ヴィジョンがフラッグシップホイールをアップデート。Metron RSシリーズの登場によって、同ブランドのレーシングホイールは新しい世代へと進化を遂げた。今回はリムハイト45mmモデルを使用し、その実力を確かめた。



ヴィジョン Metron 45 RS photo:Naoki Yasuoka

EFエデュケーション・イージーポストやバーレーン・ヴィクトリアスといったUCIワールドツアーチームに機材を供給するヴィジョン。トライアスロン用のエアロパーツ開発からスタートし、ロードバイク向けのコンポーネントへと事業を拡大してきたブランドだ。ホイール開発に本腰を入れたのは2014年で、ペテル・サガンのようなトップライダーの要求に応えるべく製品を磨き上げてきた歴史を持つ。

2021年にローンチされたMetron SLシリーズは、プロチームが実戦で使用するフラッグシップモデルとして市場に投入された。そこから約4年を経て、新たにRSシリーズが加わることになる。RSとは「Racing Series」の略で、SLシリーズの持つポテンシャルをさらに引き上げた存在として開発された。リムハイトは45mmと60mmの2モデルが用意されている。

ブランド初となるカーボンスポークを採用 photo:Naoki Yasuoka

現在プロレースシーンではエアロダイナミクスと軽量性を高い次元で両立した機材が求められる。RSシリーズはまさにこの性能を両立したモデルとして開発が行われた。Metron 45 RSでは1,290gと、前作のSLシリーズと比較して108gの軽量化を果たしながら、エアロダイナミクス性能も向上させている。この相反する要素を同時に追求するため、ヴィジョンは複数のアプローチを組み合わせた。

最も大きな変更点は、ブランドとして初めてカーボンスポークを採用したことだ。スチールスポークと比較して1本あたり2.4gの軽減は、ホイール全体では108gのダイエットにつながる。カーボンスポークは軽量性と同時に、引っ張り強度やねじれ剛性といった特性にも優れており、ペダリング時のパワーロスを抑える効果が期待できる。

スポークは幅広のエアロ形状に成形され、ヘッド部分はT字型とすることでスポークの向きを最適化。緩みにくい構造も実現している。2:1のスポークパターンで組まれることで、張力のバランスも向上した。

ハブも新開発のV-1000が採用される photo:Naoki Yasuoka

カーボンスポークのヘッドはT字型とされている photo:Naoki Yasuoka

カーボンスポークの性能を最大限引き出すため、ハブも新設計のV-1000へと刷新されている。内部構造の見直しとスポークヘッドの取り付け位置の最適化により、軽量化とパワー伝達効率の両立が図られた。フリーハブボディには72Tのラチェットギアを採用し、5度という細かいかみ合い角度によって素早い反応性を実現している。

リムの製造工程でも軽量化が図られている。カーボンプリプレグの積層工程が自動化されたことで、不良率を最小限に抑えながら品質の安定化を実現。グラフィックは成形工程でインモールドされるため、後から貼り付ける手法と比べて22gの軽量化が達成できている。スポークホールも切削ではなく成形時に形成されることで、ホール周辺の繊維が連続的に配置され、強度と耐久性が高められた。

エアロと剛性を両立する新型リム photo:Naoki Yasuoka

軽量化と同時に、リムは時代の要求に応える形で再設計されている。フックドリムの内幅は23mmに設定され、28mm以上のワイドタイヤを前提とした設計思想が採用されている。現在のロードバイク界では太めのタイヤが主流となっており、この選択は時代に即したものだ。外幅は31.1mmで、リムハイトは45mmに設定された。

こうした進化の成果は数値として現れている。風洞実験では風速48.2km/hの条件下で、Metron 45 RSは前作のSLシリーズと比較して9%の空気抵抗削減を達成。28mmタイヤを装着した状態では、ヨー角15°まで失速しなかったことも確認された。過去のテストで25〜27mm幅のタイヤが7.5〜10°で失速していたことを考えると、横風への耐性が大きく向上したと言える。

そんなヴィジョンの新世代フラッグシップホイールをシクロワイアード編集部の高木がテストした。



ー編集部インプレッション

「各性能のバランスが整った優等生的なレーシングホイール」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Naoki Yasuoka

METRON 45 RSは、エアロ性能を活かしつつ、ヒルクライムでも快速ペースで登れて、平坦もこなせるオールラウンドなホイールでした。カーボンスポークホイールに共通するシャープな加速感としなやかさが両立した乗り味をMETRONも備えていて、今のレース用ホイールらしさを感じられました。

カーボンスポークの独特なしなやかさが武器になるのは脚へのダメージの少なさです。ステンレススポークはパリッとした加速感が気持ち良いのですが、長距離でダメージが蓄積されていくと、カーボンスポークの方が楽に加速できます。

柔らかい踏みでもしっかり力を溜めてポンっとリリースできるので、METRONは爆発的な加速感こそありませんでしたが、スムースに加速している感覚はありました。何発もアタックをかけても反応できるし、じわじわ追いかけ続けるようなシーンでも耐えていける。軽さと足当たりの柔らかさのバランスが取れたホイールだと感じました。

「何度もアタックをかけられるような足あたりの良さを感じた」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Naoki Yasuoka

スポーク素材による軽量化もひと踏めから感じられます。エアロリムで見た目は重そうなのですが、実際に踏んでみるとローハイトリムのような感覚を受けました。軽量性は登り、巡航、加減速を含めて様々なシーンで効いてきます。やはり軽さは大きな武器だと実感します。

カーボンスポーク採用ホイールには共通した性格がありながらも、各社で乗り味の細かいところは違いがあります。例えば、スポークのしなり感が少なく、シャッキリと加速するものがあれば、しなりが目立つモデルもあります。その中でMETRONは全てが高次元でバランスしているような印象があります。

METRONはハブが独自開発です。反応性ついてはヒルクライムで何回もダッシュを繰り返したり、低速走行からの加速したりしてテストをしました。ラチェットの嵌合角度が小さいおかげで、どのタイミングからの踏み込みでも瞬く間に加速につながりました。ハブとスポークシステム全体の剛性感も良好で、ハイスピードコーナリングでも攻めやすい安定感があります。反応性や回転性、剛性面で完成度が高いハブだと感じました。

「カーボンスポークらしいいしなやかさと安定感が両立している」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Naoki Yasuoka

総じてMETRONの強みは全てが優れていて、優等生であるという点です。初めて加速した時は、まず軽さに驚き、次にそのしなやかな加速感にも驚く。乗り心地も意外と良くて、ステンレスでは出せない衝撃吸収性がありました。どのようなバイクにも合うと思いますし、速さを追求するライダーにフィットするホイールでした。

ヴィジョン Metron 45 RS
リムハイト:45mm
内幅:23mm
外幅:31.1mm
重量:1,290g
フリーハブ:MS 12s、SRAM XD
価格:581,460円(税込)

共通スペック
・フルカーボンリム構造
・チューブレスレディ - クリンチャーリム
・DPスポーク付きPRSハブ
・センターロックローターマウント
・6個のシールドカートリッジベアリング(2F + 4R)
・エアロブレードカーボンスポーク
・インモールドグラフィックス
・72歯ラチェット



インプレッションライダーのプロフィール
高木三千成(シクロワイアード編集部)
高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。現在も東京の稲城FIETSクラスアクトに所属し、Jプロツアーで全国のレースに参戦している。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位でUCIポイントを獲得した。



text:Gakuto Fujiwara
photo:Naoki Yasuoka
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