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北イタリア、サン・ベンデミアーノにあるミケの本社工場へ

旧ロゴがそのまま残るミケの本社工場。地域のルールで看板のロゴが変えられないのだとか photo:So Isobe
サン・ベンデミアーノの工業地域に位置するミケ。社員人数40名余りの小さなコンポーネントブランドだ photo:So Isobe


本社内の小さなショールーム兼ミーティングルーム。2年目を迎えたグルパマFDJの写真が目立つ photo:So Isobe

ウィリエールが「1+1を5に変える」と全幅の信頼を寄せるグループ傘下の名門コンポーネントブランドがミケ(Miche)だ。ウィリエール本社訪問を終えた我々シクロワイアード取材班と服部産業の北村さんが向かったのは、ピナレロで有名なトレヴィーゾの北に位置する小さな街、サン・ベンデミアーノ。街から少し離れた工業地区に、古い看板をそのまま残したミケの本社兼工場はあった。

ミケの歴史は、1919年にアウグスト・ミケリンとフェルディナンド・ミケリンの兄弟がこの地で自転車製造業「Ciclo Piave」社を設立したことまで遡る。第二次世界大戦後の1948年にはクランクやカセット、ハブといったコンポーネント製造に特化した会社(Ferdinando Michelin Conegliano)を立ち上げたことが現在にまで至る源流。1986年には同じファミリーネームを使う仏ミシュラン社からの要請で「ミケ」にブランドネームを変更し、2022年には長らく良き関係を築いてきたウィリエール傘下となり、資本力を武器にかつてないグローバル戦略へを舵を切った。2年目を迎えたグルパマFDJとのコラボレーションは特にレーシングカーボンホイールの急発展を叶え、それまでの「トラック競技中心というイメージを払拭しつつある。

2年目を迎えたグルパマFDJとのコラボレーション。新型のDEVA RDホイールも量産体制が整い次第フル供給されるという photo:CorVos

近年はパーツのカーボン化にも積極的。こちらはトラック用のパワーメーター付きクランクセット photo:So Isobe
スプロケットなどの金属製品は全て自社製造。「MADE IN ITALY」の文字が誇らしげだ photo:So Isobe


全社員合わせて40名余り。このメンバーがプライドをもって世界中にミケの製品を送り出している photo:So Isobe

100年を超えるその歩みは、常に職人たちの手仕事とともにあった。創業以来一貫してこの地を拠点とし、イタリアの自転車文化とともに進化を遂げてきたミケ。彼らにとって、古くから金属加工やアルマイト処理など、専門特化した小規模工場が集うサン・ベンデミアーノという土地は単なる拠点を越えたアイデンティティだという。

板と丸棒から、すべてを削り出す

工場に足を踏み入れた瞬間、凄まじいプレスの轟音と切削油の香りに圧倒される。そこには、現代の多くのブランドが忘れかけている「ファクトリー」の原風景があった。

ミケ本社の大部分を占める工場スペース。轟音と切削油の香りが漂う photo:So Isobe

一般的なメーカーの多くは、自社工場を持たずに外部のサプライヤーから届いた部品を組み立てる「アッセンブリー工場」に過ぎないが、ミケは生の鉄やアルミ材を購入し、とことん自社工場内で形にしていくのである。巨大なプレスで打ち抜かれ、CNCマシンで削り込む工程を重ねていくうちに素材は部品へと姿を変えていく。溶解鋳造こそ行わないが、それ以外の工程は驚くほど自社工場内で完結している。

例えばスポークは良い例だろう。ミケはサピムからストレートスポークを購入し、それを自社でバテッド加工(太さを変える加工)している。既製品のバテッドスポークを使うという考えは彼らにはない。自社のホイールにベストマッチする特性を得るためには、スポークの形状さえも自らコントロールしなければならないからだ。

金属加工場の横にはハブやホイールを組み上げる製造ラインが設けられるほか、梱包と在庫スペースを経て、この場所から世界中のカスタマーやOEM先のブランドへと発送が行われる。リムテープを巻くマシンなどは工場スタッフが自ら設計して作ったものだという。

アルミ材が在庫され、工場内でプレスや切削加工が行われ、製品になる。それがミケの工場の毎日だ photo:So Isobe
CNCマシンの切削と研磨を終えたハブボディ。これからベアリングの組み付けに移る photo:So Isobe


まだ量産体制に入っていないフラッグシップのDEVA RDホイール。プロ選手への供給品や、テストホイールのみが組まれていた photo:So Isobe

こちらはホイールを組むライン。ホイール組みは機械で行い、手作業で仕上げる photo:So Isobe
ベアリングを打ち込んではや数十年というベテラン職人 photo:So Isobe


もちろん全てを独力で完結させるわけではない。古くからの分業制が根付くこの土地だからこそ、アルマイト加工は近隣の専門業者と連携し、カーボン製のリムやチェーンリングなどはミケ設計+アジア生産。最終的にミケが最も得意とする自社製金属パーツと組み合わせて、ここサン・ベンデミアーノで形になる。

これら全ての工程をアジア生産に切り替えればコストは下がる。そんなことは分かりきったことだが、あえてミケはそれを選ばない。安易なコストカットよりも自分たちの手で作り上げるプライドを何よりも優先するからだ。すべての工程をインハウス(自社内)で完結させる最大の利点は、妥協なきクオリティコントロールにある。外部に委託すれば避けられない製造上のばらつきや曖昧さを、彼らは社内で徹底的に排除している。
その厳格な管理体制の信頼性は、日本の現場でも如実に証明されている。実際に服部産業で検品を行っている北村さんによれば、これまでミケの製品に不良品が混じっていたことはまずないという。100年の歴史が育んだ熟練の職人魂と、自社で完結させる管理体制。これらが組み合わさることで、一切の妥協を許さない製品が世界中へ送り出されているのである。

ミケCEOに聞く、ブランドフィロソフィーと、新型ホイール開発へのこだわり

ミケのCEOを務めるグレゴリー・ジラール氏。独占インタビューの機会を得ることができた photo:So Isobe

ここから紹介するのはミケのCEOを務めるグレゴリー・ジラール氏へのインタビューだ。2024年にウィリエール傘下となって2年。グルパマFDJとの協力体制の元生まれたDEVA RDホイールの開発秘話、そしてメイド・イン・イタリアを貫くミケのDNA、そしてこれからとは?

100年続く伝統を重んじながらも、彼の口から飛び出したのは、極めて現代的でシビアなロジック。「イタリア製」であることに安住せず、それを「世界と戦うための武器」として再定義する。プロレースの高速化が止まらない今、なぜミケはあえて非効率とも思える自社製造にこだわり続けるのか。その言葉の端々からは、ウィリエールとの共鳴、そしてグルパマFDJという世界最高峰の実験場で磨き上げられた、新生ミケの揺るぎない自信が溢れていたのだった。

「チームの欲求がDEVA RDを生み出した」

Filante SLR ID2と共に試したDEVA RD 62ホイール。ミケ初のカーボンスポーク採用ホイールの開発ストーリーを聞いた photo:So Isobe

「チームは非常に我々のホイールセットに満足してくれました。チーム側で実走や風洞テストを行い、昨年供給したKLEOS RDは少なくとも彼らが2024年に使っていたデュラエースと性能面で同等でしたし、何よりも1年を通してトラブルがなく、品質や頑丈さにおいては非常に満足いくものだったという評価をもらいました。パリ〜ルーベの石畳でも、40度を超える炎天下でも、高速域でもヒルクライムでも何も問題がなかった。これは供給前の予想を遥かに上回るものだったようです」。

しかしチームは世界トップレースを勝ちに行くプロ集団だ。機材に対する要求は常に高く、現状に満足することはない。ミケはKLEOS RDと同じ剛性を保ちつつ、より軽いホイールを作ることを決意した。それが「DEVA RD」の出発点であり、カーボンスポークへと舵を切る決定打となった。

ホイールの開発には1年以上を費やした。グルパマFDJには2種類の異なるリムシェイプと2種類のハブ、そしてスポーク形状が異なるプロトタイプを渡し、そのフィードバックを元にして慎重に仕様を決定していった。ロードテストと同時に風洞実験も行い、実際の感覚とラボテストの結果を擦り合わせながら最適解を求めていく。風洞実験で「最高」の結果が出ても、ロードテストでの印象が伴わない場合があるからだ。ミケの場合、おおよそ7割をCFD解析や風洞実験のラボテストに、残りの3割をライダーの感覚値に充てて完成品に落とし込んでいるという。

チームカラーの新型FilanteとDEVA RDが揃い、トレーニングキャンプ中に感触を確かめるロマン・グレゴワール(フランス) photo:Wilier

「現場で見てもらったように、リムなどのカーボンパーツは中国生産ですが、OEM工場のカタログから『これが合うね』と選んでいるわけでは一切ありません。デザインはここミケ本社で行い、中国の工場にも年に5、6回は足を運んでミーティングを重ねています。彼らはただの請負先ではなく密接なパートナー。そして、これは誤解されがちですが、中国にも非常に高いクオリティで製品を作る工場はたくさんあります。その一方でまだまだの場所も多い。でもそれは中国に限ったことではなく、世界中どこだって一緒です。だから良いパートナーを選ぶことこそ大事であり、我々はその意味で良いパートナーと関わっています」。

グルパマFDJに完成品を渡したのは昨年12月のこと。「空力的に速いのはもちろん、剛性と反応性が上がったことで切り返しの多いテクニカルな下りで扱いやすくなったという評価を得ることができました。さらに振動吸収性能にも優れていることがポイントだと思います」。

振動吸収性を高める上ではスポーク本数の調整が鍵となった。当初は前後24本だったが、開発を進めるにつれそれでは過剛性であることが判明した。かといって前後18本では目標剛性に届かない。最終的に行き着いた答えが前後21本。さらにニップルも、他社のカーボンスポークホイールで散見されるスチール製ではなくチタン製を採用。ホイール外周部の重量を極限まで削ぎ落とした。

スポーク本数は前後21本。剛性と快適性のバランスに優れたことが決定打になったという photo:So Isobe

リムは中国生産ながら、デザインはミケ。複数のプロトタイプを製作し、プロの意見を元に使用を決定したという photo:So Isobe
ハブやフリーボディは自社生産品。ボディの肉抜き加工が映える photo:So Isobe



「実際に、我々はホイールブランドとして、現在かつてないほど多くの時間をCFD解析や風洞実験に費やすようになりました。なぜならプロレースの高速化は止まるところを知らず、非常にハイレベルな製品が求められているからです。ポガチャルがプロレースの常識を次々と塗り替えれば、他の選手たちも限界を押し上げないといけない。だからこそ、最高最速の機材でなくてはならないから、解析とデータ収集に時間を費やすのです。10年前だったら95%が肌感覚でOKでしたが、今はそれではとても戦うことはできません」。

「最高峰の舞台で戦える製品を作るには、我々自身が超ハイレベルでないといけないのです。そしてそれは、開発工程の全てをここ本社内で完結できているからこそ可能になります。DEVA RDだってリムの開発生産をOEM先に丸投げすればもっとコストは抑えられるでしょうが、品質は下がるでしょう。でもそれはミケにとって受け入れられることではないのです」。

イタリア生産に宿る価値と、新たな野心

「イタリア生産にこだわることが、ミケの製品そのものとブランド力の向上に必要不可欠」 photo:So Isobe

「ほぼ全てのことを社内で完結していることは、非常に大きな意味を持ちます」とグレゴリー氏は断言する。開発面ではOEM工場への丸投げでは不可能なレベルまでこだわり抜くことができ、製造面ではハブ、クランク、スプロケット、さらにはホイールスポークに至るまで、自ら金属材を削り出し、加工を施す。そのすべてが、厳格なクオリティコントロールに直結している。

「今は誰もが『アジア生産』という言葉を受け入れていますが、それでも我々はイタリア生産にこだわります。それは製品に大きな価値を付加することにもなるからです」。

今後ミケは、ウィリエールの純正装備に留まらず、一流のアフターマーケットブランドとしての価値を追求していく。その品質の高さはすでに業界内に知れ渡り、複数の有名ブランドからスルーアクスルやボトムブラケットといったスモールパーツのOEM生産の打診が舞い込んでいるという。

「DTスイスが良い例でしょう。彼らは様々なメーカーと協業してブランドの認知度を上げました。ミケの目指すところもほぼ同じです。様々な一流バイクブランドの製品にミケの商品が付属すれば、ユーザーも『ワオ、ミケっていいブランドなんだね』と認知してくれます。品質には大きな自信がありますから、あとは認知度を上げていくことが今の課題と言えるでしょう」。

日本のサイクリストへのメッセージ

「自社生産にこだわるミケのことをもっと日本の皆さんにも知ってほしい」 photo:So Isobe

「まだまだ認知度は低い我々ですが、この先イタリアやスペイン、ベネルクス、ドイツで広まったように、ウィリエールと共に、日本での『ミケ』の存在感を高めていきたいと考えています。2024年から服部産業とのコラボレーションが始まって以降、日本でもミケのホイールを選んでくれる方が増えていることを数字でも確認できていて、とても嬉しく思っています。日本ではミケ=トラック競技のイメージが強いかと思いますが、この記事を通して、ミケの今や、ブランド全体のことをもっと理解してもらえれば、それ以上に嬉しいことはありません。日本ではイタリアンブランドが好まれることを知っていますから、ぜひイタリア生産にこだわっている我々のことも知ってもらえると幸いです」。

ミケが誇るフラッグシップホイール、DEVA RD

ミケ Deva RD(奥がブラック、手前がクローム) (c)MICHE

今回Filante SLR ID2と共に試し、その性能に驚かされたホイールが、今回のインタビューでも紹介したミケのフラッグシップモデル「DEVA RD(ディヴァ RD)」だ。RD(Race Development)を謳う通り、2025年から供給体制を組むグルパマFDJとの綿密なパートナーシップから生まれたホイールシリーズは52mmハイトモデルと62mmハイトモデルの2種類を有し、前作のKLEOS RDと比較して空力性能を引き上げつつ、新開発のリムとスポークによって52mmハイトモデルで1,305g、62mmハイトモデルで1,375gという圧倒的な軽さを実現している。

その走りはまさに超現代的。細部に至るまで徹底的に開発され、サン・ベンデミアーノのミケ本社工場で組み上げられるハイエンドホイールの競争力は非常に高いと断言できるものだった。「Prodotto d'Italia」にこだわったホイールは、ウィリエールオーナーならずとも注目すべきだろう。日本国内での販売価格は624,800円(税込)。

DEVA RD 52DEVA RD 62
リムプロファイル前後52mm前後62mm
リム外幅前33mm、後31mm前31mm、後30mm
リム内幅23mm23mm
重量1,305g1,375g
スポークVonoa Carbon Spokes & titanium 4x1 Aero Profile
ハブAL 7075 T6
ベアリングCeramicSpeed 2RS
トランスミッションRES 30 Rapid Engagement System
価格624,800円(税込)
CW紹介記事https://www.cyclowired.jp/news/node/391596

最高のパワー伝達効率を実現するチェーンリング、X2 RD

グルパマFDJの要望に応える形で生まれたミケのカーボンチェーンリングが「X2 RD」だ。CNC削り出しのアルミプレートを3Kカーボンレイヤーでカバーする2層構造を採用し、極めて高い剛性と強度、軽量性、そして空力性能を両立した意欲作だ。シマノのDURA-ACEもしくはULTEGRAクランクに対応し、DURA-ACE用は最大56Tとプロ選手のニーズにも応えるラインナップだ。

ミケ X2 RD photo:So Isobe

素材カーボン + AL 7075 T6 / CNC
対応クランクシマノ Dura-Ace FC-R9200
シマノ Ultegra FC-R8100
重量(パワーメーター対応)50T - 126g
重量(ノーマルクランク対応)50T - 127g
価格53,460円(税込)
CW紹介記事https://www.cyclowired.jp/news/node/391317
提供:服部産業 / Text:So Isobe