リドレーが誇るエアロロード"NOAH DISC"をベースとしたミドルグレードが2024年モデルから満を持して登場。数多くの勝利を成し遂げたスプリントマシンの形状はそのままにカーボン素材をアレンジすることで、コストパフォーマンスを高めている。期待がかかる一台のインプレッションをお届けしよう。



リドレー Noah Disc photo: Makoto AYANO / cyclowired.jp

自転車競技が国技として認められ、春のクラシックシーズンでは観客たちが熱狂する国、ベルギー。エディ・メルクスらレジェンド選手やチームを輩出している国であり、彼らをサポートする企業もまた少なくない。その中の一つがバイクブランドのリドレーだ。

石畳のクラシックを擁すベルギーに誇りを持ち、開発されるバイクは全て石畳でのテストを経てからローンチしていることが特徴で、荒れた路面でもバイクのパフォーマンスが発揮される設計を行うことに長けているブランドだ。長らく同郷のロット・デスティニーをサポートし、逃げ・ヒルクライム・スプリントそれぞれに特化した職人的とも言える選手たちの走りをバイクで支え続けている。

シートチューブはカウルのようにタイヤを覆う
ダウンチューブも溝を設けることで乱流の発生を抑えている
マッシブなカムテールフォークが採用されている



その中でもスプリントではポケットロケットことカレブ・ユアンによる目覚ましい活躍によって勝利を重ねており、リドレーのエアロロードであるNOAH FASTが注目されることも多く、その存在を知っているサイクリストも少なくないはずだ。自転車競技はプロ選手が使用するモデルと同様の物をユーザーが手にできるようになっているため、NOAH FASTも例に漏れずリドレーのラインアップに並べられていた。

しかし、リドレーは他ブランドのようにプロスペックのモデルを頂点とした松竹梅のラインアップを形成しておらず、エアロロードはNOAH FASTというフラッグシップのみが展開されていた。2019年モデルとして登場より5年、2024年モデルでついにミドルグレードがラインアップに登場した。今回紹介するのは、そのセカンドグレードである"NOAH DISC"だ。

NOAH DISCはFASTと形は全く同じ。トップグレードは50T、40T、30Tの高弾性UDカーボンを組み合わせて使用していたが、NOAH DISCでは30Tと24TのUDカーボンに置き換えることで、同レベルの剛性と快適性を実現しつつコスト低減を果たした。

ミドルグレードが満をじして登場したNOAH
ステム一体型のForza Cirrus Pro Road Integrared Cockpitが搭載されている


ドライブサイドのチェーンステーはシンプルな作りとなっている
カムテールデザインのヘッドチューブ、ダウンチューブが採用されている



一方でミドルグレードカーボンを使用したことでSサイズのフレーム単体で120gの重量増となっているが、このカーボンはリドレーがカーボン繊維とエポキシ樹脂を独自の基準で選定し、高品質なプリプレグとして適材適所に配置しているため、ミドルグレードながら優れた性能を発揮できるのだという。

エアロ性能を追求したフレーム設計は、ヘッドチューブとフォーククラウンのインテグレートデザイン、リアタイヤを覆うカウルのようなシートチューブなど定番の造形が採用されている。これらの設計、特にコンパクトなリア三角はエアロダイナミクスだけではなく、快適性や反応性向上にも貢献しており、フレーム全体としてレースバイクらしい走行性能を実現。

エアロ面で特徴的な部分は翼断面の後方を切り落としたカムテールデザイン"F-Tubing"。これを基本とし、ヘッドチューブとダウンチューブ、フロントフォーク、シートポスト、コラムスペーサーといった空気が当たる部分に溝"F-Surface Plus"を設けた。この溝はあえて乱気流を起こすことでフレーム全体として整流効果を生み出し、その背後に流れる気流を整えようというものだ。

ミドルグレードはESSENTIALシリーズとして位置付けられている
大胆に扁平形状とされたチェーンステー



溝だけではなく、フロントフォークの先端にはF-Wingsという翼形状のワンポイントを追加することで、スポークで掻き乱された乱流を整えようという細かい部分までエアロを追求。コックピットのケーブルはもちろんフル内装で、F-SteererというD型断面コラムフォークと、専用コックピット"Forza Cirrus Pro Road Integrared Cockpit"によって実現されている。

このハンドルバーステムはドロップ部が5°フレアしており、ブラケット部はトレンドの幅狭としながらも、ドロップ部はコントロールしやすい通常幅で使うことができる。例えばSサイズフレームに付属するハンドルはステム長100mmで、ハンドルブラケット部は400mm、ドロップ部が420mmというような設定が一例だ。もちろんオプションとしても各サイズが販売されているため、好みに合わせることも可能だ。

フォーク先端部に翼を設けることで、乱気流を抑制している
ヘッドチューブからフォークまでF-Surface Plusが採用されている
シートポストまでF-Surface Plusを与えて空力を高めている



販売形態はフレームセットが基本で、シマノコンポーネントのみがアセンブルされるバイククラフトでDURA-ACE、ULTEGRA、105(DI2、機械式)を選択可能となっている。このバイククラフトは完成車ではないため、クランクセットのサイズなどもユーザーが選択することが特徴で、自分に合わせたカスタムを最初から行えるのが魅力だ。

そんなリドレーのNOAH DISCをなるしまフレンドの鈴木淳、シクロワイアード編集部の高木三千成がテスト。満を持して登場したミドルグレードの実力やいかに。それではインプレッションに移ろう。



-インプレッション
「リドレーらしい乗りやすさの中にスピードの伸びが光るエアロオールラウンダー」鈴木淳(なるしまフレンド)

鈴木淳(なるしまフレンド) photo: Makoto AYANO / cyclowired.jp

しっかりと芯が通った踏み心地で、伸びが良いバイクですね。かといって硬すぎるわけではなく、足当たりも良くて一日踏み続けられそうな一台。ボリュームのある形状で、一見固そうに見えるけど、実は結構優しいバイクですよ。

エアロもしっかり効いている印象で、フレームの剛性感も相まってスピードのノリが非常に素晴らしい。軽量バイクのスカスカッと抜けるような感覚ではなくて、もっとしっとりとしつつ、全体的にペダリングパワーを受け止めてくれるような踏み心地で、中速域からの伸びが目覚ましいですね。

鈴木淳(なるしまフレンド) photo: Makoto AYANO / cyclowired.jp
ギアを掛けてもがいても良いですし、もうちょっと軽い感じで踏んでいっても良いですね。かけて行ったパワーをしっかり受け止めつつ、次のスピードの伸びに繋げていってくれるような、スムーズな加速感が印象的でした。

高速巡航だけじゃなくて、スプリントもしっかりとこなせるので、レースにも良いと思いますね。バイクの持つリズム感をしっかりと把握して、そのタイミングをしっかりと活かして仕掛ければ、トップスピードはかなり伸びますよ。

それだけ平坦でしっかり走る上に、登りも割合良く走ってくれますからオールラウンドに使えるバイクです。このルックスからは受けるイメージからは、いい意味で予想を裏切られました。

一方で、下りでのハンドリングは少し軽めですね。平坦ではビシッと安定しているのですが、下りに入ると切れ込みやすく、タイトターンでもしっかりこなせるような軽さを感じました。

総じて、ミドルグレードとして良く出来た一台だと思いますね。ハイエンドバイクはもちろん良いんですけども、やっぱりプロ機材だけに普通のサイクリストだと踏み負けてしまうし、乗らされている感覚というのは出てきます。

このNOAH DISCはそういった感覚が無くて、自転車をしっかりと乗りこなせているという自信を与えてくれました。見た目に反してオールラウンドに活躍できるバイクなので、ホイール次第で登りもこなせるでしょうし、もっとディープにすることでよりハイスピード域の伸びを引き出すのも面白いでしょう。

リドレーらしい扱いやすさ、乗りやすさを持ちながら、エアロバイクらしいルックスと性能を兼ね備えた万能な一台です。

「トップグレードと思えるほどの性能があるエアロロード」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「ハイエンドと言っても差し支えない走行性能を実現している」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo: Makoto AYANO / cyclowired.jp

ミドルグレードとは思えない軽快さがあり、もはやこれがトップグレードと言っても良いんじゃないかと思えるほどでした。確かに剛性感はミドルグレードらしいやや柔らかめなのですが、ひと踏みごとのスピードの伸びがとても良く、廉価版という印象を抱かせません。

リドレーの説明としてはNOAH DISCは形状はハイエンドと共通していて、カーボン素材を変更しただけということなので、フレーム形状からくる性能の良さは間違いなくありました。素材がセカンドグレードということで、手に持った重量感もミドルグレード並みなのですが、加速感の良さが全ての感覚を上回ります。

このスピード感の良さはエアロダイナミクスが効いているのではないでしょうか。ハンドル周りはもちろん、チューブ形状、フロントフォークのフィン、チューブに設けられた溝などエアロダイナミクスに特化していることはフレームを見れば明らかです。実際のエアロ感についてですが、幸運にも今回のテストバイクに搭載されていたシマノ ULTEGRA C50ホイールは普段から使っていて、ホイールの性能も感覚として把握できていました。普段の感覚を考慮してフレーム単体でのエアロという面に着目してもNOAH DISCの性能は高いです。

エアロとBB周りがウィップしないほど高い剛性のフレームと相まってライダーの力を効率よくスピードに変換してくれるため、スプリントでのフィーリングの良さはミドルグレードとは思えないほどでした。さらにスプリント中に脚が弾かれてしまうようなスパルタンな硬さだけではなく、最後までもがき切れるような懐の深さがあり、さらにエアロが助けてくれるためハイスピードを維持しやすい。

「低速からエアロを感じられるほどの性能を備えている」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo: Makoto AYANO / cyclowired.jp

ただトップエンドのバイクは薄いカーボンながら高い剛性を実現している一方で、NOAH DISCはカーボングレードを落としながらもハイエンドに近い剛性を出すためにカーボンがやや厚手になっているように感じます。それゆえの重量増に気が付かないことはありませんが、重さによるネガディブを上回る反応の良さが確かにあります。

ペダリングに対してフレームが瞬発的に反応してくれることに加えて、速度域が高くなってからの入力に対しても素直に応えてくれました。スプリントのようにバイク全体を振るように加速しようとすると、ステム一体型ハンドルの硬さが強く印象に残ります。ハイエンドに合わせた設計となっているのだと思いますから、NOAH FASTとともに使うとフレームと一体となったフィーリングを感じられるのでしょう。NOAH DISCが明確にミドルグレードだと感じるのはハンドルとのちょっとしたズレくらいかもしれません。

このハンドルの影響はバイク全体のバランスにも及んでいて、フロント部分の存在感は強めです。スプリントはもちろんハードブレーキングでもハンドル、フォーク全てが力を受け止めてくれるため、安心して高速で走り続けられます。特にコーナリングはクイックすぎることもなく、エアロロードにありがちな直進安定性が強すぎることもなく、ライダーがコントロールしやすい範囲でバランスされていて、ハイスピードでコーナーに進入できる実感がありました。ホイールのリムハイトを50mmより低くすることでコーナリング時のクイックさはコントロールできると思いますが、NOAH DISCに関してはC50(50mm)がベストマッチです。

正直ミドルグレードとは思えないほどいいバイクだったので、乗ってみてすぐに良さを体感できるのではないかと思います。サイクリングロードを気楽に走る方でもいいですし、サーキットエンデューロを楽しむ方で上質なロードバイクを探しているのであれば間違いありません。JBCFのエリートツアーで実戦経験を積みたい方でも満足できる一台です。

リドレー Noah Disc photo: Makoto AYANO / cyclowired.jp

リドレー NOAH DISC
フレーム:30T / 24T HM UDカーボン
フォーク:フルカーボン
フレーム重量:1,080g(XXS) / 1,110g(XS) / 1,120g(S) / 1,150g(M) / 1,200g(L)
フォーク重量:465g (コラム長300mm)
ボトムブラケット:PF30 (46x68mm)
ディスクブレーキローター:140/160mm対応
シートポスト:Fast Aero Seat Post 350mm
最大タイヤ幅:28mm (700c)
サイズ:XXS、XS、S、M、L
カラー:Jeans Blue-Gold (NHD01As)、Grey-Black (NHD01Bs)
フレーム価格:462,000円(税込)
バイククラフト・DURA-ACE価格:897,600円(税込)
バイククラフト・ULTEGRA 価格:719,400円(税込)
バイククラフト・105 R7150価格:640,200円(税込)
バイククラフト・105 R7100価格:565,400円(税込)



インプレッションライダーのプロフィール

鈴木淳(なるしまフレンド)鈴木淳(なるしまフレンド) 鈴木淳(なるしまフレンド)

日本屈指のスポーツバイクショップとして知られるなるしまフレンドを代表として率いる。ツール・ド・台湾に参加するなど実力派レーサーとして知られ、MTBやシクロクロスでも活躍。今はサイクリングを楽しみつつ、トライアスロンにも参加中。24年の目標は富士ヒルクライムでブロンズを獲得すること。

なるしまフレンド神宮店
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高木三千成(シクロワイアード編集部)高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。


ウェア協力:ALE(インターマックス)

text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO
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