昨年11月末、スイスでのUCIシクロクロスキャンプに日本ナショナルチームとして三上将醐と小林碧が参加した。世界17カ国から集まった若手と本場のメソッドを吸収した8日間。自らも公認コーチ資格を得た竹之内悠監督によるレポートを紹介する。



スイスで開催された若手向けシクロクロス合宿の引率役として、そして自身もUCIシクロクロスコーチ研修に参加した竹之内悠。その模様をレポートしてもらった photo:Yu Takenouchi

かつて欧州に身を置き、全日本選手権を5度制すなど長年日本のシクロクロス界を牽引してきた竹之内悠。現在は選手活動を続けながら、シクロクロスナショナルチームの監督として若手の育成に力を注いでいる。自身が20年にわたって身をもって経験してきた「世界のリアル」を、どうすれば次の世代に、より確実な形で継承し、レベルアップを遂げられるのか。

今回、竹之内監督から2025年11月にスイスで行われた、若手選手対象のUCIシクロクロストレーニングキャンプのレポートが届いた。参加した三上将醐・小林碧の引率だけでなく、自身もUCI公認コーチ資格の取得に挑んだ8日間。現場で彼が何を感じ、かつて強豪国を牽引した実績をもつコーチ陣とどんな言葉を交わしたのか。飾らない言葉で綴られた、日本シクロクロスの「未来」を担うための手記をお届けする。



世界との差を埋めるために

世界との差を埋める。2005年に自身初のシクロクロス世界選手権に出場してから、この漠然とした言葉をずっと心に留めてきた。自分自身では色々と考え、世界選手権に挑むために、まずは時差を無くすことから始まり、それでは足りないから、もっとヨーロッパの経験を積まなければならないと先輩方にお世話になりながらヨーロッパのレース経験を積ませてもらい、それでも足りないからヨーロッパ拠点で世界のプロになるレールに乗る必要があると思ってロードシーズンからベルギー拠点でレース活動を行い、そしていかに世界の選手が世界の選手たるものになるのかを、よりリアルにこの20年間見てきた。

欧州に拠点を置き、長らくシクロクロス活動を続けてきた竹之内悠

選手活動を続けながら、自身の経験やコネクションをより多くの次世代に向けて残すべく、(シクロクロスの)ナショナルチームの監督に就任させていただいた。

各国を見ているとそれぞれのノウハウがあり、世界チャンピオンには世界チャンピオンを作るチームがある。一般的には選手本人の成績が主に取り上げられるが、それを支えるチームがないと世界チャンピオンは誕生しない。そのチームはどのように出来上がっているのか、そしてもちろん、世界チャンピオンは選手としてもどのようにして出来上がっていくのか。選手としても、監督(コーチ)としても非常に興味があった。そしてその一つの回答がこのUCIトレーニングキャンプで得られるかもしれないと。

日本としてUCIシクロクロストレーニングキャンプ参加。三上将醐選手と小林碧選手が選抜された photo:Yu Takenouchi
2年目の参加

今年は日本チームとして2年目のUCIシクロクロストレーニングキャンプへの参加となった。昨年はUCIよりNF(ナショナル・フェデレーション)にトレーニングキャンプ募集の連絡があり、これは世界のトレーニングを知れる良い機会だと急いで選手を募り、私自身も選手引率と通訳を兼ねてトレーニングキャンプへのオブザーバー参加をUCIにお願いし、特別許可を得て参加した。

どのようにして選手にシクロクロスを教えるのか、何を教えるのか、とても興味があった。初年度は全てが初めてで苦労したが、2年目となると流れがわかるので選手の引率もスムーズに行うことができた。

コーチ陣も非常に豪華。ベルギーのナショナルチームに深く関わってきたスヴェン・ヴァントルノートさんや、女子トップ選手として長いキャリアを築いたエヴァ・リヒナーさんの姿も。

• Ed Collins (IRL),:experimented coach for British Cycling and leader of the UCI Cyclo-cross camp for the 4th year in a row
• Eva Lechner (ITA), confirmed International Cyclo-cross and MTB athlete and representative of athletes for the Cyclo-cross discipline
• Sven Vanthourenhout (BEL), ex professional cyclo-cross and road rider, former national coach for the Belgian and Road national team

選手は世界17カ国からジュニア、アンダー世代の選抜された25名。日本からは三上将醐選手と小林碧選手が選抜され、参加した。

初年度はマチューのお父さんであるアドリ・ファンデルプールさんが講師を務め、参加者はたった4人だったと聞かされた。如何にシクロクロスが競技として発展してきたかが伺える。

講習内容は教育的視点が主眼に置かれ、アンチドーピングやSNS運用の方法の講義、グループディスカッションやケースワークも photo:Yu Takenouchi
シクロクロストレーニングキャンプ

シクロクロストレーニングキャンプは8日間の日程で行われた。まさに自転車漬けの毎日となるわけだが、あくまで教育的視点が主眼に置かれ、アンチドーピングやSNS運用の方法の講義があったり、グループディスカッションやケースワークもこなす。ディスカッション内では国際色豊かなグループから様々な意見が聞かれた。

昼間は基本的に男女別グループで午前と午後に分かれて、各セッションに取り組む。スタート練習からコーナー、複合コーナー、キャンバー、登り返し、シケイン、サンドセクション等々、シクロクロスに必要な動きを学ぶ。

コーチ陣は元世界トッププロ選手、教わるなら僕が教わりたかった!という心の声が出てしまうのだが、ヨーロッパで僕自身が走って経験したことや疑問を名だたるコーチ陣が言語化し、若い選手たちに伝えていく様は圧巻だった。

UCIシクロクロスコーチレベルⅡコース

一緒にUCIシクロクロスコーチⅡ資格講習を受けた仲間。中にはかつて一緒に欧州転戦していたメンバーも photo:Yu Takenouchi

今年は同期間にコーチコースが世界初開催となり、日本自転車競技連盟のお力添えもあって私が受講させて頂いた。個人的にも常々、レースは選手の努力次第であるような雰囲気に限界を感じ、より良い導き方があるのではないかと考えていた。選手の発展のためにコーチ陣のレベルアップが必須であると考えていたので、この機会はとても素晴らしいものとなった。世界5カ国から5名が受講。7日間のカリキュラムをこなして無事に合格。世界初のUCIシクロクロスコーチⅡ資格を取得することができた。

最終日はUCIレースに参戦

最終日はUCIレースに参戦。三上選手は2分55秒遅れの9位 photo:Yu Takenouchi
小林選手も3分2秒遅れの6位でフィニッシュした photo:Yu Takenouchi



最終日はWCC(UCIのワールドサイクリングセンター)内で開催された、スイスシクロクロスシリーズUCI.2クラスのレースに実践参加した。各選手が学んだことを活かすためにコーチ陣の助言を参考としながらレースを組み立てた。

日本人2名はそれぞれ最後尾スタートながら着実に追い上げるレースをし、三上選手は2分55秒遅れの9位、小林選手も3分2秒遅れの6位でフィニッシュ。選手レベルも低くなく、雨も降りコンディションも難しかったにも関わらず、学んだことを生かすことができたと思う。

世界との差

コーチ陣からは日本選手への賞賛の声が上がった。もちろん、シクロクロス強国のジュニア選手やコーチ陣のナショナルチーム選手から比べれば劣るとしても、僕たち日本人のポテンシャルに驚いたのだと思う。

  photo:Yu Takenouchi

私自身、2005年のシクロクロスジュニア世界選手権は25位だった。同大会でフィニッシュした周囲の選手の中には、その後に世界でトッププロになった人もいる。何が違うのか。日本人も決して全く才能がない訳でなく、その才能を活かす能力や環境がないのだと思う。

その同大会、2005年の世界選手権男子エリートで3位に入ったのは今回の講師を務めた一人、スヴェン・ヴァントルノートさんだった。彼と会話する中でそのことに気付いたのだが、自身の世界選手権を走り終えた後に見たエリートレースのスピードに驚いたことを覚えている。

彼とお互いに2005年の話をさせてもらっているうちに想いが込み上げ、「あなたのようになりたくてヨーロッパでレースをしていました」と伝えた。

そんな私であるが、現在は、シクロクロス種目のサポートに加え、ロード種目におけるジュニアネイションズカップやアジア選手権へのサポートにも携わらせてもらっている。

また、自身がマウンテンバイクの全日本選手権へ出場している点なども踏まえると、各カテゴリーそれぞれを経験してきたことが競技力向上に寄与していることを実感している。近年では海外のトップ選手においても複数種目を横断した取り組みが進んでおり、JCFとして描いている種目連携による相乗効果を狙う観点からも、私はシクロクロスは重要なファクターの一つとして位置付け、日本の自転車競技力向上の一手となればと考えてきた。

今できることは少ないが、日本自転車競技連盟がこうして世界との架け橋になる事業を展開し、ヨーロッパと世界をつなぐトレーニングキャンプに選手を派遣して頂いたことはとてもポジティブだと感じる。来年以降も本事業を展開し、組織として少しでも多くの芽を咲かせることに注力していきたい。



編集部注:なお、この合宿に参加した三上将醐と小林碧は、12月に開催された全日本選手権の男女ジュニアレースで共に優勝。男女のジュニアナショナルチャンピオンに輝いた。砂のテクニカルレースで、スイスで得たノウハウが活かされたことは間違いないだろう。

text&photo:竹之内悠 (シクロクロスナショナルチーム監督)