2023/07/06(木) - 08:30
ピレネー山脈に突入したツール・ド・フランス第5ステージ。36名の大逃げからジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)が逃げ切り勝利と共にマイヨジョーヌを掴み、ヴィンゲゴーの仕掛けにポガチャルが遅れを喫した。
フランスが誇る5大山脈の全てを通過する第110回ツール・ド・フランス。その1つ目として登場するのが、フランスとスペインを隔てるピレネー山脈だ。これで74回目の登場となるポーを出発する選手たちはまずコース中央にある超級山岳スデ峠(距離15.2km/平均7.2%)をクリアし、その後は3級山岳イシェール峠から1級山岳マリーブランク峠(距離7.7km/平均8.6%)へ。しかし、頂上手前3.5kmが平均勾配12%に達するこの山岳にフィニッシュ地点はなく、下り&平坦路の18.5kmをこなした先にある。
コース前半に多少の違いはあれど、ポーからラランスは2020年にタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がツールで初の区間勝利を飾った場所。アクチュアルスタートからヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー)らが先頭で活発にアタックを開始し、約30kmを過ぎる頃に36名の逃げグループが形成された。
その中には総合7位(22秒遅れ)のジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)や17位(43秒遅れ)のジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)ら総合上位勢も入る。またユンボ・ヴィスマはワウト・ファンアールト(ベルギー)など比較的平坦が得意な3名を送る一方で、ライバルチームであるUAEチームエミレーツはフェリックス・グロスシャートナー(オーストリア)とマルク・ソレル(スペイン)というクライマー2人を乗せた。
この逃げにはジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)も入った一方で、そのチームメイトで前日に落車したファビオ・ヤコブセン(オランダ)はメイン集団から早々と遅れていく。骨折こそなかったものの、右半身に多数の擦過傷を負ったヤコブセンは包帯に血を滲ませながらも踏み続け、トップから33分50秒遅れでフィニッシュ。なんとかタイムカットを免れている。
序盤に設定された中間スプリントはブライアン・コカール(フランス、コフィディス)がマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)を退け、ポイント賞ランキングで2位に浮上する。そしていよいよ大会最初の超級山岳であるスデ峠(距離15.2km/平均7.2%)に突入すると、これが念願のツールデビューであるフェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン)が頂上手前でアタック。先頭で頂上を通過したガルは最大20ポイントを獲得し、逃げに乗ることができなかったニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)からマイヨアポワ(山岳賞ジャージ)を奪い取った。
スデ峠を下り、平坦区間に入る頃に逃げとメイン集団のタイム差は4分。徐々に逃げ切りの可能性が高まってきた逃げグループからは、3級山岳イシェール(距離4.2km/平均7%)の登坂でアラフィリップとファンアールト、クリスツ・ニーランズ(ラトビア、イスラエル・プレミアテック)が飛び出す。しかし続く1級山岳マリーブランク峠(距離7.7km/平均8.6%)に入り、ガルに山岳ポイントを取らせたいAG2Rシトロエンが差を縮めて先頭3名をキャッチ。アタックが失敗に終わったファンアールトはヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)のいるメイン集団へと下がっていった。
1級山岳マリーブランク峠の頂上まで4kmを残し、ガルの加速に同じくツールデビューながらボーラ・ハンスグローエの総合エースを任されたヒンドレーが追従する。その2分30秒後方のプロトンではラファウ・マイカ(ポーランド、UAEチームエミレーツ)が集団牽引を終え、前待ち作戦を実行したファンアールトが先頭でペースメイク。するとそのスピードにエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)が脱落し、バーレーン・ヴィクトリアスのダブルエースであるミケル・ランダとペリョ・ビルバオ(共にスペイン)も遅れを喫した。
レース先頭では頂上手前1.7kmでヒンドレーはガルを引き離し、単独で頂上を到達する。2分まで縮まったメイン集団ではセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ)の牽引にマイヨジョーヌを着るアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)とサイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー)、ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)らが遅れ、暫くの後、ヴィンゲゴーがアタック。しかし、これにポガチャルは反応できない。
ヴィンゲゴーは逃げから遅れたティシュ・ベノート (ベルギー)の力を借りることなく、目視でポガチャルとの差を確認して一層ペダルに力を込める。そして下りでヴィンゲゴーはガルとチッコーネ、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)という3名の追走集団に合流。一方でクスのマークするポガチャルはチームメイトであるアダムやマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)などが入った集団に加わりヴィンゲゴーを追いかけた。
チームカーから逐一下りコーナーの情報を伝えられたヒンドレーは、危なげないダウンヒルを披露する。それを追う4名の追走集団ではヴィンゲゴーがローテーションを回すべく協力を仰いだものの、スプリント力のあるヴィンゲゴーを警戒したためか、他3名はそれを拒否。そのため差が30秒を下回ることなく、平坦区間でもスピードが落ちなかった2022年ジロ・デ・イタリア総合優勝者ヒンドレーが、初めてのツールでステージ優勝を掴み取った。
勝利と共にマイヨジョーヌを獲得したヒンドレー。「逃げに乗ることはプランにはなく、即興だった。嬉し過ぎてこの気持ちを表す言葉が見つからない。無線からは絶えず叫び声が聞こえていたため、正直状況がよく分かっていなかった(笑)。だからできる限りタイム差をつけようと踏み込んだ。初めてのツールで自分に何ができるか分からなかった。だから大きな目標は抱いておらず、何か成功と呼べる結果が欲しかっただけ。そして掴んだツールでのステージ優勝。ただただ信じられない」と、ヒンドレーは戸惑いながらも喜びを噛み締めた。
32秒遅れでやってきた2位集団はチッコーネが先着し、ヴィンゲゴーは5位とボーナスタイム獲得を逃す。しかしポガチャルが1分38秒遅れでフィニッシュしたため、大会5日目にしてヴィンゲゴーはポガチャルから総合で53秒のリードを得ることとなった。
その結果、総合首位ヒンドレーから47秒差でヴィンゲゴーは総合2位につけ、チッコーネが3位。マイヨジョーヌを失ったアダムが5位、ポガチャルは総合6位(総合首位から1分40秒遅れ)で、翌日の超級山岳トゥールマレーから1級山岳コトレ・カンバスクを駆け上がる山岳ステージに臨むこととなった。
フランスが誇る5大山脈の全てを通過する第110回ツール・ド・フランス。その1つ目として登場するのが、フランスとスペインを隔てるピレネー山脈だ。これで74回目の登場となるポーを出発する選手たちはまずコース中央にある超級山岳スデ峠(距離15.2km/平均7.2%)をクリアし、その後は3級山岳イシェール峠から1級山岳マリーブランク峠(距離7.7km/平均8.6%)へ。しかし、頂上手前3.5kmが平均勾配12%に達するこの山岳にフィニッシュ地点はなく、下り&平坦路の18.5kmをこなした先にある。
コース前半に多少の違いはあれど、ポーからラランスは2020年にタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がツールで初の区間勝利を飾った場所。アクチュアルスタートからヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー、ロット・デスティニー)らが先頭で活発にアタックを開始し、約30kmを過ぎる頃に36名の逃げグループが形成された。
その中には総合7位(22秒遅れ)のジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ)や17位(43秒遅れ)のジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)ら総合上位勢も入る。またユンボ・ヴィスマはワウト・ファンアールト(ベルギー)など比較的平坦が得意な3名を送る一方で、ライバルチームであるUAEチームエミレーツはフェリックス・グロスシャートナー(オーストリア)とマルク・ソレル(スペイン)というクライマー2人を乗せた。
この逃げにはジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)も入った一方で、そのチームメイトで前日に落車したファビオ・ヤコブセン(オランダ)はメイン集団から早々と遅れていく。骨折こそなかったものの、右半身に多数の擦過傷を負ったヤコブセンは包帯に血を滲ませながらも踏み続け、トップから33分50秒遅れでフィニッシュ。なんとかタイムカットを免れている。
序盤に設定された中間スプリントはブライアン・コカール(フランス、コフィディス)がマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)を退け、ポイント賞ランキングで2位に浮上する。そしていよいよ大会最初の超級山岳であるスデ峠(距離15.2km/平均7.2%)に突入すると、これが念願のツールデビューであるフェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン)が頂上手前でアタック。先頭で頂上を通過したガルは最大20ポイントを獲得し、逃げに乗ることができなかったニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)からマイヨアポワ(山岳賞ジャージ)を奪い取った。
スデ峠を下り、平坦区間に入る頃に逃げとメイン集団のタイム差は4分。徐々に逃げ切りの可能性が高まってきた逃げグループからは、3級山岳イシェール(距離4.2km/平均7%)の登坂でアラフィリップとファンアールト、クリスツ・ニーランズ(ラトビア、イスラエル・プレミアテック)が飛び出す。しかし続く1級山岳マリーブランク峠(距離7.7km/平均8.6%)に入り、ガルに山岳ポイントを取らせたいAG2Rシトロエンが差を縮めて先頭3名をキャッチ。アタックが失敗に終わったファンアールトはヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)のいるメイン集団へと下がっていった。
1級山岳マリーブランク峠の頂上まで4kmを残し、ガルの加速に同じくツールデビューながらボーラ・ハンスグローエの総合エースを任されたヒンドレーが追従する。その2分30秒後方のプロトンではラファウ・マイカ(ポーランド、UAEチームエミレーツ)が集団牽引を終え、前待ち作戦を実行したファンアールトが先頭でペースメイク。するとそのスピードにエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)が脱落し、バーレーン・ヴィクトリアスのダブルエースであるミケル・ランダとペリョ・ビルバオ(共にスペイン)も遅れを喫した。
レース先頭では頂上手前1.7kmでヒンドレーはガルを引き離し、単独で頂上を到達する。2分まで縮まったメイン集団ではセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ)の牽引にマイヨジョーヌを着るアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ)とサイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー)、ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)らが遅れ、暫くの後、ヴィンゲゴーがアタック。しかし、これにポガチャルは反応できない。
ヴィンゲゴーは逃げから遅れたティシュ・ベノート (ベルギー)の力を借りることなく、目視でポガチャルとの差を確認して一層ペダルに力を込める。そして下りでヴィンゲゴーはガルとチッコーネ、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)という3名の追走集団に合流。一方でクスのマークするポガチャルはチームメイトであるアダムやマティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック)などが入った集団に加わりヴィンゲゴーを追いかけた。
チームカーから逐一下りコーナーの情報を伝えられたヒンドレーは、危なげないダウンヒルを披露する。それを追う4名の追走集団ではヴィンゲゴーがローテーションを回すべく協力を仰いだものの、スプリント力のあるヴィンゲゴーを警戒したためか、他3名はそれを拒否。そのため差が30秒を下回ることなく、平坦区間でもスピードが落ちなかった2022年ジロ・デ・イタリア総合優勝者ヒンドレーが、初めてのツールでステージ優勝を掴み取った。
勝利と共にマイヨジョーヌを獲得したヒンドレー。「逃げに乗ることはプランにはなく、即興だった。嬉し過ぎてこの気持ちを表す言葉が見つからない。無線からは絶えず叫び声が聞こえていたため、正直状況がよく分かっていなかった(笑)。だからできる限りタイム差をつけようと踏み込んだ。初めてのツールで自分に何ができるか分からなかった。だから大きな目標は抱いておらず、何か成功と呼べる結果が欲しかっただけ。そして掴んだツールでのステージ優勝。ただただ信じられない」と、ヒンドレーは戸惑いながらも喜びを噛み締めた。
32秒遅れでやってきた2位集団はチッコーネが先着し、ヴィンゲゴーは5位とボーナスタイム獲得を逃す。しかしポガチャルが1分38秒遅れでフィニッシュしたため、大会5日目にしてヴィンゲゴーはポガチャルから総合で53秒のリードを得ることとなった。
その結果、総合首位ヒンドレーから47秒差でヴィンゲゴーは総合2位につけ、チッコーネが3位。マイヨジョーヌを失ったアダムが5位、ポガチャルは総合6位(総合首位から1分40秒遅れ)で、翌日の超級山岳トゥールマレーから1級山岳コトレ・カンバスクを駆け上がる山岳ステージに臨むこととなった。
ツール・ド・フランス2023第5ステージ結果
1位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | 3:57:07 |
2位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) | +0:32 |
3位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | |
4位 | エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) | |
5位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | +0:34 |
6位 | マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) | +1:38 |
7位 | ダニエル・マルティネス(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | |
8位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | |
9位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | |
10位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | |
13位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | |
15位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | |
16位 | ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン) | +1:57 |
18位 | ロマン・バルデ(フランス、DSM・フィルメニッヒ) | |
29位 | ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) | +2:55 |
33位 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | +3:21 |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | 22:15:12 |
2位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | +0:47 |
3位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) | +1:03 |
4位 | エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) | +1:11 |
5位 | アダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツ) | +1:34 |
6位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | +1:40 |
7位 | サイモン・イェーツ(イギリス、ジェイコ・アルウラー) | |
8位 | マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) | +1:56 |
9位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) | |
10位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) | 150pts |
2位 | ブライアン・コカール(フランス、コフィディス) | 84pts |
3位 | ヴィクトル・ラフェ(フランス、コフィディス) | 80pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | フェリックス・ガル(オーストリア、AG2Rシトロエン) | 28pts |
2位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) | 19pts |
3位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) | 18pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 22:16:52 |
2位 | マティアス・スケルモース(デンマーク、リドル・トレック) | +0:16 |
3位 | カルロス・ロドリゲス(スペイン、イネオス・グレナディアーズ) |
チーム総合成績
1位 | ユンボ・ヴィスマ | 66:50:39 |
2位 | イネオス・グレナディアーズ | +1:46 |
3位 | リドル・トレック | +3:24 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:So Isobe, CorVos
photo:So Isobe, CorVos
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