ツール・ド・フランスの激闘から6日後の8月2日(土)、スペイン北部バスク地方を舞台にドノスティア・サンセバスチャン・クラシコアが開催された。積極的なレース運びを見せたジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)が、終盤に8.8kmを独走し初優勝を果たした。



晴天に恵まれた第44回ドノスティア・サンセバスチャン・クラシコア photo:CorVos

ドノスティア・サンセバスチャン・クラシコア2025 image:Donostia San Sebastian Klasikoa
コースは、港湾都市サンセバスティアン(バスク語ではドノスティア)をスタート/フィニッシュする211.6km。昨年とほぼ同じルートをたどるが、序盤の山岳が削除されたことで山岳ポイントは1つ減った6つに。それでも獲得標高差4,000mを超える過酷なクライマーズレースだ。

勝負の鍵を握るのは、終盤に登場する2級山岳ハイスキベル(距離7.9km、平均勾配5.6%)と1級山岳エルラティス(距離3.8km、平均勾配10.6%)。いずれもバスクらしい短く急勾配な丘であり、最後は2級山岳ムルヒル・トントラ(距離2.1km、平均勾配10.1%)を駆け上がり、下りと平坦路を経てフィニッシュへと向かう。

ゼッケン1をつけたのは、UAEチームエミレーツXRGからチューダー・プロサイクリングに移籍したマルク・ヒルシ(スイス)。ほかにもツールから連戦となるプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)や2021年覇者のニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)、ブエルタ・ア・エスパーニャに照準を合わせるフアン・アユソ(スペイン、UAEチームエミレーツXRG)など、ワールドツアーにふさわしい豪華メンバーが顔を揃えた。

UAEチームエミレーツXRGがプロトンをコントロールした photo:CorVos

スタート後わずか5kmで12名による逃げグループが形成され、その中には28歳にして念願のワールドチーム入りを果たしたポール・ダブル(イギリス、ジェイコ・アルウラー)などが含まれた。これを2分前後の差で追うメイン集団は、チューダーやUAEチームエミレーツXRG、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエらが先頭でペースをコントロールした。

レースはいよいよ終盤戦へ。2級山岳ハイスキベルに突入した逃げ集団から、22歳のジョルダン・ラブロッス(フランス、デカトロンAG2Rラモンディアール)がアタック。一方のプロトンからはルーク・プラップ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)が飛び出し、チームメイトのダブルに合流する。ダブルが渾身の牽引でラブロッスとの差を詰めると、その動きに乗じてプラップはレース2番手で単独追走していたマッツ・ヴェンツェル(ルクセンブルク、エキポ・ケルンファルマ)に合流した。

逃げてたダブルがルーク・プラップ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)をアシストする photo:CorVos

協力体制を築いたプラップとヴェンツェルは、残り52km地点でラブロッスをキャッチし、その後プラップは単独で先頭に立った。一方、プロトンではログリッチの加速などにより人数が絞り込まれてプラップを吸収。そして迎えた1級山岳エルラティス(距離3.8km、平均勾配10.6%)の頂上手前、形成された精鋭集団からジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)がアタックを敢行した。

単独先頭に立ったチッコーネに、追走集団から飛び出したイサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG)が頂上手前で合流。先頭の2名は順調にローテーションを回してリードを築く。対照的に追走集団は協調がとれず、ペースが上がらない。しかし、チームメイトのマキシム・ファンヒルス(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)のためにログリッチがアシストに徹し、ペースを上げたことで、その差は徐々に縮まっていった。

先頭に立ったジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)とイサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos

最後の勝負所、2級山岳ムルヒル・トントラ(距離2.1km、平均勾配10.1%)に突入すると、追走集団からヤン・クリステン(スイス、UAEチームエミレーツXRG)がアタックし、ついに先頭の2名に追いつく。クリステンはデルトロと共に1対2の数的有利な状況を作り出すと、間髪入れず自らアタックを仕掛けた。しかし、これにチッコーネが冷静に反応。逆にチームメイトの動きに対応できなかったデルトロが遅れていった。

予想外の展開に苦悶の表情を浮かべるクリステンに対し、頂上まで800m、フィニッシュまで残り8.8km地点でチッコーネが決定的なカウンターアタックを仕掛ける。そのまま10秒のリードを持って頂上を通過すると、攻めのライン取りでテクニカルな下りをクリア。そして最後まで追走したクリステンを9秒差で振り切り、栄光のフィニッシュラインを駆け抜けた。

独走を決め、初優勝したジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos

2年ぶりのワールドツアーでの勝利を飾ったジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos

勝利時のパフォーマンスであるアイウェア投げを封印し、2年ぶりとなるワールドツアーでの勝利を掴んだチッコーネ。「ジロでの落車リタイア後はモチベーションを保つことが難しく、精神的に辛い時期だった。しかし2週間の休暇を経て『もっと強くなって戻るべきだ』と心に誓った。このレースは大好きで、初出場の時にマルケル・イリサールが引退したのを見届けた。それ以来、特別な感情を抱くこのレースで勝てて光栄だ」と、喜びを語った。

チッコーネはこの後、8月5日開幕のブエルタ・ア・ブルゴスを経て、8月23日に開幕するブエルタ・ア・エスパーニャに出場する予定だ。
ドノスティア・サンセバスチャン・クラシコア2025結果
1位 ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) 5:05:33
2位 ヤン・クリステン(スイス、UAEチームエミレーツXRG) +0:09
3位 マキシム・ファンヒルス(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +0:19
4位 ティシュ・ベノート(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)
5位 イサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG)
6位 ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)
7位 ルーク・プラップ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) +0:21
8位 クリスティアン・スカローニ(イタリア、XDSアスタナ) +1:09
9位 キアン・アイデブルックス(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) +1:10
10位 クサンドロ・ムーリッセ(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) +2:01
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos