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ベン・ヒーリーが渇望し、真のレーシングモデルへと昇華したキャノンデールの新型SuperSix EVO。その正統進化の舞台裏を開発者に訊ねたインタビューを紹介します。選手たちの声は、いかにして新型EVOへ注ぎ込まれたのか。キャノンデール開発陣が大切にするEVOの魂とは?

「プロチームの要望が、EVOをレーシングバイクとして進化させた」

キャノンデールのロード製品責任者を務めるウィル・グリーソン氏。新型SuperSix EVOのディレクションを担った photo:So Isobe

「彼は、もっとリアクティブ(反応性)なバイクを欲していた。我々は、なんとしてもその要求に応えたかったんです」

キャノンデールのロード製品責任者、ウィル・グリーソン氏は、シクロワイアードのインタビューに対してそう切り出した。彼が指すのは、EFエデュケーション・イージーポストのエースであり、新型SuperSix EVO発表会にも同席したベン・ヒーリー(アイルランド)のことだ。アタックで差を生み、そのまま逃げ切るアグレッシブなヒーリーのスタイルには、鋭い加速と絶対的な空力性能が不可欠だった。

「EFチーム、特にベン・ヒーリーはアグレッシブさを売りにするチームのフィロソフィーを代表する走り方です。彼は『僕の走りにマッチしたバイクが欲しい』と常にリクエストしていました。それが、SuperSix EVOをよりアグレッシブなレースバイクとしてリメイクする最大のきっかけになったのです」。

新型SuperSix EVOのフィーリングを確かめるように踏み込むベン・ヒーリー(アイルランド)。彼の要望が新型の正統進化を後押しした (c)Brazo de Hierro Photography

キャノンデールの開発チームが着手したのは単に車重を削ぎ落とすような簡単な改善ではなく、より実戦的な進化だった。フォークやヘッドチューブのレイアップを見直してフロント周りの剛性を重点的に引き上げ、同時に軽量化。ジオメトリー改善の妙も相まって、単なる軽量化の数値以上に「サドルから立ち上がってパワーを掛けた時にバイクが飛び跳ねるようなフィーリング」を追求したという。

その開発ノウハウは、ヒーリーが2025年の世界選手権で求めた「6.8kgで60mmリムを装備したバイク」という極限の要求に対して、開発チームが超軽量塗装を施した先代SuperSix EVOに、プロトタイプの「SystemBar Road」ハンドルや各種チタンボルトを投入したスペシャルバイクを経て、超軽量仕様のSLパッケージも含まれる今回の量産モデルへと注ぎ込まれた。

ヒーリーのバイクは52サイズで6.9kg。60mmハイトのヴィジョンMETRON 60 RSホイールを取り付けての重量だという photo:So Isobe

なお、昨シーズンまでEFチームの選手たちが駆っていたバイクは、ロゴこそ「LAB71」を冠していたものの、中身はHi-Modフレームであった。このSeries0カーボンの供給量が限られていたことで起きていた機材事情は、熱心なファンや事情通の間では公然の事実となっていたが、新型SuperSix EVOではサプライチェーンと製造工程を抜本的に改善。生産体制がより強固になったことで、男女チーム含めて選手全員がLAB71に乗ることになるという。今年スラムにスイッチしたチームバイクは、56サイズのLAB71フレームに60mmハイトのヴィジョンRSホイールを履かせても6.9kg〜7.0kgほど。「非常に競争力のある数字だと思う」とウィル氏の表情には自信がのぞく。

Synapseが進化したからこそ、EVOは尖れる

昨年5月にフルモデルチェンジした現行Synapse。より「走る」モデルになったことがSuperSix EVOの先鋭化を後押しした (c)キャノンデール

「一般ユーザー用ロードバイクの中心はSynapseであり、レースバイクの中心はEVOであるという位置付けが明確になった」 photo:So Isobe
今回のモデルチェンジの大きなトピックであるジオメトリーの変更とサイズ展開の変更。より低いスタックハイトは、チーム、特にヒーリーからの切実な要望だったという。このリクエストに開発陣はスタックハイトを10mm下げるという決定を下した。

「高速化するレースシーンでは、より低いポジションが求められます。先代モデルでは本来58サイズに乗る選手が56に乗る、という例も珍しくありませんでした。それに、サイズ展開を変えたのは、ヒーリーやリチャル・カラパスなど小柄な選手も多いチームのためでもある。身長175cmのベンも以前はサイズが合わず、やや小さな51サイズにロングステムを付けて凌いでいましたが、新型の52サイズでようやく完璧なフィットを手に入れました。これはSynapseがより走るバイクに生まれ変わったことで、よりEVOを純粋なレーシングバイクへとシフトできたという背景もあります。今の我々のラインナップにおいて、一般ユーザー用ロードバイクの中心はSynapseであり、レースバイクの中心はEVOであるという位置付けが明確になったのです」。

一方で、キャノンデールが第3世代EVOから注力している「剛性と快適性の黄金律」へのこだわりも忘れていない。

「リムブレーキ時代のEVO1や2は、ただひたすら剛性を追い求めていました。しかし我々が学んだのは、剛性バランスこそが大事だということ。硬すぎる自転車は快適性を損なうだけでなく、チャタリング(跳ね)を起こして危険です。ボトムブラケットやヘッドチューブは硬く、しかしどこかに力の抜きどころを作る。その秘伝のノウハウは代替わりするたびに進化しており、スプリントでの目覚ましい反応と、サドルに座っている時のスムーズさという、EVOにしか出せない二面性を生んでいるのです」

ハンドルとルックス。所有欲を満たす「細部への執念」

エアロ仕様の完成車にアッセンブルされる「SystemBar Road」ハンドル photo:So Isobe

3Dプリントされたプロトタイプ。CFD解析や実物大制作など、多くの労力を費やして新型EVOは生まれた photo:So Isobe
開発チームの一人が乗っていた最終プロトタイプ。遊び心のあるロゴは自らデザインしたものだそう photo:So Isobe


ハンドルバーの進化も今回の目玉だ。ウィル氏は「現代のレーサーに適応する」というテーマを掲げた。

「軽く、エアロにするのは当然として、ハンドル幅を狭めてサイズ展開を増やすことが重要でした。EFからも一般ユーザーからも360mm幅、あるいは究極のエアロを求める人や小柄な人からは340mmのニーズすらあった。新型のSystemBar Roadは、SystemBar R-Oneに比べて40gの軽量化を果たしつつ、剛性も強化。見た目も樹脂キャップを廃止して化粧カーボンを採用し、所有欲を満たしてくれる高品質な仕上がりになりました」

その美意識はフレーム全体にも及んでいる。LAB71とHi-Modのトップチューブにはハンドルと同じカーボンをあしらい、スラムのコンポに完璧にフィットするメタリックロゴ、細部までこだわり抜いたペイントとデザイン。ウィル氏は「高級バイクとしてのルックスにも細心の注意を払った」と自信を見せる。

EVO4、そしてEVO5が大幅に空力的な進化を果たしたことで、エアロロードとしてラインナップされてきたSystemSixは1世代限りで廃止。EVO5とSystemSixの空力性能は平均値で1〜2ワットと小さく、それでいてEVOは1kg弱も軽い。あらゆる場面で速いEVOを進化させることこそがキャノンデール開発陣の絶対的な正義だ。

キャノンデール・スタンダードの再定義

思えば、LAB71という新たな基準が定義された第4世代の登場以降、キャノンデールのブランドイメージは飛躍的に向上し、いまや彼らは「純粋なパフォーマンスにおいて世界の頂点を獲りにいく」という強烈な意志を隠そうとしない。

今回の発表会でテスト用に用意されたHi-Mod。美しいペイントに目を奪われた photo:So Isobe

実際、今回の新型EVOの体験を通じて、その意志はより強固になっていると感じざるを得ない。そして特筆すべきは、その進化がEVO単体で起きたものではないということだ。空力のノウハウをSystemSixから、快適性の知見をSynapseやSuperXから。同じ開発チームがそれぞれのプロジェクトで得た知見をクロスオーバーさせ、この新型EVOに繋げている。

「最大のチャレンジは、EVOがEVOであるまま、正統進化を遂げることでした。今回、EVOの進化に当たって数字上の変化はそこまで大きくありません。でも、小さな変化が2つあるだけで、バイクの走りや性格は劇的に変化してしまう。ブランドの顔役としての走りを守りつつ、性能を引き上げること。それが最も困難な壁でした」とウィル氏は振り返る。

EVOがキャノンデールの基準を跳ね上げ、SynapseやSuperXがその背中を追う。そして今回の新型EVOで、その「キャノンデール・スタンダード」はさらなる高みへと引き上げられた。選手の声から生まれた反応性や空力性能、アグレッシブなジオメトリー。今のキャノンデールのロードラインナップは、かつてないほどに魅力的で、そして恐ろしく競争力が高い。新型EVOが提示したのは、単なる軽量エアロロードの正解ではなく、端正なロードレーシングバイクとしての形だ。
提供:インターテック | text:So Isobe