2023/01/29(日) - 18:00
EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム所属2年目の留目夕陽にインタビュー。ワールドチーム昇格を目指す次世代オールラウンダーに、昨年初出場した世界選手権や、トップチームの一員として走ったツール・ド・ランカウイについて聞いた。
ワールドチームへの道は狭く険しい。昨年はEFエデュケーション・イージーポストの中根英登が現役を引退し、遂に男子ではワールドチームはおろかプロチーム以上に所属する選手が新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)ただ一人となった。
そんな日本自転車界に待たれて久しいのが新城に続く日本人選手の存在。そのため浅田顕氏は「ロード・トゥ・ラヴニール」を立ち上げ、片山右京氏はJCLチーム右京をスタートさせるなど、その方法を模索している。
そしていま、その後継者として期待される日本人選手がいる。EFの育成チーム「EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム」で2年目を迎える留目夕陽だ。
中央大学に通う留目は2002年6月18日生まれの次世代オールラウンダー。昨年6月のロード日本選手権U23タイムトライアルを制し、世界選手権の同カテゴリーでも21位と好成績を獲得。登坂力とスピードは高速化する現代ロードレースには欠かすことのできない存在であり、中根英登もインタビューで注目すべき存在として名を挙げていた。
トップチームでプロフェッショナルのレースを実感
―昨年10月はエスデバン・チャベス(コロンビア)やヒュー・カーシー(イギリス)のいるEFに加わり、ツール・ド・ランカウイ(UCI2.Pro)に出場されました。初めてのトップチームでのレースはどうでしたか?
留目:とにかくやばいメンバーでした。考えられないぐらいトップの選手たちの中、最初はどうなるかと思いましたが、皆優しかったのですぐに(チームに)馴染むことができました。
―下部チームから唯一選出された理由は何だったのでしょう?
若い僕に経験を積ませるためだと思います。ランカウイの1ヶ月ほど前に(監督である)大門さんに「もしかしたら行くかも」と言われていました。そしたらレースの3、4日前に本当に航空券が送られてきて…(笑)。急遽決まった感じでしたが、行く準備はできていました。大門さんから直前に言われるのは慣れてますし(笑)。
―普段所属するデベロップメントチームとして走るレースと、ランカウイとの違いは?
普段のチームのレースでは皆「自分がエース」と思っているので常にポジションの争奪戦が繰り広げられています。特に登りなんかは全員が(チーム関係なく)フルもがき、みたいな。一方のトップチームはエースを決めてそこから作戦を組み上げます。なので「これがプロフェッショナルか!」と、楽しんで走ることができました。
―ランカウイで留目選手に対する具体的な指示はなんだったのでしょうか?
レース展開に関わるよりも、常にエースの側にいて補給の手伝いをすることでした。でも1回だけレース終盤に集団牽引を任されて、とてもきつかったです。
世界選手権は悔しさ半分、上出来だと思う気持ちが半分
―昨年はロード世界選手権に初出場し、U23カテゴリーの個人TTは21位という結果でした。直後に「悔しいけどこれが現実。でもTTでの世界での立ち位置がわかった」とSNSに投稿していましたが、その言葉通り悔しいレースだったのでしょうか?実力が如実に現れるTTでの21位はもっと褒められるべき順位かとも思いますが
本来は何ヶ月も前から調整するタイムトライアルバイクに、わずか1ヶ月前からしか乗ることができませんでした。そのため以前のバイクと比べ、ボジションはもちろん機材面の違いもあり、(コーナリングなどで)流されてしまった部分がありました。パワー値もベストよりも低かったですし、調整して臨むことができればもっと上の順位が得られたと思っています。
ただ、そんな中でも初めての世界選手権にもかかわらず、最後は走りをまとめることができた。上出来だという思いが半分、悔しさ半分という気持ちです。だから上のチームに行き、機材面など含め、自由に走ってみたいという思いがより一層高まったんです。
―話はランカウイに戻ります。ジャパンカップではなく、トップチームのエース級選手たちの中に留目選手が一人だけ呼ばれたので、正直「来年昇格するのか?!」と期待した部分もありました。
もちろん(トップチームに)上がれるとは思っていなくて、大門さんにも「今季は様子見だ」と言われていました。目標は今年トレーニー(研修生)になって、再来年正式にワールドチームへ昇格することです。
そのためにはトレーニーの間に契約を取ることができるかが大切になってきます。できればアンダー(U23)の内に取っておきたい。エリートに上がるともう(年齢的にも)上部チーム昇格は無理だと思っていますから。
―今年は残念ながらEF・NIPPOからトップチームに昇格した選手はおらず、留目選手の1歳上であるウィレイハゴス・バーベ(エチオピア)がジェイコ・アルウラーとプロ契約を掴みました。プロになれる選手とそうではない選手の差はどこにあると思いますか?
レースの結果が良いのはもちろん、練習熱心な選手(が上がる)という印象です。ハゴスは練習からタフで、常に”自転車大好き!”な選手なんですよ。オフなのに「マウンテンバイクで3時間走ってきた!」みたいな(笑)。とにかく練習をして自転車一本で勝負している選手が契約を掴んでいますね。
―留目選手は練習熱心ですか?
熱心…かもしれないです(笑)。上を目指して諦めないことが大事だと思っています。
レース経験を求め、強さを求める
脚質は「何でもいける」オールラウンダーという留目だが、自身が好き、かつ得意なのは長い登り。自ら仕掛けるのではなく、先頭のペースを利用して人数が減った集団で争うのが、理想とする展開だという。ただ、「日本では最後まで残れるのですが、世界相手だとFTP(1時間出力し続けられるパワー値)が6倍の選手が当たり前の世界なので(集団に残るのは)まだまだ難しいです」とも。
―いまの自分に足りていない部分は何だと考えていますか?
レース経験ですね。他の選手と比べると単純にレースの数をこなせていない。技術面や体力面など諸々合わせてレースを通して鍛えていく。そこが足りないところです。練習だけしていても強くはなれませんからね。また、ただ単にレースをこなすのではなく、自分の得意な起伏の激しいレースに出たいと考えています。
―そういったコース/レースであれば良いリザルトを残す自信がありますか?
まぁ…その時の調子が良ければ(笑)。でも100%無理だとは思っていませんし、日本人でも全然(世界と)戦えると思っています。
―そのために今年は他のアンダーの選手と同様、積極的なレースをしたいですね。
僕は年齢的にも、まだそこまで積極的にいけていないんですよね。でも攻めるレースは攻めていかないと。結果を残さないといけませんから。
大学3年生になる4月からは1年間休学し、自転車競技に集中できる環境を「嬉しい」と語る留目。既にシーズン前半のスケジュールは伝えられており、既にスペインで行われるチーム合宿に参加し、トルコ(グランプリ・アランヤ等のワンデーレース)でシーズンイン済み。その後はツアー・オブ・ルワンダ(UCI2.1) を経て、クロアチアやベルギーのヤングスターコーストチャレンジに出場する予定だという。
―最後に、今後の目標をお願いします。
新城幸也さんのようなレジェンド選手になりたいです。でも、そこまで行くにはすごい大変だということもわかっています。だからまずはワールドチームの契約を取って、そのあとも結果と契約を取り続ける。
期待されていることは分かっているのでプレッシャーも感じています。だから日々練習して、日々レースを走る。このチームがワールドツアーには一番近いと分かっています。だからこそ頑張るしかないと思っています。
text:Sotaro.Arakawa
photo:So.Isobe
ワールドチームへの道は狭く険しい。昨年はEFエデュケーション・イージーポストの中根英登が現役を引退し、遂に男子ではワールドチームはおろかプロチーム以上に所属する選手が新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)ただ一人となった。
そんな日本自転車界に待たれて久しいのが新城に続く日本人選手の存在。そのため浅田顕氏は「ロード・トゥ・ラヴニール」を立ち上げ、片山右京氏はJCLチーム右京をスタートさせるなど、その方法を模索している。
そしていま、その後継者として期待される日本人選手がいる。EFの育成チーム「EFエデュケーション・NIPPO ディベロップメントチーム」で2年目を迎える留目夕陽だ。
中央大学に通う留目は2002年6月18日生まれの次世代オールラウンダー。昨年6月のロード日本選手権U23タイムトライアルを制し、世界選手権の同カテゴリーでも21位と好成績を獲得。登坂力とスピードは高速化する現代ロードレースには欠かすことのできない存在であり、中根英登もインタビューで注目すべき存在として名を挙げていた。
トップチームでプロフェッショナルのレースを実感
―昨年10月はエスデバン・チャベス(コロンビア)やヒュー・カーシー(イギリス)のいるEFに加わり、ツール・ド・ランカウイ(UCI2.Pro)に出場されました。初めてのトップチームでのレースはどうでしたか?
留目:とにかくやばいメンバーでした。考えられないぐらいトップの選手たちの中、最初はどうなるかと思いましたが、皆優しかったのですぐに(チームに)馴染むことができました。
―下部チームから唯一選出された理由は何だったのでしょう?
若い僕に経験を積ませるためだと思います。ランカウイの1ヶ月ほど前に(監督である)大門さんに「もしかしたら行くかも」と言われていました。そしたらレースの3、4日前に本当に航空券が送られてきて…(笑)。急遽決まった感じでしたが、行く準備はできていました。大門さんから直前に言われるのは慣れてますし(笑)。
―普段所属するデベロップメントチームとして走るレースと、ランカウイとの違いは?
普段のチームのレースでは皆「自分がエース」と思っているので常にポジションの争奪戦が繰り広げられています。特に登りなんかは全員が(チーム関係なく)フルもがき、みたいな。一方のトップチームはエースを決めてそこから作戦を組み上げます。なので「これがプロフェッショナルか!」と、楽しんで走ることができました。
―ランカウイで留目選手に対する具体的な指示はなんだったのでしょうか?
レース展開に関わるよりも、常にエースの側にいて補給の手伝いをすることでした。でも1回だけレース終盤に集団牽引を任されて、とてもきつかったです。
世界選手権は悔しさ半分、上出来だと思う気持ちが半分
―昨年はロード世界選手権に初出場し、U23カテゴリーの個人TTは21位という結果でした。直後に「悔しいけどこれが現実。でもTTでの世界での立ち位置がわかった」とSNSに投稿していましたが、その言葉通り悔しいレースだったのでしょうか?実力が如実に現れるTTでの21位はもっと褒められるべき順位かとも思いますが
本来は何ヶ月も前から調整するタイムトライアルバイクに、わずか1ヶ月前からしか乗ることができませんでした。そのため以前のバイクと比べ、ボジションはもちろん機材面の違いもあり、(コーナリングなどで)流されてしまった部分がありました。パワー値もベストよりも低かったですし、調整して臨むことができればもっと上の順位が得られたと思っています。
ただ、そんな中でも初めての世界選手権にもかかわらず、最後は走りをまとめることができた。上出来だという思いが半分、悔しさ半分という気持ちです。だから上のチームに行き、機材面など含め、自由に走ってみたいという思いがより一層高まったんです。
―話はランカウイに戻ります。ジャパンカップではなく、トップチームのエース級選手たちの中に留目選手が一人だけ呼ばれたので、正直「来年昇格するのか?!」と期待した部分もありました。
もちろん(トップチームに)上がれるとは思っていなくて、大門さんにも「今季は様子見だ」と言われていました。目標は今年トレーニー(研修生)になって、再来年正式にワールドチームへ昇格することです。
そのためにはトレーニーの間に契約を取ることができるかが大切になってきます。できればアンダー(U23)の内に取っておきたい。エリートに上がるともう(年齢的にも)上部チーム昇格は無理だと思っていますから。
―今年は残念ながらEF・NIPPOからトップチームに昇格した選手はおらず、留目選手の1歳上であるウィレイハゴス・バーベ(エチオピア)がジェイコ・アルウラーとプロ契約を掴みました。プロになれる選手とそうではない選手の差はどこにあると思いますか?
レースの結果が良いのはもちろん、練習熱心な選手(が上がる)という印象です。ハゴスは練習からタフで、常に”自転車大好き!”な選手なんですよ。オフなのに「マウンテンバイクで3時間走ってきた!」みたいな(笑)。とにかく練習をして自転車一本で勝負している選手が契約を掴んでいますね。
―留目選手は練習熱心ですか?
熱心…かもしれないです(笑)。上を目指して諦めないことが大事だと思っています。
レース経験を求め、強さを求める
脚質は「何でもいける」オールラウンダーという留目だが、自身が好き、かつ得意なのは長い登り。自ら仕掛けるのではなく、先頭のペースを利用して人数が減った集団で争うのが、理想とする展開だという。ただ、「日本では最後まで残れるのですが、世界相手だとFTP(1時間出力し続けられるパワー値)が6倍の選手が当たり前の世界なので(集団に残るのは)まだまだ難しいです」とも。
―いまの自分に足りていない部分は何だと考えていますか?
レース経験ですね。他の選手と比べると単純にレースの数をこなせていない。技術面や体力面など諸々合わせてレースを通して鍛えていく。そこが足りないところです。練習だけしていても強くはなれませんからね。また、ただ単にレースをこなすのではなく、自分の得意な起伏の激しいレースに出たいと考えています。
―そういったコース/レースであれば良いリザルトを残す自信がありますか?
まぁ…その時の調子が良ければ(笑)。でも100%無理だとは思っていませんし、日本人でも全然(世界と)戦えると思っています。
―そのために今年は他のアンダーの選手と同様、積極的なレースをしたいですね。
僕は年齢的にも、まだそこまで積極的にいけていないんですよね。でも攻めるレースは攻めていかないと。結果を残さないといけませんから。
大学3年生になる4月からは1年間休学し、自転車競技に集中できる環境を「嬉しい」と語る留目。既にシーズン前半のスケジュールは伝えられており、既にスペインで行われるチーム合宿に参加し、トルコ(グランプリ・アランヤ等のワンデーレース)でシーズンイン済み。その後はツアー・オブ・ルワンダ(UCI2.1) を経て、クロアチアやベルギーのヤングスターコーストチャレンジに出場する予定だという。
―最後に、今後の目標をお願いします。
新城幸也さんのようなレジェンド選手になりたいです。でも、そこまで行くにはすごい大変だということもわかっています。だからまずはワールドチームの契約を取って、そのあとも結果と契約を取り続ける。
期待されていることは分かっているのでプレッシャーも感じています。だから日々練習して、日々レースを走る。このチームがワールドツアーには一番近いと分かっています。だからこそ頑張るしかないと思っています。
text:Sotaro.Arakawa
photo:So.Isobe
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