BMCがレッドブル・アドバンスド・テクノロジーとコラボ開発した最新フラッグシップロード”Teammachine R”。エアロを手にしたオールランドレーサーシリーズの最新作を、BMCのブランドとバイクを熟知するフォーチュンバイク店主・錦織さんがテストした。



BMC Teammachine R

最先端のテクノロジーを積極的に取り入れることでハイパフォーマンスバイクを生み出してきたスイスのBMC。ブランドを代表するロードレーサー”Teammachine SLR”の開発においては、2013年にデビューした第2世代から他に先駆けスーパーコンピューターによるソフトウェア解析を導入したブランドだ。

第2世代のTeammachine SLR01はグレッグ・ヴァンアーヴェルマートと共にツール・ド・フランスでのステージ優勝とリオデジャネイロ五輪での金メダルを獲得。その性能を十分に証明し、今では当たり前となったコンピューターシミュレーションの有用性を世界に知らしめた。

ACEテクノロジー(Accelerated Composites Evolution)と名付けられたBMCのソフトウェア解析は、時代ごとにアップデートが加え続けられており、2020年にデビューした第4世代の開発時にはエアロダイナミクスを計算要素に加えたACE+へと昇華した。剛性、重量、柔軟性と空気抵抗を加味したシミュレーションを無数に繰り返すことで、全方位にバランスの取れたレースバイクを実現している。

エアロとコントロール性を両立するリア三角
ダウンチューブのフロント側は極端に絞り込まれている
マッシブなフロントフォークもエアロを意識した作りだ



そして、時代が下るにつれてエアロダイナミクスの重要度は高まっていく一方に。そこでBMCは新型ロードバイクの開発プロセスにおいて、F1チャンピオンのレッドブル・レーシングのマシン開発・製造を担当するエンジニアリングカンパニー「レッドブル・アドバンスド・テクノロジーズ(RBAT)」との協業を選び、2023年にTeammachine Rをデビューさせた。

BMCがこれまでACEテクノロジーで開発してきた知見と、開発最終段階でプロライダーから得たフィードバックで磨きがかけられたノウハウが、エアロとカーボンマテリアルの技術の粋が結集したパーツ開発が日進月歩で進むF1で培った技術力と融合することで、現代のエアロロード開発が前進することは間違いない。

Teammachine Rはヘッドチューブが前後に太く、フロントフォークのクラウン幅は広いという現代のエアロロードで採用されることの多い形状だが、全体のフォルムはBMCらしい独自性がある設計。そして、このバイクならではのエアロ向上を図ったデザインも与えられている。

エアロを意識したシートステーの接合部
ICS Carbon Aeroの幅はワンサイズとされている


直線的なチェーンステーはスルーアクスルの穴も塞がれている
トレンドとなっている前後に太いヘッドチューブが採用された



まず、キーポイントとなるのはフォーク設計。ロードバイクにおいて空気抵抗の大きな割合を占めるフロントセクションのアップデートは必然であり、BMCは”Halo Fork”という形のフォークデザインで答えを導き出した。このフォークはトラックバイクやTTバイクで採用されることが多い超ワイドスタンスのフォーククラウンをロード用にアレンジしたもの。

さらにフォークレッグの付け根部分の厚みが前後で異なり、風が当たる前方は肉厚で、ダウンチューブ側が薄く作られた設計に。これらの設計はフロントホイールが高速で回転することで掻き乱される空気の流れをフレームから離すためと、エアロストール(失速)を減らすための設計だという。

"Mariana Bottom Bracket”と名付けられたボトムブラケット周りの造形もエアロ向上に貢献する。これはシートチューブのホイールカウルのような形状が、若干ボトムブラケットシェル下部から張り出したもの。この設計によってフレームと後輪までの距離を短縮することを達成し、リアホイールのリムに綺麗な風を流し、空気抵抗を低減しようというものだ。

フロントフォークは前後で太さが非対称となっている
ボトムブラケットシェルの内側は張り出した特別な形状が採用されている



Teammachine Rのステム一体型ハンドルバー”ICS Carbon Aero Cockpit Design”は、ステム長オプションは七種類ありながら、ハンドル幅は全てのサイズで360/420mm(12.5°フレア)のワンサイズのみという割り切った仕様。プロ選手がエアロポジションを取るために開発されたハンドルバーであることが伝わってくる。

他にもチューブと一体となる専用ボトルケージ、ステルスドロップアウトなど、これまでBMCが採用してきたエアロ設計も踏襲。シートポストは可能な限り前方投影面積を低減するように設計された。またレースゼッケンを固定できるシートポスト用プレートも付属するのも、レース用に開発されたバイクらしい配慮だ。

ジオメトリーはTeammachine SLRをベースにTeammachine R用にアレンジ。シートチューブを全てのサイズで73°、シートポストのオフセットを10mmに統一しており、Teammachine Rの性能を引き出しやすいポジションに設定しやすくなっているはずだ。

リアタイヤとシートチューブの距離が可能な限り詰められている
各チューブのエアロを機能させる専用ボトルケージが搭載されている
エアロダイナミクスを意識したシートポストを採用している



日本国内では完成車1種類とフレームセットでの販売となる。完成車はシマノULTEGRA DI2をメインコンポーネントに据え、4iiiiのPrecision(シングルサイド)のパワーメーターが搭載されている。ホイールはオリジナルのCRD-501 SL Carbonで、タイヤはピレリのP ZERO RACE TLRが採用された。カラーはステルスで、価格は1,650,000円(税込)。フレームセットのカラーはカーボン&ホワイトで、価格は1,056,000円(税込)。今回テストを行った試乗車はスラムForce AXSで組み上げられた国内未展開モデルだ。

今回テストを行ったのはBMCへの造詣が深い、フォーチュンバイク店主の錦織大祐さん。歴代Teammachine SLRを試し続けるだけではなく、本国スタッフとの対話を通じてバイク開発の理念やBMCの強みを理解している。そんな錦織さんがBMCの最新作をどのように評価するのだろうか。



ーインプレッション

「BMCらしさは健在。正しい方向に進化を遂げた最先端の一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)

「BMCらしさは健在。正しい方向に進化を遂げた最先端の一台」錦織大祐(フォーチュンバイク)

Teammachine Rの登場時、エアロ強化のトレンドを押さえた仕様が採用されていたことが印象的でした。これまでTeammachineシリーズがモデルチェンジを経ても長年評価されていた普遍的な部分がスポイルされるのではないかという不安がありましたが、その懸念は試乗で払拭され、今のトレンドに置き換えたうえで、さらにトレンドをリードしていくような最先端を走る感じがありました。BMCらしいバイクですし、歴代のBMCバイクの中でもスピードが一番伸びる力があるのは間違いありません。

ヘッド周辺を含めた前側が特に硬く、ダウンチューブ、ボトムブラケット、チェーンステーまでが一体に感じる剛性があります。初速ではヘッド周りの剛性の高さが際立ちますが、時速30kmほどを超えてくると自然なフィーリングに変わりバイクが振りやすくなります。

一方、ヘッドチューブ上端からリアエンドに向かってフレームを斜めに切った時の上半分が捩れる動作の時に反発しないので、ペダルが踏み抜きやすくなっています。そのためシームレスに加速が繋がっていくので、エアロロード然とした見た目から受ける印象よりも扱いやすく、あっという間に高速域に到達しています。

「ヘッド周りの剛性が非常に高いが、高速域になるとバイクが振りやすくなる」錦織大祐(フォーチュンバイク)

フレーム全体で硬さをいなしている感じは、BMC歴代モデルで共通していた踏み返しの少なさや長丁場のレースでの足残りの良さにつながっているので、そこを気に入ってBMCを選ばれるユーザーさんにも受け入れられるバイクに仕上がっていますね。 

ただハイスピードで走行していると乗り手が気付かないうちに踏みすぎてしまう可能性はあります。パワーメーターがない時代にこのバイクが出てきたら、乗り手もマネジメントしきれずに足がすぐに売り切れて終わりという低評価を受けかねません。今はそれを補完できるデバイスや微振動の減衰やバイクの接地感を伝える役割を担うホイール、タイヤ、クランクが存在するからこそ実現しうるベストアンサーなのだと思います。

低中速域ではハンドル幅がワンサイズの360mm(ドロップ部420mm)という狭さもあり、従来のBMCバイクの中でもステアリング操作は意識的に行う必要がありました。正直、幅のサイズはもう一種類用意されていてもいいという意見はわかりますが、試乗してみてステアリングの特徴づけを感じてみたら、BMCが提供するハンドリング性能はこういうものであるとの説得力はあるような気がします。

「BMCのバイク開発哲学が息づいている」錦織大祐(フォーチュンバイク)

多少のピーキー感はあれど、バイクの絶妙な剛性バランスのおかげで、車体がどれだけ寝ていて、どこに荷重がかかっているのかのインフォメーションが乗り手に伝わるよう作られています。BMCの根本にある「バイクが走っているのではなく、人がバイクを走らせている姿勢」は受け継がれているのでファンは喜んでいいでしょう。

Teammachine SLR01の足残りの良さ、コントロール性をそのままに空力を向上させるというのは難しいのではないかと思われ、BMCらしさが損なわれたりする可能性がある中で、Teammachine RはBMCらしさを留めました。それは彼ら自身が己の存在理由を理解しており、バイク開発に反映させる力がある証左です。そして今後のBMCは「この方向で開発を進めていき、Teammachine Rが戦える速さのゾーンのバイクを看板としていく」という方向性を示したという意味においては、今回の新型は正しい方向性で進化をしており、評価してもいいはずです。

フレーム形状の決定にレッドブルが貢献しているのであれば流石ですし、BMCが培ってきた最適解をスポイルしないレベルまで完成度を高めてきたのは、理論値だけではなく実走行のフィードバックを大事にするBMCのバイク作りが生きていることの証拠です。

BMCのブランドとバイクを熟知した錦織大祐(フォーチュンバイク)がTeammachine Rを試した

BMCはバイク開発においてあえて言語化や数値化していない部分も多々あります。それでも彼らは徹底的なリサーチと開発で「自分たちのアンサーはこれだ」というプロダクトを世に出し続けていて、今回もその例にもれません。シンプルな見た目をしていますが、端々に最先端を突き進んでいる部分があり、今後競合他社がこのバイクを意識するでしょう。

価格は決して安いバイクではないとは思います。しかし、Teammachine Rは現行Teammachine SLR01から期間を十分にとってドラスティックに開発を進めた新型であることを顧みると、最先端のトレンドと性能を享受しレースで成果を出すための投資として捉えていただけるとバリューは高いと思います。

BMC Teammachine R

BMC Teammachine R 01 FOUR
コックピットシステム:BMC RCB 01 Carbon+BMC ICS2
シートポスト:Teammachine R 01 Premium Carbon Seatpostn10mm Offset
コンポーネント:SHIMANO Ultegra DI2
ホイール:CRD-501 Carbon - Tubeless Ready - 50mm
タイヤ:Pirelli P ZERO Race TLR 26mm
サドル:Fizik Argo Vento R3
カラー:ステルス
サイズ:47、51、54、56
価格:1,650,000円(税込)

BMC Teammachine R 01 MOD
フレーム:Teammachine R 01 Premium Carbon with Aerocore Design
フォーク:Teammachine R 01 Premium Carbon
コックピット:ICS Carbon Aero | One-Piece Full Carbon Cockpit
シートポスト:Teammachine R 01 Premium Carbon Seatpostn10mm Offset
カラー:カーボン&ホワイト
サイズ:47、51、54、56
価格:1,056,000円(税込)



インプレッションライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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text:Gakuto Fujiwara
photo:Naoki Yasuoka
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