亜熱帯の森に分け入っていくライドも良いが、奄美の良さは素朴なシマの集落にもある。奄美大島滞在の後半は南部の古仁屋に拠点を移し、島の最端部の限界集落や、フェリーで渡れる離島の加計呂麻島を巡った。

海が見えてきた。島南部の地形の険しさが分かる photo:Makoto AYANO
名瀬から3時間弱のライドで到着する奄美大島の最南端域。瀬戸内町の古仁屋(こにや)は、クロマグロの養殖と漁業が盛んな小さな港町で、人口は5,300人ほど。

古仁屋港のクロマグロのモニュメント photo:Makoto AYANO

山が迫る古仁屋市街。小さな港町だ photo:Makoto AYANO
街にはAコープとコンビニのファミマがあるが、店は少なく、かつ年末年始になると営業している店は極端に少なくなる。都会を感じた名瀬と比べると本当に小さな町で、一人旅の道中、そんな見知らぬ最果ての小さな港町で年を越すのも良いだろうと思った。

古仁屋にある国道58号線の石碑。鹿児島から沖縄まで島飛ばしに続く国道だ 
無人販売スタンドにパパイヤ(右)があるのが奄美らしい

奄美南端の古仁屋港。背後のフェリーかけろまが加計呂麻島と結ぶ photo:Makoto AYANO
古仁屋の民宿を拠点に、周辺の林道をくまなく走り回った。奄美大島の西部は東部よりもさらに地形が険しく、人口も少なく、辺境みがある。

林道瀬戸内中央線。全線舗装だがロードタイヤでは厳しい荒れぐあいだった photo:Makoto AYANO

奄美南西部の森はいっそう深くてブロッコリーのようにモコモコしている photo:Makoto AYANO
最果ての集落、西古見へ
奄美大島の南西部は、リアス式海岸が険しい奄美にあって、さらに複雑に入り組んだ地形の海岸線になっている。

大島海峡に静かで美しい湾が続く photo:Makoto AYANO
日本列島の端っこ、岬や最東・西・南・北端があればそれを目指してしまうのはサイクリストの性(さが)か。奄美大島のもっとも西の端、西方エリアの西古見(にしこみ)集落を目指した。
せっかくの海を楽しむルートなのに、雨が続く。海岸線はアップダウンを繰り返してとても険しい。大島海峡に湾が連続する地形のため、外洋とは隔てられた海は静かで波も穏やか。三連立神(たちがみ)と呼ばれる小さな島々が浮かび、夕陽の名所とされる理由はよく分かる(雨だけど...)

西古見へと向かう海岸線は高度を上げ下げするアップダウンの道が続く photo:Makoto AYANO
雨宿りしていると、地元の人が「この先は店が無いよ」と教えてくれた。そして道ばたの自販機も途絶えるという。売上金を回収する労力があわないのだという。奄美の人に「陸の孤島」と呼ばれる西方エリア...。

チーム西方代表の昌谷榮四郎さん。集落の歴史や奄美のことをたくさん教えてくれた 
廃校をリフォームした「あらとんとんの宿」
かつて製糖工場で栄えた久慈(くじ)の集落に、新しい商店ができたという話を頼りにしていた。着いてみると、廃校になった久慈小中学校の校庭の奥に、それらしき店舗がある。しかし晦日のため閉まっていた(当然か)。そして廃校になった建物はリフォームされて「あらとんとんの宿」という宿泊施設になっており、脇には食事処もあった。
なかの様子を伺っていると声がかかった。宿のご主人で、この西方エリアを盛り上げようと奮闘する「一般社団法人チーム西方」の代表をつとめる昌谷榮四郎さんだ。

厳しいアップダウンを何度も盛り返して続く海岸線 photo:Makoto AYANO
榮四郎さんにはこの西方エリアの限界集落が抱える課題や、それでも地位を盛り上げようとする試みについて熱いお話を伺った。2ヶ月前に開業したばかりという宿の部屋も案内してもらった。次回来訪した際はぜひ泊まりたい。

最果ての集落にある西古見カフェ ナチュリー。見つけたときはホッとした photo:Makoto AYANO
雨のなか、奄美の最果ての西の端、西古見集落に到着。サンゴの石垣が可愛い人口60人に満たない過疎集落に、店も何も無いだろうと思っていたのだが、榮四郎さんに教えてもらった西古見カフェ ナチュリーはあった。

古民家が綺麗にリフォームされ、長居したくなるような空間に 
最果ての集落で素敵なランチにありつけるとは思ってもみなかった
古民家をリフォームした可愛い店舗は、昨年Iターンした地元の女性が切り盛りしている。しかもレベルが高いランチがいただけた。しかも年内最終営業日ということで、ラッキーだった。西古見、素朴でいいところでした。
素朴さが凝縮された離島、加計呂麻島へ

古仁屋港から眺める加計呂麻島はフェリーで20分の距離 photo:Makoto AYANO
古仁屋港から海を挟んだ向かいには加計呂麻島(かけろまじま)があり、リアス式海岸の複雑な地形の間に分布するサンゴ由来の真っ白な砂浜とコントラストをなす「加計呂麻ブルー」と呼ばれる海の青さが、つとに有名だ。

古仁屋と加計呂麻島をつなぐフェリーかけろま photo:Makoto AYANO

フェリーかけろま時刻表。年の瀬は間引き運航されていた 
強風のため運行は約束されない...
加計呂麻島の世帯数は830、人口は1,212人。古仁屋港からフェリーで20分ほどで渡ることができるため、日帰りで訪問できる離島だ。とはいえ海岸線を回るだけで140km程度あるから、1日では無理。フェリーで渡れる港は瀬相港と生間港の2つがあり、加えてアップダウンが厳しい地形なので、西半分と東半分の2回に分けて訪問した。

年末年始のフェリーは地元の方で賑わい、観光客など居ない photo:Makoto AYANO
シュノーケリングや海を愛する人には奄美空港に着いて加計呂麻島に直行する人も居るほど人気の島だが、冬にやってくる観光客はほとんど居ない。島に住む人も古仁屋側で年越しする人が多いというし、観光地化されてない島がさらに寂しくなる時期だが、だからこそ訪ねてみたいと思った。

生間港の海の色は独特なエメラルドグリーン photo:Makoto AYANO
奄美の海の美しさと静けさ、素朴さが凝縮されたような島で、クルマも少ないため自転車で走りやすく、島のあちこちに点在する素朴な集落を訪ねる最高のサイクリングができた。

伊子茂まもる君。今はこの一体だけが残るという photo:Makoto AYANO
島に30ほどある小さな集落には、どこもアダンの林やフクギ並木、そして巨大ながじゅまるの奇樹がある。数十軒の民家が集う奄美の集落には、その大小にかかわらず、典型的な空間配置(島建て・村建て)がある。

古くとも清潔感あふれる須子茂集落 photo:Makoto AYANO
山側に聖地の「カミヤマ」、村の中央部には「ミャー」と呼ばれる広場や「アシャゲ」などの祭祀空間があるのだ。ユニークなのは、奄美大島までを含む全土にいえることだが、土俵がほとんどすべての集落に有り、相撲が非常に盛んなのだという。

西阿室集落の巨大ながじゅまる。枝分かれして樹齢も不詳だ photo:Makoto AYANO

「アシャゲ」と呼ぶ祭祀空間 photo:Makoto AYANO
集落はそれ自体「シマ」の意味を持つのだという。小さな古民家が集落をなし、綺麗に刈り込まれて手入れされた垣根や、珊瑚でできた石垣が家々を護るように囲う。

綺麗に刈り込まれた垣根が美しい須子茂集落 photo:Makoto AYANO

山と海をつなぐ神道(カミミチ)がつけられる photo:Makoto AYANO
ノロ(集落の祭祀を司る女性の神職)の存在はすでに絶えたようだが、伝統的に人々は身近に宿る神様を信じてきた。どの集落にも山と海をつなぐ「神道(かみみち)」と呼ばれる小道が付けられている。そんな集落を訪れると、なんとも愛おしく、敬虔な気持ちになる。

サンゴ礁の石垣とがじゅまる photo:Makoto AYANO

スリ浜から海と対岸の古仁屋を眺める photo:Makoto AYANO
奄美群島国立公園は、日本に数々ある国立公園のなかで、人と自然が絡み合って調和してきた関係そのものを保全・継承の対象とする「環境文化型国立公園」という、他に類を見ない国立公園となっている。
自然の素晴らしさはもちろん、そこに暮らす人の営みや文化、風習などを含めて守り残すという考えかた。つまり島そのものが宝なのだ。

見事なデイゴ並木が続く諸鈍長浜 photo:Makoto AYANO

男はつらいよに登場したリリーの家は今も諸鈍集落に残っている photo:Makoto AYANO
ディゴの巨樹が続く並木で有名な諸鈍(しょどん)集落は「男はつらいよ 寅次郎紅の花」のロケ地としても知られ、当時ロケに使われた「リリーの家」も現存している(今は「伝泊」という仕組みで誰でも泊まることができる)。

アダンの樹のあいだから海と奄美大島が見える photo:Makoto AYANO
「うがみんしょ〜らん(こんにちは)」「いもりんしょれ〜(ようこそいらっしゃいました)」..... 売店のオジィと話を試みるも、島の人々が話すシマグチ=島言葉はユニークで、何気ない会話が何とも味わい深い。

タカテルポイント付近の高台からの眺めは最高だった photo:Makoto AYANO

加計呂麻島には商店が少ないので、古仁屋から持ち込んだおにぎりと赤飯でランチ 
集落の高台にある実久三次郎神社は綺麗に手入れされていた

「実久ブルー」として知られる加計呂麻いち青いサンゴ礁ビーチ photo:Makoto AYANO
古仁屋からフェリーで通った、加計呂麻島での2日間のシマ旅。実は天候が悪く強風が吹いたため、両日ともフェリーの欠航を気にしながらのライドとなった。たとえ晴れていても、強い風が吹いて海がシケればフェリーはすぐに欠航する。

お正月の準備で忙しい港の船着場 photo:Makoto AYANO
「渡るんはえぇが、いつ帰ってこれっかわかんねぇど〜」と言う渡船の船長と一緒に、風を読むWindyアプリと天気予報をにらめっこしつつ悩んだが、楽しみにしていた加計呂麻島での「年越し泊」を諦めた。野見山という集落に、日本でいちばんプリミティブな体験ができると噂の民宿があると聞いていたのだが。

実久ビーチのクリアな海。対岸は奄美大島だ photo:Makoto AYANO
加計呂麻島はどこもアップダウンが非常に厳しく、急勾配を登るのに加えて下りも急坂すぎて、走行距離の割にはかなり骨の折れるライドになる。普通のサイクリストなら「eBikeが欲しい!」と叫びたくなる道ばかりだ。

加計呂麻島の林道は狭くて急な坂道ばかり photo:Makoto AYANO

西阿室の茂岡商店。気分次第で営業するとか 
商品は焼酎と調味料と日曜雑貨
路面の状態も良いとは言えず、枯れ葉や木の枝、落石などが多く、あちこちに穴やひび割れがある。路面に気を遣って走らなければパンクは避けられないだろう。

夕陽の丘から実久ビーチを見下ろす photo:Makoto AYANO

戦時中に特攻に使われた震洋挺の隠しドック。加計呂麻には戦跡が多い 
海岸沿いにあった須子茂バス待合所。なんとも味がある
今回グラベルタイヤ未満の太いロードタイヤを使ってのライドだったが、それは加計呂麻島にはベストチョイスで、路面の悪さをいなして快適に走ることができた。バイクのギア比もロー48✕52Tのワイドギアで、急坂の登りに十分対応できた。

生間港のフェリー待合所。周辺に何も無いだけに避難所としても機能する 
「フェリー船内にハブは持ち込めません」
1日おいて2日間の加計呂麻島の滞在中、あいにく両日とも雨が降ったが、シマの魅力は十分に味わうことができた。次回来るときがあれば絶対に「加計呂麻ブルー」の海を見なければ。 しかし回復しない天気と限られた日程のため、次の機会へと持ち越しに。

諸鈍の大屯神社は新年を迎える準備ができていた photo:Makoto AYANO
古仁屋を拠点に加計呂麻島へ通ううち、正月を迎えた。当初目論んでいた島の集落での年越しは叶わなかったが、古仁屋の民泊ひかる荘で迎えた年末年始。大晦日には奄美でしかつくれない黒糖焼酎をいただきながら、テレビで紅白歌合戦を観て年越しした。元旦には雨の林道ライドの後に古仁屋の高千穂神社に参って初詣も済ませることができた。

奄美南端の古仁屋の街。山と海に囲まれた静かな港町 photo:Makoto AYANO

古仁屋ひかる荘の女将・道代さんと。手料理嬉しかったです 
知人の依頼で古屋酒店のもりみつさん夫妻を訪ねた。「友達の友達はみな友達だ!」
嬉しかったのは、泊まっていたのが素泊まりの簡易民泊なのだが、宿の女将さんが年末年始の毎晩、夕食をつくって振る舞ってくれたこと。大晦日には奄美の正月料理であるワンフニ(骨付き豚肉とフキの煮物)を、そして元旦には三献(吸い物、鶏や豚肉の吸い物、刺身)をいただいた。古仁屋唯一のスーパーや食事のできる店は正月休みに入っていたので、この心遣いは本当に有り難く、身に染みる美味しさだった。シマの人は優しい。

女将さん提供の正月料理。奄美の郷土料理ワンフニを三献スタイルでいただく photo:Makoto AYANO

高知山展望台から大島海峡を望む photo:Makoto AYANO
自然いっぱいの奄美大島。南部と加計呂麻島は海の魅力が詰まっていると同時に、人々の暮らしと営み、独特の文化風習を感じる旅となった。自然と人とが一体になった宝のシマを巡る素晴らしいバイクライドだった。
宿泊まりツーリングの装備
今回のツーリングでサドルバッグに入れた装備品を紹介。ゲストハウスと民宿泊まりだが、すべての装備をバッグに積んで移動する日も3日以上あるため軽量化に徹した(それが走りの軽快さにつながる)。まずもっともかさばるウェア類は、気温15〜20℃に対応する春夏もの中心と雨対策ギアを用意した。

用意したウェア類。気温15〜20℃に対応する春夏もの中心と雨対策ギアを用意した
奄美の1月は沖縄ほど暑くないが15度を下回らないため半袖を基本に、薄手の長袖ジャージとアンダー、アーム&レッグウォーマーで補う。雨が多いのでレインジャケットとレインパンツを用意。宿で洗濯ができ、サイクルウェアはすぐに乾くので十分間に合った。ほかに宿でくつろぐ室内着上下とダウンジャケットを移動用に。

装備品は充電系を中心にタブレット代わりの旧iPhoneや撮影小物、Di2充電器、シェーバー、ケア用品、コンタクト&眼鏡など
ガジェット系の装備はタブレット代わりの旧iPhoneと、GoPro、自撮り用小型三脚、Di2充電器、ケーブル類など。ひげ剃りにシェーバーを持ったのは宿に拠点を据えるライドだから(もし毎日移動なら軽量なT字カミソリに)。ほかにスキンケア用品、筋肉痛に効く鎮痛剤、コンタクトレンズ&眼鏡など。
次回は奄美中央林道グラベルで世界自然遺産の森の深部へと入っていきます。
text&photo:Makoto AYANO

名瀬から3時間弱のライドで到着する奄美大島の最南端域。瀬戸内町の古仁屋(こにや)は、クロマグロの養殖と漁業が盛んな小さな港町で、人口は5,300人ほど。


街にはAコープとコンビニのファミマがあるが、店は少なく、かつ年末年始になると営業している店は極端に少なくなる。都会を感じた名瀬と比べると本当に小さな町で、一人旅の道中、そんな見知らぬ最果ての小さな港町で年を越すのも良いだろうと思った。



古仁屋の民宿を拠点に、周辺の林道をくまなく走り回った。奄美大島の西部は東部よりもさらに地形が険しく、人口も少なく、辺境みがある。


最果ての集落、西古見へ
奄美大島の南西部は、リアス式海岸が険しい奄美にあって、さらに複雑に入り組んだ地形の海岸線になっている。

日本列島の端っこ、岬や最東・西・南・北端があればそれを目指してしまうのはサイクリストの性(さが)か。奄美大島のもっとも西の端、西方エリアの西古見(にしこみ)集落を目指した。
せっかくの海を楽しむルートなのに、雨が続く。海岸線はアップダウンを繰り返してとても険しい。大島海峡に湾が連続する地形のため、外洋とは隔てられた海は静かで波も穏やか。三連立神(たちがみ)と呼ばれる小さな島々が浮かび、夕陽の名所とされる理由はよく分かる(雨だけど...)

雨宿りしていると、地元の人が「この先は店が無いよ」と教えてくれた。そして道ばたの自販機も途絶えるという。売上金を回収する労力があわないのだという。奄美の人に「陸の孤島」と呼ばれる西方エリア...。


かつて製糖工場で栄えた久慈(くじ)の集落に、新しい商店ができたという話を頼りにしていた。着いてみると、廃校になった久慈小中学校の校庭の奥に、それらしき店舗がある。しかし晦日のため閉まっていた(当然か)。そして廃校になった建物はリフォームされて「あらとんとんの宿」という宿泊施設になっており、脇には食事処もあった。
なかの様子を伺っていると声がかかった。宿のご主人で、この西方エリアを盛り上げようと奮闘する「一般社団法人チーム西方」の代表をつとめる昌谷榮四郎さんだ。

榮四郎さんにはこの西方エリアの限界集落が抱える課題や、それでも地位を盛り上げようとする試みについて熱いお話を伺った。2ヶ月前に開業したばかりという宿の部屋も案内してもらった。次回来訪した際はぜひ泊まりたい。

雨のなか、奄美の最果ての西の端、西古見集落に到着。サンゴの石垣が可愛い人口60人に満たない過疎集落に、店も何も無いだろうと思っていたのだが、榮四郎さんに教えてもらった西古見カフェ ナチュリーはあった。


古民家をリフォームした可愛い店舗は、昨年Iターンした地元の女性が切り盛りしている。しかもレベルが高いランチがいただけた。しかも年内最終営業日ということで、ラッキーだった。西古見、素朴でいいところでした。
素朴さが凝縮された離島、加計呂麻島へ

古仁屋港から海を挟んだ向かいには加計呂麻島(かけろまじま)があり、リアス式海岸の複雑な地形の間に分布するサンゴ由来の真っ白な砂浜とコントラストをなす「加計呂麻ブルー」と呼ばれる海の青さが、つとに有名だ。



加計呂麻島の世帯数は830、人口は1,212人。古仁屋港からフェリーで20分ほどで渡ることができるため、日帰りで訪問できる離島だ。とはいえ海岸線を回るだけで140km程度あるから、1日では無理。フェリーで渡れる港は瀬相港と生間港の2つがあり、加えてアップダウンが厳しい地形なので、西半分と東半分の2回に分けて訪問した。

シュノーケリングや海を愛する人には奄美空港に着いて加計呂麻島に直行する人も居るほど人気の島だが、冬にやってくる観光客はほとんど居ない。島に住む人も古仁屋側で年越しする人が多いというし、観光地化されてない島がさらに寂しくなる時期だが、だからこそ訪ねてみたいと思った。

奄美の海の美しさと静けさ、素朴さが凝縮されたような島で、クルマも少ないため自転車で走りやすく、島のあちこちに点在する素朴な集落を訪ねる最高のサイクリングができた。

島に30ほどある小さな集落には、どこもアダンの林やフクギ並木、そして巨大ながじゅまるの奇樹がある。数十軒の民家が集う奄美の集落には、その大小にかかわらず、典型的な空間配置(島建て・村建て)がある。

山側に聖地の「カミヤマ」、村の中央部には「ミャー」と呼ばれる広場や「アシャゲ」などの祭祀空間があるのだ。ユニークなのは、奄美大島までを含む全土にいえることだが、土俵がほとんどすべての集落に有り、相撲が非常に盛んなのだという。


集落はそれ自体「シマ」の意味を持つのだという。小さな古民家が集落をなし、綺麗に刈り込まれて手入れされた垣根や、珊瑚でできた石垣が家々を護るように囲う。


ノロ(集落の祭祀を司る女性の神職)の存在はすでに絶えたようだが、伝統的に人々は身近に宿る神様を信じてきた。どの集落にも山と海をつなぐ「神道(かみみち)」と呼ばれる小道が付けられている。そんな集落を訪れると、なんとも愛おしく、敬虔な気持ちになる。


奄美群島国立公園は、日本に数々ある国立公園のなかで、人と自然が絡み合って調和してきた関係そのものを保全・継承の対象とする「環境文化型国立公園」という、他に類を見ない国立公園となっている。
自然の素晴らしさはもちろん、そこに暮らす人の営みや文化、風習などを含めて守り残すという考えかた。つまり島そのものが宝なのだ。


ディゴの巨樹が続く並木で有名な諸鈍(しょどん)集落は「男はつらいよ 寅次郎紅の花」のロケ地としても知られ、当時ロケに使われた「リリーの家」も現存している(今は「伝泊」という仕組みで誰でも泊まることができる)。

「うがみんしょ〜らん(こんにちは)」「いもりんしょれ〜(ようこそいらっしゃいました)」..... 売店のオジィと話を試みるも、島の人々が話すシマグチ=島言葉はユニークで、何気ない会話が何とも味わい深い。




古仁屋からフェリーで通った、加計呂麻島での2日間のシマ旅。実は天候が悪く強風が吹いたため、両日ともフェリーの欠航を気にしながらのライドとなった。たとえ晴れていても、強い風が吹いて海がシケればフェリーはすぐに欠航する。

「渡るんはえぇが、いつ帰ってこれっかわかんねぇど〜」と言う渡船の船長と一緒に、風を読むWindyアプリと天気予報をにらめっこしつつ悩んだが、楽しみにしていた加計呂麻島での「年越し泊」を諦めた。野見山という集落に、日本でいちばんプリミティブな体験ができると噂の民宿があると聞いていたのだが。

加計呂麻島はどこもアップダウンが非常に厳しく、急勾配を登るのに加えて下りも急坂すぎて、走行距離の割にはかなり骨の折れるライドになる。普通のサイクリストなら「eBikeが欲しい!」と叫びたくなる道ばかりだ。



路面の状態も良いとは言えず、枯れ葉や木の枝、落石などが多く、あちこちに穴やひび割れがある。路面に気を遣って走らなければパンクは避けられないだろう。



今回グラベルタイヤ未満の太いロードタイヤを使ってのライドだったが、それは加計呂麻島にはベストチョイスで、路面の悪さをいなして快適に走ることができた。バイクのギア比もロー48✕52Tのワイドギアで、急坂の登りに十分対応できた。


1日おいて2日間の加計呂麻島の滞在中、あいにく両日とも雨が降ったが、シマの魅力は十分に味わうことができた。次回来るときがあれば絶対に「加計呂麻ブルー」の海を見なければ。 しかし回復しない天気と限られた日程のため、次の機会へと持ち越しに。

古仁屋を拠点に加計呂麻島へ通ううち、正月を迎えた。当初目論んでいた島の集落での年越しは叶わなかったが、古仁屋の民泊ひかる荘で迎えた年末年始。大晦日には奄美でしかつくれない黒糖焼酎をいただきながら、テレビで紅白歌合戦を観て年越しした。元旦には雨の林道ライドの後に古仁屋の高千穂神社に参って初詣も済ませることができた。



嬉しかったのは、泊まっていたのが素泊まりの簡易民泊なのだが、宿の女将さんが年末年始の毎晩、夕食をつくって振る舞ってくれたこと。大晦日には奄美の正月料理であるワンフニ(骨付き豚肉とフキの煮物)を、そして元旦には三献(吸い物、鶏や豚肉の吸い物、刺身)をいただいた。古仁屋唯一のスーパーや食事のできる店は正月休みに入っていたので、この心遣いは本当に有り難く、身に染みる美味しさだった。シマの人は優しい。


自然いっぱいの奄美大島。南部と加計呂麻島は海の魅力が詰まっていると同時に、人々の暮らしと営み、独特の文化風習を感じる旅となった。自然と人とが一体になった宝のシマを巡る素晴らしいバイクライドだった。
宿泊まりツーリングの装備
今回のツーリングでサドルバッグに入れた装備品を紹介。ゲストハウスと民宿泊まりだが、すべての装備をバッグに積んで移動する日も3日以上あるため軽量化に徹した(それが走りの軽快さにつながる)。まずもっともかさばるウェア類は、気温15〜20℃に対応する春夏もの中心と雨対策ギアを用意した。

奄美の1月は沖縄ほど暑くないが15度を下回らないため半袖を基本に、薄手の長袖ジャージとアンダー、アーム&レッグウォーマーで補う。雨が多いのでレインジャケットとレインパンツを用意。宿で洗濯ができ、サイクルウェアはすぐに乾くので十分間に合った。ほかに宿でくつろぐ室内着上下とダウンジャケットを移動用に。

ガジェット系の装備はタブレット代わりの旧iPhoneと、GoPro、自撮り用小型三脚、Di2充電器、ケーブル類など。ひげ剃りにシェーバーを持ったのは宿に拠点を据えるライドだから(もし毎日移動なら軽量なT字カミソリに)。ほかにスキンケア用品、筋肉痛に効く鎮痛剤、コンタクトレンズ&眼鏡など。
次回は奄美中央林道グラベルで世界自然遺産の森の深部へと入っていきます。
text&photo:Makoto AYANO