2012/12/15(土) - 18:59
フェルトのコンフォートラインである「Z」シリーズが2013年モデルで大幅なモデルチェンジを行い、各部をブラッシュアップした。今回のインプレッションでは、Zシリーズのミッドレンジに位置するバリューモデルZ3のテストを行う。
ヨーロッパのプロレースシーンにおける活躍でその名を馳せるフェルトは、チュービングの魔術師と謳われたジム・フェルト氏が1980年に興したブランド。彼の造り出した金属フレームはプロレーサーからの支持も厚く、チームの契約外にも関わらず愛用する選手が存在したという逸話を残す。
カーボンフレーム全盛の現代においてもフェルト社は高品質のバイクを送り出し、積極的にプロチームへの機材供給を行うことでその性能を磨きあげてきた。2012年シーズンはアルゴス・シマノが駆り、クラシックやグランツアーなどのビッグレースでの活躍も記憶に新しいところだ。
今回のテストバイクであるZ3は、フェルトのコンフォート用ロードバイクシリーズに位置づけられるミドルグレードモデル。その特徴的なルックスからも快適性のみに振ったバイクかと思いきや、ロードバイクに求められる運動性能の追求も行われている。それは石畳のクラシックを始め、あらゆるレースにおいてZシリーズを駆る選手がいることからも明らかだろう。
Zシリーズは2013年ラインナップより大幅なモデルチェンジを施し、パフォーマンス向上を図った。新世代Zシリーズ最大のトピックは、スローピング角の大きな特徴的なフォルムを踏襲しつつチューブの形状を変更し、カーボンの積層を最適化したこと。
トップチューブの形状は大きく変更され、弓なりに弧を描く形状に。それに伴いシートポスト下のチューブ集合部分の形状も一新されている。チェーンステーは全体的に若干太めに変更されパワーの伝達効率を高めながら、エンド付近に屈曲を設けることで路面追従性も狙う。これによって+25%のねじれ剛性の向上と、50gの軽量化に成功しているという。
ジオメトリーの変更はなされていないものの、トップチューブのスローピング角が大きくなったことでスタンドオーバーハイトは低く取られた。
フレーム内部を滑らかに成形するフェルト独自の「インサイドアウト」製法によって形作られ、軽量化と性能の最適化を狙うZ3。この最上級モデルにも採用される技術をミッドレンジまでに採用する点は、フェルトらしさの現れた部分といえる。カーボン素材は従来より引き続いてT700をベースとしたUHC Performance MMC Carbonで、表面は3Kカーボンで化粧が施される。
ボトムブラケットはBB30、ヘッドは 1.125"-1.5"の上下異型テーパードヘッドを採用する2013年のZ3。テストバイクは完成車スペックとなり、シマノ・アルテグラDi2、マヴィック・キシリウムエキップホイールをアッセンブルして480,900円(税込)というプライスだ。
ただ単に快適志向を求めず、各部においてブラッシュアップが施された2013年のZ3の実力はどのようなものだろうか。早速インプレッションに移ろう。
―インプレッション
「どんな踏み方をしても真っ直ぐに進んでくれる安定感の高いバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
とてもうまくコンフォート性能を煮詰めてあるという第一印象ですね。乗りやすさが第一に感じられました。フェルトのFシリーズ、ARシリーズ、もちろんZシリーズも乗った経験がありますが、その中でもZ3はかなり好印象です。ホイールベースを長めにとってありつつも、前後のバランスが良く、ただ単にコンフォートに振ったバイクでは無いような設計意図を感じます。
振動吸収性は高く仕上がっていますが、決してソフト一辺倒ということもありません。路面のインフォメーションを的確に伝えつつ、ざらつきをカットしてくれるような印象があります。フカフカというイメージはありませんでした。全体的にまとまりがありますので、ジョギングレベルで楽しく走っている分にはとても気持ちの良いバイクです。
少し縦方向の突き上げがありましたので、例えばデュラエースC24のようなホイールをアッセンブルしてあげればより気持ち良いフィーリングで楽しめるでしょう。でもその突き上げも、他のバイクと比較すればマイルドに仕上がっていると思いますよ。
シッティングでトルクを掛けて踏み込んでいっても、踏みごたえが硬すぎて脚が跳ね返されるような感覚はありません。ペダリングがまだ安定しないビギナーさんでも、どんな踏み方をしても真っ直ぐ推進力に変換してくれるような性格があります。許容範囲が広いと言えますね。完成車で見た場合はアルテグラDi2もストレス低減に大きく貢献していますね。この組み合わせは良いと思いますよ。
ハンドリングは低速域だと重く感じる場面もありました。強い安定指向にありますので高速域では非常にリラックスでき、安心感は非常に高いと思いました。コーナリングにおいても曲がりにくさや、リアを引きずるような感覚も無く、アクションも比較的起こしやすいと感じます。ホイールベースが長く取られていることを考えれば、良く煮詰められているなと感じました。
週末ライドやロングライドがメインの方の中では、振動吸収性の高いバイクを求めるニーズはとても大きなモノがありますが、Z3はそんな方にベストなバイクを言えるでしょう。フレームの素性が良いので、イベントに出てみたくなってもパーツやホイールの組み合わせ次第で応えてくれます。週末ライド以上、中級レース未満、そんなレベルのライダーにオススメしたいバイクです。
「踏み応えがソフトで、長い距離のヒルクライムに向く」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL)
とてもハンドリングの良いバイクだなという第一印象を抱きました。比較的軽めなのですが、下りの際の安定感もあって安心してダウンヒルをこなせるような感覚があります。ドロップバーを持って高速で曲がっていっても破綻する感覚が一切無いですね。ただクイック気味の味付けが好きな方には少し物足りなく、ダルな印象かもしれません。
ヘッドチューブが長くかなりスローピングしたフレーム形状ですが、その辺りから生み出されるダンシングの軽さもあり、シッティングで上りをこなしてもスーッと楽なイメージで走ることができます。通じて快適性も高く、ギアを掛けて踏んでいっても脚にくるような感覚もありませんでした。ただレースをガンガン走るような方には物足り無く感じるでしょうし、他のARシリーズやFシリーズをオススメしますね。
衝撃吸収性能のレベルは高く仕上げられていると感じます。普通下ハンドルを持ってコーナリングすると路面の荒れは気になるものですが、Z3はそんな雰囲気が全くありません。路面に粘りつくような性格があって、安心感は高いですね。ヘッドがしっかりとしている点も貢献しているのでしょう。
コンフォート志向に振っているバイクですので、ギアの掛かりやスピードの乗りなどは特別優れているわけではありません。ですが悪いということも無く、十分に納得できる範囲です。踏み心地がソフトですので、高速巡航や長いヒルクライムで急に脚が無くなってしまうことも無いでしょう。やはりロングライドでこそ、このバイクは活きてきますね。
反対にヒルクライムでは、回転重視のシッティングで登るのがベストだと感じます。アップライトなポジションですので、長い距離の上りでも疲れがあまり溜まらないでしょう。ロングヒルクライムイベントなどにも向いているのではないでしょうか。
フレームがソフトですので、ライダーのレベルアップに伴ってパーツ交換をするのならば軽量で剛性の高いホイールを選択すべきでしょう。そうすれば全体のまとまり感がアップして、一つ上のレベルの走りにもバイクが応えてくれるはずです。週末ライドが中心ならば、完成車のままで全く問題はありません。1台目としては高めの価格設定ですが、まだロードバイクに慣れていない方や、これからゆっくりとロードバイクのある生活を始めたい方にオススメできる一台です。
フェルト Z3
■サイズ:510、540、560
■カラー:グロスカーボン
■フレーム素材:Felt Endurance Road UHCパフォーマンス MMCカーボン
■B B:BB30
■コンポーネント:シマノ・アルテグラDi2
■ホイール:マヴィック・キシリウムエキップ
■完成車重量:7.89kg
■価 格:480,900円(税込)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
OVER-DOバイカーズサポート
諏訪 孝浩(BIKESHOP SNEL)
バイクショップSNEL代表。自転車歴26年、過去にオランダのアマチュアチームに3シーズン在籍しクリテリウムに多数参戦。オランダクラブ内クリテリウム選手権3位など。
2008年3月に東京都大田区にショップをオープン。オランダで色々なショップを見てきた経験を元に、独自のセンスでショップを経営中。主にシクロクロスをメインに参戦し、クラブ員の約半数がシクロクロスに出場している。
BIKESHOP SNEL
ウェア協力:biciBISLEY
text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano
ヨーロッパのプロレースシーンにおける活躍でその名を馳せるフェルトは、チュービングの魔術師と謳われたジム・フェルト氏が1980年に興したブランド。彼の造り出した金属フレームはプロレーサーからの支持も厚く、チームの契約外にも関わらず愛用する選手が存在したという逸話を残す。
カーボンフレーム全盛の現代においてもフェルト社は高品質のバイクを送り出し、積極的にプロチームへの機材供給を行うことでその性能を磨きあげてきた。2012年シーズンはアルゴス・シマノが駆り、クラシックやグランツアーなどのビッグレースでの活躍も記憶に新しいところだ。
今回のテストバイクであるZ3は、フェルトのコンフォート用ロードバイクシリーズに位置づけられるミドルグレードモデル。その特徴的なルックスからも快適性のみに振ったバイクかと思いきや、ロードバイクに求められる運動性能の追求も行われている。それは石畳のクラシックを始め、あらゆるレースにおいてZシリーズを駆る選手がいることからも明らかだろう。
Zシリーズは2013年ラインナップより大幅なモデルチェンジを施し、パフォーマンス向上を図った。新世代Zシリーズ最大のトピックは、スローピング角の大きな特徴的なフォルムを踏襲しつつチューブの形状を変更し、カーボンの積層を最適化したこと。
トップチューブの形状は大きく変更され、弓なりに弧を描く形状に。それに伴いシートポスト下のチューブ集合部分の形状も一新されている。チェーンステーは全体的に若干太めに変更されパワーの伝達効率を高めながら、エンド付近に屈曲を設けることで路面追従性も狙う。これによって+25%のねじれ剛性の向上と、50gの軽量化に成功しているという。
ジオメトリーの変更はなされていないものの、トップチューブのスローピング角が大きくなったことでスタンドオーバーハイトは低く取られた。
フレーム内部を滑らかに成形するフェルト独自の「インサイドアウト」製法によって形作られ、軽量化と性能の最適化を狙うZ3。この最上級モデルにも採用される技術をミッドレンジまでに採用する点は、フェルトらしさの現れた部分といえる。カーボン素材は従来より引き続いてT700をベースとしたUHC Performance MMC Carbonで、表面は3Kカーボンで化粧が施される。
ボトムブラケットはBB30、ヘッドは 1.125"-1.5"の上下異型テーパードヘッドを採用する2013年のZ3。テストバイクは完成車スペックとなり、シマノ・アルテグラDi2、マヴィック・キシリウムエキップホイールをアッセンブルして480,900円(税込)というプライスだ。
ただ単に快適志向を求めず、各部においてブラッシュアップが施された2013年のZ3の実力はどのようなものだろうか。早速インプレッションに移ろう。
―インプレッション
「どんな踏み方をしても真っ直ぐに進んでくれる安定感の高いバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
とてもうまくコンフォート性能を煮詰めてあるという第一印象ですね。乗りやすさが第一に感じられました。フェルトのFシリーズ、ARシリーズ、もちろんZシリーズも乗った経験がありますが、その中でもZ3はかなり好印象です。ホイールベースを長めにとってありつつも、前後のバランスが良く、ただ単にコンフォートに振ったバイクでは無いような設計意図を感じます。
振動吸収性は高く仕上がっていますが、決してソフト一辺倒ということもありません。路面のインフォメーションを的確に伝えつつ、ざらつきをカットしてくれるような印象があります。フカフカというイメージはありませんでした。全体的にまとまりがありますので、ジョギングレベルで楽しく走っている分にはとても気持ちの良いバイクです。
少し縦方向の突き上げがありましたので、例えばデュラエースC24のようなホイールをアッセンブルしてあげればより気持ち良いフィーリングで楽しめるでしょう。でもその突き上げも、他のバイクと比較すればマイルドに仕上がっていると思いますよ。
シッティングでトルクを掛けて踏み込んでいっても、踏みごたえが硬すぎて脚が跳ね返されるような感覚はありません。ペダリングがまだ安定しないビギナーさんでも、どんな踏み方をしても真っ直ぐ推進力に変換してくれるような性格があります。許容範囲が広いと言えますね。完成車で見た場合はアルテグラDi2もストレス低減に大きく貢献していますね。この組み合わせは良いと思いますよ。
ハンドリングは低速域だと重く感じる場面もありました。強い安定指向にありますので高速域では非常にリラックスでき、安心感は非常に高いと思いました。コーナリングにおいても曲がりにくさや、リアを引きずるような感覚も無く、アクションも比較的起こしやすいと感じます。ホイールベースが長く取られていることを考えれば、良く煮詰められているなと感じました。
週末ライドやロングライドがメインの方の中では、振動吸収性の高いバイクを求めるニーズはとても大きなモノがありますが、Z3はそんな方にベストなバイクを言えるでしょう。フレームの素性が良いので、イベントに出てみたくなってもパーツやホイールの組み合わせ次第で応えてくれます。週末ライド以上、中級レース未満、そんなレベルのライダーにオススメしたいバイクです。
「踏み応えがソフトで、長い距離のヒルクライムに向く」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL)
とてもハンドリングの良いバイクだなという第一印象を抱きました。比較的軽めなのですが、下りの際の安定感もあって安心してダウンヒルをこなせるような感覚があります。ドロップバーを持って高速で曲がっていっても破綻する感覚が一切無いですね。ただクイック気味の味付けが好きな方には少し物足りなく、ダルな印象かもしれません。
ヘッドチューブが長くかなりスローピングしたフレーム形状ですが、その辺りから生み出されるダンシングの軽さもあり、シッティングで上りをこなしてもスーッと楽なイメージで走ることができます。通じて快適性も高く、ギアを掛けて踏んでいっても脚にくるような感覚もありませんでした。ただレースをガンガン走るような方には物足り無く感じるでしょうし、他のARシリーズやFシリーズをオススメしますね。
衝撃吸収性能のレベルは高く仕上げられていると感じます。普通下ハンドルを持ってコーナリングすると路面の荒れは気になるものですが、Z3はそんな雰囲気が全くありません。路面に粘りつくような性格があって、安心感は高いですね。ヘッドがしっかりとしている点も貢献しているのでしょう。
コンフォート志向に振っているバイクですので、ギアの掛かりやスピードの乗りなどは特別優れているわけではありません。ですが悪いということも無く、十分に納得できる範囲です。踏み心地がソフトですので、高速巡航や長いヒルクライムで急に脚が無くなってしまうことも無いでしょう。やはりロングライドでこそ、このバイクは活きてきますね。
反対にヒルクライムでは、回転重視のシッティングで登るのがベストだと感じます。アップライトなポジションですので、長い距離の上りでも疲れがあまり溜まらないでしょう。ロングヒルクライムイベントなどにも向いているのではないでしょうか。
フレームがソフトですので、ライダーのレベルアップに伴ってパーツ交換をするのならば軽量で剛性の高いホイールを選択すべきでしょう。そうすれば全体のまとまり感がアップして、一つ上のレベルの走りにもバイクが応えてくれるはずです。週末ライドが中心ならば、完成車のままで全く問題はありません。1台目としては高めの価格設定ですが、まだロードバイクに慣れていない方や、これからゆっくりとロードバイクのある生活を始めたい方にオススメできる一台です。
フェルト Z3
■サイズ:510、540、560
■カラー:グロスカーボン
■フレーム素材:Felt Endurance Road UHCパフォーマンス MMCカーボン
■B B:BB30
■コンポーネント:シマノ・アルテグラDi2
■ホイール:マヴィック・キシリウムエキップ
■完成車重量:7.89kg
■価 格:480,900円(税込)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
OVER-DOバイカーズサポート
諏訪 孝浩(BIKESHOP SNEL)
バイクショップSNEL代表。自転車歴26年、過去にオランダのアマチュアチームに3シーズン在籍しクリテリウムに多数参戦。オランダクラブ内クリテリウム選手権3位など。
2008年3月に東京都大田区にショップをオープン。オランダで色々なショップを見てきた経験を元に、独自のセンスでショップを経営中。主にシクロクロスをメインに参戦し、クラブ員の約半数がシクロクロスに出場している。
BIKESHOP SNEL
ウェア協力:biciBISLEY
text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano
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