2020/06/05(金) - 18:57
2月のツール・ド・ランカウィでプロ初勝利を挙げ、好調なシーズンスタートを切った中根英登。ヨーロッパで更なる結果を出す手応えを感じ、さらには東京オリンピック代表選出も現実味を帯びていた。しかしコロナ禍で世界のレースがストップし、中根も日本の自宅で待機しつつトレーニングする日々が続いている。3月のツール・ド・台湾以降のこと、先日発表されたオリンピック代表選考のことなどをオンラインで聞いた。
家族との貴重な2ヶ月「テレビ電話で話せても子供をだっこは出来ないですから」
「ちょっと遅い時間でもいいですか?子供が寝た後なら邪魔されないと思うので...」
インタビューを申し込んだ時、中根からこんな返事があった。世界で戦う中根も、家に帰れば2歳と4歳のパパ。その父親ぶりはSNSからもうかがえる。
「子供が保育園に行けないので、この2ヶ月は家でずっと一緒です。外出自粛でインドアトレーニングなので、練習中でも子供の面倒を見られるのは良いですね。
シーズン中は家族とテレビ電話で話すことはありますが、子供をだっこしてあげたりすることは出来ないので、そういう意味では例年以上に家族と過ごす貴重な時間が多くありましたし、子育ての大変さもよく理解できました」
本来であれば3月中にフランスで3レース、4月にはイタリアとトルコ、5月前半にはスペインのレースを走る予定が組まれていた。その中には中根がチームのエースを担う予定のレースもあった。プロ初勝利を挙げて好調なシーズンインだっただけに、もし予定通りレースが開催されていたら...と想像してしまう。
「シーズン途中でレースから離れることが続いていたから、この調子でフルシーズン戦えたらどこまで結果が出せただろう?と思うし、結果を出せる手応えはありました。そう思うと残念ですが、この状況は誰にとっても同じこと。みんながレースに出られないので、条件は一緒です」
日本にいる間、チームとはトレーニングメニューのやり取りなど常に連絡を取り合い、外で走る練習内容をローラーとズイフトに置き換えてやっていると言う。ズイフトでは、チームメイトの岡篤志や、NTTプロサイクリングの入部正太朗、チーム右京の畑中勇介ら国内にいる選手達とチャットをしながら練習することもあるが、ヨーロッパなどにいるチームメイトと練習することはほぼ無いとか。
「一度フランスにいるフミさん(別府史之)とズイフト練習しました。チーム内で合同練習をやろうかという話もありましたが、時差の問題もあるので結局やりませんでした。向こうの時間に合わせると遅い時間になってしまうので、無理なく出来るほうが良いですし」
オリンピックは憧れでも「それよりも出たいレースがたくさんある」
3月のツール・ド・台湾を終えての東京オリンピック代表選考ランキングは、1位が新城幸也(バーレーン・マクラーレン)、2位が増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、3位に中根の順となっている。出場出来るのは上位2名。本来であればその2人が決まっている時期だが、世界中でレースが開催されなくなり、ランキングは3月15日でストップしている。
先日、JCF(日本自転車競技連盟)から、延期された東京オリンピックのロードレース代表選考について、男子はUCIワールドツアー再開にあわせ選考対象期間を再開するとの発表があった。対象期間は本来の選考期間に不足している78日間。ただしUCIワールドツアー再開が遅れて78日に足りない場合は、今シーズン終了時までとされている。しかし日本国内はおろか、周辺のアジア各国でもUCIレースの中止が相次いでいる状況では、代表選考ランキングの元となるUCIポイントを取ることは難しい状況だ。
その点、ヨーロッパのレースに出場出来る中根は有利に思えるが、「僕が有利ということは無いです」と否定する。
「仮にヨーロッパでのレースが再開したとして、日本からヨーロッパに行けるのかわからないし、行けたとしてもフランスでは2週間の自主隔離が必要になります(※6月1日現在)。そうなると、日本でトレーニングして行っても元に戻ってしまいます。
それにヨーロッパのレースに出られたとしても、チームとしての仕事があります。ポイントを狙うチャンスが巡ってきても、レース数が減ってしまったために例年以上に多くの選手が成績を求めて走ることが考えられます。格上のワールドチームが凌ぎを削る過酷な状況の中では、ポイントを獲得するのは本当に大変なことです。
それなら、数が少なくても日本にいて確実にポイントを取った方が良いでしょう。点数は低いですが全日本選手権だってポイントは取れる。だから、ヨーロッパでレースに出られるから有利だとは思いません」
そもそもスケジュールが出ているだけで、本当にレースが開催されるかはまだわからない。延期された東京オリンピックも、開催されるかどうか不透明だ。万が一、東京オリンピックが開催されなかったら? 無責任な質問であることを承知のうえで、4年後のパリ・オリンピックを目指すのか聞いた。
「それはどうでしょうね...。自分に伸びしろがあって、まだやれると思えているなら目指すかもしれません。新城さんや増田さんは僕よりずっと年上でも走れているから、僕も4年後走れているかもしれない。でも石上(優大)のような若手がこれから伸びてくれば、彼らの世代が中心になるでしょう。
自転車競技はオリンピックが一番ではないし、それよりも出たいレースやステータスの高いレースはたくさんあります。自分にとってはそっちの方が重要だと考えています。まずはヨーロッパのレースでトップ10に入れるようになること。それが出来るようになればオリンピックへの道も開けると思っています」
あくまでヨーロッパのレースで結果を出すことが第一という姿勢は以前からずっと変わってない。オリンピックは自転車競技を始める前にサッカーをやっていた頃からの憧れではあるが、今の中根にとって最優先ではない。JCFの発表も後になって気づいたと言うほど。
「それよりも、無事にチームメイトと顔を合わせられる日がくることを願うばかりです。こういう時だからこそ応援してもらっていることをいつも以上にありがたいと強く思っていますし、レースが無事再開された時にはその応援に応えられるよう、しっかり走れるようにしたいです」
text:Satoru Kato
家族との貴重な2ヶ月「テレビ電話で話せても子供をだっこは出来ないですから」
「ちょっと遅い時間でもいいですか?子供が寝た後なら邪魔されないと思うので...」
インタビューを申し込んだ時、中根からこんな返事があった。世界で戦う中根も、家に帰れば2歳と4歳のパパ。その父親ぶりはSNSからもうかがえる。
「子供が保育園に行けないので、この2ヶ月は家でずっと一緒です。外出自粛でインドアトレーニングなので、練習中でも子供の面倒を見られるのは良いですね。
シーズン中は家族とテレビ電話で話すことはありますが、子供をだっこしてあげたりすることは出来ないので、そういう意味では例年以上に家族と過ごす貴重な時間が多くありましたし、子育ての大変さもよく理解できました」
本来であれば3月中にフランスで3レース、4月にはイタリアとトルコ、5月前半にはスペインのレースを走る予定が組まれていた。その中には中根がチームのエースを担う予定のレースもあった。プロ初勝利を挙げて好調なシーズンインだっただけに、もし予定通りレースが開催されていたら...と想像してしまう。
「シーズン途中でレースから離れることが続いていたから、この調子でフルシーズン戦えたらどこまで結果が出せただろう?と思うし、結果を出せる手応えはありました。そう思うと残念ですが、この状況は誰にとっても同じこと。みんながレースに出られないので、条件は一緒です」
日本にいる間、チームとはトレーニングメニューのやり取りなど常に連絡を取り合い、外で走る練習内容をローラーとズイフトに置き換えてやっていると言う。ズイフトでは、チームメイトの岡篤志や、NTTプロサイクリングの入部正太朗、チーム右京の畑中勇介ら国内にいる選手達とチャットをしながら練習することもあるが、ヨーロッパなどにいるチームメイトと練習することはほぼ無いとか。
「一度フランスにいるフミさん(別府史之)とズイフト練習しました。チーム内で合同練習をやろうかという話もありましたが、時差の問題もあるので結局やりませんでした。向こうの時間に合わせると遅い時間になってしまうので、無理なく出来るほうが良いですし」
オリンピックは憧れでも「それよりも出たいレースがたくさんある」
3月のツール・ド・台湾を終えての東京オリンピック代表選考ランキングは、1位が新城幸也(バーレーン・マクラーレン)、2位が増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、3位に中根の順となっている。出場出来るのは上位2名。本来であればその2人が決まっている時期だが、世界中でレースが開催されなくなり、ランキングは3月15日でストップしている。
先日、JCF(日本自転車競技連盟)から、延期された東京オリンピックのロードレース代表選考について、男子はUCIワールドツアー再開にあわせ選考対象期間を再開するとの発表があった。対象期間は本来の選考期間に不足している78日間。ただしUCIワールドツアー再開が遅れて78日に足りない場合は、今シーズン終了時までとされている。しかし日本国内はおろか、周辺のアジア各国でもUCIレースの中止が相次いでいる状況では、代表選考ランキングの元となるUCIポイントを取ることは難しい状況だ。
その点、ヨーロッパのレースに出場出来る中根は有利に思えるが、「僕が有利ということは無いです」と否定する。
「仮にヨーロッパでのレースが再開したとして、日本からヨーロッパに行けるのかわからないし、行けたとしてもフランスでは2週間の自主隔離が必要になります(※6月1日現在)。そうなると、日本でトレーニングして行っても元に戻ってしまいます。
それにヨーロッパのレースに出られたとしても、チームとしての仕事があります。ポイントを狙うチャンスが巡ってきても、レース数が減ってしまったために例年以上に多くの選手が成績を求めて走ることが考えられます。格上のワールドチームが凌ぎを削る過酷な状況の中では、ポイントを獲得するのは本当に大変なことです。
それなら、数が少なくても日本にいて確実にポイントを取った方が良いでしょう。点数は低いですが全日本選手権だってポイントは取れる。だから、ヨーロッパでレースに出られるから有利だとは思いません」
そもそもスケジュールが出ているだけで、本当にレースが開催されるかはまだわからない。延期された東京オリンピックも、開催されるかどうか不透明だ。万が一、東京オリンピックが開催されなかったら? 無責任な質問であることを承知のうえで、4年後のパリ・オリンピックを目指すのか聞いた。
「それはどうでしょうね...。自分に伸びしろがあって、まだやれると思えているなら目指すかもしれません。新城さんや増田さんは僕よりずっと年上でも走れているから、僕も4年後走れているかもしれない。でも石上(優大)のような若手がこれから伸びてくれば、彼らの世代が中心になるでしょう。
自転車競技はオリンピックが一番ではないし、それよりも出たいレースやステータスの高いレースはたくさんあります。自分にとってはそっちの方が重要だと考えています。まずはヨーロッパのレースでトップ10に入れるようになること。それが出来るようになればオリンピックへの道も開けると思っています」
あくまでヨーロッパのレースで結果を出すことが第一という姿勢は以前からずっと変わってない。オリンピックは自転車競技を始める前にサッカーをやっていた頃からの憧れではあるが、今の中根にとって最優先ではない。JCFの発表も後になって気づいたと言うほど。
「それよりも、無事にチームメイトと顔を合わせられる日がくることを願うばかりです。こういう時だからこそ応援してもらっていることをいつも以上にありがたいと強く思っていますし、レースが無事再開された時にはその応援に応えられるよう、しっかり走れるようにしたいです」
text:Satoru Kato
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