2020/05/21(木) - 19:01
2020年4月1日、オートバイのレーシングチューナーであるヨシムラが、MTB用のフラットペダルをアメリカでリリースした。このフラットペダルをマウンテンバイカーという視点から見ると、新たな業界参入に対し全力で臨む姿勢と敬意、そし王者シマノペダルへのライバル心が垣間見えた。
なぜ『ヨシムラがフラットペダルを出した』ことが話題なのか
2020年4月頭、世界的なオートバイのレーシングパーツメーカーでありレーシングチューナーであるヨシムラが、MTB用のフラットペダルのCHILAO(チラオ)PERFORMANCE BICYCLE PEDALSをアメリカにおいてリリースした。
『オートバイレースのヨシムラ』が作ったペダルということで、また4月1日の発表以降にアメリカ系MTBメディアがこぞって試乗記事を載せたのもあって、MTB愛好家の中でちょっとした話題となった。なお日本での発売については2020年5月現在の時点では発表されていない。
ヨシムラとはオートバイのレーシングパーツメーカー、レーシングチューナーだ。チームとしてもオートバイレーシングの現場に携わってきた2輪レース界の歴史と実績のある超精鋭だ。日本人メカニック吉村”ポップ”秀雄氏が、戦後の駐在米軍のバイクをメンテし、80年代のレースブームをアメリカから世界へと向け戦ってきた。今もいくつものトッププロチームとオン・オフ問わず世界の最高峰で戦い続けている。
なぜそのヨシムラがMTBのパーツ、ペダルを作ったのか。理由は明快、ヨシムラの開発&レーシング部門であるヨシムラR&Dオブアメリカの社長、ユウサク・ヨシムラ氏がMTB好きだったからだそう。
公式サイトYoshimuraCycling.comの中で、ヨシムラ社長のインタビューが公開されている。「作れる環境があったから作った。作りみたいデザインと性能があったから作った」MTBライドへの愛とともに語っている。ペダルの名前であるChilao(チラオ)も自身が好みのロサンゼルス北部のトレールの名前だそう。
シマノXTペダルを上回る軽さ、流行の2サイズ構成
このペダル、残念ながらまだ日本では手に入らないので、スペック面から見てみよう。素材は6061アルミで、SとLの2サイズ。重さは公表値でペアで380グラム(Lサイズ)。シマノの最新フラットペダルPD-M8140の場合、公表値でペア505g (ML)と100g以上軽い。回転部がこれだけ軽くなるのはまず何にしても嬉しい。
しかし軽さの代償はいつも耐久性だ。そこのところはヨシムラもだいぶ研究をしたようで、ページの紹介動画では耐久性へのこだわりを存分に表現する。オートバイでの荷重が標準の世界では、強度はかなり攻められるということなのだろうか。
そしてサイズが2つあるというのが今風だ。フラットペダルユーザーの間では常に、シマノのペダルに一定の人気があるが、2018年のXT、M8000シリーズとなってからはSM&MLサイズの2サイズ構成の提唱を始めた。昨年のモデルチェンジ(なんと1シーズンでのモデルチェンジだった!)でも2サイズ構成はキープされた。ものすごいニッチなニーズのはずなのに。
しかしヨシムラのチラオは、サイズによってピン数が変わり、デザインも変わる。ピン数はLサイズが片面10ピンだが、Sサイズは中央付近の3ピンを減らし7ピンとなる。デザインもシンプルかつ可愛くなり、重量も340gとさらに軽くなる。アメリカでの税抜き価格は、Lサイズが$190USD、Sサイズが $180USD。なお先のシマノM8140ペダルLサイズ、日本での定価は税抜き1万237円である。
ペダル形状の最新トレンド、コンケーブと丸みも確かに踏襲
デザインは常に世のトレンドに敏感でなければならない。今どきのフラットペダルに求められるデザインは「コンケーブ」と「丸み」である。
コンケーブは、中心部へ向かってわずかに凹む形だ。ペダルの上に立った時やジャンプした時に、中心が凹み気味のコンケーブだとバイクを引き上げる時にシューズの裏にペダルが食いつく。シマノもこのコンケーブを推奨するが、ヨシムラはさらに「内側に向かってピンが向く」とし、グリップが増すと説く。
そして『丸み』とは形の丸さではなく角の丸みだ。特にマウンテンバイクで山の中でペダルを踏み外したとき、当たる角った箇所はできる限り丸い方がいい。このチラオも写真で見る限り角が落とされ丸みを帯びている。
ピンの長さにはライダーの好みがある。チラオペダルの標準は少し長めだが、これはヨシムラ社長の好みかもしれない。ビデオを見ると彼はスペシャライズドのEnduroに乗って、カリフォルニアならではのリッジトレイル(尾根の上)を走っている。なかなかの乗り手だ。
表面にはカタカタで『ヨシムラ』と刻まれるが、Made in Californiaである。これはトレンドではなく、ブランド不変のスタイルだ。ダウンヒル・エンデューロでのマウンテンバイクからスケートパークでのBMXまでいける、アメリカ・カリフォルニアっぽさである。
新たな業界への敬意とシマノへのライバル心を垣間見る
オートバイとMTBサイクリングをオーバーラップさせるブランドは多い。顧客の多様化をはかるということなのだろうが、このチラオペダルを見ると、まずは自分の気持ちを見せたいという気概が見える。パーツ開発デザイナーだったヨシムラ社長は動画で語る。「自分がMTBが好きで、造れる環境があったからつくってみた」と。
フラットペダルのMTBでの立ち位置は、上級者と中級者との境目だと言われる。フラットペダルを使いこなせるのはMTBライドの上級者。フラットペダルしか使えないのがMTBライドの初級者、みたいなものだ。サイクリング業界での最初の製品がそのフラットペダルというのが潔い。
その最初の製品には、現在の「王道ど真ん中」であるシマノのXTフラットペダルを意識した形状とスペックを当ててきた。デザインもそうだ。走りのトレンドに敬意を払い、本業のレースR&Dならではの研究を重ね、自身の近くで楽しむライダーたちでテストしてきた。
新たなマーケットに対し、最大限の自信と敬意、そしてプライドとともに挑むヨシムラ・サイクリング。その先に見据えているのは、おそらくシマノXTペダルの牙城である。なんとか手に入れて乗り比べてみたい。
text:Koichiro NAKAMURA (BB Works)
なぜ『ヨシムラがフラットペダルを出した』ことが話題なのか
2020年4月頭、世界的なオートバイのレーシングパーツメーカーでありレーシングチューナーであるヨシムラが、MTB用のフラットペダルのCHILAO(チラオ)PERFORMANCE BICYCLE PEDALSをアメリカにおいてリリースした。
『オートバイレースのヨシムラ』が作ったペダルということで、また4月1日の発表以降にアメリカ系MTBメディアがこぞって試乗記事を載せたのもあって、MTB愛好家の中でちょっとした話題となった。なお日本での発売については2020年5月現在の時点では発表されていない。
ヨシムラとはオートバイのレーシングパーツメーカー、レーシングチューナーだ。チームとしてもオートバイレーシングの現場に携わってきた2輪レース界の歴史と実績のある超精鋭だ。日本人メカニック吉村”ポップ”秀雄氏が、戦後の駐在米軍のバイクをメンテし、80年代のレースブームをアメリカから世界へと向け戦ってきた。今もいくつものトッププロチームとオン・オフ問わず世界の最高峰で戦い続けている。
なぜそのヨシムラがMTBのパーツ、ペダルを作ったのか。理由は明快、ヨシムラの開発&レーシング部門であるヨシムラR&Dオブアメリカの社長、ユウサク・ヨシムラ氏がMTB好きだったからだそう。
公式サイトYoshimuraCycling.comの中で、ヨシムラ社長のインタビューが公開されている。「作れる環境があったから作った。作りみたいデザインと性能があったから作った」MTBライドへの愛とともに語っている。ペダルの名前であるChilao(チラオ)も自身が好みのロサンゼルス北部のトレールの名前だそう。
シマノXTペダルを上回る軽さ、流行の2サイズ構成
このペダル、残念ながらまだ日本では手に入らないので、スペック面から見てみよう。素材は6061アルミで、SとLの2サイズ。重さは公表値でペアで380グラム(Lサイズ)。シマノの最新フラットペダルPD-M8140の場合、公表値でペア505g (ML)と100g以上軽い。回転部がこれだけ軽くなるのはまず何にしても嬉しい。
しかし軽さの代償はいつも耐久性だ。そこのところはヨシムラもだいぶ研究をしたようで、ページの紹介動画では耐久性へのこだわりを存分に表現する。オートバイでの荷重が標準の世界では、強度はかなり攻められるということなのだろうか。
そしてサイズが2つあるというのが今風だ。フラットペダルユーザーの間では常に、シマノのペダルに一定の人気があるが、2018年のXT、M8000シリーズとなってからはSM&MLサイズの2サイズ構成の提唱を始めた。昨年のモデルチェンジ(なんと1シーズンでのモデルチェンジだった!)でも2サイズ構成はキープされた。ものすごいニッチなニーズのはずなのに。
しかしヨシムラのチラオは、サイズによってピン数が変わり、デザインも変わる。ピン数はLサイズが片面10ピンだが、Sサイズは中央付近の3ピンを減らし7ピンとなる。デザインもシンプルかつ可愛くなり、重量も340gとさらに軽くなる。アメリカでの税抜き価格は、Lサイズが$190USD、Sサイズが $180USD。なお先のシマノM8140ペダルLサイズ、日本での定価は税抜き1万237円である。
ペダル形状の最新トレンド、コンケーブと丸みも確かに踏襲
デザインは常に世のトレンドに敏感でなければならない。今どきのフラットペダルに求められるデザインは「コンケーブ」と「丸み」である。
コンケーブは、中心部へ向かってわずかに凹む形だ。ペダルの上に立った時やジャンプした時に、中心が凹み気味のコンケーブだとバイクを引き上げる時にシューズの裏にペダルが食いつく。シマノもこのコンケーブを推奨するが、ヨシムラはさらに「内側に向かってピンが向く」とし、グリップが増すと説く。
そして『丸み』とは形の丸さではなく角の丸みだ。特にマウンテンバイクで山の中でペダルを踏み外したとき、当たる角った箇所はできる限り丸い方がいい。このチラオも写真で見る限り角が落とされ丸みを帯びている。
ピンの長さにはライダーの好みがある。チラオペダルの標準は少し長めだが、これはヨシムラ社長の好みかもしれない。ビデオを見ると彼はスペシャライズドのEnduroに乗って、カリフォルニアならではのリッジトレイル(尾根の上)を走っている。なかなかの乗り手だ。
表面にはカタカタで『ヨシムラ』と刻まれるが、Made in Californiaである。これはトレンドではなく、ブランド不変のスタイルだ。ダウンヒル・エンデューロでのマウンテンバイクからスケートパークでのBMXまでいける、アメリカ・カリフォルニアっぽさである。
新たな業界への敬意とシマノへのライバル心を垣間見る
オートバイとMTBサイクリングをオーバーラップさせるブランドは多い。顧客の多様化をはかるということなのだろうが、このチラオペダルを見ると、まずは自分の気持ちを見せたいという気概が見える。パーツ開発デザイナーだったヨシムラ社長は動画で語る。「自分がMTBが好きで、造れる環境があったからつくってみた」と。
フラットペダルのMTBでの立ち位置は、上級者と中級者との境目だと言われる。フラットペダルを使いこなせるのはMTBライドの上級者。フラットペダルしか使えないのがMTBライドの初級者、みたいなものだ。サイクリング業界での最初の製品がそのフラットペダルというのが潔い。
その最初の製品には、現在の「王道ど真ん中」であるシマノのXTフラットペダルを意識した形状とスペックを当ててきた。デザインもそうだ。走りのトレンドに敬意を払い、本業のレースR&Dならではの研究を重ね、自身の近くで楽しむライダーたちでテストしてきた。
新たなマーケットに対し、最大限の自信と敬意、そしてプライドとともに挑むヨシムラ・サイクリング。その先に見据えているのは、おそらくシマノXTペダルの牙城である。なんとか手に入れて乗り比べてみたい。
text:Koichiro NAKAMURA (BB Works)
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