスを回ってから出待ちに合流することにした。スタート会場に出展しているブースはそんなに毎回変わる訳もなくいつも通り。ふと自分用の自転車ソックスがあまりなかったことを思い出したのでウェア屋さんとサンティーニのブースで購入。BMCレーシングのソックスは5ユーロと安かったし、サンティーニソックスはブエルタ限定デザインなので記念にピッタリだ。
出走サインをステージ上まで書きに行く選手のために、そこまでの道にはバリケードが用意される。その横では民族衣装に身を包んだ集団が円になってバグパイプやドラムを演奏。陽気な音楽が会場を盛り上げる。今日はスタート地点ということもあってか、ヴィラージュの食べ物もあまりなかった。ということでコンタドールの出待ちに合流するべくチームバス駐車場まで歩いて行くと、チームバスとチームカーが勢揃い。各チームエリアにファンが群がっていた。
もちろん1番大きな集まりが出来ていたのはトレック・セガフレード。スペインでのコンタドール人気を象徴するようだ。その集団に近づいてみると最前列には中村夫妻と小林夫妻、伊藤さんが陣取っていた。便乗して前の方で待機させてもらう。しばらく待っているとチームスタッフが伊藤さんの持っているコンタドール応援ジャージを見て、「貸してみろ」と言うので渡すとコンタドールのサインを書き入れて持ってきてくれた。伊藤さんも念願のサインをゲットして、ここまで来た甲斐があったなと言うものだ。
しかしまだ他の方もサインも2ショットも欲しいわけで、引き続き辛抱強く待つことに。そのうち、曇り空だった天気が悪くなり雨が降り始めた。それでも辛抱強く30分程待ち続けると、ついにコンタドールがチームバスから降臨。その瞬間に何故か一気に雨量が増し、なおかつファンの皆がバリケードを押し倒す勢い押し寄せたため、もみくちゃになってしまった。中村さんが必死に「アルベルト」と叫ぶがサインしてもらえず、コンタドールは雨が強いので足早にバイクに跨り出走サインに行ってしまった。サインを貰うのも戦いである。しょうがないだろう。
しばらくしてレースがスタート。選手達を見送り車に戻り、私達は先回りして決戦の地アングリル峠に向かうのだ。熱心なコンタドールファンの中村さんの話によると、コンタドールにとってこのアングリル峠は大切な意味を持つ場所らしい。
ツールを2回、ジロを2回、ブエルタを3回と合計で7回グランツ―ルを制した(ドーピング違反により剥奪されたタイトルを入れれば9回)アルベルト・コンタドール。そんな栄光あるキャリアにおいて特に強さが際立っていたのが2008年シーズンであるという。中でもブエルタ・ア・エスパーニャ2008第13ステージでのアングリル峠の走りはコンタドール最盛期の象徴たる走りで、中村さん夫妻にとって自転車レースを見始める契機になったとのこと。
正直、私は2008年のブエルタを見ていなかったため、コンタドールの最盛期というと2009年のツール・ド・フランスでアンディ・シュレックと競い合っていたシーンが思い浮かぶが、その動画を見せられて納得。ロドリゲスとバルベルデを引き離すシーンや、23%にも及ぶ激坂区間を飛ぶように駆け上がる姿はまさしく最強のクライマーそのものであった。
そんなコンタドールにも中村さんにも思い出深いアングリル峠が今日のレース観戦の舞台である。さすがにオフィシャルツアーステッカーを張っている車両でも山頂までは行けないということで、残り8km地点にあるヴィラージュ付近に車を停める。普通の観戦者は麓の駐車場から歩くか自転車で登らなければいけないと考えるとなかなか利便性が高い。
今日もヴィラージュのサンドイッチやらピザやらで腹ごしらえし、少し上の観戦ポイントを目指して歩く。この日のアングリル峠は荒天。強風が吹き荒れ雨も降ったり止んだりだ。コース脇に設営してあった観戦ブースがなぎ倒されてしまい、そのビニールでサイクリストのおじさんが暖を取っているという光景も目にした。それほどまでに寒いのだ。そんな天気の中黙々と歩を進める。30分ほど登るとテレビ中継で見るような人垣ができた観戦スポットに到着した。
第17ステージでも本格的な山岳ステージを観戦したが、今回はその時よりも人が多い。さすがはブエルタのエル・インフェルノ(地獄)である。この日はスペイン中、さらには世界中から熱心なロードレースファンがこのアングリル峠に集まっており、国や言葉を超えて皆で自転車レースを楽しむことが出来る場所となっている。そんな所に自分がいるのが少し信じられない。帰国してレポートを書いてる今となっては夢だったと思わざる得ない。
選手は思ったより早くやってくる。それもそのはず、我々はレーススタートを見てからアングリル峠に来ているのだ。この観戦スポットへのアクセスのしやすさ、渋滞のなさもブエルタ観戦のメリットの1つだろう。いつも通りヘリコプターの音が聞こえだし、シマノカーが上がってくればレースがやってくる合図だ。
先頭でやってきたのは3名の先頭集団。その一番前を走るのがコンタドールだ。その姿は動画で見た2008年のブエルタ第13ステージの時のように、他の選手を従えた王者の風格で、事実コンタドールは我々が観戦していたポイントから200mほど進んだ場所でペースアップをしたという。その後もニーバリやフルームといった選手が目の前を通過。皆このブエルタ最後の峠を凄まじい気迫で登っていく。
上位勢が過ぎれば残りの選手たちは少し安堵した表情で登ってくる。今日でほぼブエルタでの仕事を終える選手もいるのだ。アシストの選手たちには惜しみない拍手が送られ、登るのが辛い選手を直接押すファンの姿もちらほら。そういったサイクルロードレースの文化そのものがここにはあった。
大体の選手達が通り過ぎたら皆でヴィラージュまで戻る。その途中コンタドールがステージを制したとの情報が入る。びっくりしたというよりあの勢いならば当然だろうと少しホッとした気持ち。同時に歴史的瞬間に居合わせられたことを非常に嬉しく思った。
ヴィラージュ付近に戻るとロベルトの運転する車が待機していた。どうやら1番遠くまで行っていた私と中村夫妻が最後になってしまったようだ。車に乗り込み早々に下山。今日はここから最終ステージが行われるマドリードまで車で5時間の大移動なのだ。徒歩で麓まで下る観戦者を尻目に我々は一足先にアングリル峠を離れたのであった。いざ行こうマドリード!
遂に最終ステージを迎えたブエルタ・ア・エスパーニャ2017。最終回となるvol.6ではマドリードでの観光と最終周回ステージの様子をレポートします。
vol.6はこちら
text&photo:Kosuke.Kamata
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