コース上を運転しながら「今年の大会はゴスで決まりだな」なんて自信たっぷりに語っていると、まさかの逃げが決まった。そのおかげでダウンアンダーの総合争いは最後まで分からないものになったと言っていい。明日も逃げ切りが決まるかも知れない。誰が勝つか分からなくなって来た。

スタート前にチームカーで落ち着くアンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット)スタート前にチームカーで落ち着くアンドレ・グライペル(ドイツ、オメガファーマ・ロット) photo:Kei Tsuji朝、暇そうにしているアルベルト・オンガラート(イタリア、ヴァカンソレイユ)に話を聞いた。最初の質問はもちろん、どうして第2ステージでホイールを片手にゴールしたのか。証拠写真

「確かにあれは珍しい光景だったと思う。落車が起こったときに、目の前に誰かのホイールが飛んで来たんだ。どこかからポンポンポーンと跳ねながら飛んで来た。反射的にホイールを掴んで、落ちていたら危ないからそのままゴールした。チームスタッフがどこかのチームに返してくれたと思う。」

出走サインに向かうマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)出走サインに向かうマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:Kei Tsuji納得出来るような納得出来ないような返答。結局誰のホイールかは分からず。

続いて、ツアー・ダウンアンダーについてはどう思う?

今年からアスタナで活動する中野喜文マッサー今年からアスタナで活動する中野喜文マッサー photo:Kei Tsuji「ナイス。暖かいし、レースの運営がとてもしっかりしている。レース期間中ずっと過ごしやすいよ。ヨーロッパのレースよりも優れていると思う点も多い。寒いヨーロッパに帰りたくない。」

レース運営に関しては、中野喜文マッサーも太鼓判を押している。今年から日本に拠点を置く中野マッサーは、リクイガスからアスタナに移籍。今年ツアー・ダウンアンダーでアスタナデビューした。

薄雲が広がるアデレード近郊の丘陵地帯薄雲が広がるアデレード近郊の丘陵地帯 photo:Kei Tsujiヨーロッパのレースでは一日中バタバタ動き回っているイメージがあるが、ダウンアンダーの期間中は比較的のんびりしていらっしゃる。今日もスタート地点をウロウロされていたので聞くと、まさかまさかの「あまりやることがないんです。」

「噂には聞いていたけど、とてもオーガナイズが良くて驚いています。宿泊はずっとヒルトンで、しかもメカニックの作業場所から冷蔵庫まで、何から何までヒルトンの前のヴィラージュに集約されている。飲み物も氷も主催者が持って来てくれるし、買い出しもホテル横のスーパーマーケットで事足りる。大きな大会ながらコンパクトにまとまっていて、本当に仕事がしやすいです。」

急勾配のチェッカーヒルを上る警官急勾配のチェッカーヒルを上る警官 photo:Kei Tsujiアスタナはオーストラリア人、カザフスタン人、ウクライナ人、スペイン人の多国籍な編成。スタッフはイタリア人とスペイン人だ。主な言語はイタリア語かスペイン語だが、チームの中ではいろんな言葉が飛び交っているという。

なお、中野マッサーには毎朝会う度に「あれ?また日焼けしたんじゃない?」と冷やかされる。でも、確実に、中野マッサーも日焼けしてます。

急勾配のチェッカーヒルで選手たちが苦しむ急勾配のチェッカーヒルで選手たちが苦しむ photo:Kei Tsuji今日最大の見どころは27km地点のチェッカーヒルだ。昨年の大会で行きそびれたので、今回こそはと気合いを入れて上りに向かう。高低差100mほどのこんもりとした丘に向かって、真っすぐに道が伸びていた。

なるほど、確かに勾配はキツい。平均勾配が13%オーバーというのも頷ける。でも、決して上れないような激坂ではない。昨日の現地レポートの中で「あそこは勾配がきつくて上れねえ!」という地元サイクリストの談話を紹介したが、彼はもうちょっと減量とトレーニングが必要だ。

スリックタイヤを履いたマウンテンバイクに跨がる警官が、上りを行ったり来たり。ゼーハーゼーハー言いながら「沿道の白線まで下がって」と警告している。観客たちは案外素直に指示に従いながら、警官に歓声を送っていた。

チェッカーヒル通過後、逃げが形成されるとコースは平坦基調に。でもメイン集団のペースアップが始まるラスト50kmを切ると、再びコースは丘陵地帯へと入った。ワインディングとアップダウン、横風という要素が絡み合い、メイン集団のスピードは上がり切らない。単純な平坦コースと考えられていたステージで、逃げ切りが決まった。

子どもたちが沿道でレースを見守る子どもたちが沿道でレースを見守る photo:Kei Tsuji

トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ)に並ぶキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ)に並ぶキャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsujiそしてまたまたツアー・オブ・ジャパンの経験者が勝った。第2ステージのベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)は出場したことが無いが、マシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)とマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)はステージ優勝経験者。そして今回、2008年大会覇者のマイヤーがステージ優勝を飾った。

マイヤーの勝利でダウンアンダーの総合争いは混沌としている。24秒という絶妙なタイム差での逃げ切りが決まったおかげで、ゴスやマキュアンにも総合優勝のチャンスが残された。

マイヤーの勝利に大きく貢献したマチュー・ウィルソン(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)マイヤーの勝利に大きく貢献したマチュー・ウィルソン(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsuji例えば、単純にゴスが残り2ステージで優勝すると、合計20秒のボーナスタイム獲得で逆転する。中間スプリントポイントでも3秒、2秒、1秒のボーナスタイムが与えられるので、コツコツとタイムを稼げば充分に逆転は可能だ。

ゴスのボーナスタイム獲得を阻止するため、ガーミン・サーヴェロはタイラー・ファラー(アメリカ)をスプリントに送り込む。ここにきてファラーの役割が大きくなっている。最終日のゴールスプリントで総合優勝が決まるような接戦に持ち込まれるかも知れない。

ブレット・ランカスターに祝福されるキャメロン・マイヤー(ともにオーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)ブレット・ランカスターに祝福されるキャメロン・マイヤー(ともにオーストラリア、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsujiさて、第5ステージは名物ウィランガヒルが設定された最難関ステージ。合計2回通過するウィランガヒルは長さ3km・平均勾配7.5%の上りで、ここでアタックが繰り返されるのは間違いない。最後のウィランガヒルはゴールの20km手前。飛び出した選手と追うスプリンターチームの攻防が大会のクライマックスだ。

クルマで移動するフォトグラファーにとって、最後のウィランガヒルで撮影するとゴール写真&表彰台が撮れないというのが悩みの種。でもせっかくなので二兎を追ってみます。

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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