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公開以来話題を巻き起こしているファクターの新型ONE。シクロワイアードではトライスポーツの協力により、ブランドオーナーのロブ・ギティス、そしてレジェンドであるクリス・フルームへのインタビューに成功した。彼らが話す、ONEの開発秘話とは。問い合わせ多数という、特殊なジオメトリーを解き明かすサイジングガイドとともに紹介する。

ロブ・ギティスとクリス・フルームがONEを解説

公開前の10月末、シクロワイアードのインタビューにクリス・フルームとロブ・ギティス氏が応じた photo:トライスポーツ

「ONEというバイクは、ファクターの、いや、ファクターというブランドが生まれる前のBf1システムズからの最先端デザインを踏襲する、ファクターを代表するモデルなんだ」。ロブ・ギティス氏は、静かに、そして誇らしげに語り始めた。

このインタビューが実現したのは、新型ONEの一般公開に先立って行われた、スペインでのディーラーミーティング期間中のこと。現地に赴いた国内代理店、トライスポーツ協力のもと、貴重なオンラインインタビューの場が設けられた。

昨年4月、京都での展示会でギティス氏にインタビューした際、彼は私に「まだ超エアロバイクを開発する余地はある」と予告していた。先代ONEのフィロソフィーに憧れ、自らも所有する筆者にとって、その言葉通りにツール・ド・フランス前哨戦で実戦初投入された新型ONEは、待ち望んでいた想像を遥かに超える衝撃をもたらした。軽量モデルのO2やオールラウンドなOSTRO VAMとは一線を画す圧倒的な存在感を放つこのバイクは「ファクターが一流ブランドとしての地位を確立した今こそ解き放たれるべき、エポックメイキングな一台だった」とギティス氏は言う。

「なぜONEを作れたかって?できたからさ」と笑うギティス氏 photo:トライスポーツ

その傍らで、レジェンドであり、現在はブランドの出資者でもあるクリス・フルーム(イギリス)が静かに口を開いた。「一言で言うなら、これは『Ultimate bike for speed』さ。どんなカテゴリーであれ、高い速度域で戦うなら、誰もが望むべき究極の選択肢さ。チームのスプリンターたちもこのバイクをひと目で気に入っていたし、実際に乗った彼らの表情は驚きに満ちていたよ」。

フルームはONEのフォルムをスーパーカーに例えた。「(超高級車ブランドの)ブガッティに憧れるように、レースを走らない人ですらこのデザインを見たら恋に落ちるだろう。『なんとしても手に入れたい』と思わせる境地にファクターは達したんだ。……まあ、ブガッティほど高くはないから、頑張れば手に入るのもいいよね(笑)」。インタビュー時点でまだONEには乗れていない、と話していたフルームだが、モナコに住み、富裕層の心理を知る彼らしい賛辞が実に興味深い。

「スピードを求める人に向けた最適解」とフルームは言う。「この魅力に取り憑かれてしまう人は多いはず」とも photo:トライスポーツ

しかし、このバイクの本質は、単なる「スーパーカーのような見た目」ではない。ギティス氏が開発において最も困難だったと振り返るのは、意外にもエアロではなく「ジオメトリー」、とりわけ「選手たちの安全性を担保すること」だった。

「ポガチャルやレムコのような新世代選手たちは、極端な前乗りポジションをとる。ショートクランク、ロングステム、ワイドタイヤ……。旧来の設計思想で開発されたバイクでこうしたセッティングを強いると、ハンドリングが自然さを失い、危険な領域に近づいてしまう。我々はそこに強い懸念を抱いていたんだ」。

そのため、ONEでは「速く、かつ安全」という二軸が追求された。UCIの3:1ルール撤廃を追い風に、ギティス氏曰く、UCIと協議を重ねながらファクター開発陣が得意とするCFD(流体解析)で200回以上の計算と90時間に及ぶシミュレーションを敢行。世界初の「76度」というシートアングルを基点に、ライドポジションをゼロから構築し直した。「前乗りなのに怖くない」という新境地。それを実現できた理由を問うと、ギティス氏は不敵に笑った。「僕たちには、それができる技術があった。それに尽きるだろう」。


元々、台湾でカーボンバイクの生産工場を所有し、名だたる主要メーカーのOEM生産を請け負ってきたロブ・ギティス氏。その豊富な資金とノウハウを背景にBf1システムズからファクターを買収し、量産ブランドとしての舵を切った彼は、誰よりも現場の裏側を知り尽くしていた。

OEM生産の現場で幾度となく目にしてきたのは、コストカットゆえの「妥協」だった。しかし、自らのブランドであるファクターに、その選択肢はない。既存のメーカーがコストや生産性を理由に諦めてきた設計上の制約を、自社生産という強みを活かして潰していった。「自らが本当に納得できるバイクしか作らない」。その確固たる、そして偏執的とも言える情熱があったからこそ、新型ONEは従来のロードバイクの常識を置き去りにするほどの完成度を手に入れたことは間違いないだろう。

「ほとんどの人はUCIレースを走るわけじゃない。でも、純粋にスピードを求める人がこのONEに乗れば、『うわ、すごい!』という感動を肌で感じることができる。僕たちはそれを強く信じているし、絶対の自信を持っているよ」。と、ギティス氏はインタビューを締め括ったのだった。

従来の概念を破壊する「ONE サイジング・バイブル」

前編のインプレッション編では、実際のサイズ選びについても言及。気になる方は再度チェックを photo:Naoki Yasuoka

インタビューでギティス氏が語った「76度のシートアングル」や「ショートクランクと前乗り前提の新ジオメトリー」は、実際に乗るライダーにどのような影響を与えるのか。従来とはかけ離れたジオメトリー思想ゆえに、トライスポーツ対しては現在も多くの質問が寄せられているという。それに対し、同社の大西氏がまとめたサイジングガイドをベースに、ONEを選ぶための「新常識」を解説する。

1. リーチはOSTRO+20mm

一体型ハンドルバーは1~5のサイズ展開となる。従来のステム換算でサイズ1が110mmとなり、10mm刻みで150mmまで用意される (c)Factor Bikes

ONEのジオメトリー表をOSTRO VAMと比較すると、同じサイズでも、ONEの方が実質的に20mmほどリーチが長く設計されている。4本のボルトでフロントフォーク上部へ固定するハンドルは幅380mmのみで、ステムは「サイズ1」から「サイズ5」までの5種類。サイズ1〜3には「20mmハイライズ設定」が用意される。

例:ONEの「サイズ1」 = OSTROでの「AB02ハンドルの110mmステム」を使用している状態に相当
例:ONEの「サイズ5」 = OSTROで「AB02ハンドルの150mm」を使用している状態に相当


これは「長いステムでリーチを稼ぐ」という無理なセッティングを不要にし、フレーム全体で安定したハンドリングを確保するための設計。従来の感覚でサイズを選ぶとハンドルが遠すぎてしまうため、ステム長(一体型ハンドルサイズ)は一段階、あるいは二段階短く選ぶのが正解となる。また、スペーサーを使用することでハンドル位置の調整も可能だ。

2. 「76度のシートアングル」がもたらすシートポストの最適解

世界初とも言える76度のシートアングルにより、ストレートポストのOSTROと比較した場合ONEの30mmオフセットポストは約10〜12mm前方へ移動する。 これにより、ライダーは無理にサドルを前に突き出すことなく、自然に「前乗り」のポジションをとれるようになった。さらに超アグレッシブな前乗りポジションを決めるならストレートポストを選ぶべきだろう。

3. ショートクランク前提の「超低重心スタック」

ONEはスタックが非常に低く抑えられているが、これは165mmといったショートクランクの使用を前提(コーナリング中にペダルヒットしないように)としているからだ。パワーが出やすく、かつコンパクトでエアロな姿勢を取れることで近年主流となっているが、その分フレーム側のBBドロップを深く設定することで、全体の重心を下げている。この低重心設計が、ギティス氏の言う「ハイスピード域での絶対的な安定感」の正体だ。

結論:数値ではなく「ポジション」から逆算せよ

ツール・ド・フランスで使用され注目を集めたONEが、いよいよ市場投入。ユーザーの反応が楽しみだ photo:CorVos

ONEは「身長からサイズを決める」という旧来の選び方を拒絶するバイクだ。 様々な数値を踏まえると、従来から10〜20mm程度「前乗り」のポジションをとることを前提に設計していることが伺える。

「自分がどのポジションで乗りたいか」を起点にし、そこからハンドル前後位置を確定させ、サドルの前後位置を調整することで、自ずと必要なシートポストのオフセット量を導き出すことができる。この特異なジオメトリーこそが、ピュアにスピードを楽しむための、ファクターからの回答なのだ。
提供:トライスポーツ、text:So Isobe/photo:Naoki Yasuoka