ファクターの新型エアロロード「MONZA」をインプレッション。OSTRO VAMの系譜を受け継ぎながら、ホビーレーサー向けにアレンジされたMONZAの実力を確かめた。



ファクター MONZA

航空宇宙産業とレーシングカーの研究開発を行うエンジニアリングカンパニーに端を発するファクター。エアロダイナミクスやカーボンファイバーへの深い造詣を武器とした「OSTRO VAM」は世界最高峰のエアロロードバイクの一つとして、数々の勝利を重ねてきたブランドだ。

そんなファクターがOSTRO VAMと系譜を継ぐエアロロード「MONZA」を世に送り出した。MONZAは単なるミドルグレードバイクではなく、ホビーレーサーがパフォーマンスを発揮する性能、日々のトレーニングやレースでの扱いやすさを追求したレーシングマシンとして開発が行われている。

前後幅が広いフロントフォークを採用する
ワイドスタンスのフォークによってエアロを高めている
シートチューブに切り欠きを設けている



特にエアロダイナミクス面ではOSTRO VAMの形状を色濃く受け継いでいる。特に前後に幅広いヘッドチューブやダウンチューブ、シートチューブなどは、風の流れを綺麗に受け流す形状にデザインされている。ハンドルもブラックインクのステム一体型HB04というエアロモデルをアセンブルしており、レーサーが求めるエアロを実現している。

ファクターはエアロと整備性を両立するために、フォーククラウンとダウンチューブのインテグレーテッドデザインをあえて採用していない。フォークコラムもOSTROのようにD型ではなく、汎用パーツなどが使える丸断面コラムと1.5インチベアリングの組み合わせを採用した。

NEVER STATUS QUO(進化あるのみ)というメッセージが刻まれている
フォーククラウンは整備性を考慮し、一般的な形状とされている


シンプルなエアロ形状で総合的に性能を高めている
OSTRO VAMの流れを汲むエアロ形状が採用されている



またフレーム素材は東レと日本グラファイトのPAN系カーボンが用いられており、OSTROの東レと日本グラファイトのピッチ系カーボンやTeXtremeとは異なる配合となっている。これもプロスペックとは異なるホビーレーサー向けの設計をファクターが行ったと読み取れるはずだ。

ジオメトリー面では、スタックハイトを10mm高く、リーチを5mm短くすることで幅広いライダーにフィットするよう配慮。一方で、ヘッドアングルやフォークオフセット、チェーンステー長といったハンドリングに直結する要素はOSTRO VAMと同じ設定を維持し、レーサー好みのシャープなレスポンスを確保している。

エアロ形状のダウンチューブを採用している
ビッグボリュームのボトムブラケットは高い剛性を実現する



MONZAの最大の特徴が、ダウンチューブに設けられたフレーム内ストレージだ。チューブ2本、CO2カートリッジ2本、パッチキットを収納でき、サドルバッグ不要の自立性を実現。ファクターによれば、サドルバッグ装着時と比較して最大6ワットの空気抵抗を削減するという。維持できる点は実戦的だ。

タイヤクリアランスはOSTRO VAMより2mm広い最大34mmまで対応。レース会場への自走や日常使いでの荒れた路面に対応することができ、レースはもちろん路面が荒れた地域でのサイクリングも楽しめるスペックとなっている。

シャープなシートステーはエアロと製造コストダウンを実現する形状とされている
ダウンチューブ内蔵ストレージが備えられている
ヘッドチューブは上位モデル譲りのアワーグラス形状とされている



フレームセットの価格は660,000円、完成車はシマノ ULTEGRA仕様1,122,000円、スラム Force eTap AXS仕様1,155,000円で展開される。週末のレースと平日のトレーニングを同じ高次元でこなしたいライダーにとって、理想的な選択肢のMONZAをシクロワイアード編集部の高木三千成がテストした。



ーインプレッション

「OSTROのような加速感と、程よい速度域での巡航が気持ち良い一台」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「荒れた路面でも動じない安定感が魅力」高木三千成(シクロワイアード編集部)

MONZAは、ファクターの新たな挑戦を感じさせるバイクでした。これまでファクターといえば、OSTROやO2 VAMといったトップレーサーが使用するハイエンドレースバイクに集中してきたブランドです。そんなファクターが満を持して投入したミドルグレードのMONZAは、従来のレーシングラインナップとは明確に異なるキャラクターを持ち、エンデュランスとレーサーの境界線上に位置する独特な存在感を放っています。

ヘッド周りやフォークの剛性感など、確実にファクターらしさは感じられる一方で、全体的には重量感のあるバイクです。しかし、その重量感は決してネガティブなものではありません。むしろ抜群の安定感として活かされており、荒れた路面でも全く動じることがなく、太めのタイヤを履かせればグラベルライドにも対応できそうな懐の深さを持っています。

走行特性で最も印象的だったのは、速度域によって性格が変わることです。一踏み目の初速はOSTROのようなパリッとした加速感を見せてくれます。しかし、そこから巡航速度へ持っていく中間域では、重量感が顔を出してきます。40km/h台での巡航を維持しようとすると、やはり他のレーシングバイクと比べて重さを感じてしまいます。

このバイクが最も輝くのは、30km/h前後での巡航です。多くのホビーサイクリストが走る速度域、20km/hから30km/hでMONZAは非常に快適で安定した走りを提供してくれます。この速度域であれば、重量感はほとんど気にならず、むしろ安定感として活かされます。

「これまでのファクターにはないカテゴリーの一台」高木三千成(シクロワイアード編集部)

登りにおいても意外な一面を見せてくれました。持った時の重量感から登坂性能を心配していましたが、実際に登ってみると軽快に登れます。ダンシング、シッティングともに扱いやすく、低速域では重量をあまり感じません。

スプリントについては想像以上に良好でした。標準装備のフレアハンドルが功を奏し、ハンドルをこじるような力強いダンシングでは、適度にしなりながらも確実に加速してくれます。

ハンドリングはエンデュランス寄りの穏やかさです。クイックすぎることがなく、コーナーでは狙ったラインをトレースできます。切り返しの際には重量を感じますが、それ以外では特に癖のない素直なハンドリングです。今回の試乗では比較的細めのタイヤでテストしましたが、おそらくこのバイクは30Cや32Cといった太めのタイヤとの組み合わせで真価を発揮するでしょう。

「ダンシング、シッティングともに扱いやすく、登りも軽快」高木三千成(シクロワイアード編集部)

MONZAが最適なのは、長距離を楽しみながら走りたいサイクリストです。キャノンボールのような超長距離ライド、カフェライド、ツーリングなど、速さよりも走ることそのものを楽しみたい方にとって、この安定感と快適性は大きな魅力となるでしょう。豊富なストレージオプションも、そうした用途を想定した設計思想の表れです。

確かにレーシングバイクとは異なるアプローチですが、サーキットも走れるツーリングカー的な魅力を持った一台です。速さを求めるのではなく、サイクリングそのものを楽しみたい時代のサイクリストに向けたバイクと言えるでしょう。

ファクター MONZA

ファクター MONZA
カラー:Pearl White、Solar Blue、Steel Green
税込価格:
フレームセット 660,000円
完成車 シマノ Ultegra 1,122,000円ホイール:BLACKINC 45
完成車 スラム Force eTap AXS (パワーメーター付き) 1,155,000円 ホイール:BLACKINC 45
シマノ完成車はceramic speed OVERSIZED PULLEY WHEELへのアップチャージ(税別75,000円)可能



インプレッションライダーのプロフィール
高木三千成(シクロワイアード編集部)
高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。現在も東京の稲城FIETSクラスアクトに所属し、Jプロツアーで全国のレースに参戦している。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位でUCIポイントを獲得した。


text:Gakuto Fujiwara
photo:Naoki Yasuoka

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