プロマウンテンアスリート 池田祐樹(TOPEAK ERGON)がニュージーランドのMTBトレイル事情を紹介する。MTB天国とも言えるロトルア周辺の”IMBA認定ゴールドレベル”のトレイルは素晴らしい環境で、学ぶべきシステムがいっぱいだ。



ロトルア湖の美しい景色を眼下に、ダイナミックなトレイルを楽しめる photo:Yuki Ikeda

ニュージーランド・ロトルアの極上のトレイルを求めて世界中からマウンテンバイカーが集まってくる。MTBパークのトレイルはもちろん秀逸で、日本とはまた違ったコース上のルールなど私にとっても興味深い点がたくさんあったので、ぜひここで紹介したい。

南半球最大のMTBイベント「Whaka100」 photo:Whaka100

ロトルアはMTBフリーライドの世界最高峰イベント「クランクワークス」や南半球最大のMTBイベント「Whaka100(レポート記事)」などが開催される地として有名だが、イベントに関係なく「ロトルアのトレイルに乗りたい」という純粋な理由だけで多くの人が集まるのだ。

ロトルアとその周辺にはいくつかトレイルシステムがあるが、5,600ヘクタール(東京ドーム約1191個分!)の圧倒的な広さと、総距離200kmを超えるトレイルを誇るのが、ロトルア南部にある「Whakarewarewa Mountain Bike Park(ワカレワレワ マウンテンバイクパーク)」だ。

「ワカレワレワ マウンテンバイクパーク」のトレイルマップ。このコースをすべて無料で楽しめる photo:Yuki Ikeda

ここは世界でわずか6か所しか認定されていない、国際マウンテンバイク協会(IMBA)認定のゴールドレベルのライドセンターでもある。

「ワカレワレワ マウンテンバイク パーク」の入り口あるシンボル的な巨大バイクアート photo:Yuki Ikeda

Red Bull TVはロトルアについて「もしマウンテンバイクの天国があるとしたら、きっとロトルアのような場所だろう」とコメントしている。

変化に富んだワクワクするトレイルが縦横無尽に張り巡らされている photo:Yuki Ikeda

ワカレワレワの森は、樹齢100年を超える巨大な赤松(レッドウッド)が林立し、ニュージーランドを象徴するシダの群生地であり、ワラビーなどの野生動物も暮らし、とても美しい自然が広がっている。

トレイルでワラビーの親子に遭遇。顔を覗かせる赤ちゃんがかわいい! photo:Yuki Ikeda

土は火山性で水捌けがよく、泥になりにくい。そして、ロトルアの黒土はグリップが非常に良いことでマウンテンバイカーにはたまらない土質なのだ。冬は基本的に雪が降らないので、一年中ライドを楽しむことができる。

ニュージーランドらしいシダに囲まれたトレイル。ロトルアの黒土はグリップがよく、泥になりにくいMTBライドに適した土質だ photo:Rachel Hadfield

週末は広い駐車場がほぼ埋まり、キャンパーで宿泊するバイカーも多い photo:Yuki Ikeda

さらにこの広大なMTBパークへのアクセスはロトルアの町から10分とかからない近さと利便性も最高だ。

一番大きいアクセスポイントの「ワイパ」は駐車場も広く、トイレ・シャワーも完備。バイクショップ、レンタルバイク(eバイク多数あり)が併設され、トレイルの情報も気軽に聞くことができる。カフェレストランなどもあるのでライド前後の憩いの場としても最適なロケーションだ。

ワイパMTBパークのカフェとバイクショップ photo:Yuki Ikeda

ワイパMTBパークのトイレとシャワー。私もライド後にシャワーを利用させてもらった photo:Yuki Ikeda

ワイパMTBパークのバイク洗車場 photo:Yuki Ikeda

トレイルマップや詳細は「Ride Rotorua」や「TrailMapps: Rotorua」のアプリでも確認が可能だ。しかし私のおすすめは「Manky(マンキー)」という、ポケットに入れやすい布製地図。洗っても良いリユース可能素材でできている。ワイパもしくはレッドウッズのビジターセンターで購入可能で、価格はNZ$22.5。この売上はトレイルのメンテナンス資金に充てられるので、現地入りしたらぜひこのユニークなマップをゲットしてほしい。

「ワイパ」のほかに「タワ」にも大きなアクセス箇所があり、そこにもカフェとバイクショップがある。タワのカフェでも多くのライダー達がライド前後に仲間と楽しい時を過ごしていた photo:Yuki Ikeda

下りをメインに楽しみたいという人に向けてシャトルサービスも充実していて、バイクと共に山の上のトレイルヘッドへと運んでくれる。毎日頻繁に運行しているので、ダウンヒル好きの方にはとくにおすすめだ。

シャトルサービスの様子。頻繁に運行しているのでとても便利だ photo:Yuki Ikeda

Eバイクもおすすめで、この広大なトレイルシステムを効率よく楽しむにはとても便利だ。実際に私がライドしていてすれ違うライダーの多くが、年齢・性別関係なくEバイクでトレイルを楽しんでいた。

昨年リニューアルされたというパンプトラック photo:Yuki Ikeda

実際のコースにはさまざまなレベルに合うトレイルがあり、トレイルヘッド付近には家族連れや初心者、のんびりとサイクリングを楽しみたい方に適した起伏緩やかなトレイルが充実している。他にもUCI認定のBMXトラックや、初級・上級の2種類のパンプトラックもある。

最高難易度グレード5トレイルの入り口にあるサイン。高度なジャンプスキルが要求されること「コースを試走してから飛んで」など安全のための注意書き photo:Yuki Ikeda

一方で急斜面や難易度の高いトレイルもあり、クロスカントリーの上級者からフリーライド・ダウンヒルを楽しむ方にも満足できるコースが揃っている。

トレイルの入り口の看板に「グレード1〜5」などと難易度が表示してあるので、入る前に確認したい。グレード5が最難関で、大きなギャップやジャンプがあるダウンヒルトレイルとなっている。

トレイルへのアクセス看板。バイカー以外も使う“デュアルユース”トレイルという注意書きもしっかり記してある photo:Yuki Ikeda

出口は一緒だが「イージー」と「ハード」なルートをレベルに合わせて選べることができる photo:Yuki Ikeda

“このトレイルがウェットの場合は他のトレイルを利用してね!”という濡れたコンディションで傷みやすいトレイルの保護を目的とした注意書き photo:Yuki Ikeda

“トレイル整備の作業中。注意して乗りましょう”という注意喚起の看板 photo:Yuki Ikeda

看板には難易度以外にも、トレイル名、優先順位、入り口/出口専用、2WAYなどの情報が記載されていて、トレイル上での事故防止やマナーの啓蒙にも役立っている。

トレイルサインの横にはトレイルのサポーター/スポンサーの名前もある photo:Yuki Ikeda

看板の記載でさらに驚いたのが、整備している団体名以外にもロトルアのスーパーマーケットの名前(Pack’nSave)もあり、トレイル整備のスポンサーをしているとのことだ。これを見るとPack’nSaveで思わず買い物したくなる。

トレイルにはこんなユニークなサインもある。「制限速度100km」! photo:Yuki Ikeda

ワイパにバイクショップを構えるMTBロトルアのウェブサイト はトレイル情報からシャトルサービスやスクールなどの情報も充実しているので、事前にチェックすることをお勧めする。

ニュージーランドのトレイル事情

日本とはまた違ったシステムでトレイルを維持・管理しているニュージーランド。とても興味深かったので、その一部をご紹介する。

トレイルは誰が管理しているの?

Rotorua Trails Trust(ロトルア・トレイル・トラスト)

Rotorua Trails Trust(ロトルア・トレイル・トラスト)

ロトルアのトレイルを管理・保全している団体がRotorua Trails Trust(ロトルア・トレイル・トラスト)だ。以下、簡潔になるが運営の仕組みを紹介しよう。

公式ウェブサイト:https://www.rotoruatrailstrust.co.nz/index.php

運転資金

・会員制で寄付金を募る
・トレイル看板などオリジナルアイテムを購入することで寄付金となる
・スポンサー。MTB関係だけでなく、スーパーマーケット、カーディーラー、レストラン、保険会社、イベント会社、役所など、幅広いスポンサーが活動を支えている。

トレイルワーク
・トレイルを整備・造成する日を公開して、会員とボランティアで活動する
・定期的なパトロール
・ユーザーからのフィードバックフォームからトレイルの状況を把握し、日々トレイルを改善する
・SNSやHPでトレイルの状況、活動状況などを頻繁に報告
Facebookページでは頻繁に活動を報告しているので興味があればぜひチェックしてほしい。
https://www.facebook.com/RotoruaTrailsTrust

マウンテンバイクだけでなく、ハイカー、ランナー、乗馬用のトレイルすべてのトレイル管理を行なっている。

番外編
池田祐樹イチ推しのトレイル「レインボーマウンテン」を紹介

レインボーマウンテンの頂上からの絶景 photo:Yuki Ikeda

ロトルアは温泉が有名で、町でも硫黄の匂いが漂っているほど。ここではワカレワレワ MTBパーク以外での私のイチ推しトレイル「レインボーマウンテン」を紹介する。マウンテンバイクを乗った後にすぐに天然温泉に入れるコースだ。

レインボーマウンテン
距離:約8.5km
獲得標高:約466m
難易度:グレード4 (アドバンス)
温泉:⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
STRAVA: https://www.strava.com/activities/12792672967

ロトルアから約30分、車で南下したところにある「レインボーマウンテン」。温泉の川が流れるKerosen Creekに車を止めて、時計回りでレインボーマウンテンの頂上を目指す。途中、Crater Lake(クレーターレイク)というエメラルドグリーンの湖を一望できる絶景スポットがある。少し寄り道になるが一見の価値あり!

絶壁の下に臨むターコイズブルーのCrater Lake。まさに絶景! photo:Yuki Ikeda

ここから道は険しくなりグレード4の登りが続くが、頂上からの360度のパノラマ眺望は疲れを忘れさせるほど美しい。サンライズのタイミングで来るのもおすすめ。

レインボーマウンテン頂上からの景色は、頑張った登った最高のご褒美だ photo:Yuki Ikeda

下りは行きとは違う道で、MTB専用のTe Rangaトレイルで一気に下る。グレード4なのでテクニカルではあるが、よく作り込まれたトレイルなのでラインさえ選べば思ったよりも怖くはない。

下りは3km続くMTB専用のワンウェイトレイルを楽しめる photo:Yuki Ikeda

ウハウハのダウンヒルを楽しんだら、いよいよ温泉タイム。車で着替えて、数分歩けば天然の温泉スポットが待っている。ここは川が温泉になっているとても珍しい秘湯スポット。誰もが自由に出入りできるので、水着は必須。水温は長めに浸かっていられる、ちょうど良い湯加減。入浴は無料。

楽しいMTBライドの後には天然の温泉リバーが待っている!小さい滝もあり、打たせ湯を楽しむこともできる photo:Yuki Ikeda

ロトルアに来たら、マウンテンバイクと温泉のセットでぜひ楽しんで欲しい!

photo&text:Yuki Ikeda



池田祐樹(プロマウンテンアスリート)
池田祐樹(プロマウンテンアスリート) プロフィール
TOPEAK ERGON RACING TEAM USA 所属(MTB)
TEAM ALTRA所属(トレイルラン)
2011-2017年の7年間連続で、MTBマラソン世界選手権日本代表として参加。MTBの長距離、耐久レースの国内第一人者とされる。2019年からMTB競技のみならずトレイルランを本格的に始め、2種目のウルトラ競技(100マイルやステージレースなど)をトップレベルで戦う山の総合エンデュランスアスリート「マウンテンアスリート」の第一人者として活動中。

公式インスタグラムアカウント:https://www.instagram.com/yukiikeda/
公式ウェブサイト:https://yukiikeda.net/

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