2023/07/11(火) - 20:00
マイヨジョーヌを着るヴィンゲゴーと、着実にタイムを削り取っていくポガチャル。もはや2人の力は他を圧倒し、ツールを報道する現地メディアは連日両者の関係性を報じている。間もなく始まる第2週目を有利に進めるのは果たして?
ピレネーを駆け巡る第5ステージでタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が遅れたとき、「今年のツールはもう終わった」と繰り返していたジャーナリストは、今どう戦況を見ているのだろうか。
ピレネーで53秒あったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)とポガチャルの差は、気づけば17秒差まで縮まっている。第6ステージの1級コトレ・カンバスクで28秒縮め、1週目を締めくくった超級ピュイ・ド・ドームではさらに8秒を奪い返した。1964年のピュイ・ド・ドームではツール史上最も有名なジャック・アンクティルとレイモン・プリドールの一騎討ちが繰り広げられたことになぞらえて、地元メディアの紙面はもはやこの2人の話題で持ちきりだ。
バスク開幕が遥か遠い昔のように感じるほどこのツールは濃密で(ツール初取材ということも多分にあると思います)、2人は開幕初日からずっとツールの主役。シーソーゲーム感すらあるヴィンゲゴーとポガチャルの戦いに、「ヴィンゲゴーが盛り返す」「いや、このままポガチャルが攻め抜いてマイヨジョーヌ」と、現地に集まったメディアやファンの未来予想も真っ二つに分かれている。
その一方、両者の戦いがあまりに激しいため忘れられがちだが、第1週目を終えたばかりにも関わらず、2人とそれ以下の総合成績は大きく離れてしまった。
総合3位のジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)は既に2分40秒遅れ、総合4位カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)は4分22秒。総合10位のロマン・バルデ(フランス、DSM・フィルメニッヒ)に至ってはもはや7分近い差がついており、ヒンドレーですら「2人は別次元の戦いをしている」と言わしめている。
それをよく表しているのが第6ステージに登場したトゥールマレーの登坂タイムだ。序盤はスローペースで進んだにも関わらず、アタックを続けながら、後続を千切って登った二人は仲良く45分11秒で距離17.1km/平均7.3%の超級山岳をクリア。1993年にトニー・ロミンガーが達成して以来30年間破られていなかった45分48秒を、37秒も上回った。
ちなみにヴィンゲゴーとポガチャルのうち、人気が高いのはポガチャル。いつも笑顔を崩さず、SNSでもおどけているポガチャルに対し、あまり表情を変えないヴィンゲゴーは(チームの強さも相まって)少しダークヒーローな感じ。果たして山岳ステージが続く2週目を終え、優位に立っているのはどちらだろうか。
ハットトリック(3勝)を決め、スプリントで頭一つ抜きん出ているヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)だが、スプリント中に第3ステージでワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)を、第7ステージではビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)に対して幅寄せしたことが議論を呼んでいる。もっとも審判団からのお咎めはなしの「レギュラースプリント」だが、たとえ幅寄せしなくともリードアウトを担うマチュー・ファンデルプール(オランダ)とのコンビはもはや無敵だ。ライバルスプリンターが落車に苦しむ中、ノートラブルのフィリプセン。更なる記録更新も確定路線と言えそうだ。
ここからは日記、いや週記。
さて、今回が初のツール取材となっている私、磯部にとっては濃密すぎる1週間、いや11日間を過ごしています。
一番に感じてるのは、グランツールは旅だということ。今まで新車発表会での海外渡航は20回以上あるけれど、街から街へ移動しながらの取材は初めて。熱狂的で、ガソリンが安く、食事が美味しい(海沿いだったこともある)バスクに始まり、蒸し暑い南仏、そして今滞在しているフランス中部のクレルモン=フェラン。地形も気候も違えば、建物の意匠も、なんとなくの街の雰囲気も違う。そこをチームや大会関係者、メディア、宣伝部隊、警備に当たるジャンダルマリーが、さらにはキャンピングカーで追いかけるファンが、大きく見れば一つのキャラバンとなって全区間を移動する。これは今までの取材で感じなかったことであり、現在進行形で感じていること。
1ヶ月借りているマニュアルミッション車の運転自体には問題ないものの、初めてのレースコースの運転となるとまた別問題。プレス登録を行っているステッカー付きの車は観客が詰めかけたレース通過前のコース走行が許可されているが、撮影場所とプロトンを追い抜く迂回路の想定、フィニッシュラインへの先回り想定が絡んでくると、それはそれは一気に難易度が上昇する。
フォトグラファースペースでの行動と、行ってはいけない場所。そして次の街への移動、少ない時間を縫ってのデスクワーク、そして日々の食事に洗濯に睡眠時間の確保、翌朝起きてのレースプランの組み立てと朝食と身支度と出発とetc……。やってみて思うのは、毎日全然時間が足りないということ。各国の取材班はフォトグラファー(撮る人)とジャーナリスト(書く人)に分かれていることが多いけれど、従来日本からの取材陣は一人が兼業することが多かった。いざ自分がやってみると、その仕事を一体全体どうやってこなしていたんだ、と、偉大なる先輩取材者へのリスペクトしか感じません。
9日間の取材で慣れてきた部分もあるものの、やっぱり毎日が小さな失敗の連続。一人だったらほぼ不可能だと思われる初のツール取材だけに、同行させてもらいノウハウを分けてもらっているフォトグラファーの辻啓氏、ポッドキャスター/ジャーナリストの小俣雄風太氏、そしてイタリア人フォトグラファーのルカ・ベッティーニの3人に助けられてばかり。釣りには同行できないけれど、ここに感謝の気持ちを記しておきます。
我々取材班がどうやって移動して、どういうところに泊まって、何を食べているのかをレポートしたかったけれど、それらはまた別記事で。
さて、現在は第10ステージのスタート地点に入るキャラバン渋滞の真っ只中。ピュイ・ド・ドームをすぐ近くに眺める中央山塊の逃げ向きステージで、ツール第二週目が間も無く動き出す。主催者の予想通り大逃げが決まるのか。そして、常識破りの総合争いがまたしても起きるのだろうか?
text:So Isobe in Clermont-Ferrand, France
ピレネーを駆け巡る第5ステージでタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)が遅れたとき、「今年のツールはもう終わった」と繰り返していたジャーナリストは、今どう戦況を見ているのだろうか。
ピレネーで53秒あったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)とポガチャルの差は、気づけば17秒差まで縮まっている。第6ステージの1級コトレ・カンバスクで28秒縮め、1週目を締めくくった超級ピュイ・ド・ドームではさらに8秒を奪い返した。1964年のピュイ・ド・ドームではツール史上最も有名なジャック・アンクティルとレイモン・プリドールの一騎討ちが繰り広げられたことになぞらえて、地元メディアの紙面はもはやこの2人の話題で持ちきりだ。
バスク開幕が遥か遠い昔のように感じるほどこのツールは濃密で(ツール初取材ということも多分にあると思います)、2人は開幕初日からずっとツールの主役。シーソーゲーム感すらあるヴィンゲゴーとポガチャルの戦いに、「ヴィンゲゴーが盛り返す」「いや、このままポガチャルが攻め抜いてマイヨジョーヌ」と、現地に集まったメディアやファンの未来予想も真っ二つに分かれている。
その一方、両者の戦いがあまりに激しいため忘れられがちだが、第1週目を終えたばかりにも関わらず、2人とそれ以下の総合成績は大きく離れてしまった。
総合3位のジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)は既に2分40秒遅れ、総合4位カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ)は4分22秒。総合10位のロマン・バルデ(フランス、DSM・フィルメニッヒ)に至ってはもはや7分近い差がついており、ヒンドレーですら「2人は別次元の戦いをしている」と言わしめている。
それをよく表しているのが第6ステージに登場したトゥールマレーの登坂タイムだ。序盤はスローペースで進んだにも関わらず、アタックを続けながら、後続を千切って登った二人は仲良く45分11秒で距離17.1km/平均7.3%の超級山岳をクリア。1993年にトニー・ロミンガーが達成して以来30年間破られていなかった45分48秒を、37秒も上回った。
ちなみにヴィンゲゴーとポガチャルのうち、人気が高いのはポガチャル。いつも笑顔を崩さず、SNSでもおどけているポガチャルに対し、あまり表情を変えないヴィンゲゴーは(チームの強さも相まって)少しダークヒーローな感じ。果たして山岳ステージが続く2週目を終え、優位に立っているのはどちらだろうか。
ハットトリック(3勝)を決め、スプリントで頭一つ抜きん出ているヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)だが、スプリント中に第3ステージでワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)を、第7ステージではビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)に対して幅寄せしたことが議論を呼んでいる。もっとも審判団からのお咎めはなしの「レギュラースプリント」だが、たとえ幅寄せしなくともリードアウトを担うマチュー・ファンデルプール(オランダ)とのコンビはもはや無敵だ。ライバルスプリンターが落車に苦しむ中、ノートラブルのフィリプセン。更なる記録更新も確定路線と言えそうだ。
ここからは日記、いや週記。
さて、今回が初のツール取材となっている私、磯部にとっては濃密すぎる1週間、いや11日間を過ごしています。
一番に感じてるのは、グランツールは旅だということ。今まで新車発表会での海外渡航は20回以上あるけれど、街から街へ移動しながらの取材は初めて。熱狂的で、ガソリンが安く、食事が美味しい(海沿いだったこともある)バスクに始まり、蒸し暑い南仏、そして今滞在しているフランス中部のクレルモン=フェラン。地形も気候も違えば、建物の意匠も、なんとなくの街の雰囲気も違う。そこをチームや大会関係者、メディア、宣伝部隊、警備に当たるジャンダルマリーが、さらにはキャンピングカーで追いかけるファンが、大きく見れば一つのキャラバンとなって全区間を移動する。これは今までの取材で感じなかったことであり、現在進行形で感じていること。
1ヶ月借りているマニュアルミッション車の運転自体には問題ないものの、初めてのレースコースの運転となるとまた別問題。プレス登録を行っているステッカー付きの車は観客が詰めかけたレース通過前のコース走行が許可されているが、撮影場所とプロトンを追い抜く迂回路の想定、フィニッシュラインへの先回り想定が絡んでくると、それはそれは一気に難易度が上昇する。
フォトグラファースペースでの行動と、行ってはいけない場所。そして次の街への移動、少ない時間を縫ってのデスクワーク、そして日々の食事に洗濯に睡眠時間の確保、翌朝起きてのレースプランの組み立てと朝食と身支度と出発とetc……。やってみて思うのは、毎日全然時間が足りないということ。各国の取材班はフォトグラファー(撮る人)とジャーナリスト(書く人)に分かれていることが多いけれど、従来日本からの取材陣は一人が兼業することが多かった。いざ自分がやってみると、その仕事を一体全体どうやってこなしていたんだ、と、偉大なる先輩取材者へのリスペクトしか感じません。
9日間の取材で慣れてきた部分もあるものの、やっぱり毎日が小さな失敗の連続。一人だったらほぼ不可能だと思われる初のツール取材だけに、同行させてもらいノウハウを分けてもらっているフォトグラファーの辻啓氏、ポッドキャスター/ジャーナリストの小俣雄風太氏、そしてイタリア人フォトグラファーのルカ・ベッティーニの3人に助けられてばかり。釣りには同行できないけれど、ここに感謝の気持ちを記しておきます。
我々取材班がどうやって移動して、どういうところに泊まって、何を食べているのかをレポートしたかったけれど、それらはまた別記事で。
さて、現在は第10ステージのスタート地点に入るキャラバン渋滞の真っ只中。ピュイ・ド・ドームをすぐ近くに眺める中央山塊の逃げ向きステージで、ツール第二週目が間も無く動き出す。主催者の予想通り大逃げが決まるのか。そして、常識破りの総合争いがまたしても起きるのだろうか?
text:So Isobe in Clermont-Ferrand, France
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