「このチームで今年は自分のために走りたい、そして日本のレースを見てみたい」という2つの大きな目標で今シーズンを走った新城幸也。ソリューションテック・ヴィーニファンティーニとしてシーズン23勝を挙げた2025年について、イタリア・サンバロントでの合宿中に振り返ってもらった。



「いまのサイクリングはそうじゃない」

今年バーレーン・ヴィクトリアスからソリューションテック・ヴィーニファンティーニに加入した新城幸也 photo:Hitoshi OMAE

新城が今年2月のアジア選手権(タイ)のあと、ようやくチームに合流したのは3月中旬のツール・ド・台湾、そして続くツアー・オブ・タイランドだった。どちらのレースも同じメンバーで走ったが、「合宿で走ったことがあっても、どの選手がどのくらいの力量かはレースを走らないとわかりません」と、実際にレースを走ったことでようやくチームメイトの力が見えたという。

「タイでは(ロレンツォ)クアルトゥッチがステージ優勝し、彼ならこれから先、勝利やUCIポイント圏内が見えるなと思いました。でも彼を助ける選手がいなかった。レースを走っていると、皆他のチームの動きは見ているけれど、キーポイントの場所で『誰がクワルトゥッチをアシストしているか』というのは気にしていない。でも、ロードレースは自分のリーダーを良い位置にいさせなければいけない。このチームはそのために動いていない、というのが最初の印象でした」。

チーム最年長としてソリューションテックに加入した新城 photo:CorVos

新城に言わせれば、アシストのやり方はわかっているけれど、そこに脚を使わない選手、またわかっていなくて脚を使えていない選手もいたという。

「それにはちゃんとしたプランが必要ですよね。ミーティングでこうしようという話し合いだったり、監督が決めるところもあるんですが、選手同士の話し合いも必要です。このチームがこれまでどうしていたのかはわからないけれど、いまのサイクリング(ロードレース)はそうじゃない。誰がここまでという仕事が決まっていて、最後はリーダーのために、というのがいまのサイクリングです。そこに対応しきれていなかった。単に『逃げに乗ろう、集団も牽こう、スプリントもしよう』という場当たり的なやり方でした」。

その後、新城はチームの改善に着手した。「一番はチームメイトと話すことでした。レースを走っていると、状況は刻々と変わるわけじゃないですか。監督が牽けと言っても僕が嫌だと言えば牽かない。特にタイは僕の総合成績が良かったので、意見を言わせてもらった。そうやって成功して、チームメイトからの信頼を得たんです」。

日本遠征がもたらしたチームの進化

強力なメンバーと共にツール・ド・九州に参戦した新城 photo:Hitoshi OMAE

5月のツール・ド・熊野からツアー・オブ・ジャパンへと続く日本でのレースは、新城を含む強力なメンバーによる遠征となった。「本当は僕が自由に走りたかったのですが、熊野ではマーク・スチュワートがステージ優勝して総合首位につけたので、僕はアシストに回るしかなかった。でも、そうすることで(彼が)勝ってくれるわけです。一日苦労して集団を牽引しても、(エースが)勝ってくれる展開ってそうはないんですよ。それをドゥシャン(ラヨビッチ)たちは(確実に)やってくれる。

僕がちゃんと仕事をできるから、他のチームメイトも意見を聞いてくれる。加えて「こうした方がいいよね、ああした方がいいよね」と意見が出てくる。ドゥシャンはバーレーン(ヴィクトリアス)から来たから、スプリントの理想の形がある。そのリクエストに応えられるようにプランを決めていきました」。

熊野では大成功となる総合優勝を飾り、TOJではドゥシャンが落車リタイアしてプランは変更となったものの、「チームをちょっとずつ変えていけた」と新城は話す。「僕の仕事を見て、みんなも手伝いたいという気持ちが芽生え、シーズン後半は中国(ツアー・オブ・上海、ツアー・オブ・ビンズー)、マレーシア(ツール・ド・ランカウイ)にいって、みんなの信頼を勝ち取ることができました」。

ジロへの切符を懸けた、過酷なランキング争い

レース会場でも積極的にチームメイトとコミュニケーションを取る姿が印象的だった photo:Hitoshi OMAE

2025年のレーススケジュールは、UCIポイントの獲得に特化したスケジュールだった。例えば今年4月、共にプロツアーのステージレースであるツアー・オブ・ジ・アルプスとツアー・オブ・ターキーが重なり(正確には中1日空いていたが)、チームは「アルプスの最初の2日で2人リタイアさせ、トルコに向かわせた」そうだ。

「僕らはアルプスでポイントは獲れないですからね。ワールドツアーがジロ・デ・イタリアを前にガチガチでやっているところで、ポイントは獲れない。それだったら(ワールドチームの少ない)トルコに行き、ポイントを狙ったんです」。

7月のTHE ROAD RACE TOKYO TAMA 2025でロレンツォ・クアルトゥッチ(イタリア)が優勝し、9月のビンズーでは新城が2位に入って85ポイントを獲得。ついにチームはUCIランキング30位に浮上した。この30位こそが、来年のジロにワイルドカードとして呼んでもらえるライン。イタリア籍のプロチームとしてはどうしても欲しいポイントだ。しかし「翌日のイタリアのクラシックでVFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネに抜き返された。ツール・ド・九州で総合優勝して一気に近づいたけれど、及びませんでした」。

万全の体制で2027年のジロ・デ・イタリアへ

2027年のジロ・デ・イタリア出場を目標に掲げる新城 photo:Satoru Kato

「2025年シーズンを始めるにあたって、目標を2026年のジロ出場と言いましたが、来年出られなくなったのは逆に良かったです。これで準備がちゃんとできる。今年ワイルドカードでジロに出たプロチームは、ワールドツアーとの差がやっぱりあって、全然活躍できていない。来年出られたとしても、僕らは準備が間に合わなかったはずです。このチームは従来のイタリア式でやっていて、ワールドチームがやっていることをできていない。この5年でサイクリングはすごく変わったので、そこは修正しなければいけません」。

シーズン後半、ランキング30位以内が現実的に見えたチームは全体のモチベーションが上がった。その結果2026年はUCIポイントを稼ぎ、「2027年にジロ出場へ」というのが明確な目標になったのだ。

「何よりも一番良かったのは、チームに馴染めて、みんなが僕の話を聞いてくれて、それを脚で示せたこと」と、新城は嬉しそうに2026年シーズンを見据えた。

text&photo:Hitoshi OMAE

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