2022/07/27(水) - 17:29
ツール・ド・フランスに帯同取材していた目黒誠子さんからの現地レポート。ロードレースとは切っても切れない医療・救護体制について、選手の健康と生命に関わるのメディカルスタッフの裏側をお届けします。
過酷で世界一美しいと称される「ツール・ド・フランス」。2022年で109回目という歴史を持つ大会も華やかに真夏のフランスを駆け抜け、そして閉幕した。
フランスにとって歴史、経済、文化、社交、娯楽やスポーツが混然された、なくてはならないこの大会には、全22チーム、176人の選手、オーガナイザー、白バイ、キャラバン隊、メディアを加えると総数約3000人がフランスの町を突き進む。40度を超える炎天下の中、合計17人の医療従事者がこの大所帯の一部となり、選手たちの健康を管理していたことはご存じだろうか?
大自然の中で生身の体、随行車両も多い競技の為、集団落車となれば現場は一転、災害現場と変化する。血を流しながらもペダルを回し続ける選手と並走し手当を行うコンバーチブルカー。ドクターが身を乗り出し、選手は車につかまる。器用に、巧みに、時には美しくも見える、走りながら手当てが行われる様子をテレビで見たことがある人は多いだろう。
その模様は他のスポーツでは見られない独特の光景である。この世界最大のロードレース、ツール・ド・フランスの医療体制とはどのようなものだろうか?綿密に準備された医療体制およびその関係機関との連携など、選手の健康と生命にかかる重要なパートの裏側に迫った。
ツール・ド・フランスへ帯同する救護車両とスタッフ(2022年)
【救護車両:計11台】
救急車7台
カブリオレドクターカー2台
メディカルバイク1台
メディカルトラック(X線検査等)1台
【スタッフ:計28名】
ドクター11名(救命救急医、麻酔科医、整形外科医)
ナース6名
ドライバー11名
メディカルカーはレースだけではなく、レースの2時間前に走るキャラバン隊にも随行する。これは万が一の際には観客に対しても医療を行うため。ここには合計3台の救急車が帯同し、フィニッシュに到着後に改めて医療体制を整え、フィニッシュしてくる一団を待つのだ。
キャラバン隊とレースの間にはメディカルバイク1台および救急車も1台、交通規制がされた空間において走り抜ける。この救急車が、病院に送り届ける必要がある患者が出た場合に連れて行くことになる。
レースにおいては、基本の隊列として、COM2カー→プリュドム氏が乗るディレクターカー→選手の集団→COM1カー→第1カブリオレドクターカー→第1チームカー22台→第2カブリオレドクターカー→救急車1台→第2チームカー22台→救急車2台→ほうき車となる。第1カブリオレドクターカーの前には必ずチーフコミッセールが乗る車(COM1)があり、このことからも医療体制の充実ぶりが分かる。
メディカルトラック:選手がレース現場を離れず済むように
フィニッシュに先行して待っているのがメディカルトラックだ。X線検査機と超音波検査機が備わり、さらに来年にはCT検査のトラックが増えるという。怪我をした選手を病院へ送ってしまえば3,4時間は当たり前に拘束されてしまうため、できる限りレースから離れず処置するための措置だという。
【標準隊列】
キャラバン隊随行
・救急車2台〔ドクター2名、ナース2名、ドライバー2名〕
↓
キャラバン隊とプロトンの間
・モトバイク1台〔ドクター1名、ドライバー1名〕
・救急車1台〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
↓
・COM2(パネルメンバー)
・レースディレクターカー(プリュドム)
↓
集団
↓
・COM1(チーフコミッセール)
・ドクターカーカブリオレNo.1:〔チーフドクター1名(フローレンスポマリー女史)、サブドクター1名(ギルバート)、ドライバー1名〕
・第1チームカー22台
・ドクターカーカブリオレNo.2:〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
・救急車1台:〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
・第2チームカー22台
・救急車1台:〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
・選手回収車
治療の時間は、ない
他スポーツの医療体制と違うのは、なんといっても自転車に乗りながら手当をしなければいけないところであり、つまりは治療時間がないこと。もちろんけがの状態にもよるが、沿道で止まって治療していたら選手は取り残されてしまう。その点についてドクターのギルバートさんに話を聞けた。
「一番大切なのは、どういう怪我なのか、状態はどうなのか、瞬時に見極めることです。シリアスな状態であればそれに応じた治療をしなければいけないし、走ったまま治療ができる状態であれば走りながら治療します。レース中はとにかく時間がない。ライダーは素早くレースに戻らないといけないのです。治療の理由として一番多いのは落車による擦過傷です。擦過傷であればクルマに積んでいるキットで素早くドレッシング治療をします。私たちは時間がない中で、しかも動いている状態で、できる限りの治療をして選手をレースに戻します」。
ドクターカーの役割とは
落車などの報せを受けて、すぐ救急車に先駆けて駆けつけ、応急措置を行うのが「コンバーチブルカー」。ここでドクターの判断により救急車の要・不要が判断され、他の選手やチームカーの妨げにならないよう素早い対処が行われる。ドクターカーの中には様々な治療キットや薬剤が積み込まれ、一方で救急車の中には蘇生やギブス固定のための重装置が備え付けられる。
しかし、道が細くなり集団もばらける山岳ステージではどうするのだろう?特に下りではスピードも出るし大変危険。ギルバートさんに聞くと「救急車は駐車できるスペースでグルペットになった選手を待ち、レースを見守ります」という答えが返ってきた。
レース中は駐車できるスペースも限られる。適切でないところに停めてしまえばレースを中断しなければならなくなるし、二次災害の危険性も増える。ドライバーは卓越した技術の持ち主であり、尚且つレースについて熟知していなければならないだろう。そのほとんどが元選手や、趣味でハンドルを握るアマチュアのカーレースドライバーということにも納得してしまう。
ツールのレースドクターになるには?
選手は多国籍。怪我をした状態で言葉が通じないと言うのでは話にならない。医師や看護師も当然、フランス語、英語、イタリア語、スペイン語のマルチリンガルで、整形外科医、麻酔科医を含めた救命救急医のスペシャリストが揃う。
話を聞いたメディカルバイクに乗るドクター、サイモンさんは今年でツール帯同2年目。「緊張感があるし責任重大な仕事だけどとてもやりがいがあります」という彼は、元々ツールが大好きで、この仕事をしたいと思っていたんだとか。プロトンに加わったきっかけが知り合いづてだったということも、さすがヨーロッパ。実力の次に大事なのがコネクションなのだ。
現場医療を支えるチーフドクター、フローレンスポマリー女史
臨機応変な対応と的確な判断、素早い処置が求められる現場をまとめる為には、医師としての知識・経験はさることながら、強い意志と責任感、コーディネート力が必要である。チーフドクターであるフローレンス・ポマリーさんは普段パリの救命救急センターで働きつつ、2011年から同役を務めている人物だ。
「私がツール・ド・フランスのチーフドクターになったのは2011年。普段はパリの救命救急センターで働いて、ツール・ド・フランス主催者A.S.O.が同じく主催する『ダカールラリー』にも帯同します。ツールが終わるとすぐにその準備に入るので、少し余裕ができるのは1年のうち3、4、5月くらいかしら。」と語るポマリーさん。
家をずっと空けることになるレースドクターは大変なのでは? と尋ねてみると「実は4人の子供がいるのよ。家を留守にするときは家庭もすべてオーガナイズしなきゃならないから大変! でもやりがいがあるわ!」とにっこり。
彼女が初めて携わった2011年の事。「私が初めてツールに帯同したとき、アレクサンドル・ヴィノクロフが落車して、大腿骨を骨折してしまったの。レースが始まって30分は、次々に大きな落車が起こって頭がくらくらしたわ。レースが終わったあと、悟りました。これはレースではない。危険なスポーツなんだと。救命救急センターで働いているのにこんなに危険なものだとは思わなかったわ。自転車レースの場には、きちんとトレーニングされた専門医が必要不可欠なのよ」。
女性ならではの困りごと:日焼け対策と、お手洗いはどうしてる?
スリムで小柄、ブロンドのショートカットがチャーミングで品が漂うポマリー先生に女性の私から気になる質問を2つ。「7月のフランス。カブリオレに乗っていて、日焼けが大変なのでは? どのように日焼け対策をしていますか?」の問いに「日焼け止めをたくさん!」とはにかみスマイル。レースは3~4時間に及ぶこともしばしば。帯同していると他にもっと大変な困りごとがあることがわかる。男性ならばなんとかなるが、女性はそうもいかないもの…。お手洗い問題。
「ポマリー先生~、あの~…お手洗いはどうされているのですか?」
「そうそう、お手洗いはとっても困るのよ!できるだけレースが動かないうちに適当なところを見つけて行くようにするわ。カフェなどきちんとしたお手洗いがあればラッキーね。誰も人がいないブッシュ(草むら)やキャンピングカーが多いわね!キャンピングカーは喜んで貸してくれるわよ」
えー!私もキャンピングカーのお手洗いを借りようとしたことがあったけど、貸してくれなかった…やっぱりレースドクターとなると喜んで貸してくれるのですね(笑)
レース中はポマリー先生の姿が見えないのが一番。じっくりポマリー先生の姿が見えてしまうときは何かあったときかもしれない。だがこのようなプロフェッショナルな縁の下の力持ちによってツール・ド・フランスは支えられ、見守られている。フランスだけでなく世界中の人々を魅了するレースには、それに見合った安全対策、医療体制が必要不可欠なものであり、帯同する一行、レースを走る選手、観る側にも安心感を与え、信頼にもつながっていくと今回も強く感じた。尚、2020年よりコロナ対策としてレースの医療体制とは別のチームを帯同させているという。
筆者プロフィール:目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの渉外担当を経験。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。環境・健康・地域活性から自転車の活用推進に力を入れ、ツール・ド・フランスの取材や地元宮城県で「自転車と旅」をコラボレーションしたイベントの主催も行った。令和元年東日本台風の打撃を受けたことからの社会貢献活動にも力を入れ、東京五輪聖火ランナーも務めた。「丸森の未来を考える会」事務局長。自身の経験から自然療法や心理学、方位学について学びが及び、現在はパーソナルコーチングと講座を提供している。趣味はバラ栽培と鑑賞、ヨガ、サイクリング。元航空会社社員で折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。
過酷で世界一美しいと称される「ツール・ド・フランス」。2022年で109回目という歴史を持つ大会も華やかに真夏のフランスを駆け抜け、そして閉幕した。
フランスにとって歴史、経済、文化、社交、娯楽やスポーツが混然された、なくてはならないこの大会には、全22チーム、176人の選手、オーガナイザー、白バイ、キャラバン隊、メディアを加えると総数約3000人がフランスの町を突き進む。40度を超える炎天下の中、合計17人の医療従事者がこの大所帯の一部となり、選手たちの健康を管理していたことはご存じだろうか?
大自然の中で生身の体、随行車両も多い競技の為、集団落車となれば現場は一転、災害現場と変化する。血を流しながらもペダルを回し続ける選手と並走し手当を行うコンバーチブルカー。ドクターが身を乗り出し、選手は車につかまる。器用に、巧みに、時には美しくも見える、走りながら手当てが行われる様子をテレビで見たことがある人は多いだろう。
その模様は他のスポーツでは見られない独特の光景である。この世界最大のロードレース、ツール・ド・フランスの医療体制とはどのようなものだろうか?綿密に準備された医療体制およびその関係機関との連携など、選手の健康と生命にかかる重要なパートの裏側に迫った。
ツール・ド・フランスへ帯同する救護車両とスタッフ(2022年)
【救護車両:計11台】
救急車7台
カブリオレドクターカー2台
メディカルバイク1台
メディカルトラック(X線検査等)1台
【スタッフ:計28名】
ドクター11名(救命救急医、麻酔科医、整形外科医)
ナース6名
ドライバー11名
メディカルカーはレースだけではなく、レースの2時間前に走るキャラバン隊にも随行する。これは万が一の際には観客に対しても医療を行うため。ここには合計3台の救急車が帯同し、フィニッシュに到着後に改めて医療体制を整え、フィニッシュしてくる一団を待つのだ。
キャラバン隊とレースの間にはメディカルバイク1台および救急車も1台、交通規制がされた空間において走り抜ける。この救急車が、病院に送り届ける必要がある患者が出た場合に連れて行くことになる。
レースにおいては、基本の隊列として、COM2カー→プリュドム氏が乗るディレクターカー→選手の集団→COM1カー→第1カブリオレドクターカー→第1チームカー22台→第2カブリオレドクターカー→救急車1台→第2チームカー22台→救急車2台→ほうき車となる。第1カブリオレドクターカーの前には必ずチーフコミッセールが乗る車(COM1)があり、このことからも医療体制の充実ぶりが分かる。
メディカルトラック:選手がレース現場を離れず済むように
フィニッシュに先行して待っているのがメディカルトラックだ。X線検査機と超音波検査機が備わり、さらに来年にはCT検査のトラックが増えるという。怪我をした選手を病院へ送ってしまえば3,4時間は当たり前に拘束されてしまうため、できる限りレースから離れず処置するための措置だという。
【標準隊列】
キャラバン隊随行
・救急車2台〔ドクター2名、ナース2名、ドライバー2名〕
↓
キャラバン隊とプロトンの間
・モトバイク1台〔ドクター1名、ドライバー1名〕
・救急車1台〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
↓
・COM2(パネルメンバー)
・レースディレクターカー(プリュドム)
↓
集団
↓
・COM1(チーフコミッセール)
・ドクターカーカブリオレNo.1:〔チーフドクター1名(フローレンスポマリー女史)、サブドクター1名(ギルバート)、ドライバー1名〕
・第1チームカー22台
・ドクターカーカブリオレNo.2:〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
・救急車1台:〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
・第2チームカー22台
・救急車1台:〔ドクター1名、ナース1名、ドライバー1名〕
・選手回収車
治療の時間は、ない
他スポーツの医療体制と違うのは、なんといっても自転車に乗りながら手当をしなければいけないところであり、つまりは治療時間がないこと。もちろんけがの状態にもよるが、沿道で止まって治療していたら選手は取り残されてしまう。その点についてドクターのギルバートさんに話を聞けた。
「一番大切なのは、どういう怪我なのか、状態はどうなのか、瞬時に見極めることです。シリアスな状態であればそれに応じた治療をしなければいけないし、走ったまま治療ができる状態であれば走りながら治療します。レース中はとにかく時間がない。ライダーは素早くレースに戻らないといけないのです。治療の理由として一番多いのは落車による擦過傷です。擦過傷であればクルマに積んでいるキットで素早くドレッシング治療をします。私たちは時間がない中で、しかも動いている状態で、できる限りの治療をして選手をレースに戻します」。
ドクターカーの役割とは
落車などの報せを受けて、すぐ救急車に先駆けて駆けつけ、応急措置を行うのが「コンバーチブルカー」。ここでドクターの判断により救急車の要・不要が判断され、他の選手やチームカーの妨げにならないよう素早い対処が行われる。ドクターカーの中には様々な治療キットや薬剤が積み込まれ、一方で救急車の中には蘇生やギブス固定のための重装置が備え付けられる。
しかし、道が細くなり集団もばらける山岳ステージではどうするのだろう?特に下りではスピードも出るし大変危険。ギルバートさんに聞くと「救急車は駐車できるスペースでグルペットになった選手を待ち、レースを見守ります」という答えが返ってきた。
レース中は駐車できるスペースも限られる。適切でないところに停めてしまえばレースを中断しなければならなくなるし、二次災害の危険性も増える。ドライバーは卓越した技術の持ち主であり、尚且つレースについて熟知していなければならないだろう。そのほとんどが元選手や、趣味でハンドルを握るアマチュアのカーレースドライバーということにも納得してしまう。
ツールのレースドクターになるには?
選手は多国籍。怪我をした状態で言葉が通じないと言うのでは話にならない。医師や看護師も当然、フランス語、英語、イタリア語、スペイン語のマルチリンガルで、整形外科医、麻酔科医を含めた救命救急医のスペシャリストが揃う。
話を聞いたメディカルバイクに乗るドクター、サイモンさんは今年でツール帯同2年目。「緊張感があるし責任重大な仕事だけどとてもやりがいがあります」という彼は、元々ツールが大好きで、この仕事をしたいと思っていたんだとか。プロトンに加わったきっかけが知り合いづてだったということも、さすがヨーロッパ。実力の次に大事なのがコネクションなのだ。
現場医療を支えるチーフドクター、フローレンスポマリー女史
臨機応変な対応と的確な判断、素早い処置が求められる現場をまとめる為には、医師としての知識・経験はさることながら、強い意志と責任感、コーディネート力が必要である。チーフドクターであるフローレンス・ポマリーさんは普段パリの救命救急センターで働きつつ、2011年から同役を務めている人物だ。
「私がツール・ド・フランスのチーフドクターになったのは2011年。普段はパリの救命救急センターで働いて、ツール・ド・フランス主催者A.S.O.が同じく主催する『ダカールラリー』にも帯同します。ツールが終わるとすぐにその準備に入るので、少し余裕ができるのは1年のうち3、4、5月くらいかしら。」と語るポマリーさん。
家をずっと空けることになるレースドクターは大変なのでは? と尋ねてみると「実は4人の子供がいるのよ。家を留守にするときは家庭もすべてオーガナイズしなきゃならないから大変! でもやりがいがあるわ!」とにっこり。
彼女が初めて携わった2011年の事。「私が初めてツールに帯同したとき、アレクサンドル・ヴィノクロフが落車して、大腿骨を骨折してしまったの。レースが始まって30分は、次々に大きな落車が起こって頭がくらくらしたわ。レースが終わったあと、悟りました。これはレースではない。危険なスポーツなんだと。救命救急センターで働いているのにこんなに危険なものだとは思わなかったわ。自転車レースの場には、きちんとトレーニングされた専門医が必要不可欠なのよ」。
女性ならではの困りごと:日焼け対策と、お手洗いはどうしてる?
スリムで小柄、ブロンドのショートカットがチャーミングで品が漂うポマリー先生に女性の私から気になる質問を2つ。「7月のフランス。カブリオレに乗っていて、日焼けが大変なのでは? どのように日焼け対策をしていますか?」の問いに「日焼け止めをたくさん!」とはにかみスマイル。レースは3~4時間に及ぶこともしばしば。帯同していると他にもっと大変な困りごとがあることがわかる。男性ならばなんとかなるが、女性はそうもいかないもの…。お手洗い問題。
「ポマリー先生~、あの~…お手洗いはどうされているのですか?」
「そうそう、お手洗いはとっても困るのよ!できるだけレースが動かないうちに適当なところを見つけて行くようにするわ。カフェなどきちんとしたお手洗いがあればラッキーね。誰も人がいないブッシュ(草むら)やキャンピングカーが多いわね!キャンピングカーは喜んで貸してくれるわよ」
えー!私もキャンピングカーのお手洗いを借りようとしたことがあったけど、貸してくれなかった…やっぱりレースドクターとなると喜んで貸してくれるのですね(笑)
レース中はポマリー先生の姿が見えないのが一番。じっくりポマリー先生の姿が見えてしまうときは何かあったときかもしれない。だがこのようなプロフェッショナルな縁の下の力持ちによってツール・ド・フランスは支えられ、見守られている。フランスだけでなく世界中の人々を魅了するレースには、それに見合った安全対策、医療体制が必要不可欠なものであり、帯同する一行、レースを走る選手、観る側にも安心感を与え、信頼にもつながっていくと今回も強く感じた。尚、2020年よりコロナ対策としてレースの医療体制とは別のチームを帯同させているという。
筆者プロフィール:目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの渉外担当を経験。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。環境・健康・地域活性から自転車の活用推進に力を入れ、ツール・ド・フランスの取材や地元宮城県で「自転車と旅」をコラボレーションしたイベントの主催も行った。令和元年東日本台風の打撃を受けたことからの社会貢献活動にも力を入れ、東京五輪聖火ランナーも務めた。「丸森の未来を考える会」事務局長。自身の経験から自然療法や心理学、方位学について学びが及び、現在はパーソナルコーチングと講座を提供している。趣味はバラ栽培と鑑賞、ヨガ、サイクリング。元航空会社社員で折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。
Amazon.co.jp