知られざる那珂市の魅力を掘り起こすショートトリップも後半へ。那珂川沿いの田園地帯を抜け、幸運をもたらす「七運コーヒー」で温まり、老舗酒蔵が手掛ける常陸秋そばを手繰る。晩秋に小さな幸せを積み重ねる1日。(※前編はこちらから



那珂川にもほど近いエリアは有数の田園地帯。肥沃な黒土が美味しい作物を育ててくれる

誰が言ったか、那珂市はハートの形をしているらしい。確かに地図を見てみると納得だ。少なくとも千葉県が犬の形といわれるよりはかなり直感的である。さて、異色の経歴を持つ提灯職人のジェフさんと別れを名残惜しみつつ、次に向かうのは北西部、心臓で言うなら右心室のあたり。

そこに何があるのかと言えば、茨城を代表する河川の那珂川とそばに広がる田園地帯。冬の入り口に差し掛かったころのライドだったこともあり、既に作物は収穫済みだったのだけれど、もう少し早い時期なら実りを感じる風景を楽しめただろうことは想像に難くない。

那珂川沿いノサイクリングロードは広々としていて走りやすい!

そして、恵みの水をもたらす那珂川の河川敷へ。ゆったりした幅員の河川敷上のサイクリングロードは舗装状態も非常に良好で、滑るように走っていけるまさに快走路。開けた風景のなか、気を張らずに流していけるのはサイクリングロードならではのひと時だ。

しばらく進むと、だんだん行く手が騒がしくなってくる。なんだなんだと思っていると、どうやらサッカーの試合が行われている様子。何面ものサッカー場と堤防斜面を利用した階段観覧席が整備された那珂西リバーサイドパークは、まさに満員御礼といった様子。

休日ということもあり、サッカーに興じる子供たちがたくさん。若い世代が元気なのも那珂の特徴なのだとか

多くの子ども達がサッカーに興じ、そして応援に駆けつけている様子を見ていると、活力のあるエリアなのだなと実感できる。未来ある子ども達とぶつからないように気を付けながら走っていくと、「自転車かっこいいー」なんて声も聞こえてきて、少しこそばゆい。

サイクリングロードを抜け、更に北へと走っていくとこの日2つ目のグルメスポット「そうざい男しゃく」に到着。自転車を停めている間にもひっきりなしにお客さんが出入りしていく大賑わいぶりに期待が膨らむ。

思い思いのそうざいをゲット!

ずらり並んだ揚げ物たち。彩りは無いかもしれないけれど、むしろこれが良いんです。

少し狭めの店内にずらりと並ぶ揚げ物たち。揚げ物屋さんで一番重要なことは何か。それはお客さんの多さである。賑わっていれば商品の回転率が上がり、すなわち揚げたてを食べられる確率が上がっていくからだ。行列が出来る店は嫌いな性質だが、揚げ物屋だけは別である。

ずらっと並んだ茶色のパラダイスから、私は串カツをゲット。かなりボリューミーながら300円でお釣りが来て、競合相手はファミチキあたりの価格帯。そんな仮想敵に対しては、圧勝の一言である。分厚い豚肉と甘い玉ねぎを薄めの衣でカラリと揚げた串カツが、この値段で良いのだろうか。まだ日本にインフレは根付いていないのではないだろうか。植田総裁が食べれば金利引き上げを撤回しそうな一本である。

この日唯一の上り区間。E-BIKEなら楽々だ

皆さんもそれぞれ思い思いの揚げ物をゲットし、店先でハフハフといただく。そんな中で見つけたのがLINE登録でもらえる限定クーポンのチラシ。ただでさえも安いのに、対象商品がまさかの半額となる信じがたいクーポンが配布されるという。むしろ使うのが申し訳なくなってきそうだ……。

小腹を満たした先に向かうのは、茨城県内でも有数の歴史を持つ静神社。この辺りが那珂川が浸食した台地であることを感じさせるちょっとした登りをこなせば目と鼻の先だ。

大きな鳥居が静神社の目印

1200年以上の歴史を持つ静神社

806年創建、つまり1200年以上の歴史を持つといわれる由緒ある神社で、道路沿いに面した一の鳥居はかなりの大きさ。ちなみにここから本殿まではかなりの段数の階段を上ることになるので、参拝されるかたはロード用ビンディングシューズはやめておいた方が無難。今回は皆さんスニーカーなので、そんな言い訳も使えず、えっちらおっちら階段を上がっていく。

静神社の名の通り、登り切った先には静謐な空間が広がっている。喧騒から離れ、澄んだ空気を吸っているだけで、なんだか清められていくような感覚がある。

千葉酒店に到着。歴史ある店構えだ

これはコーヒー豆の産地では……?と思っていると
ずらり珈琲豆が並んでいました。もちろんお酒もあります笑



再び階段を下りたところ、次に向かうのは「千葉酒店」だと聞く。さすがにライド中の飲酒はご法度なので、お土産でも買えるのだろうかと思いつつペダルを漕ぐ。

しばらく走って到着した千葉酒店。瓦と塗り壁の建物は、酒蔵!といった風情でいかにも老舗の酒店の構え。戦前から続くお店とのことで、その風格に納得しつつお店に入るとふわりと香ばしい薫りが。

なぜ、酒屋でコーヒーの香りが?そう思って店内を見渡すと、ずらりとコーヒー豆が並び、中央には立派な焙煎機が鎮座している。入る店を間違えたのだろうかと思ってしまうが、コーヒー豆の横の冷蔵庫には日本酒もズラリと並んでいる。どうやら間違いではなさそうだ。

出迎えてくれたのは三代目の店主である千葉孝之さん。大のコーヒー好きが高じ、千葉酒店に新たな軸を打ち立てたのだという。自転車乗り目線で言えば、嬉しい限りである。ライド中に飲酒は出来ないけれど、美味しいコーヒーはいくら飲んだっていいのだから。

淹れたてのコーヒーを頂きました

フルーティーで飲みやすい一杯でした!

「何かお好みはありますか?」とヒアリングをベースに、おすすめの豆を選び、ブレンドし、焙煎。それぞれに合わせて抽出された一杯は、まさにスペシャルな味わいだ。フルーティーで爽やかな飲み心地はサイクリング中にぴったりであっという間に飲み干してしまった。

そして、この千葉酒店では那珂市の特産品ブランドにも指定された「七運コーヒー」も手掛けている。もともと、那珂に伝わる民話「額田のたっつぁい」に由来する、冬至の日に7つの「ん(運)」がつく食材を用いた七運汁を食するという習慣をコーヒーで表現したのが「七運コーヒー」。

那珂市の特産品ブランドにも指定された「七運コーヒー」

七運ブレンドをお土産にゲット

マ「ン」デリ「ン」、イエメ「ン」 アラビア「ン」セレクト、ガテマラ・ア「ン」ティグア、コロ「ン」ビア・ナリーノ・スプレモ、タ「ン」ザニア・エーデルワイスという7つの「ン」を含んだブレンドコーヒーは、ドリップパックも用意され、お土産にもぴったりだ。

のどを潤したあとには、今回のランチスポットとなる「蔵+蕎麦 な嘉屋」へ。那珂市に本店を置く木内酒造が手掛けた蕎麦屋は、行列の出来る人気店。大正蔵を改装した趣のある店内は蕎麦を楽しむ方がギッシリ。

今回のランチスポットとなる「蔵+蕎麦 な嘉屋」

雰囲気たっぷりなバーもありました
木内酒造のお酒もお土産に買えます



お酒と蕎麦、確かに相性バツグンの組み合わせだけれど、木内酒造が蕎麦屋を手がけるのはそれだけにとどまらない理由がある。同社の人気商品である「常陸野ネストビール」に用いるビール麦「金子ゴールデン」の畑は、二毛作の裏作として茨城県産の「常陸秋そば」を栽培しているのだという。

地域に密着したエコシステムを築く木内酒造ならではの取り組みだが、その人気ぶりはやはり蕎麦自体のクオリティの高さあってこそ。しっかりとエッジの立った蕎麦は、そば粉10に対してつなぎが1の「そといち」蕎麦。ズズズと手繰れば豊かな香りが口いっぱいに広がっていく。

酒蔵を改装したレストランは風情抜群

ピンっとエッジの立った蕎麦をいただきます

しっかり走ってきただけあって、一同あっという間に完食。木内酒造自慢の日本酒やクラフトビール、ウィスキーをがずらりとならぶ売店に立ち寄り、最後の立寄スポットへ。

大きな毘沙門天が見えてくれば、目的の一乗院はすぐそこだ。北方の守護神としてにらみを利かせる毘沙門天の大きな立像を筆頭に、七福神めぐりや達磨がズラリと並んだお堂など、見所沢山のパワースポットだ。

大きな毘沙門天の立像が一条院の目印

達磨がずらり。
自転車安全祈願のお守りも



この時期は美しい紅葉をたのしめました

そして、ここからスタートした上菅谷駅までは残りわずか。常磐道をくぐり抜ければもう目と鼻の先。日の短い11月下旬のロケながら、夕陽が差す前に駅前に帰ってきた。40kmほどと、本格的なサイクリストからすれば短めに感じる行程だったかもしれないけれど、その中身はかなり濃厚。これまで全く知らなかった那珂市のことを、相当深く知ることが出来た1日に。

とはいえ、那珂にはもっと色んな魅力があるという。例えば、那珂のシンボルフラワーとなる向日葵が咲き乱れるひまわり畑や、水戸黄門にまつわる様々な歴史遺構などなど。今後は、拠点となる道の駅も整備され、更に魅力を増していくという那珂。週末ライドの新たな行先候補に、ぜひ加えてみてほしい。

そんなこんなで無事にフィニッシュ!サポートしてくれたスポーツサポートバスと一緒に。