マウンテンバイクの長距離耐久レースやトレイルランで活躍するプロマウンテンアスリート、池田祐樹(TOPEAK ERGON)がニュージーランドのMTB&トレイル事情を紹介する。前編は「世界最恐」の異名をとるMTBレース「WHAKA(ワカ)100」に挑戦したレース参戦記をお届けします。



池田祐樹(プロマウンテンアスリート)
池田祐樹(プロマウンテンアスリート) プロフィール
TOPEAK ERGON RACING TEAM USA 所属(MTB)
TEAM ALTRA所属(トレイルラン)
2011-2017年の7年間連続で、MTBマラソン世界選手権日本代表として参加。MTBの長距離、耐久レースの国内第一人者とされる。2019年からMTB競技のみならずトレイルランを本格的に始め、2種目のウルトラ競技(100マイルやステージレースなど)をトップレベルで戦う山の総合エンデュランスアスリート「マウンテンアスリート」の第一人者として活動中。

公式インスタグラムアカウント:https://www.instagram.com/yukiikeda/
公式ウェブサイト:https://yukiikeda.net/

WHAKA100のコンセプトは “誰もが楽しめる大会”

100kmカテゴリーのスタート。約1000人が参加する最も人気があるクラスだ Photo: Selena Wright

WHAKA100は、南半球で最も大きく、最も過酷なMTB大会と言われ、今年で17年目という歴史ある大人気のMTBイベントだ。今年も例外なく大盛況で、3000人以上の参加者が集まったという。

世界で最も過酷と謳っている173kmのマイラーと100kmクラスだけを見ると敷居が高く感じてしまうが、他にもキッズ5km、10km, 25km, 50km,エリミネーターと、レベルに合わせてキッズやビギナーからホビーレーサーまで楽しめるクラスも充実している。eBikeカテゴリーも10km, 25km, 50kmの3つの距離が用意されている。

この豊富なカテゴリーを見ただけでも、WHAKA100が”誰もが楽しめる大会”というコンセプトをいかに大切にしているかを感じ取れる。そして100kmとエリミネーターはニュージーランドのナショナル選手権でもあり、国内のトップ選手が集まる非常にレベルの高いレースとなっている。

フィニッシュ直前にある大会で最も賑わう、リバージャンプセクション Photo: Rachel Hadfield

WHAKA100のいちばんの魅力は総距離約200kmにおよぶワールドクラスのトレイルネットワークをふんだんに使ったコース。なんとダート率は100%、そのうちシングルトラック率は87%以上!しかも、その大半がMTB専用に設計されているトレイルだ。これを聞いてワクワクしないマウンテンバイカーはいないだろう。

ニュージーランドNo1を決めるエリミネーター、エキサイティングなレース展開は観客を大いに沸かせていた Photo: Selena Wright

レース中でもトレイルが楽しくて、ついついはしゃいでしまうライダー Photo: Rachel Hadfield

金曜日には観客も楽しめるエキサイティングなエリミネーター、土曜日には家族で参加できるキッズレース、日曜日にはロングレースを開催し、週末まるごとMTBをどっぷりと満喫できるイベントとなっている。

例年盛り上がりを見せるキッズレース

大盛り上がりのキッズレースのスタート。左横にいるのは一緒に走るプロ選手 Photo: Selena Wright

1周5kmのキッズレースコースは予想以上に本格的だが、親も一緒に出走することができるので、小さな子供でも安心して参加できる。

真剣な眼差しで走る子供達はもう一人前のレーサーだ Photo: Selena Wright

世界チャンピオン、オリンピアン、ナショナルチャンピオン、国内外のプロ選手達が子供たちを応援しながら一緒に走るという企画も嬉しいサプライズだ。私も日本からのプロライダーとして参加させてもらった。トップ争いするキッズ達のスキルとスピードは私も圧倒されるほどの高いレベル。難セクションに果敢にチャレンジする子供達の姿には感動させられた。

憧れのサミー・マックスウェル選手(元U23XCO世界チャンピオン)と緊張気味に記念撮影する子供。こうしてトップ選手と交流できることもWhaka100の魅力の一つ Photo: Sammie Maxwell

フィニッシュ後も子供たちとプロ選手が交流できる場もある。地元出身で世界でもスーパースターのサム・ゲイズとサミー・マックスウェル選手はやはり超人気で、多くの子供達から羨望の眼差しを向けられていた。憧れの選手達から刺激を受けた子供たちはきっとまた大きく成長することだろう。

なんと、2025年のキッズレース5kmは既に売り切れという超人気ぶり。再来年にはなってしまうが、日本からもぜひ、多くのキッズがチャレンジしてほしい。

世界最恐レース?!「マイラー」参戦レポート

「マイラー」のスタートは、小雨が降る朝4時半。ここから大冒険が始まる Photo: Rachel Hadfield

私が参戦したのは「世界で最も過酷なワンデーMTBレース」とまで言われる「マイラー」カテゴリー。昨年に続き2回目のチャレンジだ。

昨年の優勝者ジョン・アダムス(GIANT)が、「きついコースだが世界一過酷ではない」とコメントしたため、今年はさらに距離と獲得標高が加算された。マイラー(160km)といいつつ、実は173km。獲得標高はなんと約5,300m。トレイルの難易度グレードは2-5。グレード5は上級ダウンヒルトレイル含む。この数字を見ただけでも超過酷なことは容易に想像できる。

楽しいトレイルではあるが、グレードが高くなればなるほど技術と集中力が試される。特にレース後半は心身ともに疲弊しているので落車には要注意だ Photo: Rachel Hadfield

グレードアップした、87%がシングルトラックというワールドクラスの極上コースを見逃すわけにはいかない!と、今年もエントリーを決心した。

昨年は総合3位だった。今年は優勝を狙ってはいるが、昨年の優勝者アダムス選手以外にも世界からトップライダーが集結し、明らかに前回よりもレベルは上がっている。さらなる上位フィニッシュを狙う対策として、例年以上に距離を乗り込み、トレイルでのスキル練習にも力を入れた。さらに、機材を変更して臨む。

今年はトレイルバイクを投入

昨年のバイクは、前後100mmトラベルの軽量XCバイクで臨んだが、想像以上にコースの難易度が高く、競技時間も長く、身体のダメージも大きかったので、今年は前後120mmトラベルのトレイルバイクをチョイスした。

池田祐樹のレースバイク キャニオン LUX TRAIL CF Photo: Yuki Ikeda

レースバイク:Canyon LUX TRAIL CF。バイクは多少重くなったが、そのぶんトラベル量が多くなり、余裕度が増し、体へのダメージも軽減できる。その代わり、足回りは超軽量仕様に仕上げた。ホイールは、DT SWISSの新型XRC1200 Spline、タイヤは軽量かつ転がりが良いMAXXIS ASPEN(前)とASPEN ST(後)、前後共に170tpiのチームスペックモデルでしなやかで粘りあるグリップ力を提供してくれる。

必死に前の選手を追うと同時に暗闇のトレイルライドという非日常感にワクワクしていた Photo: Whaka100

マイラーカテゴリーは15時間という制限時間の関係で、まだ真っ暗の朝4時半にライトを点けてスタートする。日中は晴れる予報だったが、朝はまだ雨が降っていて、コースの難易度はさらに上がっていた。

一寸先は闇。ライトはヘルメット、ハンドルバー両方に装着するのが安全で安心だがトップ選手は軽量化のためにどちらかにする場合が多い。 Photo: Rachel Hadfield

トップライダー達はその雨・泥・暗闇の中のシングルトラックをまるで昼間かのような高速ペースで走っていく。昨年も感じたことだが、スキルレベルがとにかく高い。教訓を生かし、必死に練習を積んできたが、それでもジリジリと離されていく。

コース案内スタッフがおばあちゃんの仮装をしているのを見てレース中でも思わず爆笑。選手を楽しませる大会の心意気が嬉しい Photo: Rachel Hadfield

結局、トップの2人からは大きく離されてしまい、40km過ぎから単独3位での一人旅が続く。何が起こるかわからないのがレース。最後の最後まで優勝は諦めずに追い込みきった。

レース時間は11時間21分23秒と長く、厳しい戦いではあったが、トレイルが素晴らしかったおかげで全く飽きることはなかった。トレイルバイクを選択したのも大正解で、昨年よりも後半の身体へのダメージが明らかに軽減されていた。

順位は昨年と同様に総合3位だったが、競技レベルが上がった中で再び表彰台に登れたことは純粋に嬉しかった。

表彰式でのシャンパンシャワー!最高の瞬間だ Photo: Selena Wright

マイラー総合TOP3
1位 ジョン・アダムス(オーストラリア)
2位 クインタス・バーミューレン(南アフリカ)
3位 池田祐樹(日本)

強豪選手達の走りを体感し、直に学べる経験は何事にも代え難い価値がある。今年も参戦して本当に良かった。

観客としても思う存分楽しめるのがWhaka100 Photo: Whaka100

前述したように、Whaka100は、老若男女、初心者からプロまで、誰もが楽しめるカテゴリーとエンターテイメントを用意している。そして、世界中トップクラスの極上トレイルを思い切りライドできる。2年連続で参加した経験から、すべてのマウンテンバイカーに全力でお勧めしたいイベントだ。

Whaka 100 公式ウェブサイト:https://www.whaka100.co.nz/
Whaka 100 公式インスタグラム:https://www.instagram.com/whaka100_official/

日本からロトルアへのアクセス

“Kia Ora”はニュージーランド原住民族のマオリ語で「ようこそ」「こんにちは」「ありがとう」「またね」などの意味を持つ挨拶の言葉
シルバーファーン(シダ)があしらわれ、モノトーンでデザインされたニュージーランド航空の機体がとてもクール



成田空港からオークランド空港までは、ニュージーランド航空の直行便があるのでとても便利だ。飛行時間は約10時間。オークランド空港からロトルア空港への国内線もあるが、私のお勧めは、オークランド空港での乗り換えや待ち時間を減らして、レンタカーをしてドライブを楽しみながらロトルアへ向かうコースだ。運転は約2時間半。現地でも車があるとトレイルへのアクセスが便利。来年はみんなでロトルアへレッツゴー!。

ニュージーランド航空 
https://www.airnewzealand.jp/

photo&text:Yuki Ikeda

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