整然としたトレインが姿を消し、混沌が支配する現代スプリント。その乱戦を制し続けるジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)は、193cmの巨体で風を切り裂き、わずかな隙を射抜く。ツール初挑戦でマイヨヴェールを獲得した25歳が語る、新城幸也から学んだこととは。

ジャパンカップに来日したジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:So Isobe
残り3km、各チームがトレインを組んで最終ストレートへ。リードアウトの背後からエースが飛び出す“最終発射”の定石は近年崩れ、2025年のツール・ド・フランスでそれは決定的となった。いまや集団スプリントは隊列が分断し、多くのジャージが錯綜する乱戦だ。
そんな無秩序な今日日のスプリントにおいて、勝ち星を重ねるスプリンターがいる。リドル・トレックで走るジョナタン・ミランだ。
193cmの大柄な身体を自在に操り、トラックで身につけたバイクハンドリングも駆使しながら最終盤で隙間を見つける。そして放たれるのは、頭と身体を上下にダイナミックに揺らしながら、最大1,960~65Wだという高出力スプリント。そうしてミランは今年、世界一のスプリンターの称号とも言われるツール・ド・フランスのマイヨヴェール(ポイント賞)に輝いた。

ジャパンカップクリテリウムを制したミランと、元チームメイトの新城幸也 photo:Toshiki Sato
宇都宮ジャパンカップクリテリウムの2日前、インタビューに応えてくれたミランは、変化する集団スプリントや個人の進化、加入して2年が経つリドル・トレック、初めてのグランツールを共に戦い「走り方を教わった」という新城幸也について語ってくれた。
分断される隊列、問われる判断力

「いまのスプリントはそんなに簡単なものではない」とミランは言う photo:So Isobe まず、最終ストレートまでトレインを維持することが難しくなっている現在のスプリントについて、ミランは「リードアウトのいない『小さなチーム』のスプリンターが増えたから」と説明する。
「彼らはチーム事情のため、スプリントに割くアシストがせいぜい2人ぐらいしかいない。そのせいで僕らは事前に立てたプランの遂行が難しくなっているんだ」
今年のツール・ド・フランスでミランには、世界最高とも言えるリードアウトがいた。ベテランのエドワルト・トゥーンスにヤスペル・ストゥイヴェン、そして東京五輪では共にチームパシュートで金メダルを獲得した盟友シモーネ・コンソンニ。そんな盤石とも言えるスプリントチームであっても、「主導権を握れれば理想的だけど、いまのスプリントはそんなに簡単なものではない」のだという。
そんな中でもミランは2m近い身体を屈め、巧みなバイクコントロールから好位置を取る。その理由を聞くと、横にいたカルロス・ベローナが「圧倒的に強いから」といい、それに被せるようにジュリアン・ベルナールが「そりゃ2mもあれば周りが見渡せるだろう?」と茶化す。さらにマティアス・ヴァチェクは「彼は逆に(リードアウトである)シモーネ(コンソン)に方向を伝え、導いているんだ」とジョークを重ねた。

メタリックカラーのスペシャルバイクで集団を牽引するリドル・トレック勢 photo:Makoto AYANO
「いや、高い背丈が有利なのは本当だよ。(首を伸ばして)こうすれば見えるからね(笑)」とミラン。「でもデメリットもあって、何よりこの身体でエアロポジションを取るのに苦労するんだ」。
新城に学んだ人生初のグランツール
「毎年パワーの向上とポジション作りに多くの時間を費やしている。何よりもその作業が好きだからね」と語るミラン。その努力が実り始めたのはバーレーン・ヴィクトリアスに所属していたプロ3年目、2023年シーズンのこと。それまでプロ3勝(ワールドツアーで未勝利)ながらジロ・デ・イタリアのメンバーに選ばれ、エーススプリンターの大役を務めた。そして訪れた大会2日目、最初の集団スプリントで区間優勝を挙げる。
当時のことを聞くと、「毎日のように悪天候に見舞われた21日間はつらく、(過酷さに)軽いショックすら受けたほど。だけど同時に楽しさもあり、毎日学ぶことだらけだった」と。そして当時のインタビューでミランを「大きな赤ちゃん」と表現した新城幸也について聞くと、「彼のような経験豊富な選手がチームにいて幸運だった。彼からは我慢強く新城幸也と、グランツールでいつ何をすればいいのかを学んだ。レース中はもちろん、レース外での行動でも多くのことを学んだ」と振り返ってくれた。

2023年のジロ第2ステージで勝利したジョナタン・ミラン(イタリア、当時バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos

集団牽引などアシストした新城と勝利を喜ぶミラン photo:CorVos
「(新城は)本当にスウィートな人間性の持ち主。リタイアを考えるほどのバッドデイ*の時も、彼はずっとそばにいて励ましてくれた」
*本来の力を発揮できない日のこと
翌年リドル・トレックに移籍したミランは、再びジロに臨み2年連続でマリアチクラミーノ(ポイント賞)を獲得。前年、4度の2位となった悔しさを払拭する区間2勝と、その強さがフロックではないことを母国最大のステージレースで証明した。
大成功となったツールデビュー
そして今年、自身初挑戦となったツール・ド・フランスでミランは区間2勝と共に、中間スプリントでポイントを積極的に積み重ね、マイヨヴェールを獲得した。成功の要因を尋ねると「長い時間トレーニングに費やし、それ以外も含めて良い準備ができたから。それに尽きる」と話す。

ツール初出場で勝利を掴んだジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos
「高地合宿や(前哨戦の)クリテリウム・デュ・ドーフィネで、チームメイトが完璧な仕事をしてくれたおかげ。特にグランツールに向けた高地合宿は初めてで、すべてのスケジュールが分刻みという新しい体験だった」
ツール第8ステージでの勝利は、イタリア人として2019年(第20ステージ)のヴィンチェンツォ・ニバリ以来のことだった。母国からの期待についてミランは、「もちろんプレッシャーは感じていたが、それを楽しむ方向にうまく変えることができた」と。
プレッシャーの対応については、母国で開催されたジロ・デ・イタリアでの成功はもちろん、東京五輪の金メダル獲得もその要因の一つになっているのだろう。当時の思い出を聞いてみると「今回の来日は五輪以来だけど、その時は会場がここから南の方(伊豆)だったし、どこも行けず何もできなかった」と笑う。
「でもあそこの(伊豆)ベロドロームは本当に速く走れる場所なんだ。もう一度あそこで走りたいぐらい。レースはもちろん、トレーニングでもいいぐらい好きなベロドロームだった」

圧倒的なスプリントで勝利したジャパンカップクリテリウムを制したジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:Makoto AYANO
その2日後に行われた宇都宮ジャパンカップクリテリウムでは、レース後半からパトリック・コンラッドとベルナールがトレインを組み、ヴァチェクの最終アシストからミランがスプリントを開始。古き良きリードアウトはいまもなお最強の解。それを宇都宮で証明し、チームに大会6連覇をもたらした。

残り3km、各チームがトレインを組んで最終ストレートへ。リードアウトの背後からエースが飛び出す“最終発射”の定石は近年崩れ、2025年のツール・ド・フランスでそれは決定的となった。いまや集団スプリントは隊列が分断し、多くのジャージが錯綜する乱戦だ。
そんな無秩序な今日日のスプリントにおいて、勝ち星を重ねるスプリンターがいる。リドル・トレックで走るジョナタン・ミランだ。
193cmの大柄な身体を自在に操り、トラックで身につけたバイクハンドリングも駆使しながら最終盤で隙間を見つける。そして放たれるのは、頭と身体を上下にダイナミックに揺らしながら、最大1,960~65Wだという高出力スプリント。そうしてミランは今年、世界一のスプリンターの称号とも言われるツール・ド・フランスのマイヨヴェール(ポイント賞)に輝いた。

宇都宮ジャパンカップクリテリウムの2日前、インタビューに応えてくれたミランは、変化する集団スプリントや個人の進化、加入して2年が経つリドル・トレック、初めてのグランツールを共に戦い「走り方を教わった」という新城幸也について語ってくれた。
分断される隊列、問われる判断力

「彼らはチーム事情のため、スプリントに割くアシストがせいぜい2人ぐらいしかいない。そのせいで僕らは事前に立てたプランの遂行が難しくなっているんだ」
今年のツール・ド・フランスでミランには、世界最高とも言えるリードアウトがいた。ベテランのエドワルト・トゥーンスにヤスペル・ストゥイヴェン、そして東京五輪では共にチームパシュートで金メダルを獲得した盟友シモーネ・コンソンニ。そんな盤石とも言えるスプリントチームであっても、「主導権を握れれば理想的だけど、いまのスプリントはそんなに簡単なものではない」のだという。
そんな中でもミランは2m近い身体を屈め、巧みなバイクコントロールから好位置を取る。その理由を聞くと、横にいたカルロス・ベローナが「圧倒的に強いから」といい、それに被せるようにジュリアン・ベルナールが「そりゃ2mもあれば周りが見渡せるだろう?」と茶化す。さらにマティアス・ヴァチェクは「彼は逆に(リードアウトである)シモーネ(コンソン)に方向を伝え、導いているんだ」とジョークを重ねた。

「いや、高い背丈が有利なのは本当だよ。(首を伸ばして)こうすれば見えるからね(笑)」とミラン。「でもデメリットもあって、何よりこの身体でエアロポジションを取るのに苦労するんだ」。
新城に学んだ人生初のグランツール
「毎年パワーの向上とポジション作りに多くの時間を費やしている。何よりもその作業が好きだからね」と語るミラン。その努力が実り始めたのはバーレーン・ヴィクトリアスに所属していたプロ3年目、2023年シーズンのこと。それまでプロ3勝(ワールドツアーで未勝利)ながらジロ・デ・イタリアのメンバーに選ばれ、エーススプリンターの大役を務めた。そして訪れた大会2日目、最初の集団スプリントで区間優勝を挙げる。
当時のことを聞くと、「毎日のように悪天候に見舞われた21日間はつらく、(過酷さに)軽いショックすら受けたほど。だけど同時に楽しさもあり、毎日学ぶことだらけだった」と。そして当時のインタビューでミランを「大きな赤ちゃん」と表現した新城幸也について聞くと、「彼のような経験豊富な選手がチームにいて幸運だった。彼からは我慢強く新城幸也と、グランツールでいつ何をすればいいのかを学んだ。レース中はもちろん、レース外での行動でも多くのことを学んだ」と振り返ってくれた。


「(新城は)本当にスウィートな人間性の持ち主。リタイアを考えるほどのバッドデイ*の時も、彼はずっとそばにいて励ましてくれた」
*本来の力を発揮できない日のこと
翌年リドル・トレックに移籍したミランは、再びジロに臨み2年連続でマリアチクラミーノ(ポイント賞)を獲得。前年、4度の2位となった悔しさを払拭する区間2勝と、その強さがフロックではないことを母国最大のステージレースで証明した。
大成功となったツールデビュー
そして今年、自身初挑戦となったツール・ド・フランスでミランは区間2勝と共に、中間スプリントでポイントを積極的に積み重ね、マイヨヴェールを獲得した。成功の要因を尋ねると「長い時間トレーニングに費やし、それ以外も含めて良い準備ができたから。それに尽きる」と話す。

「高地合宿や(前哨戦の)クリテリウム・デュ・ドーフィネで、チームメイトが完璧な仕事をしてくれたおかげ。特にグランツールに向けた高地合宿は初めてで、すべてのスケジュールが分刻みという新しい体験だった」
ツール第8ステージでの勝利は、イタリア人として2019年(第20ステージ)のヴィンチェンツォ・ニバリ以来のことだった。母国からの期待についてミランは、「もちろんプレッシャーは感じていたが、それを楽しむ方向にうまく変えることができた」と。
プレッシャーの対応については、母国で開催されたジロ・デ・イタリアでの成功はもちろん、東京五輪の金メダル獲得もその要因の一つになっているのだろう。当時の思い出を聞いてみると「今回の来日は五輪以来だけど、その時は会場がここから南の方(伊豆)だったし、どこも行けず何もできなかった」と笑う。
「でもあそこの(伊豆)ベロドロームは本当に速く走れる場所なんだ。もう一度あそこで走りたいぐらい。レースはもちろん、トレーニングでもいいぐらい好きなベロドロームだった」

その2日後に行われた宇都宮ジャパンカップクリテリウムでは、レース後半からパトリック・コンラッドとベルナールがトレインを組み、ヴァチェクの最終アシストからミランがスプリントを開始。古き良きリードアウトはいまもなお最強の解。それを宇都宮で証明し、チームに大会6連覇をもたらした。
text:Sotaro.Arakawa
photo:So Isobe
photo:So Isobe
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