2023/07/09(日) - 07:50
残り62km地点の落車でカヴェンディッシュがレースを去り、緩斜面の集団スプリントに持ち込まれたツール8日目。マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)がアーリースプリントでフィリプセンを退け、今大会初勝利を飾った。
濃厚だった今年のツール・ド・フランス第1週目も残すところあと2日。その第8ステージはレース主催者が”パンチャー向き”と記す丘陵ステージだが、集団スプリントも十分に考えられるレイアウト。しかし前日に活躍したピュアスプリンターではなく、ある程度の登坂力も兼ね備えていなければ、集団には残れないというのが大方の予想。その理由はコース後半のペリグー・リムザン自然公園の3級山岳から細かなアップダウンが連続し、残り17.3kmから2つの4級山岳が登場するため。更にフィニッシュ手前も勾配5%弱の登り坂だ。
フィニッシュラインの引かれたリモージュはフランス自転車界の象徴、レイモン・プリドールが死去した街。そして奇しくも展開次第では、その孫であるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)に適したレイアウトとなっている。
カスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)とルイ・コスタ(ポルトガル、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)という強力な2人がファーストアタックを試みたこの日は、優勝候補の1人であるマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)も逃げに乗ろうと飛び出す。しかしいずれも決まらず、最初の20kmを時速54km/hのハイスピードで駆け抜けた集団からティム・デクレルク(ベルギー、スーダル・クイックステップ)ら3名が逃げのチャンスを掴んだ。
第8ステージで逃げた3名
ティム・デクレルク(ベルギー、スーダル・クイックステップ)
アントニー・ドゥラプラス(フランス、アルケア・サムシック)
アントニー・テュルジス(フランス、トタルエネルジー)
ユンボ・ヴィスマが先導するプロトンに対し、全員が10年以上のプロキャリアを持つ経験豊富な逃げグループの3名は、順調にリードを積み重ねていく。79km地点の中間スプリントポイントに達する頃には5分差まで拡大し、プロトンでの4位争いはヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)がヨルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ)を退け、13ポイントを獲得。第4ステージから着用するマイヨヴェール(ポイント賞)をより確かなものにした。
そのスプリントを利用してファンデルプールやブライアン・コカール(フランス、コフィディス)ら10名が飛び出たものの、リーダーチームとして牽引する責務はもちろん、ワウト・ファンアールト(ベルギー)での勝利を狙うユンボ・ヴィスマが追走。すぐにこの動きを潰し、再び逃げ集団を追うプロトンという構図で穏やかにレースは展開すると思われた。が、レースが前半に突入するとすぐ、世界に衝撃を与えるシーンが中継映像に映し出された。
最初の3級山岳を越え、残り62km地点の狭い緩斜面を登っていたプロトンで落車が発生し、そこには右肩を押さえながらうずくまるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)の姿が。すぐさま医療スタッフが駆けつけたものの、カヴェンディッシュはそのまま医療バスに乗り込む。そして前日の集団スプリントで区間2位に入ったカヴェンディッシュのレースリタイアが正式に伝えられた。
このショッキングなニュースが伝えられたプロトンでは、細かいアップダウンでピュアスプリンターの脚を削るべくリドル・トレックがジュリオ・チッコーネ(イタリア)やフアン・ロペス(スペイン)を使いペースを上げる。この加速により残り40kmでタイム差は2分を下回り、逃げ集団への合流を目指したアスグリーンがアタック。レース先頭ではデクレルクがローテーションを拒否してチームメイトを待ったものの、ユンボ・ヴィスマが引き継いだペーシングによってアスグリーンは引き戻された。
逃げグループから最後まで抵抗したテュルジスが残り8km地点で吸収され、集団は集団スプリントに向けて緊張感が高まっていく。しかし、残り6km地点で再び発生した落車に、総合6位につけるアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)やミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)が巻き込まれる。チームメイトの牽引によってイェーツは先頭から47秒遅れでフィニッシュしたものの、同じく身体を地面に打ち付けたステフ・クラス(ベルギー、トタルエネルジー)は肘や腰の打撲によりレースを棄権した。
残り3km地点を通過した集団では、大会6日目の山岳ステージでタイムを失い、総合争いから脱落したマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)が力強い牽引を披露する。その隣ではスプリントステージ3戦全勝のアルペシン・ドゥクーニンクがトレインを並べ、クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)がファンアールトのために集団前方に位置を取る。
フィニッシュ手前に勾配5%弱の登りが待つ最終ストレートに、リドル・トレックが先頭に突入する。タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)も好位置につけるなか、ラポルトがファンアールトを従え先頭へ。そして残り300mの標識を確認したファンデルプールが加速を始め、そのタイミングと同時にピーダスンがファンアールトの背後から飛び出した。
先にトップスピードに乗ったピーダスンに対し、遅れて腰を上げたフィリプセン。しかし、ここまでスプリント無敗を誇っていたフィリプセンを元世界王者ピーダスンは寄せつけることなく、リドル・トレックにツール区間優勝をもたらした。
スポンサーであるピレリのキャップを被り、肩で息をしながらインタビューに答えたピーダスン。「今朝の段階で今日が逃げ切りになるか、集団スプリントで決着するか分からなかった。だから逃げに乗ろうとしたのだが、スプリントで勝負したいチームがそれを許してくれなかった。チームメイトは素晴らしい集団牽引を見せてくれた。そのおかげでロングスプリントができるまで脚を温存することができた。だが流石に残り50mで危うくサドルに座りかけるほど、脚は限界に達していた」と勝利を振り返った。
また、レースを去ったカヴェンディッシュについて問われると「マークと共に走ることができ、喜びを感じている。レジェンドである彼がこんな形でレースをさらなければならないのは悲しい。彼とはジャージを交換する約束をしているんだ。彼の現役最後のレースを共に走りたい」とコメントしている。
一方で区間3位と、またしも目前で勝利を逃したファンアールトは「スプリントするタイミングを待ち過ぎてしまった。クリストフ(ラポルト)は僕が右から飛び出すと思っていたのだが、僕は左にいたんだ。勝利が狙える脚があっただけに残念だよ」と敗因を語っている。
濃厚だった今年のツール・ド・フランス第1週目も残すところあと2日。その第8ステージはレース主催者が”パンチャー向き”と記す丘陵ステージだが、集団スプリントも十分に考えられるレイアウト。しかし前日に活躍したピュアスプリンターではなく、ある程度の登坂力も兼ね備えていなければ、集団には残れないというのが大方の予想。その理由はコース後半のペリグー・リムザン自然公園の3級山岳から細かなアップダウンが連続し、残り17.3kmから2つの4級山岳が登場するため。更にフィニッシュ手前も勾配5%弱の登り坂だ。
フィニッシュラインの引かれたリモージュはフランス自転車界の象徴、レイモン・プリドールが死去した街。そして奇しくも展開次第では、その孫であるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)に適したレイアウトとなっている。
カスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)とルイ・コスタ(ポルトガル、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)という強力な2人がファーストアタックを試みたこの日は、優勝候補の1人であるマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)も逃げに乗ろうと飛び出す。しかしいずれも決まらず、最初の20kmを時速54km/hのハイスピードで駆け抜けた集団からティム・デクレルク(ベルギー、スーダル・クイックステップ)ら3名が逃げのチャンスを掴んだ。
第8ステージで逃げた3名
ティム・デクレルク(ベルギー、スーダル・クイックステップ)
アントニー・ドゥラプラス(フランス、アルケア・サムシック)
アントニー・テュルジス(フランス、トタルエネルジー)
ユンボ・ヴィスマが先導するプロトンに対し、全員が10年以上のプロキャリアを持つ経験豊富な逃げグループの3名は、順調にリードを積み重ねていく。79km地点の中間スプリントポイントに達する頃には5分差まで拡大し、プロトンでの4位争いはヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)がヨルディ・メーウス(ベルギー、ボーラ・ハンスグローエ)を退け、13ポイントを獲得。第4ステージから着用するマイヨヴェール(ポイント賞)をより確かなものにした。
そのスプリントを利用してファンデルプールやブライアン・コカール(フランス、コフィディス)ら10名が飛び出たものの、リーダーチームとして牽引する責務はもちろん、ワウト・ファンアールト(ベルギー)での勝利を狙うユンボ・ヴィスマが追走。すぐにこの動きを潰し、再び逃げ集団を追うプロトンという構図で穏やかにレースは展開すると思われた。が、レースが前半に突入するとすぐ、世界に衝撃を与えるシーンが中継映像に映し出された。
最初の3級山岳を越え、残り62km地点の狭い緩斜面を登っていたプロトンで落車が発生し、そこには右肩を押さえながらうずくまるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン)の姿が。すぐさま医療スタッフが駆けつけたものの、カヴェンディッシュはそのまま医療バスに乗り込む。そして前日の集団スプリントで区間2位に入ったカヴェンディッシュのレースリタイアが正式に伝えられた。
このショッキングなニュースが伝えられたプロトンでは、細かいアップダウンでピュアスプリンターの脚を削るべくリドル・トレックがジュリオ・チッコーネ(イタリア)やフアン・ロペス(スペイン)を使いペースを上げる。この加速により残り40kmでタイム差は2分を下回り、逃げ集団への合流を目指したアスグリーンがアタック。レース先頭ではデクレルクがローテーションを拒否してチームメイトを待ったものの、ユンボ・ヴィスマが引き継いだペーシングによってアスグリーンは引き戻された。
逃げグループから最後まで抵抗したテュルジスが残り8km地点で吸収され、集団は集団スプリントに向けて緊張感が高まっていく。しかし、残り6km地点で再び発生した落車に、総合6位につけるアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)やミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)が巻き込まれる。チームメイトの牽引によってイェーツは先頭から47秒遅れでフィニッシュしたものの、同じく身体を地面に打ち付けたステフ・クラス(ベルギー、トタルエネルジー)は肘や腰の打撲によりレースを棄権した。
残り3km地点を通過した集団では、大会6日目の山岳ステージでタイムを失い、総合争いから脱落したマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)が力強い牽引を披露する。その隣ではスプリントステージ3戦全勝のアルペシン・ドゥクーニンクがトレインを並べ、クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)がファンアールトのために集団前方に位置を取る。
フィニッシュ手前に勾配5%弱の登りが待つ最終ストレートに、リドル・トレックが先頭に突入する。タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)やジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)も好位置につけるなか、ラポルトがファンアールトを従え先頭へ。そして残り300mの標識を確認したファンデルプールが加速を始め、そのタイミングと同時にピーダスンがファンアールトの背後から飛び出した。
先にトップスピードに乗ったピーダスンに対し、遅れて腰を上げたフィリプセン。しかし、ここまでスプリント無敗を誇っていたフィリプセンを元世界王者ピーダスンは寄せつけることなく、リドル・トレックにツール区間優勝をもたらした。
スポンサーであるピレリのキャップを被り、肩で息をしながらインタビューに答えたピーダスン。「今朝の段階で今日が逃げ切りになるか、集団スプリントで決着するか分からなかった。だから逃げに乗ろうとしたのだが、スプリントで勝負したいチームがそれを許してくれなかった。チームメイトは素晴らしい集団牽引を見せてくれた。そのおかげでロングスプリントができるまで脚を温存することができた。だが流石に残り50mで危うくサドルに座りかけるほど、脚は限界に達していた」と勝利を振り返った。
また、レースを去ったカヴェンディッシュについて問われると「マークと共に走ることができ、喜びを感じている。レジェンドである彼がこんな形でレースをさらなければならないのは悲しい。彼とはジャージを交換する約束をしているんだ。彼の現役最後のレースを共に走りたい」とコメントしている。
一方で区間3位と、またしも目前で勝利を逃したファンアールトは「スプリントするタイミングを待ち過ぎてしまった。クリストフ(ラポルト)は僕が右から飛び出すと思っていたのだが、僕は左にいたんだ。勝利が狙える脚があっただけに残念だよ」と敗因を語っている。
ツール・ド・フランス2023第8ステージ結果
1位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | 4:12:26 |
2位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | |
3位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) | |
4位 | ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ジェイコ・アルウラー) | |
5位 | ニルス・エーコフ(オランダ、DSM・フィルメニッヒ) | |
6位 | ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) | |
7位 | ヤスペル・デブイスト(ベルギー、ロット・デスティニー) | |
8位 | ラスムス・ティレル(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム) | |
9位 | コービン・ストロング(ニュージーランド、イスラエル・プレミアテック) | |
10位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 34:09:38 |
2位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +0:25 |
3位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | +1:34 |
4位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +3:30 |
5位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | +3:40 |
6位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | +4:01 |
7位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | +4:03 |
8位 | ロマン・バルデ(フランス、DSM・フィルメニッヒ) | +4:43 |
9位 | トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | |
10位 | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) | +5:28 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | 258pts |
2位 | ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) | 149pts |
3位 | マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、アスタナ・カザフスタン) | 143pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) | 36pts |
2位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | 28pts |
3位 | トビアス・ヨハンネセン(ノルウェー、ウノエックス・プロサイクリングチーム) | 26pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 34:10:03 |
2位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | +3:05 |
3位 | トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) | +4:18 |
チーム総合成績
1位 | ユンボ・ヴィスマ | 102:40:03 |
2位 | イネオス・グレナディアーズ | +2:47 |
3位 | バーレーン・ヴィクトリアス | +10:42 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:So Isobe, CorVos
photo:So Isobe, CorVos
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