2024/01/02(火) - 14:30
スペシャライズドがフルモデルチェンジを行ったS-Works Roubaix SL8をインプレッション。第3世代Future Shock、32mm幅タイヤを前提としたクリアランスを手に入れ、どこでも走れるオールロードへと進化を遂げた1台の実力はいかに。
凶悪な石畳が容赦無くライダーに牙を剥き、落車、パンクを次々と発生させる北の地獄ことパリ〜ルーべ。アクシデントに見舞われなくても、石畳の凹凸からの衝撃を受け止めつつ走り抜けるコントロール性が求められ、完走するハードルが非常に高いクラシックレースだ。
スペシャライズドのエンデュランスロード"Roubaix(ルーべ)"もその名の通り、パリ〜ルーべのために開発された一台としてペーター・サガンらの活躍を支えてきた。一方で近年はタイヤのワイド化や自転車そのものの進化に伴い、パリ〜ルーべでもエアロロードやオールラウンドレーサーが活躍しており、エンデュランスレーサーの立ち位置は時代とともに変化しつつある。
そんな状況下でRoubaixはモデルチェンジが行われ、最新作Roubaix SL8ではオールロードとして再出発を図る。舗装路と未舗装路の中間を快適に速く走るためというコンセプトには変わりないが、レースのため、というよりはファストサイクリングを快適に楽しむためのオールロードという切り口になっていると言っても過言ではないだろう。
Roubaixの優れた走破性は砂利道でも難なくこなすことができるが、スペシャライズドはRoubaixをロードバイクのカテゴリーに据えたまま。グラベルはCruxやDivergeに任せており、Roubaixを含め各バイクでターゲットとするシチュエーションが異なる。その傾向が顕著に現れるのが最大タイヤ幅だ。Roubaixは38Cまでで、引き締まった未舗装路とひび割れているような舗装路をスムースに駆け抜けるのに適しており、ロードライドにおいて路面を気にせずに走れるパワフルな1台と言えよう。ちなみにCruxとDivergeは700Cで47mmまで。
Roubaixの走破性を支えるポイントはハンドルとシートポスト周り、ライダーと自転車が接する3点のうち2点の快適性と、ロードバイクらしい走行性能を備えたフレームだ。前者で快適性を確保することで、ペダリングパワーに対する反応性を妥協しない開発を実現している。
ハンドル周りの快適性を担うのはFuture Shockというステアリングコラム部分にサスペンションを搭載するスペシャライズド独自の技術。RoubaixがSL8にモデルチェンジするのと同時にFuture Shockも第3世代へとアップデートが行われている。
最新のFuture Shockはサスペンションのスプリングがハード、ミディアム、ソフトの3種類となり、好みや走行シチュエーションによって交換することが可能となった。さらにワッシャーを追加することでプリロードを5段階で変更でき、サスペンションの動き出しの挙動も好みに合わせられるようになっている。
今回テストをするS-WORKSグレードにプリセットされるFuture Shock 3.3は油圧ダンパーのコンプレッションダンピングの調整も可能となった。動き出しから、ダンピング、スプリングの硬さまでユーザーがカスタマイズできるため、従来モデル以上にユーザーにフィットするセッティングでライドを楽しめるバイクへと進化を遂げている。
シートポスト周りのAfter ShockもRoubaixには欠かせない要素だ。これはカーボン積層を調整し、後方にしなりやすいPaveシートポストと、シートクランプを通常よりも65mm以上も下方に配置する設計を組み合わせたテクノロジーで、通常のバイクよりもシートポストによる振動吸収性を向上させるもの。
Future ShockとAfter Shockの組み合わせによる衝撃吸収性はスペシャライズドのテストラボにて検証が行われた。テストは高さ22mmの段差が続く路面を32km/hで走行するという内容で、ハンドルとホイールに伝わる衝撃を計測。重力加速度で表現すると最も優秀な成績を残したライバルバイクでも24Gだったのに対し、Roubaixは10Gという数値をマーク。ライバルバイクよりも53%衝撃が減衰されているとの結果が示されたという。
そして先述したようにパワー伝達能力などスピードに関する部分の開発が妥協されていないことがポイントだ。特にSL8ではTarmac SL8からエアロダイナミクス、Aethosから形状による剛性確保、重量削減の知見を得ており、具体的な数値ではエアロダイナミクスは前作より4W分の空気抵抗削減、軽量性はS-WORKSグレードの完成車で7.3kgという重量を達成している。快適性だけではないエンデュランスバイクを実現することで、ファストサイクリングのライド体験が上質なものとなるはずだ。
走行性能でのライドクオリティだけではなく、マウント類の増設によってもRoubaixで楽しめるライドシチュエーションの幅が広げられている。ボトルケージ台座はダウンチューブとシートチューブに加えてダウンチューブ裏側にも設置、さらにトップチューブにもマウントが備えられた。さらにフェンダー装着も可能となっており、超長距離ライドを走るツーリングバイクとしてもRoubaixは活躍してくれるだろう。
今回テストを行うのはS-WORKSグレードの完成車。Fact 12rというハイエンドカーボンを使い、スラムRED eTapで組み上げられた最高級の1台を岸崇仁と高木店長がテスト。ライドクオリティを追求した1台をどう評価するのか。早速インプレッションに移ろう。
−インプレッション
「レースバイクのような走りに圧倒的な快適性を加えた一台」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)
凝ったギミックが搭載されていることを感じさせない素直な乗り味で、一言でいえば軽くて速くて、抜群に乗り心地の良いロードバイク、という印象の一台ですね。
正直なところ、サスペンションが入った自転車というイメージからは良い意味でかなり遠い位置にいる乗り味の一台です。いわゆるサスペンションへのイメージと言えば、ボヨンボヨンと跳ねるような印象があると思うんですが、そういった動きを感じることはほとんど無いですね。
ただ、実際に路面がひび割れているような箇所を通ってみると、明確に衝撃が少ないのを体感できるんです。そこで初めて、Roubaixだったんだな、と気づく(笑)。それくらい、違和感の無い乗り味なんです。
今モデルからダンパーが調整できるようになりましたが、これも面白いですよね。しっかりと挙動が制御されているので、全開にしていても全然問題なく走れるのですが、登りなどダンシングを多用するシーンで閉じてみると、やっぱりこれはこれで調子良く感じます。走りながら調整もしやすいですし、好みの動きを見つける作業自体が楽しいですよね。
先ほども触れましたが、走り自体は本当に軽快です。同社のTARMACと比べると、すこし剛性感は抑えめですが、反応性は非常に高いですよ。トルクを掛けても、ケイデンス高めに回しても良く進んでくれますね。
今回はホイールもかなり軽めのセットアップで、ヒルクライムレースでも良いんじゃないかというくらいの走りの軽さが印象的でした。Roubaixらしく、1日中走るようなロングライドであれば、もう少し重量があって速度が維持しやすいホイールでも良いかもしれませんね。
ハンドリングは少し安定志向ですが、コーナーでアンダーが出るようなことも無いです。タイヤも太めのものがアセンブルされていますから、グリップ面でも不安を感じることはないですね。
フューチャーショックが入っていることで、ケーブルフル内装ではないのですが、Roubaixを選択するようなロングライダーの方にとっては、メンテナンスのしやすさという面でもメリットになるのではないでしょうか。ハードに使う方が好まれるバイクですから、整備性は重要なポイントです。
かなり太いタイヤも入りますし、オフロードユースも視野に入ってくるのもRoubaixらしいところです。今回は少しグラベルも走ってみましたが、全然苦にならないのは流石といったところでした。今はロードしか走らないけど、将来グラベルやシクロクロスも興味がある、といった方には、このキャパシティは嬉しいですよね。
レースバイク然とした走りの良さに、快適な乗り心地とタイヤキャパシティをプラスすることで、どんなライディングスタイルにも対応できるマルチタレントな一台です。
「乗っていて楽しい。スプリントにも応えてくれながら、非常に快適な1台」岸崇仁
乗っていて楽しいです。スプリントのようにもがいてもバイクは応えてくれるし、悪路でトルクをかけてペダリングしてもバイクが変な挙動を起こしません。Future Shockもしっかり機能してくれていて、正直言って悪いところがない、扱いやすいバイクです。
Future Shockのようなギミックが搭載されたバイクに初めて乗ったんですけど、走らせる前はサスペンションが過度に衝撃を吸収しすぎてしまったり、特殊な機構が故の剛性不足があるのではないか、ハンドルが上下することによって走りに影響が出るのではないかと思っていました。
実際に走らせてみると全然違和感がなく、正直、そこはびっくりしましたね。普通のバイクの場合はライダー自身が力を抜いて衝撃をいなしていましたが、Future Shockがあればハンドルに手に置いていれば、下側の自転車が自由に動いてくれるので、路面の段差などを気にする必要がありませんでした。衝撃が来ないのもそうですが、路面を注視しなくて良いからライダーは疲れにくくなっていると思います。
サスペンションが上下する状態のままスプリントもしてみましたが、多少の上下動で衝撃をいなすことはありつつ、走行中にネガティブな印象を抱くことはありませんでした。
サスペンションがあることでコーナリング中でも細かく振動をいなしてくれるので、路面の凹凸による衝撃やライダーが変な動きを吸収してラインが安定します。下りが苦手な人でもFuture Shockがあることでスムースなラインどりができるようになる印象がありました。
シート側もクランプ位置が下げることでポストのしなりを生み出す設計も、しっかりと衝撃吸収性を感じられましたし、後ろはサスペンションではなくシートポストの設計で性能を高めていることで、前後の衝撃吸収性と剛性のバランスを整えていることが伝わってきました。
最近のレースバイクはヘッド周りの剛性が高く、長距離乗っていると肩や首に少なくない負担がかかりやすくなっています。レースバイクで200kmはキツく感じたとしても、このバイクでは最後まで楽しめるのではないかと思いますね。他のエンデュランスロードと比べると、Future Shockがあるおかげで走れる場所のバリエーションが広がっていると思います。頭の片隅にグラベルもある方にはRoubaix SL8がフィットするでしょう。
これだけ衝撃吸収性にフォーカスしているとフレームの剛性が見過ごされがちですが、Roubaix SL8にはしっかりとした剛性があることを感じられました。もちろんTarmac SL8と比較してしまうと多少の差はあると思いますが、Roubaix SL8が本来走るような場所、状況、環境の中だったら、ベストパフォーマンスが出せると思います。
登りでトルクフルなペダリングをしても、軽いギアでシャカシャカ登っても、ダンシングをしてもキビキビ走ってくれるので、乗る前の印象より乗った後の印象は数倍良く感じています。スプリントもしっかりとかかります。それくらい走行性能については申し分ありません。このパフォーマンスがあればロングライドでもパワー効率よく、快適に走れるはずです。
一番気持ちよく走れるスピードも30km/hから40km/hくらいで、快適性もこのスピード域で生きます。普通のサイクリングではこれ以上のスピードは出さないと思いますし、巡航で30km/h付近でパフォーマンスが発揮されるのが魅力じゃないでしょうか。そのスピードで距離100km、200kmを走り続けるのにはもってこいです。
アセンブルされるタイヤが32Cとロードバイクとしては太めですが、この自転車とマッチしていて、ロードバイクらしい軽快さは失われていません。逆にこれ以上細くしてしまうと、これまで説明してきたようなバイクの良さが出ないんじゃないかと思うほどです。太くしてオフロードに寄せるのも全然ありですね。
価格は非常に高いですが、純粋な性能で言えばロードバイクをこれから始める方、ある程度経験してきた人にだってオススメできるポテンシャルがあります。軽快なレーシングバイクに目が行きがちですが、Roubaix SL8でもロードサイクリングを十分に楽しめるぞ、と言えるバイクでした。
スペシャライズド S-Works Roubaix SL8
フレーム:FACT 12R, Rider First Engineered™ (RFE), FreeFoil Shape Library tubes, threaded BB
フォーク:Future Shock 3.3 w/ Smooth Boot, FACT Carbon
ドライブトレイン:SRAM Red eTAP AXS
ハンドルバー:S-Works Carbon Hover Drop 125mm, Reach 75mm
ステム:S-Works Future Stem, w/ Integrated Computer Mount
シートポスト:S-Works Pave Seat post
サドル:Body Geometry S-Works Power
バーテープ:Supacaz Super Sticky Kush
ホイール:Roval Terra CLX II
タイヤ:S-Works Mondo 2BR, 700x32c
重量:7.34kg(56サイズ)
価格:1,738,000円(税込)
インプレッションライダープロフィール
高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)
横浜駅から徒歩10分、ベイサイドエリアに店舗を構えるアウトドアスペース風魔横浜の店長。前職メッセンジャーの経験を活かし自転車業界へ。自身はロードバイクをメインに最近はレース活動にも力を入れる実走派だ。ショップはロード・MTBの2本柱で幅広い自転車遊びを提案している。
CWレコメンドショップページ
アウトドアスペース風魔横浜 HP
岸崇仁
2017年に那須ブラーゼンに加入。2020年から21年シーズンはさいたまディレーブにてJCLのレースに参戦した元プロレーサー。小集団で逃げるようなサバイバルな展開を得意とした実力派。現在はロードバイクのライドコーチとして、安全・快適な走り方を伝えるとともに、各媒体でバイクインプレッションも担当する。カステリのアンバサダー。
ウェア協力:カステリ
text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO
凶悪な石畳が容赦無くライダーに牙を剥き、落車、パンクを次々と発生させる北の地獄ことパリ〜ルーべ。アクシデントに見舞われなくても、石畳の凹凸からの衝撃を受け止めつつ走り抜けるコントロール性が求められ、完走するハードルが非常に高いクラシックレースだ。
スペシャライズドのエンデュランスロード"Roubaix(ルーべ)"もその名の通り、パリ〜ルーべのために開発された一台としてペーター・サガンらの活躍を支えてきた。一方で近年はタイヤのワイド化や自転車そのものの進化に伴い、パリ〜ルーべでもエアロロードやオールラウンドレーサーが活躍しており、エンデュランスレーサーの立ち位置は時代とともに変化しつつある。
そんな状況下でRoubaixはモデルチェンジが行われ、最新作Roubaix SL8ではオールロードとして再出発を図る。舗装路と未舗装路の中間を快適に速く走るためというコンセプトには変わりないが、レースのため、というよりはファストサイクリングを快適に楽しむためのオールロードという切り口になっていると言っても過言ではないだろう。
Roubaixの優れた走破性は砂利道でも難なくこなすことができるが、スペシャライズドはRoubaixをロードバイクのカテゴリーに据えたまま。グラベルはCruxやDivergeに任せており、Roubaixを含め各バイクでターゲットとするシチュエーションが異なる。その傾向が顕著に現れるのが最大タイヤ幅だ。Roubaixは38Cまでで、引き締まった未舗装路とひび割れているような舗装路をスムースに駆け抜けるのに適しており、ロードライドにおいて路面を気にせずに走れるパワフルな1台と言えよう。ちなみにCruxとDivergeは700Cで47mmまで。
Roubaixの走破性を支えるポイントはハンドルとシートポスト周り、ライダーと自転車が接する3点のうち2点の快適性と、ロードバイクらしい走行性能を備えたフレームだ。前者で快適性を確保することで、ペダリングパワーに対する反応性を妥協しない開発を実現している。
ハンドル周りの快適性を担うのはFuture Shockというステアリングコラム部分にサスペンションを搭載するスペシャライズド独自の技術。RoubaixがSL8にモデルチェンジするのと同時にFuture Shockも第3世代へとアップデートが行われている。
最新のFuture Shockはサスペンションのスプリングがハード、ミディアム、ソフトの3種類となり、好みや走行シチュエーションによって交換することが可能となった。さらにワッシャーを追加することでプリロードを5段階で変更でき、サスペンションの動き出しの挙動も好みに合わせられるようになっている。
今回テストをするS-WORKSグレードにプリセットされるFuture Shock 3.3は油圧ダンパーのコンプレッションダンピングの調整も可能となった。動き出しから、ダンピング、スプリングの硬さまでユーザーがカスタマイズできるため、従来モデル以上にユーザーにフィットするセッティングでライドを楽しめるバイクへと進化を遂げている。
シートポスト周りのAfter ShockもRoubaixには欠かせない要素だ。これはカーボン積層を調整し、後方にしなりやすいPaveシートポストと、シートクランプを通常よりも65mm以上も下方に配置する設計を組み合わせたテクノロジーで、通常のバイクよりもシートポストによる振動吸収性を向上させるもの。
Future ShockとAfter Shockの組み合わせによる衝撃吸収性はスペシャライズドのテストラボにて検証が行われた。テストは高さ22mmの段差が続く路面を32km/hで走行するという内容で、ハンドルとホイールに伝わる衝撃を計測。重力加速度で表現すると最も優秀な成績を残したライバルバイクでも24Gだったのに対し、Roubaixは10Gという数値をマーク。ライバルバイクよりも53%衝撃が減衰されているとの結果が示されたという。
そして先述したようにパワー伝達能力などスピードに関する部分の開発が妥協されていないことがポイントだ。特にSL8ではTarmac SL8からエアロダイナミクス、Aethosから形状による剛性確保、重量削減の知見を得ており、具体的な数値ではエアロダイナミクスは前作より4W分の空気抵抗削減、軽量性はS-WORKSグレードの完成車で7.3kgという重量を達成している。快適性だけではないエンデュランスバイクを実現することで、ファストサイクリングのライド体験が上質なものとなるはずだ。
走行性能でのライドクオリティだけではなく、マウント類の増設によってもRoubaixで楽しめるライドシチュエーションの幅が広げられている。ボトルケージ台座はダウンチューブとシートチューブに加えてダウンチューブ裏側にも設置、さらにトップチューブにもマウントが備えられた。さらにフェンダー装着も可能となっており、超長距離ライドを走るツーリングバイクとしてもRoubaixは活躍してくれるだろう。
今回テストを行うのはS-WORKSグレードの完成車。Fact 12rというハイエンドカーボンを使い、スラムRED eTapで組み上げられた最高級の1台を岸崇仁と高木店長がテスト。ライドクオリティを追求した1台をどう評価するのか。早速インプレッションに移ろう。
−インプレッション
「レースバイクのような走りに圧倒的な快適性を加えた一台」高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)
凝ったギミックが搭載されていることを感じさせない素直な乗り味で、一言でいえば軽くて速くて、抜群に乗り心地の良いロードバイク、という印象の一台ですね。
正直なところ、サスペンションが入った自転車というイメージからは良い意味でかなり遠い位置にいる乗り味の一台です。いわゆるサスペンションへのイメージと言えば、ボヨンボヨンと跳ねるような印象があると思うんですが、そういった動きを感じることはほとんど無いですね。
ただ、実際に路面がひび割れているような箇所を通ってみると、明確に衝撃が少ないのを体感できるんです。そこで初めて、Roubaixだったんだな、と気づく(笑)。それくらい、違和感の無い乗り味なんです。
今モデルからダンパーが調整できるようになりましたが、これも面白いですよね。しっかりと挙動が制御されているので、全開にしていても全然問題なく走れるのですが、登りなどダンシングを多用するシーンで閉じてみると、やっぱりこれはこれで調子良く感じます。走りながら調整もしやすいですし、好みの動きを見つける作業自体が楽しいですよね。
先ほども触れましたが、走り自体は本当に軽快です。同社のTARMACと比べると、すこし剛性感は抑えめですが、反応性は非常に高いですよ。トルクを掛けても、ケイデンス高めに回しても良く進んでくれますね。
今回はホイールもかなり軽めのセットアップで、ヒルクライムレースでも良いんじゃないかというくらいの走りの軽さが印象的でした。Roubaixらしく、1日中走るようなロングライドであれば、もう少し重量があって速度が維持しやすいホイールでも良いかもしれませんね。
ハンドリングは少し安定志向ですが、コーナーでアンダーが出るようなことも無いです。タイヤも太めのものがアセンブルされていますから、グリップ面でも不安を感じることはないですね。
フューチャーショックが入っていることで、ケーブルフル内装ではないのですが、Roubaixを選択するようなロングライダーの方にとっては、メンテナンスのしやすさという面でもメリットになるのではないでしょうか。ハードに使う方が好まれるバイクですから、整備性は重要なポイントです。
かなり太いタイヤも入りますし、オフロードユースも視野に入ってくるのもRoubaixらしいところです。今回は少しグラベルも走ってみましたが、全然苦にならないのは流石といったところでした。今はロードしか走らないけど、将来グラベルやシクロクロスも興味がある、といった方には、このキャパシティは嬉しいですよね。
レースバイク然とした走りの良さに、快適な乗り心地とタイヤキャパシティをプラスすることで、どんなライディングスタイルにも対応できるマルチタレントな一台です。
「乗っていて楽しい。スプリントにも応えてくれながら、非常に快適な1台」岸崇仁
乗っていて楽しいです。スプリントのようにもがいてもバイクは応えてくれるし、悪路でトルクをかけてペダリングしてもバイクが変な挙動を起こしません。Future Shockもしっかり機能してくれていて、正直言って悪いところがない、扱いやすいバイクです。
Future Shockのようなギミックが搭載されたバイクに初めて乗ったんですけど、走らせる前はサスペンションが過度に衝撃を吸収しすぎてしまったり、特殊な機構が故の剛性不足があるのではないか、ハンドルが上下することによって走りに影響が出るのではないかと思っていました。
実際に走らせてみると全然違和感がなく、正直、そこはびっくりしましたね。普通のバイクの場合はライダー自身が力を抜いて衝撃をいなしていましたが、Future Shockがあればハンドルに手に置いていれば、下側の自転車が自由に動いてくれるので、路面の段差などを気にする必要がありませんでした。衝撃が来ないのもそうですが、路面を注視しなくて良いからライダーは疲れにくくなっていると思います。
サスペンションが上下する状態のままスプリントもしてみましたが、多少の上下動で衝撃をいなすことはありつつ、走行中にネガティブな印象を抱くことはありませんでした。
サスペンションがあることでコーナリング中でも細かく振動をいなしてくれるので、路面の凹凸による衝撃やライダーが変な動きを吸収してラインが安定します。下りが苦手な人でもFuture Shockがあることでスムースなラインどりができるようになる印象がありました。
シート側もクランプ位置が下げることでポストのしなりを生み出す設計も、しっかりと衝撃吸収性を感じられましたし、後ろはサスペンションではなくシートポストの設計で性能を高めていることで、前後の衝撃吸収性と剛性のバランスを整えていることが伝わってきました。
最近のレースバイクはヘッド周りの剛性が高く、長距離乗っていると肩や首に少なくない負担がかかりやすくなっています。レースバイクで200kmはキツく感じたとしても、このバイクでは最後まで楽しめるのではないかと思いますね。他のエンデュランスロードと比べると、Future Shockがあるおかげで走れる場所のバリエーションが広がっていると思います。頭の片隅にグラベルもある方にはRoubaix SL8がフィットするでしょう。
これだけ衝撃吸収性にフォーカスしているとフレームの剛性が見過ごされがちですが、Roubaix SL8にはしっかりとした剛性があることを感じられました。もちろんTarmac SL8と比較してしまうと多少の差はあると思いますが、Roubaix SL8が本来走るような場所、状況、環境の中だったら、ベストパフォーマンスが出せると思います。
登りでトルクフルなペダリングをしても、軽いギアでシャカシャカ登っても、ダンシングをしてもキビキビ走ってくれるので、乗る前の印象より乗った後の印象は数倍良く感じています。スプリントもしっかりとかかります。それくらい走行性能については申し分ありません。このパフォーマンスがあればロングライドでもパワー効率よく、快適に走れるはずです。
一番気持ちよく走れるスピードも30km/hから40km/hくらいで、快適性もこのスピード域で生きます。普通のサイクリングではこれ以上のスピードは出さないと思いますし、巡航で30km/h付近でパフォーマンスが発揮されるのが魅力じゃないでしょうか。そのスピードで距離100km、200kmを走り続けるのにはもってこいです。
アセンブルされるタイヤが32Cとロードバイクとしては太めですが、この自転車とマッチしていて、ロードバイクらしい軽快さは失われていません。逆にこれ以上細くしてしまうと、これまで説明してきたようなバイクの良さが出ないんじゃないかと思うほどです。太くしてオフロードに寄せるのも全然ありですね。
価格は非常に高いですが、純粋な性能で言えばロードバイクをこれから始める方、ある程度経験してきた人にだってオススメできるポテンシャルがあります。軽快なレーシングバイクに目が行きがちですが、Roubaix SL8でもロードサイクリングを十分に楽しめるぞ、と言えるバイクでした。
スペシャライズド S-Works Roubaix SL8
フレーム:FACT 12R, Rider First Engineered™ (RFE), FreeFoil Shape Library tubes, threaded BB
フォーク:Future Shock 3.3 w/ Smooth Boot, FACT Carbon
ドライブトレイン:SRAM Red eTAP AXS
ハンドルバー:S-Works Carbon Hover Drop 125mm, Reach 75mm
ステム:S-Works Future Stem, w/ Integrated Computer Mount
シートポスト:S-Works Pave Seat post
サドル:Body Geometry S-Works Power
バーテープ:Supacaz Super Sticky Kush
ホイール:Roval Terra CLX II
タイヤ:S-Works Mondo 2BR, 700x32c
重量:7.34kg(56サイズ)
価格:1,738,000円(税込)
インプレッションライダープロフィール
高木友明(アウトドアスペース風魔横浜)
横浜駅から徒歩10分、ベイサイドエリアに店舗を構えるアウトドアスペース風魔横浜の店長。前職メッセンジャーの経験を活かし自転車業界へ。自身はロードバイクをメインに最近はレース活動にも力を入れる実走派だ。ショップはロード・MTBの2本柱で幅広い自転車遊びを提案している。
CWレコメンドショップページ
アウトドアスペース風魔横浜 HP
岸崇仁
2017年に那須ブラーゼンに加入。2020年から21年シーズンはさいたまディレーブにてJCLのレースに参戦した元プロレーサー。小集団で逃げるようなサバイバルな展開を得意とした実力派。現在はロードバイクのライドコーチとして、安全・快適な走り方を伝えるとともに、各媒体でバイクインプレッションも担当する。カステリのアンバサダー。
ウェア協力:カステリ
text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO
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